StudyMed医師国家試験

脈拍144/分・整の動悸―「150前後の規則的頻拍」で房室結節を狙え

第106回医師国家試験 A問題 第58問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第58問

72歳の男性。動悸を主訴に来院した。10年前から高血圧を指摘されていたが,自覚症状がないため受診しなかった。2日前から感冒症状があった。6時間前から動悸を自覚し,改善しないため受診した。呼吸困難やめまいはないという。脈拍144/分,整。血圧120/76 mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。心電図を別に示す。  治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。

第106回 A問題 第58問の問題画像
  1. a.アトロピン
  2. b.ニトログリセリン
  3. c.プロプラノロール
  4. d.ベラパミル
  5. e.リドカイン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、動悸を訴える高齢男性の頻拍に対して、どの薬を選ぶかを考える問題だ。押さえるべきポイントは2つ。まず血行動態が安定しているかどうか、次に心電図がどんな頻拍を示しているか。最初に、患者さんの状態をどう評価するかな。
医学生医学生
血圧は保たれていて、めまいや呼吸困難もないので、安定した頻拍だと思います。
ドクタードクター
その通り。ショック、意識障害、心不全、胸痛を伴う不安定な頻拍なら、薬より同期下電気ショックを優先する。安定しているから、今回は薬物治療をじっくり考えられるわけだ。では心電図はどう読む?
医学生医学生
RR間隔が一定で、QRS幅も狭いです。規則的なnarrow QRS頻拍なので上室性ですよね。CBTではまずPSVTを思い浮かべました。
ドクタードクター
いい出発点だね。ただ、心拍数がちょうど150/分前後に固定された規則的なnarrow QRS頻拍を見たら、必ず2:1伝導の心房粗動を考えてほしい。心房が約300/分で興奮し、房室結節で2回に1回だけ心室に伝わると、ちょうどその心拍数になる。今回も下壁誘導でQRSの間に基線の揺れが続いていて、心房の興奮が心室の約2倍ありそうに見えるんだ。
医学生医学生
粗動波がQRSやT波に重なって隠れてしまうから、PSVTと見分けにくいんですね。
ドクタードクター
そう。でも安心してほしいのは、心房粗動でもPSVTでも心房頻拍でも、安定した上室性頻拍に対する薬物治療の中心は同じだということ。房室結節の伝導を抑える薬だ。心房粗動なら心室への伝導比が下がって心拍数が落ち、房室結節を回路に含むPSVTなら回路が断たれて頻拍が止まる。
医学生医学生
房室結節を抑える薬というと、β遮断薬とCa拮抗薬でしょうか。
ドクタードクター
正解。Vaughan Williams分類のⅡ群であるβ遮断薬、Ⅳ群の非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、それにジギタリスとアデノシンだ。選択肢ではプロプラノロールとベラパミルが当てはまる。プロプラノロールは非選択的β遮断薬で、交感神経による洞結節の自動能と房室伝導を抑える。ベラパミルはL型Caチャネルを遮断し、Ca電流に依存して興奮する洞結節・房室結節を強く抑えるから、PSVTを静注で止める代表薬でもある。
医学生医学生
薬理学の講義で、非選択的β遮断薬は喘息に禁忌だと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。今回は喘息や心不全の既往がないから使える。ベラパミルも心機能が落ちている人や、WPW症候群に合併した心房細動では使ってはいけない。では、ほかの選択肢を見ていこう。アトロピンはどうかな。
医学生医学生
アトロピンは抗コリン薬なので、むしろ心拍数を上げてしまいませんか。
ドクタードクター
その通り。迷走神経による洞結節・房室結節の抑制を外すので、房室伝導がよくなって心拍数はさらに上がる。症候性の洞性徐脈や房室ブロックなど、徐脈に使う薬だね。ニトログリセリンは?
医学生医学生
狭心症発作で使う硝酸薬ですよね。不整脈を止める作用はなさそうです。
ドクタードクター
そう。血管拡張薬で抗不整脈作用はなく、血圧が下がれば反射性に頻脈を悪化させるおそれすらある。最後にリドカインだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心室頻拍のときにリドカインが準備されていたのを見ました。上室性には効かないんでしょうか。
ドクタードクター
いいところを見ているね。リドカインはⅠb群のNaチャネル遮断薬で、主に心室筋やPurkinje線維に作用する。心房筋や房室結節への作用は乏しいから、上室性頻拍には効果が期待できないんだ。
医学生医学生
まとめると、安定した上室性頻拍には房室結節を抑える薬、徐脈にはアトロピン、心室性にはリドカイン、という使い分けですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も加えておこう。まず診断に迷ったら、Valsalva手技などの迷走神経刺激やATPの急速静注で一時的に房室伝導を遮断してみる。PSVTなら停止し、心房粗動なら隠れていた鋸歯状のF波がはっきり見えてくる。
医学生医学生
治療と診断を兼ねているわけですね。β遮断薬とベラパミルは両方続けて使ってもいいんですか。
ドクタードクター
そこは要注意。静注で同時・連続して使うと、高度徐脈や房室ブロック、心機能低下を起こしうる。それから心房粗動や心房細動なら、血栓塞栓症を防ぐ抗凝固療法の検討も忘れずに。発症から48時間を超えていれば、洞調律に戻す前に抗凝固や経食道心エコーで左房内血栓を確認する必要がある。根治を目指すなら、通常型心房粗動もPSVTもカテーテルアブレーションの成功率が高いよ。

