新生児の緑色の嘔吐は待ったなし―腸回転異常症と中腸軸捻転の怖さ
第104回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
腸回転異常症について正しいのはどれか。
- a.注腸整復術が有用である。
- b.無胆汁性嘔吐で発症する。
- c.腸管の絞扼を起こす危険がある。
- d.上部消化管内視鏡検査で診断する。
- e.腸管壁内神経細胞の異常で発症する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腸回転異常症は、胎生期に中腸が上腸間膜動脈を軸に270度回転して後腹膜に固定される過程が不完全に終わった先天異常で、Ladd靱帯による十二指腸の圧迫と、狭い腸間膜根部による中腸軸捻転が問題となります。閉塞はVater乳頭より肛門側で起こるため嘔吐は胆汁性となり、軸捻転では上腸間膜動静脈の血流が途絶えて広範な腸管が絞扼・壊死に陥りうる外科的緊急症です。診断は上部消化管造影での十二指腸空腸曲の位置異常やcorkscrew sign、ドプラ超音波でのwhirlpool signや上腸間膜動静脈の位置逆転が有用で、治療はLadd手術です。注腸整復は腸重積症、壁内神経節細胞の欠如はHirschsprung病、無胆汁性嘔吐は肥厚性幽門狭窄症の特徴であり、閉塞部位と発生学から整理すると新生児の嘔吐の鑑別が確実になります。新生児の胆汁性嘔吐を見たら、腹部所見が乏しくても中腸軸捻転を疑って迅速に評価することが臨床で最も大切です。
解答・解説
正解はcです
問われていること
腸回転異常症の病態・症状・診断・治療の基本を問う一般問題である。
病態の要点
胎生期、中腸(十二指腸下行部の途中から横行結腸の中央付近までにあたる腸管)はいったん臍帯内へ脱出(生理的臍帯ヘルニア)し、上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)を軸として反時計回りに合計270度回転しながら腹腔内に戻り、後腹膜に固定される。この回転と固定が不完全に終わった状態が腸回転異常症である。 その結果、 ・十二指腸空腸曲(Treitz靱帯の位置)が正常の脊柱左側まで達せず、脊柱の右側にとどまる。 ・盲腸が右下腹部まで下降せず、右上腹部付近にとどまり、盲腸・上行結腸から右側腹壁へ走る異常な腹膜索(Ladd靱帯)が十二指腸の前を横切って圧迫する。 ・腸間膜の付着部(根部)が極端に短く狭いため、中腸全体がSMAを軸にねじれやすい(中腸軸捻転)。
臨床像と設問への考え方
閉塞部位はVater乳頭より肛門側の十二指腸であるため、嘔吐は胆汁性(緑色)となる。中腸軸捻転を起こすとSMAの血流が途絶え、小腸から右側結腸までの広範な腸管が絞扼・壊死に陥りうる。これは短時間で致命的となる外科的緊急事態であり、新生児・乳児の胆汁性嘔吐をみたら常に念頭に置く。 以上から、「腸管の絞扼を起こす危険がある」が正しい記述となる。
選択肢考察
- ×a. 注腸整復術が有用である。
注腸整復術(造影剤や空気を肛門から注入して圧をかけ整復する方法)は腸重積症の非観血的治療である。腸回転異常症は回転・固定の異常という解剖学的構造の問題であり、注腸で整復することはできない。治療は手術(Ladd手術:捻転の解除、Ladd靱帯の切離、腸間膜根部の開大、虫垂切除)である。注腸造影は盲腸の位置異常を示す補助診断には用いられる。
- ×b. 無胆汁性嘔吐で発症する。
Ladd靱帯による十二指腸の圧迫や中腸軸捻転による閉塞は、胆汁が流入するVater乳頭より肛門側で起こるため、嘔吐は胆汁性となる。無胆汁性嘔吐は、閉塞部位が乳頭より口側にある肥厚性幽門狭窄症などの特徴である。
- ○c. 腸管の絞扼を起こす危険がある。
腸間膜根部が狭いため、中腸がSMAを軸に捻転(中腸軸捻転)しやすい。捻転によってSMAと上腸間膜静脈の血流が障害されると、中腸由来の広範な腸管が絞扼され、短時間で壊死に至る。特に新生児期に症状を示す例では軸捻転を伴っていることが多く、血便、腹部膨満、ショックがみられれば壊死が進行している可能性が高い。緊急手術の対象となる。
- ×d. 上部消化管内視鏡検査で診断する。
内視鏡は粘膜面を観察する検査であり、腸管の走行・位置の異常を評価することは難しい。診断の基本は上部消化管造影で、十二指腸空腸曲が脊柱の右側・幽門より低い位置にあること、軸捻転時は十二指腸がらせん状に走行する所見(corkscrew sign)や途絶像を確認する。注腸造影では盲腸の高位を示す。超音波検査では上腸間膜静脈がSMAの左側(正常は右側)に位置する逆転や、軸捻転時にSMAの周りを腸間膜・上腸間膜静脈が渦巻く所見(whirlpool sign)が有用である。
- ×e. 腸管壁内神経細胞の異常で発症する。
腸管壁内神経節細胞(Auerbach神経叢・Meissner神経叢)が肛門側から連続して欠如する疾患はHirschsprung病である。腸回転異常症は発生過程での腸管の回転・固定の異常によるもので、神経細胞の異常は関係しない。
腸回転異常症の臨床像
・症状を示す例の多くは新生児期(特に生後1か月以内)に発症するが、年長児や成人で間欠的腹痛・嘔吐として見つかることもある。 ・先天性横隔膜ヘルニア、腹壁破裂、臍帯ヘルニア、内臓錯位症候群などに合併しやすい。 ・中腸軸捻転を起こしても初期には腹部所見が乏しいことがあり、「腹部が平坦な新生児の胆汁性嘔吐」でも軸捻転を否定してはならない。 ・腹部単純X線では、十二指腸閉塞による胃と十二指腸球部の拡張(double bubble sign)とその先のガス減少がみられることがあるが、正常像のこともある。
新生児・乳児の嘔吐の鑑別(閉塞部位と嘔吐の性状)
・無胆汁性:肥厚性幽門狭窄症(生後2〜3週頃からの噴水状嘔吐、低Cl性代謝性アルカローシス)、食道閉鎖症(泡沫状の唾液流出、嘔吐以前の哺乳困難)。 ・胆汁性:十二指腸閉鎖・狭窄(Vater乳頭より遠位の場合、Down症候群に合併が多い)、腸回転異常症・中腸軸捻転、小腸閉鎖、胎便性イレウス、Hirschsprung病。
類似疾患との整理
・腸重積症:乳幼児(生後4か月〜2歳頃)、間欠的啼泣、イチゴゼリー状血便、右上腹部腫瘤。発症早期は高圧浣腸(注腸整復)が第一選択。 ・Hirschsprung病:壁内神経節細胞の先天的欠如。胎便排泄遅延、腹部膨満。直腸粘膜生検でアセチルコリンエステラーゼ陽性神経線維の増生、直腸肛門反射の欠如。
POINT
・腸回転異常症=中腸の回転・固定の異常。Ladd靱帯による十二指腸圧迫と、腸間膜根部の狭さによる中腸軸捻転が問題となる。 ・嘔吐は胆汁性。中腸軸捻転は広範な腸管壊死をきたす外科的緊急症。 ・診断は上部消化管造影(十二指腸空腸曲の位置異常、corkscrew sign)とドプラ超音波(SMA・SMVの位置逆転、whirlpool sign)。 ・治療はLadd手術。注腸整復は腸重積症、壁内神経節細胞の欠如はHirschsprung病。
