StudyMed医師国家試験

「むせる」はすぐ絶食のサインじゃない―脳卒中後の高齢者の嚥下障害は「評価して、工夫して、食べ続ける」

第105回医師国家試験 E問題 第58問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第58問

84歳の女性。1か月前から食事中に時々むせるようになり,心配した娘に伴われて来院した。5年前に発症した脳塞栓症によって左片麻痺と構語障害の後遺症があり,入浴するときや車椅子を押してもらって自宅近くを散歩するとき以外,ほぼ終日ベッド上で生活している。坐位保持は可能で食欲はあるが,移動,食事,排泄,入浴,着替え及び整容には介助が必要である。7年前に夫と死別し,現在は娘夫婦と同居している。  現時点の対応として適切なのはどれか。3つ選べ。

  1. a.胃瘻を造設する。
  2. b.食事形態を工夫する。
  3. c.嚥下機能を評価する。
  4. d.全身状態を評価する。
  5. e.絶食とし点滴治療を行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳卒中の後遺症がある高齢の方が食事中にむせるようになった、という場面での初期対応を問う問題だ。着眼点は「現時点で」という言葉。いま急いで何かを止めるべき状況なのか、それとも評価と工夫から始める段階なのかを見極めよう。
医学生医学生
むせるなら誤嚥性肺炎が心配なので、まず食事を止めた方が安全な気もします。
ドクタードクター
その発想はよくあるけれど、まず患者さんの状態を整理してみよう。むせは「時々」で、食欲があり、坐位も保てる。発熱や咳・痰の増加、体重減少といった肺炎や低栄養を示す記載はない。つまり、急性の合併症はまだ示されていないんだ。
医学生医学生
構語障害が残っているのも関係ありますか。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。構語障害は口唇・舌・咽頭などの運動障害で起こる。話すことと飲み込むことは同じ器官を使うから、構語障害がある人は嚥下の運動にも障害がありうる。そこに加齢や長期臥床による筋力低下が重なって、嚥下反射のタイミングがずれ、食べ物が気道に入りかけてむせていると考えられる。
医学生医学生
なるほど。むせているということは、咳反射は保たれているということでもありますね。
ドクタードクター
その通り。むせは防御反応でもある。ただ高齢者では、むせを伴わない不顕性誤嚥もあるから油断はできない。では、まず何をすべきだろう。
医学生医学生
原因と程度がわからないと方針が立たないので、嚥下機能の評価でしょうか。
ドクタードクター
正解。ベッドサイドでは反復唾液嚥下テスト、つまり30秒間に空嚥下が何回できるかをみて、3回未満なら異常とする。ほかに改訂水飲みテストやフードテストもある。異常があれば、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で、誤嚥の有無や適した食形態・姿勢を詳しく調べる。
医学生医学生
リハビリテーション科の臨床実習で、言語聴覚士さんが嚥下造影をしているのを見学しました。とろみの濃さを変えながら確認していました。
ドクタードクター
まさにその情報が食事の工夫につながる。そして嚥下だけでなく、全身状態の評価も欠かせない。栄養状態や脱水、すでに肺炎を起こしていないか、口腔衛生や義歯、認知機能、鎮静作用のある薬の影響、それに介護状況まで含めて把握する。高齢者総合的機能評価の視点だね。
医学生医学生
評価をしたうえで、食事形態を工夫するんですね。
ドクタードクター
そう。さらさらした水分は咽頭を速く流れて反射が間に合わず誤嚥しやすいから、とろみをつける。ゼリー状やペースト状など、まとまりやすい形にする。パサパサしたものや、汁物に具が入ったような水分と固形物の混ざったものは避ける。リクライニング位で頸部を前屈させる、一口量を少なくするといった姿勢や食べ方の工夫も有効だ。
医学生医学生
では、胃瘻はどういうときに考えるのでしょうか。
ドクタードクター
経口だけでは栄養が確保できない状態が長く続くと見込まれる場合や、誤嚥性肺炎を繰り返して経口摂取が難しい場合だね。侵襲のある処置だし、胃瘻にしても唾液や逆流した胃内容物の誤嚥は防ぎきれない。評価も工夫もしていない段階で選ぶものではなく、本人や家族の意思も踏まえて判断する。
医学生医学生
絶食にして点滴するのも、今はやりすぎということですね。
ドクタードクター
そう。絶食と点滴は重症の誤嚥性肺炎や意識障害がある場合、評価で明らかに安全に食べられないとわかった場合などの一時的な対応だ。評価なしに絶食にすると嚥下に関わる筋が廃用でさらに衰え、低栄養や生活の質の低下も招いてしまう。
医学生医学生
食べないことで、かえって食べられなくなるんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に予防策も押さえておこう。口腔ケアは口腔内の細菌を減らして肺炎を減らす効果が示されている。食後しばらく上体を起こしておくことは逆流による誤嚥を防ぐ。アイスマッサージなどの間接訓練、実際の食物を使う直接訓練もある。言語聴覚士、歯科医師・歯科衛生士、管理栄養士、看護師などの多職種で支えるのが基本だ。
医学生医学生
OSCEでは医療面接で「食事でむせることはないか」と聞く練習をしましたが、その先の対応まで流れで理解できました。
ドクタードクター
いいね。「むせ=即中止」ではなく、評価して、工夫して、できるだけ口から食べ続けてもらう。それが高齢者の生活と尊厳を守ることにつながるんだ。