まとめ

規則的なnarrow QRS頻拍は上室性頻拍であり、心拍数が150/分前後に固定されていれば2:1伝導の心房粗動を必ず考えますが、PSVTや心房頻拍との区別が難しいこともあります。いずれであっても血行動態が安定していれば、房室結節の伝導を抑えるβ遮断薬(Ⅱ群)や非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(Ⅳ群:ベラパミルなど)が治療の中心となります。アトロピンは徐脈に、リドカインは心室性不整脈に用いる薬で、ニトログリセリンには抗不整脈作用がありません。不安定な頻拍では同期下電気ショックを優先し、迷走神経刺激やATP静注は鑑別にも役立ちます。抗不整脈薬を作用部位と分類で整理しておくことが、救急外来で頻拍に出会ったときの的確な判断につながります。

解答・解説

正解はc, dです

所見の整理

・72歳の男性、高血圧を10年間放置している(心房負荷・心房拡大の背景となり、心房性不整脈の危険因子)。 ・2日前からの感冒症状(発熱や脱水、交感神経緊張が不整脈発作の誘因になりうる)。 ・6時間前からの持続する動悸で、脈拍144/分・整。 ・血圧120/76 mmHgと保たれ、呼吸困難・めまいはなく、心音・呼吸音にも異常がない。すなわち、ショックや心不全、意識障害を伴わない「血行動態の安定した頻脈」である。

心電図の読み取り

心拍数は約140〜150/分で、RR間隔は一定、QRS幅は狭い(narrow QRS)。したがって規則的なnarrow QRS頻拍、つまり上室性(心房または房室結節が関与する)の頻拍である。Ⅱ・Ⅲ・aVFなどの下壁誘導では、QRSの間に基線の揺れが連続してみられ、心房の興奮が心室の約2倍の頻度で起きている可能性がある。心拍数がちょうど150/分前後に固定された規則的narrow QRS頻拍は、心房が約300/分で興奮し、房室結節で2回に1回だけ心室に伝わる「2:1伝導の心房粗動」の典型像であり、本例もこれが最も考えやすい。ただし2:1伝導では粗動波(F波)がQRSやT波に重なって見えにくく、発作性上室性頻拍(PSVT)や心房頻拍との区別が難しいことがある。

設問の考え方

心房粗動・PSVT・心房頻拍のいずれであっても、血行動態が安定した上室性頻拍に対して行う薬物治療の中心は、房室結節の伝導を抑える薬である。房室結節を抑えると、心房粗動では心室への伝導比が下がって心拍数が落ち(レートコントロール)、房室結節を回路に含むPSVTでは回路が断たれて頻拍が停止する。房室結節抑制作用をもつ薬は、β遮断薬(Vaughan Williams分類Ⅱ群)、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(Ⅳ群:ベラパミル、ジルチアゼム)、ジギタリス、アデノシン(ATP)である。選択肢の中ではプロプラノロールとベラパミルが該当する。 なお、血圧低下・意識障害・心不全などを伴う不安定な頻拍であれば、薬物より同期下電気ショック(カルディオバージョン)を優先する。

選択肢考察

  1. ×a.  アトロピン

    アトロピンは抗コリン薬(ムスカリン受容体遮断薬)で、迷走神経による洞結節・房室結節の抑制を解除し、心拍数を増加させ房室伝導を促進する。症候性の洞性徐脈や房室ブロックなど徐脈性不整脈に用いる薬であり、頻拍に投与すると房室伝導が良くなってかえって心拍数が上がる。本例には禁忌的である。

  2. ×b.  ニトログリセリン

    ニトログリセリンは硝酸薬で、主に静脈を、高用量では動脈や冠動脈も拡張させる。狭心症発作や急性心不全(前負荷の軽減)に用いるが、抗不整脈作用はない。血管拡張による血圧低下で反射性に頻脈を悪化させるおそれもあり、本例の治療薬として不適切である。

