StudyMed医師国家試験

「病気を狙わない」のが健康増進―禁煙教室で整理する一次・二次・三次予防

第106回医師国家試験 B問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第20問

地域住民の健康増進を目的とした活動はどれか。

  1. a.介護施設の整備
  2. b.禁煙教室の開催
  3. c.特定健康診査の受診勧奨
  4. d.インフルエンザ予防接種の実施
  5. e.うつ病患者に対する社会復帰支援

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の基本、予防の段階を問う問題だ。どの選択肢も「健康のための活動」に見えるけれど、それぞれ予防のどの段階に当たるかを考えると、健康増進にぴったり当てはまるものは1つに絞れる。まず、予防の段階を挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
一次予防、二次予防、三次予防ですよね。一次が発症前、二次が早期発見、三次がリハビリ、と公衆衛生の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。LeavellとClarkが疾病の自然史に沿って整理した考え方だ。そしてこの問題で大事なのは、一次予防がさらに「健康増進」と「特異的予防」の2つに分かれる点なんだ。
医学生医学生
特異的予防というのは、特定の病気を狙って防ぐもの、という意味でしょうか。
ドクタードクター
そう。予防接種や職業病対策、事故防止のように、標的となる疾病や危険がはっきりしているものだね。これに対して健康増進は、特定の病気を標的にせず、生活習慣の改善や健康教育で健康全般の水準を底上げし、いろいろな病気にかかりにくくする取り組みを指す。禁煙、食生活、運動、休養、節度ある飲酒などが典型例だ。
医学生医学生
それなら禁煙教室が健康増進に当たりますね。喫煙は肺癌だけでなく、心筋梗塞や脳卒中、COPDの危険因子でもあるので。
ドクタードクター
正解。喫煙は多くの疾病に共通する危険因子だから、禁煙を支えることで幅広い病気のリスクがまとめて下がる。特定の一疾患を狙うのではなく、生活習慣そのものを変える健康教育であり、まさに健康増進の代表例だ。健康増進法や国民健康づくり運動「健康日本21」でも、喫煙対策は重要な柱になっている。
医学生医学生
でも、インフルエンザの予防接種も発症前に行うので、一次予防ですよね。正直ちょっと迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだよ。一次予防であることは確かだ。ただ、インフルエンザという特定の疾患を標的にしているから、分類としては特異的予防になる。「一次予防かどうか」と「健康増進かどうか」は別の問いだと意識しておこう。
医学生医学生
特定健康診査の受診勧奨も、メタボを防ぐための活動なので健康増進っぽく見えます。
ドクタードクター
そこもひっかかりやすいところだね。特定健診は40〜74歳を対象にメタボリックシンドロームに着目して行う健診で、異常を早く見つけて特定保健指導や治療につなげる仕組みだ。健診や検診は、早期発見・早期治療を目指す二次予防に位置づけるのが標準的な整理になる。受診勧奨はその受診率を上げる活動だから、健康増進そのものではない。
医学生医学生
介護施設の整備とうつ病患者の社会復帰支援は、どちらもすでに困っている人が対象なので、健康増進とは違いますね。
ドクタードクター
その通り。介護施設は要介護状態の人に生活支援や機能維持のサービスを提供する基盤で、三次予防寄りの取り組みだ。うつ病の社会復帰支援は、発症した人の再発を防ぎながら就労や社会生活に戻れるよう支えるもので、リハビリテーションに当たる三次予防だね。どちらも健康な地域住民全体の健康水準を高める活動ではない。
医学生医学生
対象が「健康な人全体」か「病気の人」か、狙いが「特定の病気」か「健康全般」か、で切り分ければいいんですね。
ドクタードクター
いい整理だ。もう一歩踏み込んでおこう。集団への働きかけ方には、危険因子を持つ人を選び出して介入するハイリスクアプローチと、集団全体に働きかけてリスク分布全体を良い方向へずらすポピュレーションアプローチがある。地域住民向けの禁煙教室や健康教育は、後者の考え方にもつながるんだ。
医学生医学生
地域医療の実習で保健センターに行ったとき、減塩の料理教室をやっていました。あれも健康増進でポピュレーションアプローチですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。制度面では、健康増進法が2018年に改正されて、多くの人が利用する施設での原則屋内禁煙が定められた。健康日本21は2024年度から第三次が始まり、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目標に掲げている。臨床でも、外来で一言禁煙を勧めることが立派な予防医療になる。目の前の患者を治すだけでなく、病気になる前の段階に関わる視点も持っていてほしい。

まとめ

予防は、発症前の一次予防、早期発見・早期治療の二次予防、発症後の悪化防止や社会復帰を図る三次予防に分けられ、一次予防はさらに健康増進と特異的予防に分かれます。健康増進は特定の疾患を標的とせず、禁煙・栄養・運動などの生活習慣改善や健康教育によって健康全般を底上げする活動で、多くの疾病の共通危険因子である喫煙への対策として行う禁煙教室はその代表例です。予防接種は一次予防でも特異的予防、特定健診の受診勧奨は二次予防、介護施設の整備やうつ病患者の社会復帰支援は三次予防に当たります。「対象は誰か」「狙いは特定の病気か健康全般か」で整理すると、予防の各段階を確実に見分けられ、地域保健活動やポピュレーションアプローチの理解にもつながります。