まとめ

脳卒中後遺症のある高齢者が食事中にむせる場合、構語障害の残存や加齢・廃用が重なった嚥下障害を考えます。肺炎などの急性病態がなく経口摂取ができている段階では、まず反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテスト、必要に応じて嚥下造影・嚥下内視鏡で嚥下機能を評価し、栄養・脱水・肺炎・口腔・認知機能などの全身状態も把握します。そのうえでとろみ付けなどの食事形態や姿勢を工夫し、経口摂取を続けることが基本で、評価なしの絶食・点滴や胃瘻造設は廃用や生活の質の低下を招く過剰な対応です。口腔ケアや多職種連携による誤嚥性肺炎予防も含めて理解しておくことは、高齢化が進む日常診療で欠かせない視点となります。

解答・解説

正解はb, c, dです

所見の整理

・84歳女性。1か月前から食事中に時々むせる。 ・5年前の脳塞栓症による左片麻痺と構語障害(発音に必要な口唇・舌・咽頭などの運動障害で、うまく話せない状態)が残っている。構語障害があるということは、発話と共通の器官を使う嚥下の運動にも障害がありうることを示唆する。 ・ほぼ終日ベッド上の生活だが、坐位保持は可能で食欲はある。 ・移動・食事・排泄・入浴・着替え・整容のいずれにも介助が必要で、日常生活動作(ADL)は高度に低下している。 ・娘夫婦と同居し、介護者がいる。 ・発熱、咳・痰の増加、体重減少、脱水などの記載はなく、急性の合併症は現時点で示されていない。

病態の考え方

脳卒中後遺症に加齢による嚥下機能の低下、長期臥床による筋力・体力の低下などが重なって、口腔から咽頭への送り込みや嚥下反射のタイミングがずれ、食物が気道へ入りかける(喉頭侵入・誤嚥)ことで、むせが生じていると考えられる。むせは誤嚥に対する防御反応でもあり、むせがあること自体は咳反射が保たれていることを意味する。ただし高齢者では、むせを伴わない不顕性誤嚥もあるため、誤嚥性肺炎・低栄養・脱水への進展に注意が必要である。

設問の考え方

「現時点の対応」が問われている。本例は時々むせる程度で、食欲があり経口摂取は続けられており、肺炎などの急性病態も示されていない。したがって、まず行うべきは (1) 嚥下障害の程度と病態を客観的に評価すること、(2) 栄養状態・肺炎の有無・口腔の状態・認知機能などの全身状態を評価すること、(3) それに基づき、経口摂取を続けながら誤嚥を減らす工夫(食事形態・姿勢など)を行うことである。評価をせずにいきなり経口摂取を中止したり、侵襲的な胃瘻造設に進んだりするのは、段階を飛ばした過剰な対応であり、食べる楽しみや残存する嚥下機能を損なうことになる。

選択肢考察

  1. ×a.  胃瘻を造設する。

    胃瘻(内視鏡的に造設する経皮内視鏡的胃瘻造設術〈PEG〉が一般的)は、経口摂取だけでは必要な栄養・水分を確保できない状態が長期に続くと見込まれる場合や、誤嚥性肺炎を繰り返し経口摂取が困難な場合などに検討される経腸栄養の手段である。本例は食欲があり、時々むせる程度で経口摂取を継続できており、嚥下機能の評価も食事の工夫もまだ行われていない。侵襲を伴う処置であり、また胃瘻を造設しても唾液や胃内容物の逆流による誤嚥性肺炎を完全には防げない。適応は評価と工夫を尽くしたうえで、本人・家族の意思も踏まえて判断すべきであり、現時点の対応として不適切である。

  2. ○b.  食事形態を工夫する。

    嚥下障害のある患者では、さらさらした水分は咽頭を速く流れて嚥下反射が間に合わず誤嚥しやすい。とろみ剤で液体にとろみを付ける、ゼリー状・ペースト状・軟らかく均一でまとまりやすい形態にするなど、嚥下機能に合わせて食事形態を調整すると誤嚥を減らせる。パサパサしたもの、口の中でばらけやすいもの、水分と固形物が混ざったもの(汁物に具が入ったもの)は避ける。あわせて、リクライニング位(上体を30〜60度程度起こす)や頸部を前屈させる姿勢、一口量を少なくする、ゆっくり食べるといった工夫も有効である。経口摂取を続けながら誤嚥のリスクを下げられるため、現時点の対応として適切である。