  3. ○c.  プロプラノロール

    プロプラノロールは非選択的β遮断薬で、Vaughan Williams分類Ⅱ群の抗不整脈薬である。交感神経β1受容体を遮断して洞結節の自動能と房室結節の伝導を抑える。心房粗動では房室伝導を抑えて心拍数を下げ、房室結節を回路に含むPSVTでは頻拍の停止や再発予防に役立つ。血行動態が安定しており、心不全や気管支喘息の既往もない本例では適切な選択である(非選択的β遮断薬は気管支喘息には禁忌)。

  4. ○d.  ベラパミル

    ベラパミルは非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬で、Vaughan Williams分類Ⅳ群の抗不整脈薬である。L型Caチャネルを遮断し、Ca電流に依存して興奮する洞結節・房室結節の伝導を強く抑える。房室結節リエントリー性頻拍や房室回帰性頻拍などのPSVTを静注で停止させる代表薬であり、心房粗動・心房細動では心拍数調節に用いる。心機能低下例、WPW症候群に合併した心房細動では用いてはならないが、本例では問題ない。

  5. ×e.  リドカイン

    リドカインはVaughan Williams分類Ⅰb群のNaチャネル遮断薬で、主に心室筋・Purkinje線維に作用し、心室性期外収縮や心室頻拍(特に急性心筋虚血に伴うもの)に用いる。心房筋や房室結節への作用は乏しく、上室性頻拍には効果がないため不適切である。

規則的なnarrow QRS頻拍の鑑別

・洞頻脈:発熱、脱水、貧血、甲状腺機能亢進症などに反応して生じる。P波は正常な形で緩徐に心拍数が変化する。 ・心房粗動(2:1伝導):心房レート約250〜350/分(通常型は約300/分)、心室レートは約150/分前後に固定されやすい。通常型では下壁誘導(Ⅱ・Ⅲ・aVF)に陰性の鋸歯状波(F波)がみられる。 ・PSVT:房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)と、副伝導路を介する房室回帰性頻拍(AVRT)が大部分。突然始まり突然止まり、心拍数は150〜250/分程度。 ・心房頻拍:異所性の心房興奮による。 鑑別には迷走神経刺激(Valsalva手技、頸動脈洞マッサージ)やアデノシン(ATP)静注が有用で、房室伝導を一時的に遮断すると、PSVTは停止し、心房粗動では隠れていたF波が明らかになる。

Vaughan Williams分類(抗不整脈薬)

・Ⅰ群(Naチャネル遮断):Ⅰa(プロカインアミド、ジソピラミドなど)、Ⅰb(リドカイン、メキシレチン)、Ⅰc(フレカイニド、ピルシカイニドなど) ・Ⅱ群(β遮断):プロプラノロール、ランジオロール、メトプロロールなど ・Ⅲ群(Kチャネル遮断、活動電位持続時間の延長):アミオダロン、ソタロール、ニフェカラントなど ・Ⅳ群(Caチャネル遮断):ベラパミル、ジルチアゼム

上室性頻拍の治療の流れ

・不安定(ショック、意識障害、心不全、胸痛):同期下電気ショック ・安定:迷走神経刺激 → PSVTではATP急速静注、またはベラパミル静注。心房粗動・心房細動ではβ遮断薬・Ca拮抗薬・ジギタリスでレートコントロールし、必要に応じて電気的または薬物による洞調律への復帰(リズムコントロール)を行う。 ・心房粗動・心房細動では、持続時間やCHADS2スコアなどに基づいて抗凝固療法を検討する。発症から48時間を超える場合は、洞調律化の前に抗凝固療法や経食道心エコーによる左房内血栓の除外が必要となる。 ・根治療法:通常型心房粗動(三尖弁輪-下大静脈間の峡部を回路とする)やPSVTは、カテーテルアブレーションの成功率が高い。

注意点

β遮断薬とベラパミルの静注を同時・連続して行うと、高度徐脈・房室ブロック・心機能低下をきたしうるため併用には注意する。

POINT

・規則的なnarrow QRS頻拍で心拍数約150/分なら、2:1伝導の心房粗動を必ず考える。 ・血行動態が安定した上室性頻拍には、房室結節を抑えるβ遮断薬(Ⅱ群)やCa拮抗薬(Ⅳ群:ベラパミル、ジルチアゼム)を用いる。 ・リドカイン(Ⅰb群)は心室性不整脈用、アトロピンは徐脈用である。 ・血行動態が不安定なら電気ショックを優先する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。