筋肉が壊れて腎臓が止まる―横紋筋融解症で学ぶ急性腎不全の3分類
第105回医師国家試験 I問題 第29問
国試問題にチャレンジ
腎性急性腎不全の原因となるのはどれか。
- a.糖尿病腎症
- b.腎性尿崩症
- c.尿管結石症
- d.良性腎硬化症
- e.横紋筋融解症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性腎不全(急性腎障害)は、腎血流低下による腎前性、腎実質の障害による腎性、尿路閉塞による腎後性に分けて考えます。横紋筋融解症では筋崩壊で放出されたミオグロビンが尿細管を閉塞・傷害して急性尿細管壊死を起こすため、腎性急性腎不全の代表的な原因であり、CK著明高値や尿潜血陽性なのに赤血球を欠くミオグロビン尿が手がかりになります。糖尿病腎症と良性腎硬化症は慢性腎臓病の原因、腎性尿崩症は尿濃縮障害、尿管結石症は閉塞機序による腎後性(両側性や単腎で問題になる)と整理できます。腎前性と腎性の鑑別には尿中Na濃度やFENa、尿浸透圧、尿沈渣が役立ちます。障害部位で原因を分類する考え方は、AKIの原因検索と治療方針の決定に直結する重要な基本です。
解答・解説
正解はeです
【テーマ】急性腎不全(現在は急性腎障害 acute kidney injury: AKI と呼ぶのが一般的)の原因を、障害部位によって腎前性・腎性・腎後性の3つに分けて考えられるかを問う問題である。
3分類の整理
・腎前性:腎臓そのものは正常だが、脱水・出血・心不全・ショックなどで腎血流が低下し、糸球体濾過量(GFR)が落ちる状態。原因を取り除けば速やかに回復するのが特徴である。 ・腎性:腎実質(尿細管・間質・糸球体・血管)そのものが障害される状態。最も多いのは急性尿細管壊死(acute tubular necrosis: ATN)で、その原因は遷延した虚血と腎毒性物質(アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチン、ヨード造影剤、ミオグロビン、ヘモグロビンなど)に大別される。ほかに急性間質性腎炎、急速進行性糸球体腎炎なども含まれる。 ・腎後性:尿路(両側尿管、膀胱、尿道)の閉塞によって尿が排出できず、腎機能が低下する状態。
考え方
設問は「急性」かつ「腎性」の両方を満たすものを選ばせている。選択肢のうち、糖尿病腎症と良性腎硬化症は年単位で進行する慢性腎臓病の原因であり「急性」に当たらない。腎性尿崩症は尿濃縮障害であり腎不全の病型とは異なる。尿管結石症は閉塞機序であるため腎後性に分類される。残る横紋筋融解症は、筋崩壊で放出されたミオグロビンが尿細管を直接障害して ATN を起こすため、腎性急性腎不全の代表的な原因となる。
選択肢考察
- ×a. 糖尿病腎症
糖尿病腎症は長年の高血糖によって糸球体が徐々に障害される疾患で、微量アルブミン尿→顕性蛋白尿→GFR 低下と年単位で進行する慢性腎臓病である。急性腎不全の原因ではない。なお、高度のネフローゼ症候群を呈した場合には、低アルブミン血症による有効循環血漿量の減少から腎前性の高窒素血症を生じることはあるが、これも腎性急性腎不全には当たらない。
- ×b. 腎性尿崩症
腎性尿崩症は、集合管が抗利尿ホルモン(バソプレシン)に反応しないために尿を濃縮できず、低張の多尿を呈する病態である(先天性ではバソプレシン V2 受容体やアクアポリン2 の遺伝子異常、後天性ではリチウム製剤・高カルシウム血症・低カリウム血症などが原因)。GFR が急に低下する病態ではなく、腎性急性腎不全の原因にはならない。先天性で長期に大量の尿が続くと水腎症・巨大膀胱を生じ、慢性的な腎機能障害に進むことはあるが、「急性」ではない。
