顕微鏡では耐性は見えない―Gram染色で「ブドウの房」を探してMRSAに迫る
第105回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
臨床材料のGram染色標本(①~⑤)を別に示す。 MRSAの可能性があるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
MRSAはメチシリンをはじめとするβラクタム系薬に耐性を獲得した黄色ブドウ球菌ですが、耐性は形態に現れないため、Gram染色で判断できるのは「ブドウ球菌として矛盾しない像か」までです。ブドウ球菌は青紫に染まるGram陽性球菌で、分裂面が一定しないためブドウ房状の集簇を示し、連鎖状ならレンサ球菌・腸球菌、赤く染まる桿菌や小型菌はGram陰性菌、酵母様細胞と仮性菌糸はカンジダと鑑別します。ブドウ房状のGram陽性球菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌でもみられるため、確定には培養同定とオキサシリン・セフォキシチン感受性試験、mecAやPBP2'の検出が必要です。染色性・形態・配列の3点からGram染色を読む力は、起炎菌を推定して初期の抗菌薬(MRSAを疑えばバンコマイシンなど)を選び、接触予防策などの感染対策を始めるうえで臨床の基本となります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、黄色ブドウ球菌のうちメチシリンをはじめとするβラクタム系抗菌薬に耐性を獲得した株である。耐性の有無は顕微鏡では見分けられないため、Gram染色で判断できるのは「黄色ブドウ球菌(ブドウ球菌属)として矛盾しない形態かどうか」までである。したがって本問は「ブドウ球菌らしい像を選べ」という問題に置き換えられる。
Gram染色の読み方
Gram染色では、細胞壁のペプチドグリカン層が厚いGram陽性菌はクリスタルバイオレットの色が残って青紫〜濃紺に、外膜をもちペプチドグリカン層の薄いGram陰性菌は脱色後にサフラニン(またはフクシン)で赤〜ピンクに染まる。読むべき点は、①染色性(陽性か陰性か)、②形態(球菌か桿菌か、真菌の菌糸・酵母か)、③配列(連鎖・ブドウ房状・双球など)の3つである。
絞り込み
黄色ブドウ球菌は直径約1μmのGram陽性球菌で、分裂面が一定しないため不規則な塊、すなわちブドウの房のような集簇(クラスター)をつくる。標本を見ると、Gram陽性(青紫色)の球菌が写っているのは④と⑤である。④は球菌が一列に数珠状に連なる連鎖(レンサ球菌の特徴)、⑤は球菌が不規則に寄り集まったブドウ房状の集簇であり、ブドウ球菌の形態に合致するのは⑤である。 なお、ブドウ房状のGram陽性球菌は黄色ブドウ球菌だけでなくコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS、表皮ブドウ球菌など)でもみられるため、Gram染色だけでは菌種もメチシリン耐性も確定できない。そのため設問も「MRSAの可能性がある」という表現になっている。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。Gram陽性に染まる太い菌糸状の構造(仮性菌糸)と、出芽した酵母様の細胞が混在している。細菌よりはるかに大きく、真菌、特にカンジダ(Candida属)を考える像である。細菌であるMRSAとは形態がまったく異なる。
- ×b. ②
誤り。細長い桿菌(棒状の菌)がみられ、Gram陰性桿菌の像である。大腸菌、クレブシエラ、緑膿菌などの腸内細菌科細菌やブドウ糖非発酵菌がこの形をとる。球菌ではないためブドウ球菌ではない。
- ×c. ③
誤り。赤〜ピンク色に染まる非常に小さな菌が多数散在しており、Gram陰性の小型の球菌(〜球桿菌)の像である。インフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリスなど気道感染の起炎菌がこのような像を示す。Gram陰性であるためブドウ球菌ではない。
- ×d. ④
誤り。Gram陽性球菌ではあるが、菌体が一方向に数珠つなぎに並ぶ連鎖状配列を示しており、レンサ球菌(Streptococcus属、化膿レンサ球菌など)や腸球菌を考える像である。ブドウ球菌は分裂面が一定しないため長い連鎖はつくらない。
- ○e. ⑤
正しい。青紫色に染まるGram陽性球菌が不規則に寄り集まり、ブドウの房のような集簇を形成している。これはブドウ球菌属に特徴的な配列であり、黄色ブドウ球菌、ひいてはMRSAである可能性がある像である。ただしMRSAと確定するには、培養で黄色ブドウ球菌と同定したうえで、オキサシリン・セフォキシチンへの薬剤感受性試験や、耐性遺伝子mecAあるいはその産物PBP2'(PBP2a)の検出が必要である。
Gram染色による主な細菌の分類
・Gram陽性球菌(ブドウ房状): 黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 ・Gram陽性球菌(連鎖状): レンサ球菌、腸球菌 ・Gram陽性双球菌(ランセット形): 肺炎球菌 ・Gram陰性双球菌(ソラマメ形): 淋菌、髄膜炎菌、モラクセラ・カタラーリス ・Gram陰性桿菌: 大腸菌、クレブシエラ、緑膿菌など ・Gram陰性小桿菌〜球桿菌: インフルエンザ菌 ・真菌: カンジダは酵母様細胞と仮性菌糸を示し、Gram陽性に染まる
MRSAの概要
・耐性機序: mecA遺伝子がコードする変異型ペニシリン結合タンパク質PBP2'(PBP2a)はβラクタム系薬との親和性が低く、細胞壁合成が阻害されないため、ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系など、ほぼすべてのβラクタム系薬が無効となる。 ・主な治療薬: 抗MRSA薬としてバンコマイシン、テイコプラニン(グリコペプチド系)、リネゾリド、テジゾリド(オキサゾリジノン系)、ダプトマイシン、アルベカシン(アミノグリコシド系)などが用いられる。なおダプトマイシンは肺サーファクタントで不活化されるため肺炎には用いない。 ・疫学: 院内感染の代表的起炎菌(HA-MRSA)であるが、医療曝露のない健常者に皮膚軟部組織感染症などを起こす市中感染型(CA-MRSA)も知られ、CA-MRSAは白血球破壊毒素PVL(Panton-Valentine leukocidin)を産生する株が多い。 ・感染対策: 接触感染で伝播するため、標準予防策に加えて接触予防策(手指衛生、手袋・ガウンの着用、個室管理など)を行う。
POINT
・Gram陽性菌は青紫、Gram陰性菌は赤に染まる。 ・ブドウ球菌はGram陽性球菌でブドウ房状の集簇、レンサ球菌はGram陽性球菌で連鎖状の配列。 ・Gram染色でわかるのは「ブドウ球菌の可能性」までで、MRSAの確定には培養・薬剤感受性試験やmecA/PBP2'の検出が必要。 ・カンジダはGram陽性に染まり、酵母と仮性菌糸を示す。
