生まれてすぐの緑の嘔吐と2つの泡―double bubbleが指し示す十二指腸閉鎖の術式
第105回医師国家試験 D問題 第41問
国試問題にチャレンジ
生後1日の新生児。頻回の嘔吐を認めている。身長48.0 cm,体重3,026 g。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部はやや膨隆しており,軟である。吐物(A)と腹部エックス線写真(B)とを別に示す。手術治療が予定された。 適切な術式はどれか。

- a.噴門形成術
- b.幽門筋切開術
- c.人工肛門造設術
- d.中腸軸捻転解除術
- e.十二指腸・十二指腸吻合術
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
生後早期の胆汁性嘔吐は閉塞部位がVater乳頭より肛門側にあることを示し、新生児では外科的疾患をまず疑う重要なサインです。腹部エックス線でdouble bubble signを示し遠位腸管のガスを欠けば先天性十二指腸閉鎖症と診断でき、術式は十二指腸・十二指腸吻合術(ダイアモンド吻合)で、輪状膵が原因でも膵臓は切らずにバイパスします。肥厚性幽門狭窄症は生後2〜3週の非胆汁性噴水状嘔吐で幽門筋切開術、重症胃食道逆流症は噴門形成術の適応であり、中腸軸捻転は遠位ガスの残存や血便・全身状態の悪化を手がかりに鑑別し、疑えば緊急でLadd手術を行います。十二指腸閉鎖症はDown症候群や羊水過多との関連が深く、合併奇形の評価が予後を左右します。吐物の色とガスの途絶部位から閉塞部位を推定する考え方は、新生児の消化管疾患全般を理解する基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
生後1日という非常に早い時期から頻回に嘔吐しており、生まれつきの消化管の通過障害(先天性の閉鎖・狭窄)をまず考える。心音・呼吸音に異常はなく、腹部はやや膨隆しているが軟らかく、腹膜炎を思わせる所見はない。
吐物(A)
吐物は緑色で、胆汁性嘔吐である。胆汁は十二指腸下行部のVater乳頭から腸管内に出るため、胆汁が混じった嘔吐は通過障害がVater乳頭より肛門側にあることを示す。逆に、肥厚性幽門狭窄症や乳頭より口側の閉鎖では、吐物は胆汁を含まない。
腹部エックス線写真(B)
拡張した胃と十二指腸球部に2つの大きなガス像がある、いわゆるdouble bubble signを示し、それより肛門側の腸管にガスを認めない。飲み込んだ空気が十二指腸から先へ全く進んでいないことを意味し、十二指腸の完全閉塞を示す。
鑑別と診断
新生児早期の胆汁性嘔吐をきたす代表的な疾患は、先天性十二指腸閉鎖症、先天性小腸閉鎖症、腸回転異常症(中腸軸捻転)である。 ・空腸閉鎖症では胃・十二指腸・上部空腸の3つが拡張するtriple bubble sign、より下部の小腸閉鎖では多数の拡張腸管像となる。 ・腸回転異常症に伴う十二指腸の圧迫や中腸軸捻転でもdouble bubble signに似た像をとりうるが、通常は下部腸管にも少量のガスがみられることが多い。捻転で腸管の血流が障害されれば、血便、腹部の緊満・圧痛、全身状態の悪化が急速に進むはずで、本例の腹部所見(軟)とは合わない。 以上から先天性十二指腸閉鎖症と診断でき、閉鎖部の口側と肛門側の十二指腸をつなぐ十二指腸・十二指腸吻合術を行う。
選択肢考察
- ×a. 噴門形成術
噴門形成術(Nissen法など)は、胃の上部を食道下端に巻き付けて逆流防止機構を作る手術で、内科的治療で改善しない重症の胃食道逆流症に行う。胃食道逆流の吐物は通常胆汁を含まず、腹部エックス線で下部腸管のガスが途絶することもない。本例の嘔吐は十二指腸の閉塞によるもので、適応はない。
- ×b. 幽門筋切開術