  3. ○c.  嚥下機能を評価する。

    むせの原因となっている嚥下障害が、どの段階で、どの程度起きているかを評価することが対応の出発点となる。ベッドサイドでのスクリーニングとして、反復唾液嚥下テスト(RSST:30秒間に空嚥下を何回できるかをみる。3回未満で異常)、改訂水飲みテスト(冷水3 mLを嚥下させ、むせや呼吸変化をみる)、フードテスト(茶さじ1杯のプリンなどで評価)などがある。異常があれば、嚥下造影検査(VF:造影剤入りの検査食を食べる様子をエックス線透視で観察する)や嚥下内視鏡検査(VE:鼻から細い内視鏡を入れて咽頭を観察する)で、誤嚥の有無、不顕性誤嚥、適した食形態・姿勢を詳しく調べる。この評価結果が、食事形態の選択や経管栄養の要否の判断根拠となるため適切である。

  4. ○d.  全身状態を評価する。

    高齢者の嚥下障害は、嚥下機能そのものだけでなく、栄養状態(体重変化、血清アルブミンなど)、脱水の有無、すでに誤嚥性肺炎を起こしていないか(発熱、呼吸音、胸部画像、炎症反応)、口腔衛生や義歯・歯の状態、意識レベルや認知機能、服用薬の影響(鎮静作用のある薬など)、ADLや介護状況など、多くの要因と関連している。高齢者総合的機能評価(CGA:身体面・精神心理面・生活機能面・社会環境面から総合的に評価する手法)の視点で全身状態を把握することで、治療・ケアの方針や介護計画を立てるための基礎が得られる。高齢者診療の基本であり適切である。

  5. ×e.  絶食とし点滴治療を行う。

    絶食と点滴は、重症の誤嚥性肺炎を発症している場合、意識障害がある場合、明らかな誤嚥が評価で確認され安全に経口摂取できない場合などに一時的に行う対応である。本例は時々むせる程度で、食欲もあり、肺炎や脱水をうかがわせる所見は示されていない。評価をせずに絶食にすると、嚥下に関わる筋の廃用が進んで嚥下機能がかえって低下し、低栄養や生活の質の低下も招く。現時点の対応として不適切である。

摂食嚥下の5期

1. 先行期(認知期):食物を認識し、食べ方や量を判断する。 2. 準備期(咀嚼期):咀嚼して唾液と混ぜ、飲み込みやすい塊(食塊)をつくる。 3. 口腔期:舌で食塊を咽頭へ送り込む(随意運動)。 4. 咽頭期:嚥下反射により軟口蓋が鼻咽腔を閉じ、喉頭が挙上して喉頭蓋が気道をふさぎ、食塊が食道へ送られる(反射運動)。 5. 食道期:蠕動運動で食塊を胃へ送る。 脳卒中では、とくに口腔期・咽頭期の障害が問題となりやすい。両側の大脳病変による偽性球麻痺や、延髄病変による球麻痺では嚥下障害が高度になりやすい。

誤嚥の種類

・顕性誤嚥:誤嚥時にむせがみられる。 ・不顕性誤嚥:むせを伴わない誤嚥で、夜間の唾液誤嚥などによって高齢者の誤嚥性肺炎の重要な原因となる。むせが少ないから安全とは限らない。

誤嚥性肺炎の予防策

・口腔ケア:口腔内細菌を減らし、肺炎の発症を減らす効果が示されている。 ・食事時の姿勢調整(坐位またはリクライニング位、頸部前屈)と、食後しばらく上体を起こしておくこと(胃食道逆流の予防)。 ・食事形態の調整(とろみ付け、嚥下調整食)。 ・嚥下訓練:食物を使わない間接訓練(アイスマッサージ〈凍らせた綿棒などで咽頭付近を刺激し嚥下反射を誘発する〉、頸部・口腔周囲の運動など)と、実際に食物を用いる直接訓練がある。 ・食後の咳払いなどで咽頭の残留物を出す。 ・言語聴覚士、歯科医師・歯科衛生士、管理栄養士、看護師など多職種による対応が有効である。

栄養投与経路の選択

腸管が使える場合は経腸栄養を優先し、経口摂取が可能であればまず経口摂取を工夫する。経口で不十分な状態が短期間なら経鼻胃管、長期(おおむね4週間以上)に及ぶと見込まれる場合は胃瘻が考慮される。導入に当たっては、本人の意思や生活の質を十分に考慮する。

POINT

・脳卒中後遺症のある高齢者のむせは嚥下障害を考える。 ・まず行うのは評価:嚥下機能評価(RSST、改訂水飲みテスト→VF・VE)と全身状態の評価(栄養、脱水、肺炎、口腔、認知機能、ADL=高齢者総合的機能評価)。 ・評価に基づき、食事形態(とろみ付けなど)や姿勢を工夫して経口摂取を続けることが基本である。 ・肺炎や高度の嚥下障害がない段階で、絶食・点滴や胃瘻造設に直ちに進むのは不適切である(廃用による嚥下機能のさらなる低下、生活の質の低下を招く)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。