StudyMed医師国家試験

新生児の緑色の嘔吐は待ったなし―腸回転異常症と中腸軸捻転の怖さ

第104回医師国家試験 D問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第10問

腸回転異常症について正しいのはどれか。

  1. a.注腸整復術が有用である。
  2. b.無胆汁性嘔吐で発症する。
  3. c.腸管の絞扼を起こす危険がある。
  4. d.上部消化管内視鏡検査で診断する。
  5. e.腸管壁内神経細胞の異常で発症する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腸回転異常症の基本を問う問題だ。ポイントは「胎生期に腸がどう回転して固定されるか」という発生学から病態を理解すること。そこがわかれば、嘔吐の性状も、何が危険なのかも、診断・治療も自然に導ける。まず、この病気がどうやって起こるか覚えているかな。
医学生医学生
発生学の講義で、腸が一度臍帯の中に飛び出してから戻ってくると習いました。その戻り方がうまくいかない病気ですよね。
ドクタードクター
その通り。中腸、つまり十二指腸の途中から横行結腸の中ほどまでの腸管は、胎生期にいったん臍帯内へ脱出する。これが生理的臍帯ヘルニアだ。そこから上腸間膜動脈を軸に反時計回りに合計270度回転しながら腹腔内に戻り、後腹膜に固定される。この回転と固定が不完全に終わったのが腸回転異常症なんだ。
医学生医学生
回転が足りないと、具体的に何が困るんでしょうか。
ドクタードクター
大きく2つある。ひとつは、盲腸が右下腹部まで降りてこず右上腹部にとどまり、そこから右側腹壁へ走る異常な索状物、Ladd靱帯が十二指腸の前を横切って圧迫すること。もうひとつがもっと重要で、腸間膜の付け根がとても短く狭くなるため、中腸全体が上腸間膜動脈を軸にくるっとねじれやすい。これを中腸軸捻転という。
医学生医学生
ねじれると、上腸間膜動脈の血流も止まってしまいますよね。小腸ほぼ全部が虚血になるということですか。
ドクタードクター
まさにそこが怖いところ。上腸間膜動脈と静脈の血流が途絶えると、小腸から右側結腸までの広範な腸管が絞扼され、短時間で壊死に陥りうる。だから「腸管の絞扼を起こす危険がある」が正しい記述だ。血便、腹部膨満、ショックが出ていれば壊死が進んでいる可能性が高く、緊急手術の対象になる。
医学生医学生
嘔吐についてはどうでしょう。新生児の嘔吐というと、肥厚性幽門狭窄症の噴水状の無胆汁性嘔吐をまず思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
そこは混同しやすいね。鍵は閉塞部位とVater乳頭の位置関係だ。腸回転異常症の閉塞はLadd靱帯の圧迫にしても軸捻転にしても、乳頭より肛門側の十二指腸で起こる。だから胆汁が混ざった緑色の胆汁性嘔吐になる。無胆汁性嘔吐は、幽門狭窄症のように乳頭より口側で詰まる病気の特徴なんだ。
医学生医学生
注腸整復術というのは、腸重積症の治療でしたよね。小児科の実習で、高圧浣腸で整復するのを見学しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。注腸整復は、造影剤や空気を肛門から入れて圧をかけ、はまり込んだ腸を押し戻す方法で、腸重積症の発症早期の第一選択だ。一方、腸回転異常症は回転と固定の異常という解剖学的な構造の問題なので、注腸では治せない。治療はLadd手術で、捻転を解除し、Ladd靱帯を切離して、腸間膜根部を広げ、虫垂も切除する。
医学生医学生
診断は内視鏡で見ればわかりそうな気がしたのですが、違うんですね。
ドクタードクター
内視鏡は粘膜の表面を見る検査だから、腸管がどこを走っているか、位置がずれているかを評価するのは難しい。診断の基本は上部消化管造影だ。十二指腸空腸曲、つまりTreitz靱帯の位置が脊柱の左側まで来ずに右側にとどまっていること、軸捻転があれば十二指腸がらせん状に走るcorkscrew signや途絶像が見られる。
医学生医学生
超音波でも何か所見がありましたよね。CBTの問題で見たwhirlpool signでしょうか。
ドクタードクター
その通り。ドプラ超音波で、軸捻転のときに上腸間膜動脈の周りを腸間膜と上腸間膜静脈が渦巻くのがwhirlpool signだ。捻転がなくても、本来は動脈の右にある上腸間膜静脈が左に位置する逆転が手がかりになる。非侵襲的でベッドサイドでできるのが利点だね。
医学生医学生
残る腸管壁内の神経細胞の異常というのは、Hirschsprung病の話ですね。
ドクタードクター
正解。Hirschsprung病は腸管壁内のAuerbach神経叢やMeissner神経叢の神経節細胞が、肛門側から連続して欠如する病気で、胎便排泄遅延や腹部膨満で見つかる。腸回転異常症とは成り立ちがまったく違う。
医学生医学生
発生の段階で何が起きたかを押さえれば、それぞれの病気をきちんと区別できるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。臨床での注意点も押さえておこう。中腸軸捻転は初期には腹部所見が乏しいことがあり、お腹が平坦だからといって否定してはいけない。腹部単純X線も、十二指腸閉塞によるdouble bubble signが見えることもあれば、正常に見えることもある。また先天性横隔膜ヘルニアや臍帯ヘルニア、腹壁破裂、内臓錯位症候群に合併しやすいことも覚えておきたい。
医学生医学生
新生児の胆汁性嘔吐を見たら、所見が軽くても中腸軸捻転を疑ってすぐ造影や超音波を考える、ということですね。
ドクタードクター
その姿勢が子どもの腸を救う。年長児や成人で、繰り返す腹痛や嘔吐から見つかる例もあるから、小児外科だけの病気と思わないことも大切だよ。