- ×c. 尿管結石症
尿管結石は尿路を閉塞する疾患であり、腎不全を起こすとすれば腎後性である。しかも片側の尿管閉塞だけでは対側腎が機能を代償するため、通常は腎不全に至らない。腎後性急性腎不全となるのは、両側尿管の閉塞、単腎患者での尿管閉塞、あるいは膀胱・尿道レベルの閉塞(前立腺肥大症など)の場合である。
- ×d. 良性腎硬化症
良性腎硬化症は、長期間の本態性高血圧により腎内の細動脈に硝子様変化や内膜肥厚が生じ、腎実質が徐々に虚血・萎縮していく病態である。緩徐に進行する慢性腎臓病の原因で、尿濃縮力の低下による夜間尿・多尿がしばしばみられる。急性腎不全の原因ではない。急速に腎機能が悪化するのは、著しい血圧上昇を伴う悪性腎硬化症(悪性高血圧)の場合である。
- ○e. 横紋筋融解症
横紋筋融解症では、骨格筋細胞が壊れてミオグロビン、カリウム、リン、CK(クレアチンキナーゼ)などが血中に流出する。ミオグロビンは糸球体で濾過されて尿細管に至り、酸性尿下で円柱を作って尿細管を閉塞するとともに、ヘム鉄による酸化ストレスで尿細管上皮を直接傷害し、さらに腎血管収縮も引き起こす。その結果、急性尿細管壊死を来すため、腎性急性腎不全の代表的な原因である。臨床的には、血中 CK の著明な上昇(しばしば数万 U/L 以上)、AST・LDH の上昇、赤褐色のミオグロビン尿(尿潜血反応陽性なのに沈渣で赤血球をほとんど認めない)が特徴である。筋内への体液移動による循環血漿量減少(脱水)が腎前性の要因として加わり、腎障害を増悪させることも多い。
腎性急性腎不全の主な原因
・急性尿細管壊死:虚血(出血、ショック、敗血症、大手術後など腎前性状態の遷延)/腎毒性物質(アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチン、ヨード造影剤、NSAIDs、ミオグロビン、ヘモグロビン〔不適合輸血などの溶血〕) ・急性間質性腎炎:薬剤(抗菌薬、NSAIDs、プロトンポンプ阻害薬など)によるアレルギー機序、感染症 ・糸球体疾患:急速進行性糸球体腎炎(ANCA 関連血管炎、抗 GBM 抗体病など)、溶連菌感染後急性糸球体腎炎 ・血管病変:溶血性尿毒症症候群、悪性高血圧、コレステロール塞栓症
横紋筋融解症の原因
挫滅症候群(クラッシュ症候群)、長時間の圧迫・不動、過度の運動、熱中症、痙攣重積、アルコール多飲、低カリウム血症、薬剤(スタチン、フィブラート系薬など)、悪性症候群、悪性高熱症など。治療の基本は大量輸液による尿量確保であり、高カリウム血症や高度の腎障害には透析を行う。
腎前性と腎性の鑑別
腎前性では尿細管機能が保たれるため、Na の再吸収が亢進して尿中 Na 濃度は低く(20 mEq/L 未満)、Na 排泄分画(FENa)は 1% 未満、尿浸透圧は高い(500 mOsm/kg 以上)。腎性(ATN)では尿細管が障害されるため尿中 Na 濃度は高く(40 mEq/L 超)、FENa は 2% 超となり、尿浸透圧は血漿に近い値(350 mOsm/kg 以下)となる。尿沈渣では ATN で顆粒円柱(泥褐色円柱)や尿細管上皮細胞を認める。
POINT
・急性腎不全は腎前性(腎血流低下)・腎性(腎実質障害)・腎後性(尿路閉塞)に分類する。 ・横紋筋融解症はミオグロビンによる急性尿細管壊死を起こし、腎性急性腎不全の代表的原因である。 ・尿管結石など尿路の閉塞は腎後性(両側性か単腎で起こる)。 ・糖尿病腎症・良性腎硬化症は慢性腎臓病の原因である。 ・腎性尿崩症は尿濃縮障害(多尿)であり、腎不全の原因ではない。
