ループが左に伸びたら収縮力アップ―圧容積曲線で見抜く薬剤の作用点
第104回医師国家試験 E問題 第29問
国試問題にチャレンジ
心室圧―容積曲線を示す。 投与によってAからBに変化するのはどれか。

- a.血管収縮薬
- b.血管拡張薬
- c.アドレナリン
- d.硫酸アトロピン
- e.乳酸加リンゲル液
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心室圧―容積曲線では、ループの横幅が1回拍出量、右下の拡張末期容積が前負荷、駆出期の圧が後負荷、収縮末期点を結ぶESPVRの傾きが心収縮力を表します。拡張末期容積が不変のままESPVRの傾きが急になり収縮末期容積が減る変化は、β1刺激による陽性変力作用を示し、アドレナリンなどのカテコラミン投与で生じます。輸液は前負荷を増やしてループを右へ広げ、血管収縮薬は後負荷を増やして収縮末期容積を増加させ、血管拡張薬は前・後負荷を下げてループを縮小させます。アトロピンは心拍数を上げますが心室収縮力を直接は高めません。前負荷・後負荷・収縮力の3要素に分けて考える習慣は、心不全治療やショック管理で薬剤を選ぶ際の基本的な判断軸になります。
解答・解説
正解はcです
心室圧―容積曲線の読み方
心室圧―容積曲線(圧容積ループ)は、横軸に左室容積、縦軸に左室圧をとり、1回の心周期を反時計回りのループとして描いたものである。 ・右下の角:拡張末期(僧帽弁閉鎖)。ここでの容積が拡張末期容積(EDV)で、前負荷を反映する。 ・右の縦線:等容性収縮期(容積一定のまま圧が上がる)。 ・上辺:駆出期(大動脈弁が開いて容積が減る)。 ・左上の角:収縮末期(大動脈弁閉鎖)。ここでの容積が収縮末期容積(ESV)。 ・左の縦線:等容性弛緩期。 ・下辺:充満期(僧帽弁が開いて容積が増える)。 ループの横幅(EDV−ESV)が1回拍出量、ループの面積が1回の心仕事量にあたる。また、左上の収縮末期点を結んだ直線を収縮末期圧容積関係(ESPVR)といい、その傾き(収縮末期エラスタンス、Ees)は前負荷・後負荷の影響を受けにくい心収縮力(心筋収縮性)の指標である。
図の変化の読み取り
AからBへの変化では、 ・右下の拡張末期点(EDV)はほぼ同じ → 前負荷は変わっていない。 ・ESPVRの直線の傾きが急になっている → 心収縮力が増大している。 ・収縮末期点が左へ移動し、ESVが減少 → ループの横幅(1回拍出量)が増え、駆出率も上昇している。 ・駆出期の圧はやや高くなっている。 つまり、前負荷はそのままで心収縮力だけが強まった変化(陽性変力作用)であり、β1受容体刺激作用をもつカテコラミンの投与で生じるパターンである。各選択肢については、前負荷(EDV)・後負荷(駆出圧)・収縮力(ESPVRの傾き)のどれを主に変えるかを考えると整理しやすい。
選択肢考察
- ×a. 血管収縮薬
血管収縮薬(α1刺激薬など)は末梢血管抵抗を上げて後負荷を増大させる。ESPVRの傾き(収縮力)は変わらないため、駆出期の圧が上がるとループは上方へ伸び、収縮末期点は同じESPVR直線上を右上へ移動する。その結果ESVは増加し、1回拍出量は減少する。ESPVRの傾きが急になりESVが減るB曲線とは一致しない。
- ×b. 血管拡張薬
血管拡張薬は動脈の拡張によって後負荷を、静脈の拡張によって前負荷(静脈還流)を下げる。ループは全体として低圧側・小容量側に移動し、EDVが減少する。収縮力そのものは変わらずESPVRの傾きは不変であり、拡張末期容積が同じまま傾きが急になるB曲線とは異なる。
- ○c. アドレナリン
アドレナリンは心筋のβ1受容体を刺激し、細胞内cAMPの増加を介してCa2+の流入・利用を増やし、心収縮力を高める(陽性変力作用)。収縮力が増すとESPVRの傾きが急になり、同じ前負荷(EDV)からより多くの血液を駆出できるためESVが減少し、1回拍出量と駆出率が増加する。これは図のAからBへの変化そのものである。なお実際にはα1作用による血管収縮や心拍数増加も伴うが、圧容積曲線上で最も特徴的な変化は収縮力増大である。
- ×d. 硫酸アトロピン
アトロピンはムスカリン受容体拮抗薬で、迷走神経の洞結節・房室結節への作用を遮断して心拍数を増加させる。心室筋への副交感神経支配は乏しいため、心室の収縮力(ESPVRの傾き)は直接にはほとんど変化しない。心拍数が増えると拡張期が短縮して充満時間が減り、EDV(前負荷)はむしろやや減少する方向に働く。ESPVRの傾きが増すBへの変化とはならない。
- ×e. 乳酸加リンゲル液
乳酸加リンゲル液は細胞外液補充液であり、投与により循環血液量と静脈還流が増えて前負荷が増大する。ループは拡張末期点が右へ移動してEDVが増加し、Frank-Starlingの法則により1回拍出量が増える。ESPVRの傾き(収縮力)は変わらず、EDVが変化していないB曲線とは一致しない。
圧容積ループの変化の整理
・前負荷増大(輸液など):EDV増加、ループが右へ広がる。ESPVRは不変。1回拍出量増加(Frank-Starlingの法則)。 ・前負荷減少(利尿薬、静脈拡張薬、出血など):EDV減少、ループが左へ縮む。 ・後負荷増大(血管収縮薬、高血圧、大動脈弁狭窄):駆出圧上昇、ESVが増加し1回拍出量減少。ESPVRは不変。 ・後負荷減少(動脈拡張薬):駆出圧低下、ESV減少、1回拍出量増加。 ・収縮力増大(カテコラミン、PDE3阻害薬、ジギタリスなど):ESPVRの傾き増大、ESV減少、1回拍出量・駆出率増加。 ・収縮力低下(心筋梗塞、心筋症、β遮断薬など):ESPVRの傾き減少、ESV増加。 ・拡張能低下(肥大心など):拡張末期圧容積関係(EDPVR)が急峻化し、同じEDVでも拡張末期圧が高くなる。
主な心血管作動薬の受容体作用
・アドレナリン:α1、β1、β2を刺激。陽性変力・変時作用。 ・ノルアドレナリン:主にα1とβ1。血管収縮作用が強い。 ・ドブタミン:主にβ1。収縮力増強が中心。 ・フェニレフリン:α1選択的で、純粋な後負荷増大の例。 ・アトロピン:ムスカリン受容体遮断。徐脈の治療に用いる。
用語
駆出率(EF)=1回拍出量÷EDV×100(%)。正常はおおむね55〜60%以上。
POINT
・圧容積ループの横幅=1回拍出量、面積=心仕事量。 ・ESPVRの傾き(Ees)は心収縮力の指標で、前負荷・後負荷の影響を受けにくい。 ・EDV不変でESPVRの傾きが増しESVが減少→収縮力増大(カテコラミン)。 ・輸液=前負荷増大(EDV増)、血管収縮薬=後負荷増大(ESV増)、血管拡張薬=前・後負荷減少。 ・アトロピンは心拍数を上げるが、心室収縮力を直接は高めない。