まとめ

腸回転異常症は、胎生期に中腸が上腸間膜動脈を軸に270度回転して後腹膜に固定される過程が不完全に終わった先天異常で、Ladd靱帯による十二指腸の圧迫と、狭い腸間膜根部による中腸軸捻転が問題となります。閉塞はVater乳頭より肛門側で起こるため嘔吐は胆汁性となり、軸捻転では上腸間膜動静脈の血流が途絶えて広範な腸管が絞扼・壊死に陥りうる外科的緊急症です。診断は上部消化管造影での十二指腸空腸曲の位置異常やcorkscrew sign、ドプラ超音波でのwhirlpool signや上腸間膜動静脈の位置逆転が有用で、治療はLadd手術です。注腸整復は腸重積症、壁内神経節細胞の欠如はHirschsprung病、無胆汁性嘔吐は肥厚性幽門狭窄症の特徴であり、閉塞部位と発生学から整理すると新生児の嘔吐の鑑別が確実になります。新生児の胆汁性嘔吐を見たら、腹部所見が乏しくても中腸軸捻転を疑って迅速に評価することが臨床で最も大切です。

解答・解説

正解はcです

問われていること

腸回転異常症の病態・症状・診断・治療の基本を問う一般問題である。

病態の要点

胎生期、中腸(十二指腸下行部の途中から横行結腸の中央付近までにあたる腸管)はいったん臍帯内へ脱出(生理的臍帯ヘルニア)し、上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)を軸として反時計回りに合計270度回転しながら腹腔内に戻り、後腹膜に固定される。この回転と固定が不完全に終わった状態が腸回転異常症である。 その結果、 ・十二指腸空腸曲(Treitz靱帯の位置)が正常の脊柱左側まで達せず、脊柱の右側にとどまる。 ・盲腸が右下腹部まで下降せず、右上腹部付近にとどまり、盲腸・上行結腸から右側腹壁へ走る異常な腹膜索(Ladd靱帯)が十二指腸の前を横切って圧迫する。 ・腸間膜の付着部(根部)が極端に短く狭いため、中腸全体がSMAを軸にねじれやすい(中腸軸捻転)。

臨床像と設問への考え方

閉塞部位はVater乳頭より肛門側の十二指腸であるため、嘔吐は胆汁性(緑色)となる。中腸軸捻転を起こすとSMAの血流が途絶え、小腸から右側結腸までの広範な腸管が絞扼・壊死に陥りうる。これは短時間で致命的となる外科的緊急事態であり、新生児・乳児の胆汁性嘔吐をみたら常に念頭に置く。 以上から、「腸管の絞扼を起こす危険がある」が正しい記述となる。

選択肢考察

  1. ×a.  注腸整復術が有用である。

    注腸整復術(造影剤や空気を肛門から注入して圧をかけ整復する方法)は腸重積症の非観血的治療である。腸回転異常症は回転・固定の異常という解剖学的構造の問題であり、注腸で整復することはできない。治療は手術(Ladd手術:捻転の解除、Ladd靱帯の切離、腸間膜根部の開大、虫垂切除)である。注腸造影は盲腸の位置異常を示す補助診断には用いられる。

