海馬を探せ―冠状断MRIで読み解くAlzheimer型認知症の「忘れる場所」
第104回医師国家試験 G問題 第13問
国試問題にチャレンジ
頭部MRIのT1強調冠状断像を別に示す。 Alzheimer型認知症の記憶障害と関係がある部位はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生まとめ
Alzheimer型認知症では、アミロイドβの沈着と神経原線維変化による神経細胞脱落が嗅内皮質・海馬を含む側頭葉内側から始まるため、近時記憶障害が初発症状となります。T1強調冠状断MRIでは、海馬は側脳室下角に接して内側へ張り出す側頭葉内側の構造として同定でき、萎縮すると下角が拡大します。前頭葉優位の萎縮は前頭側頭型認知症、側頭葉前部の萎縮は意味性認知症を示唆し、視床は記憶回路に含まれるもののAlzheimer型の主病変ではありません。SPECTやPETでは後部帯状回・楔前部や頭頂側頭葉の低下が特徴的で、他の認知症との鑑別に役立ちます。症状と脳の部位を画像の上で結びつける力は、認知症の診断と抗アミロイドβ抗体薬時代の早期発見に欠かせない基礎になります。
解答・解説
正解はdです
頭部MRIのT1強調冠状断像で、脳の各部位を同定できるかと、Alzheimer型認知症の中核症状である記憶障害の責任部位を知っているかを問う問題である。 T1強調像では脳脊髄液が黒く(低信号)、白質が灰白質よりやや白く描出されるため、脳溝・脳室の形から解剖を読み取りやすい。提示された画像は、左右の側脳室体部と第三脳室を通り、脳幹・側頭葉内側を含む高さの冠状断で、明らかな萎縮は目立たない正常に近い像である。各番号は次の構造を示す。 ・①:大脳半球の上部、大脳縦裂に接する前頭葉の皮質・白質 ・②:外側溝(Sylvius裂)の奥にある島およびその周辺 ・③:側脳室の下方、第三脳室の外側にある視床 ・④:側頭葉内側で、側脳室下角に接して内側へ張り出す海馬 ・⑤:側頭葉の外側・下部(中・下側頭回付近) Alzheimer型認知症では、アミロイドβの沈着とタウ蛋白からなる神経原線維変化による神経細胞の脱落が、嗅内皮質・海馬を含む側頭葉内側部から始まる。海馬は新しい情報を記憶として定着させる中枢であり、ここが早期に障害されるため、「最近のことを覚えられない」近時記憶障害(記銘力障害)が初発症状となる。したがって記憶障害と関係が深い部位は④の海馬である。
選択肢考察
- ×a. ①
①は大脳半球上部の前頭葉である。前頭葉は遂行機能、意欲、人格、社会的行動の抑制などを担う。前頭葉が優位に萎縮するのは前頭側頭型認知症(行動異常型)で、脱抑制、常同行動、無関心などの人格・行動変化が目立ち、初期には記憶障害が比較的軽いのが特徴である。Alzheimer型認知症でも進行すると前頭葉が萎縮しうるが、記憶障害の主たる責任部位ではない。
- ×b. ②
②は外側溝の深部にある島(島皮質)およびその周辺である。島は内臓感覚、味覚、情動・自律神経機能などに関与する。単純ヘルペス脳炎は側頭葉内側や島、前頭葉眼窩面などの辺縁系を侵しやすいことで知られる。Alzheimer型認知症の記憶障害の中心となる部位ではない。
- ×c. ③
③は第三脳室の両側にある視床である。視床は感覚情報の中継核であるとともに、覚醒や注意、記憶回路(Papezの回路に含まれる視床前核、視床背内側核)にも関与する。両側視床の梗塞などでは健忘、傾眠、意欲低下などの認知症様症状(視床性認知症)が生じることがある。しかしAlzheimer型認知症で早期から萎縮し記憶障害の主因となる部位ではない。
- ○d. ④
④は側頭葉内側で側脳室下角に接する海馬である。海馬は新しいエピソードや知識を長期記憶として定着させる働きを持ち、Alzheimer型認知症では嗅内皮質とともに最も早期に神経細胞脱落と萎縮が起こる部位である。このため病初期から近時記憶障害(数分前・数日前の出来事を覚えられない)が出現し、同じことを何度も尋ねる、物を置いた場所を忘れるといった症状になる。画像検査では冠状断MRIで海馬の萎縮と側脳室下角の拡大を評価し、VSRAD(MRIの統計解析により海馬傍回周辺の萎縮度を数値化するソフトウェア)なども補助的に用いられる。
- ×e. ⑤
⑤は側頭葉の外側・下部(中側頭回・下側頭回付近)である。Alzheimer型認知症では側頭葉の下外側部も比較的早期から萎縮しうるが、記銘(新しいことを覚えること)の中心となるのはより内側にある海馬・海馬傍回であり、記憶障害と最も関係が深い部位とはいえない。なお側頭葉外側の皮質は、言語の意味理解(意味記憶)などに関与し、側頭葉前部の萎縮は意味性認知症と関連する。
Alzheimer型認知症の概要
認知症の原因として最も多い。病理学的にはアミロイドβの沈着による老人斑と、リン酸化タウ蛋白からなる神経原線維変化、神経細胞脱落が特徴である。病変は嗅内皮質・海馬から始まり、側頭葉・頭頂葉の連合野へ広がり、進行するとびまん性の大脳萎縮に至る。
臨床症状
・初期:近時記憶障害、時間の見当識障害、取り繕い反応 ・中期:場所の見当識障害、失語・失行・失認、視空間認知障害(頭頂葉障害)、BPSD(行動・心理症状:物盗られ妄想、徘徊など) ・後期:人物の見当識障害、失禁、寝たきり 一般に運動症状(パーキンソニズムなど)は末期まで目立たない。
画像所見
・MRI:海馬・海馬傍回を中心とした側頭葉内側の萎縮、側脳室下角の拡大 ・脳血流SPECT・FDG-PET:後部帯状回・楔前部、頭頂側頭葉の血流・代謝低下(早期から後部帯状回・楔前部の低下が特徴的) ・アミロイドPET、髄液検査(アミロイドβ42の低下、リン酸化タウの上昇):病理の生体内での確認に用いる
他の認知症との画像の対比
・前頭側頭型認知症:前頭葉・側頭葉前部の限局性萎縮 ・Lewy小体型認知症:海馬萎縮は比較的軽い。後頭葉の血流低下、MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下、ドパミントランスポーターSPECTでの線条体集積低下 ・血管性認知症:多発性の梗塞・白質病変
治療
コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が対症療法として用いられる。近年は抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)が、軽度認知障害から軽度認知症の段階でアミロイド病理が確認された患者に対して用いられるようになった。
POINT
・Alzheimer型認知症は側頭葉内側(嗅内皮質・海馬)から病変が始まり、近時記憶障害が初発症状となる。 ・冠状断MRIでは海馬は側脳室下角に接する側頭葉内側の構造で、萎縮の評価に適する。 ・前頭葉優位の萎縮は前頭側頭型認知症を示唆する。 ・SPECT/PETでは後部帯状回・楔前部、頭頂側頭葉の血流・代謝低下が特徴的である。