解答・解説

正解はbです

本問は、疾病予防の段階(一次予防・二次予防・三次予防)と、そのうち一次予防の中の「健康増進」の位置づけを理解しているかを問うている。 Leavell(リーベル)とClark(クラーク)は、疾病の自然史に沿って予防を次のように整理した。 ・一次予防:病気になる前の段階で発症そのものを防ぐ。さらに「健康増進」と「特異的予防」に分けられる。  健康増進:特定の病気を標的とせず、生活習慣の改善や健康教育などによって健康全般の水準を高め、さまざまな疾病にかかりにくくする取り組み(禁煙、適切な食生活、運動、休養、節度ある飲酒など)。  特異的予防:特定の疾病を狙い撃ちで防ぐ取り組み(予防接種、職場の有害物質対策、事故防止、特定の栄養素の補給など)。 ・二次予防:病気を早期に発見し早期に治療することで、重症化や死亡を防ぐ(健康診断、がん検診、スクリーニングなど)。 ・三次予防:すでに発症した病気の悪化や再発を防ぎ、機能の回復や社会復帰を図る(リハビリテーション、再発予防、社会復帰支援など)。 したがって、各選択肢がどの段階に当たるかを判断し、一次予防のうち「特定疾患に限らない、健康全般の底上げ」を目的としたものを選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  介護施設の整備

    介護施設は、すでに要介護状態となった人に介護や生活支援、機能維持のためのサービスを提供する場である。対象は健康な地域住民全体ではなく、要介護者であり、健康水準を高めて疾病を未然に防ぐ健康増進活動には当たらない。予防の段階でいえば、障害を持った人の生活の質(QOL)維持・機能低下の防止に関わる三次予防寄りの基盤整備である。

  2. ○b.  禁煙教室の開催

    喫煙は肺癌をはじめとする多くのがん、虚血性心疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、多数の疾病の共通の危険因子である。禁煙教室は住民の生活習慣を改善し、特定の一疾患に限らず幅広い疾病のリスクを下げるための健康教育であり、一次予防のうち健康増進を目的とする代表的な活動である。健康増進法や国民健康づくり運動「健康日本21」でも、喫煙対策は重要な柱に位置づけられている。

  3. ×c.  特定健康診査の受診勧奨

    特定健康診査(特定健診)は、40〜74歳の医療保険加入者を対象に、メタボリックシンドロームに着目して行われる健診であり、高齢者の医療の確保に関する法律に基づき医療保険者に実施が義務づけられている。健診によって異常を早期に発見し、特定保健指導や早期治療につなげる仕組みであり、予防の段階としては早期発見・早期治療を目指す二次予防に位置づけられる。受診勧奨はその受診率を高めるための活動であり、健康増進そのものではない。

  4. ×d.  インフルエンザ予防接種の実施

    予防接種は発症前に行う一次予防であるが、インフルエンザという特定の疾患を標的としているため、一次予防の中の「特異的予防」に分類される。健康全般の水準を高める健康増進とは区別される。

  5. ×e.  うつ病患者に対する社会復帰支援

    すでに発症したうつ病患者を対象に、再発を防ぎながら就労や社会生活への復帰を支援する取り組みであり、リハビリテーションに相当する三次予防である。一般の地域住民を対象とした健康増進活動ではない。

予防の段階と具体例(Leavell & Clark の分類に基づく整理)

・一次予防(発症前)  健康増進:健康教育、禁煙指導・禁煙教室、栄養・食生活の改善、運動習慣の普及、休養・ストレス対策、節度ある飲酒の啓発、生活環境の改善  特異的予防:予防接種、職業病対策(有害物質の管理・保護具の着用)、事故防止、ヨウ素添加などの特異的栄養補給、アレルゲン回避 ・二次予防(早期発見・早期治療):健康診断、特定健康診査、がん検診、新生児マススクリーニング、早期治療による合併症防止 ・三次予防(発症後):リハビリテーション、再発防止、社会復帰支援、機能障害の悪化防止

健康増進に関わる制度

・健康増進法(2002年制定):国民の健康増進の総合的な推進を定める。受動喫煙防止対策(2018年改正で多数の者が利用する施設での原則屋内禁煙を規定)もこの法律に含まれる。 ・健康日本21:生活習慣病の一次予防に重点を置いた国民健康づくり運動。現在は2024年度から第三次が開始され、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目標に掲げている。

ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチ

危険因子を持つ人を選び出して介入するのがハイリスクアプローチ、集団全体に働きかけてリスク分布全体を良い方向へずらすのがポピュレーションアプローチである。地域住民を対象とした禁煙教室や健康教育は、後者の考え方にもつながる。

POINT

・一次予防=健康増進+特異的予防。二次予防=早期発見・早期治療。三次予防=リハビリテーション・再発防止・社会復帰。 ・健康増進は「特定疾患を標的としない」生活習慣改善・健康教育(禁煙教室、栄養・運動指導など)。 ・予防接種は一次予防だが特異的予防であり、健康増進とは区別する。 ・健診・検診の受診勧奨は二次予防、社会復帰支援は三次予防。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。