  2. ×b.  無胆汁性嘔吐で発症する。

    Ladd靱帯による十二指腸の圧迫や中腸軸捻転による閉塞は、胆汁が流入するVater乳頭より肛門側で起こるため、嘔吐は胆汁性となる。無胆汁性嘔吐は、閉塞部位が乳頭より口側にある肥厚性幽門狭窄症などの特徴である。

  3. ○c.  腸管の絞扼を起こす危険がある。

    腸間膜根部が狭いため、中腸がSMAを軸に捻転(中腸軸捻転)しやすい。捻転によってSMAと上腸間膜静脈の血流が障害されると、中腸由来の広範な腸管が絞扼され、短時間で壊死に至る。特に新生児期に症状を示す例では軸捻転を伴っていることが多く、血便、腹部膨満、ショックがみられれば壊死が進行している可能性が高い。緊急手術の対象となる。

  4. ×d.  上部消化管内視鏡検査で診断する。

    内視鏡は粘膜面を観察する検査であり、腸管の走行・位置の異常を評価することは難しい。診断の基本は上部消化管造影で、十二指腸空腸曲が脊柱の右側・幽門より低い位置にあること、軸捻転時は十二指腸がらせん状に走行する所見(corkscrew sign)や途絶像を確認する。注腸造影では盲腸の高位を示す。超音波検査では上腸間膜静脈がSMAの左側(正常は右側)に位置する逆転や、軸捻転時にSMAの周りを腸間膜・上腸間膜静脈が渦巻く所見(whirlpool sign)が有用である。

  5. ×e.  腸管壁内神経細胞の異常で発症する。

    腸管壁内神経節細胞(Auerbach神経叢・Meissner神経叢)が肛門側から連続して欠如する疾患はHirschsprung病である。腸回転異常症は発生過程での腸管の回転・固定の異常によるもので、神経細胞の異常は関係しない。

腸回転異常症の臨床像

・症状を示す例の多くは新生児期(特に生後1か月以内)に発症するが、年長児や成人で間欠的腹痛・嘔吐として見つかることもある。 ・先天性横隔膜ヘルニア、腹壁破裂、臍帯ヘルニア、内臓錯位症候群などに合併しやすい。 ・中腸軸捻転を起こしても初期には腹部所見が乏しいことがあり、「腹部が平坦な新生児の胆汁性嘔吐」でも軸捻転を否定してはならない。 ・腹部単純X線では、十二指腸閉塞による胃と十二指腸球部の拡張(double bubble sign)とその先のガス減少がみられることがあるが、正常像のこともある。

新生児・乳児の嘔吐の鑑別(閉塞部位と嘔吐の性状)

・無胆汁性:肥厚性幽門狭窄症(生後2〜3週頃からの噴水状嘔吐、低Cl性代謝性アルカローシス)、食道閉鎖症(泡沫状の唾液流出、嘔吐以前の哺乳困難)。 ・胆汁性:十二指腸閉鎖・狭窄(Vater乳頭より遠位の場合、Down症候群に合併が多い)、腸回転異常症・中腸軸捻転、小腸閉鎖、胎便性イレウス、Hirschsprung病。

類似疾患との整理

・腸重積症:乳幼児(生後4か月〜2歳頃)、間欠的啼泣、イチゴゼリー状血便、右上腹部腫瘤。発症早期は高圧浣腸(注腸整復)が第一選択。 ・Hirschsprung病:壁内神経節細胞の先天的欠如。胎便排泄遅延、腹部膨満。直腸粘膜生検でアセチルコリンエステラーゼ陽性神経線維の増生、直腸肛門反射の欠如。

POINT

・腸回転異常症=中腸の回転・固定の異常。Ladd靱帯による十二指腸圧迫と、腸間膜根部の狭さによる中腸軸捻転が問題となる。 ・嘔吐は胆汁性。中腸軸捻転は広範な腸管壊死をきたす外科的緊急症。 ・診断は上部消化管造影(十二指腸空腸曲の位置異常、corkscrew sign)とドプラ超音波(SMA・SMVの位置逆転、whirlpool sign)。 ・治療はLadd手術。注腸整復は腸重積症、壁内神経節細胞の欠如はHirschsprung病。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。