幽門筋切開術(Ramstedt手術)は肥厚性幽門狭窄症の標準術式で、肥厚した幽門輪の筋層を粘膜を残して切開する。肥厚性幽門狭窄症は生後2〜3週ごろから噴水状の非胆汁性嘔吐で発症するのが典型で、生後1日の胆汁性嘔吐とは合わない。腹部エックス線でも胃は拡張するが、十二指腸以下にガスはみられる。
- ×c. 人工肛門造設術
新生児期の人工肛門造設術は、直腸肛門奇形(鎖肛)の高位型、ヒルシュスプルング病、腸管穿孔など主に下部消化管の疾患に対して、一時的に便の出口を作る目的で行われる。本例の閉塞部位は十二指腸であり、その肛門側に人工肛門を作っても通過障害は解消しない。
- ×d. 中腸軸捻転解除術
中腸軸捻転は腸回転異常症に合併し、上腸間膜動脈を軸に小腸がねじれて血流が途絶える緊急疾患である。捻転の解除と、十二指腸を圧迫するLadd靱帯の切離などからなるLadd手術を緊急で行う。胆汁性嘔吐をきたす点では本例と共通するが、腹部エックス線で十二指腸以下のガスが完全に途絶することは少なく、絞扼が進めば血便や腹部の緊満、ショックがみられる。本例では捻転を示す所見に乏しい。
- ○e. 十二指腸・十二指腸吻合術
先天性十二指腸閉鎖症の標準術式である。閉鎖部より口側で拡張した十二指腸と、肛門側の細い十二指腸をそれぞれ切開してつなぎ、通過路を作る。口側を横切開・肛門側を縦切開して菱形の吻合口を作る方法(ダイアモンド吻合)が広く用いられる。輪状膵が原因でも膵臓は切らず、同様にバイパスする形で吻合する。術前は胃管による減圧と輸液で脱水・電解質異常を補正しておく。
先天性十二指腸閉鎖症・狭窄症
胎生期に一時的に内腔が上皮で埋まった十二指腸が、再び開通(再疎通)しないことで生じると考えられている。閉鎖・狭窄の多くはVater乳頭付近からその肛門側にあるため、胆汁性嘔吐を示す例が多い。 ・合併症・合併奇形:Down症候群(21トリソミー)の合併が約3割と多い。輪状膵、腸回転異常症、先天性心疾患、食道閉鎖症、直腸肛門奇形などを伴うこともある。 ・出生前:羊水過多をきっかけに、胎児超音波で胃と十二指腸の拡張(double bubble)として出生前に診断されることも多い。 ・症状:出生直後からの嘔吐(多くは胆汁性)。上腹部は膨隆するが下腹部は平坦なことが多い。 ・画像:腹部単純エックス線でdouble bubble sign。完全閉鎖では遠位腸管のガスを欠き、狭窄では少量の遠位ガスがみられる。 ・治療:胃管による減圧、輸液、全身状態の評価(心疾患の有無など)ののち、十二指腸・十二指腸吻合術を行う。予後は合併奇形に左右される。
新生児・乳児の嘔吐と術式の対応
・先天性十二指腸閉鎖症:double bubble sign → 十二指腸・十二指腸吻合術 ・空腸・回腸閉鎖症:triple bubble signや多数の拡張腸管 → 閉鎖部切除と腸管端々吻合 ・腸回転異常症・中腸軸捻転:上部消化管造影で十二指腸空腸移行部の位置異常、捻転で「くちばし状」の途絶 → Ladd手術(緊急) ・肥厚性幽門狭窄症:生後2〜3週の噴水状非胆汁性嘔吐、右上腹部のオリーブ様腫瘤 → 幽門筋切開術 ・胃食道逆流症(重症)→ 噴門形成術 ・鎖肛(高位型)、ヒルシュスプルング病 → 人工肛門造設術(一時的)など
POINT
・胆汁性嘔吐は閉塞部位がVater乳頭より肛門側にあることを示す。新生児の胆汁性嘔吐は外科的疾患を疑う。 ・double bubble signで遠位腸管のガスがない → 先天性十二指腸閉鎖症。術式は十二指腸・十二指腸吻合術。 ・十二指腸閉鎖症はDown症候群の合併が多く、羊水過多を伴う。 ・中腸軸捻転は腸管壊死に至る緊急疾患であり、胆汁性嘔吐をみたら必ず鑑別し、疑えば上部消化管造影などで確認する。 ・幽門筋切開術は肥厚性幽門狭窄症、噴門形成術は胃食道逆流症に対する術式である。
