暴走するマクロファージ―血球貪食症候群は「減るもの」と「増えるもの」で解く
第104回医師国家試験 I問題 第22問
国試問題にチャレンジ
血球貪食症候群〈hemophagocytic syndrome〉でみられるのはどれか。3つ選べ。
- a.凝固異常
- b.白血球増多
- c.血清LD低値
- d.血清ビリルビン高値
- e.血清フェリチン高値
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血球貪食症候群(HLH)は、過剰に活性化したT細胞・NK細胞・マクロファージによるサイトカインストームと血球貪食が本態の病気です。血球貪食と造血抑制により白血球増多ではなく血球減少をきたし、組織障害を反映してLDは高値となるほか、肝障害によるビリルビン高値、線溶亢進やDICによる凝固異常(低フィブリノゲン血症)、活性化マクロファージ由来の血清フェリチン著増が特徴です。高トリグリセリド血症や可溶性IL-2受容体上昇も診断基準に含まれ、成人ではEBウイルス感染や悪性リンパ腫、膠原病に続発する二次性が大部分を占めます。急速に多臓器不全へ進みうるため、発熱・血球減少・肝脾腫・フェリチン著増の組み合わせから早期に疑い、基礎疾患の治療と免疫抑制療法を開始することが重要です。
解答・解説
正解はa, d, eです
血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS。現在は血球貪食性リンパ組織球症 hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH と呼ばれることが多い)は、T細胞やNK細胞、マクロファージ(組織球)が過剰に活性化し、制御を失った免疫反応が全身で暴走する病態である。活性化した細胞からインターフェロンγ、TNF-α、IL-6などのサイトカインが大量に放出され(サイトカインストーム)、骨髄・脾臓・肝臓・リンパ節などで活性化したマクロファージが自己の血球を貪食する。 この病態から臨床像・検査所見は次のように導ける。 ・持続する高熱:炎症性サイトカインの作用 ・肝脾腫:活性化した組織球・リンパ球の浸潤 ・血球減少(2系統以上のことが多い):血球貪食と、サイトカインによる造血抑制 ・凝固異常:低フィブリノゲン血症、DIC(播種性血管内凝固)の合併 ・肝機能障害:AST・ALTの上昇、ビリルビン上昇 ・血清フェリチンの著明な上昇:活性化マクロファージからの産生・放出 ・LD(乳酸脱水素酵素)高値:組織障害や細胞破壊の反映 ・高トリグリセリド血症:TNF-αによるリポ蛋白リパーゼの抑制 ・可溶性IL-2受容体(sIL-2R、sCD25)の上昇:T細胞活性化の反映 本問では、血球は「増える」のではなく「減る」こと、LDは「低値」ではなく「高値」になることを押さえれば、凝固異常、血清ビリルビン高値、血清フェリチン高値の3つが選べる。
選択肢考察
- ○a. 凝固異常
血球貪食症候群では凝固異常がよくみられる。活性化マクロファージから放出されるプラスミノゲンアクチベータによる線溶亢進や、肝障害による凝固因子の産生低下、さらにサイトカインストームに伴うDICの合併などにより、低フィブリノゲン血症、プロトロンビン時間・活性化部分トロンボプラスチン時間の延長、FDP・Dダイマーの上昇などを呈する。低フィブリノゲン血症(150mg/dL以下)は国際的な診断基準(HLH-2004)の項目にも含まれている。
- ×b. 白血球増多
血球貪食症候群では白血球増多ではなく、白血球を含む血球の減少が特徴である。マクロファージによる血球の貪食に加え、インターフェロンγやTNF-αなどのサイトカインが骨髄の造血を抑制するため、白血球(特に好中球)、赤血球(ヘモグロビン)、血小板のうち2系統以上が減少し、汎血球減少となることも多い。HLH-2004の診断基準でも2系統以上の血球減少が項目の一つとなっている。
- ×c. 血清LD低値
血清LDは低値ではなく高値となる。LDは全身の細胞に含まれる酵素で、細胞が壊れると血中に逸脱する。血球貪食症候群では、血球の破壊、肝細胞障害、活性化した細胞の増殖・組織障害などにより著明に上昇することが多い。LDの高値は病勢を反映する所見であり、基礎疾患としてリンパ腫が隠れている場合にも高値となる。
- ○d. 血清ビリルビン高値
血球貪食症候群では肝臓に活性化した組織球やリンパ球が浸潤し、サイトカインによる肝細胞障害や胆汁うっ滞が起こるため、AST・ALTの上昇とともに血清ビリルビンが上昇する(黄疸)。加えて、赤血球の貪食・破壊が進むことも間接ビリルビン上昇の一因となる。肝機能障害は本症で高頻度にみられる所見の一つである。
- ○e. 血清フェリチン高値
血清フェリチンの著明な上昇は血球貪食症候群の最も特徴的な検査所見の一つである。活性化したマクロファージがフェリチンを産生・放出することや、貪食した血球由来の鉄の処理が亢進することなどによる。HLH-2004の診断基準では500ng/mL以上が項目とされているが、実際には数千〜数万ng/mLに達することも多く、極端な高値は本症を強く疑う手がかりとなる。フェリチンは治療効果や病勢の指標としても用いられる。
分類と原因
・一次性(遺伝性):家族性血球貪食性リンパ組織球症(パーフォリン遺伝子 PRF1 などの異常によりNK細胞・細胞傷害性T細胞の殺細胞能が障害される)、X連鎖リンパ増殖症候群、Chédiak-Higashi症候群など。乳幼児期に発症することが多い。 ・二次性(続発性):感染症(EBウイルスが代表的。そのほかサイトメガロウイルスなどのウイルス、細菌、真菌など)、悪性腫瘍(特にT細胞・NK細胞リンパ腫などの悪性リンパ腫)、自己免疫疾患・膠原病(成人Still病、若年性特発性関節炎、SLEなど。この場合はマクロファージ活性化症候群 MAS と呼ばれる)、薬剤などに伴って発症する。成人では二次性が大部分を占める。
HLH-2004 診断基準
分子遺伝学的にHLHと診断されるか、次の8項目のうち5項目以上を満たす。 1. 発熱(38.5℃以上) 2. 脾腫 3. 2系統以上の血球減少(Hb<9g/dL、血小板<10万/μL、好中球<1,000/μL) 4. 高トリグリセリド血症(空腹時265mg/dL以上)かつ/または低フィブリノゲン血症(150mg/dL以下) 5. 骨髄・脾臓・リンパ節における血球貪食像 6. NK細胞活性の低下または欠如 7. 血清フェリチン500ng/mL以上 8. 可溶性IL-2受容体(sCD25)2,400U/mL以上
治療
基礎疾患の治療(感染症の治療、リンパ腫に対する化学療法など)とともに、過剰な免疫反応を抑える治療を行う。副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンなど)、シクロスポリン、エトポシドを組み合わせた治療が代表的で、家族性の場合は造血幹細胞移植が必要となる。重症例では急速に多臓器不全に進行するため、早期の診断と治療開始が重要である。
POINT
・血球貪食症候群は、過剰に活性化したT細胞・NK細胞・マクロファージによるサイトカインストームと血球貪食が本態。 ・臨床像:持続する高熱、肝脾腫、血球減少(白血球増多ではない)。 ・検査所見:血清フェリチン著増、LD高値(低値ではない)、肝機能障害(ビリルビン高値)、凝固異常(低フィブリノゲン血症、DIC)、高トリグリセリド血症、可溶性IL-2受容体上昇。 ・二次性の原因としてEBウイルス感染と悪性リンパ腫が重要。
