黒緑色の最初の便―胎便が教える新生児の健康と危険信号
第104回医師国家試験 B問題 第29問
国試問題にチャレンジ
胎便について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.暗緑色である。
- b.大腸菌が含まれている。
- c.羊水中に含まれている。
- d.胎児の肺にとって有害である。
- e.生後3日を過ぎてから排泄される。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎便は胎児が飲み込んだ羊水成分や腸管上皮、胆汁色素からなる暗緑色・粘稠・無臭の便で、古典的には無菌とされ、通常は生後24時間以内、遅くとも48時間以内に排泄されます。正常では胎内で排泄されず、羊水中に胎便が混じる羊水混濁は胎児機能不全や過期産を示唆する異常所見です。混濁羊水を吸引すると、気道閉塞、化学性肺炎、サーファクタント不活化、新生児遷延性肺高血圧症などにより胎便吸引症候群という重い呼吸障害をきたすため、胎便は胎児の肺にとって有害です。一方、生後48時間を過ぎても胎便が出なければHirschsprung病や胎便性イレウスなどの消化管疾患を疑います。胎便の性状と排泄のタイミングを理解することは、新生児の異常を早期に見抜くための基本となります。
解答・解説
正解はa, dです
本問は、新生児が最初に排泄する便である胎便(メコニウム)の性状と、その臨床的意義を問う問題である。
胎便とは
胎便は、胎児期に腸管内にたまった内容物からなる便である。主な成分は、胎児が飲み込んだ羊水、羊水中に含まれていた脱落した皮膚の上皮細胞・胎毛(うぶ毛)・胎脂、腸管から剝がれた上皮細胞や粘液、そして胆汁色素などである。胆汁色素を含むため暗緑色(黒っぽい緑色)を呈し、粘り気が強く、においはほとんどない。胎内では腸内細菌が定着していないため、古典的には無菌とされる。
排泄の時期
通常、胎便は出生後24時間以内に初めて排泄され、48時間以内にはほぼすべての正期産児で排泄がみられる。哺乳が進むと、生後3〜4日ごろに胎便と乳便が混ざった移行便となり、その後黄色の乳便へと変わっていく。
胎内で排泄された場合
胎児は通常、子宮内で胎便を排泄しない。しかし低酸素などのストレス(胎児機能不全)が加わると、腸管の蠕動が亢進し肛門括約筋がゆるむことで、羊水中に胎便が出てしまうことがある(羊水混濁)。過期産の児でもみられやすい。混濁した羊水を胎児が出生前後に深く吸い込むと、気道の閉塞や肺の炎症を起こし、胎便吸引症候群という重い呼吸障害をきたす。 これらを踏まえると、胎便の性状(暗緑色)と、肺に対する有害性の2点が正しい記述となる。
選択肢考察
- ○a. 暗緑色である。
正しい。胎便には胆汁色素(ビリルビンやビリベルジンなど)が含まれるため、暗緑色から黒緑色を呈する。性状はタール状で粘稠であり、ほぼ無臭である。哺乳開始後は移行便を経て、黄色の乳便へと色調が変わる。
- ×b. 大腸菌が含まれている。
誤り。胎児の腸管は子宮内で外界の細菌にさらされていないため、胎便は原則として無菌であるとされる。大腸菌をはじめとする腸内細菌は、出生時の産道通過や出生後の環境・哺乳を通じて新生児の腸管に定着していく。
- ×c. 羊水中に含まれている。
誤り。正常な状態では胎児は子宮内で胎便を排泄しないため、羊水中に胎便は含まれず、羊水は淡黄色〜ほぼ透明である。羊水中に胎便が混じる(胎便による羊水混濁)のは、低酸素などによる胎児機能不全や過期産などでみられる所見であり、正常ではない。羊水混濁を認めた場合は胎児の状態の悪化や、出生後の胎便吸引症候群に注意する必要がある。
- ○d. 胎児の肺にとって有害である。
正しい。羊水中に排泄された胎便を、胎児が出生前の喘ぎ呼吸(低酸素時の深い呼吸様運動)や出生直後の第一呼吸で吸い込むと、胎便吸引症候群(MAS:meconium aspiration syndrome)を起こす。粘稠な胎便による気道の閉塞(完全閉塞では無気肺、部分閉塞ではチェックバルブ機構による過膨張や気胸)、胆汁酸などによる化学性肺炎、肺サーファクタントの不活化が生じ、重症例では新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を合併して著しい低酸素血症に陥る。
- ×e. 生後3日を過ぎてから排泄される。
誤り。胎便は通常、生後24時間以内に初めて排泄され、遅くとも48時間以内にはほぼすべての正期産児で排泄される。生後3日を過ぎてから排泄されるのは遅すぎであり、生後48時間を過ぎても胎便の排泄がない場合は、Hirschsprung病(ヒルシュスプルング病:腸管の神経節細胞が先天的に欠如する疾患)、胎便性イレウス、胎便栓症候群、鎖肛などの消化管の異常を疑って精査する。なお生後3〜4日ごろは、胎便から乳便への移行便がみられる時期である。
新生児の便の変化
・胎便:生後1〜2日。暗緑色、粘稠、無臭。 ・移行便:生後3〜4日ごろ。胎便と乳便が混ざった緑褐色〜黄緑色の便。 ・乳便:その後。母乳栄養児では黄色で酸臭のある軟便となる。
胎便排泄の遅延をきたす主な疾患
・Hirschsprung病:腸管壁内の神経節細胞が欠如し、その部分が動かないため機能的な通過障害を起こす。胎便排泄遅延、腹部膨満、胆汁性嘔吐が特徴である。 ・胎便性イレウス:粘稠な胎便が回腸末端に詰まる。欧米では嚢胞性線維症に合併することが多い。 ・胎便栓症候群:胎便が栓のように結腸を塞ぐ。浣腸などで排出されると改善することが多い。 ・鎖肛(直腸肛門奇形):肛門の位置や開口の異常があり、出生時の診察で発見される。
胎便吸引症候群(MAS)の要点
・背景:胎児機能不全、過期産、正期産〜過期産の児に多い。早産児ではまれである。 ・病態:気道閉塞(無気肺・過膨張・気胸)、化学性肺炎、サーファクタントの不活化、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)。 ・胸部エックス線:両肺の斑状・索状の陰影と、部分的な過膨張が混在する。 ・治療:酸素投与、人工呼吸管理、サーファクタント補充、PPHNに対する一酸化窒素(NO)吸入療法、重症例では体外式膜型人工肺(ECMO)など。 ・出生時の対応:かつては羊水混濁のある児に対し、元気がなければ全例で気管挿管して気管内吸引を行うことが推奨されていた。現在の新生児蘇生法ではこれをルーチンには行わず、通常の蘇生手順に沿って速やかに有効な換気を開始することが重視されている(気道が胎便で閉塞している場合には吸引を行う)。
POINT
・胎便は胆汁色素を含む暗緑色・粘稠・無臭の便で、原則として無菌である。 ・胎便は生後24時間以内に初回排泄され、48時間以内にはほぼ全例で排泄される。48時間を過ぎても出なければHirschsprung病などを疑う。 ・羊水中の胎便(羊水混濁)は正常ではなく、胎児機能不全や過期産を示唆する。 ・胎便を吸引すると胎便吸引症候群を起こし、気道閉塞・化学性肺炎・サーファクタント不活化・PPHNにより重い呼吸障害となる。
