血中濃度を測るべき薬はどれ?―TDMの対象を見抜く4つの条件
第104回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
治療薬物モニタリング〈TDM〉を行うのはどれか。3つ選べ。
- a.ヘパリン
- b.テオフィリン
- c.シクロスポリン
- d.バンコマイシン
- e.副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
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ドクターまとめ
治療薬物モニタリング(TDM)は、血中濃度を測定して患者ごとに投与量を調節する方法で、安全域が狭い、体内動態の個人差が大きい、濃度と効果・副作用が相関する、効果を直接評価しにくい、といった条件を満たす薬が対象となります。テオフィリン、シクロスポリン、バンコマイシンはいずれも代表的なTDM対象薬で、代謝酵素や腎機能、併用薬の影響を受けて濃度が変動しやすい点が共通しています。一方、ヘパリンはAPTT、ワルファリンはPT-INRで効果を直接評価でき、副腎皮質ステロイドは臨床効果と投与量・期間で管理するため、通常TDMは行いません。ほかにジゴキシン、抗てんかん薬、抗不整脈薬、アミノグリコシド系抗菌薬、炭酸リチウムなども対象で、採血は定常状態でのトラフ値を基本とします。対象薬を条件から理解しておくことは、多剤併用や腎機能低下の患者を安全に診療するための基礎になります。
解答・解説
正解はb, c, dです
本問は、治療薬物モニタリング(TDM:therapeutic drug monitoring)の対象となる薬剤を選ぶ一般問題である。
TDMとは
TDMとは、薬物の血中濃度を測定し、その値と薬物動態の知識をもとに、患者ごとに投与量や投与間隔を調節する方法である。同じ量を投与しても、年齢、体重、肝・腎機能、薬物代謝酵素の遺伝的な違い(遺伝子多型)、併用薬との相互作用などによって、血中濃度は患者ごとに大きく異なる。
TDMが必要となる薬物の条件
1. 有効血中濃度域(治療域)が狭く、中毒域と近い(安全域が狭い) 2. 体内動態の個人差が大きく、投与量から血中濃度を予測しにくい 3. 血中濃度と効果・副作用との間に相関がある 4. 効果を臨床所見や簡便な検査で直接評価しにくい このほか、服薬アドヒアランス(患者が指示どおり服薬しているか)の確認や、中毒が疑われる場合の診断にも用いられる。
判断の考え方
選択肢の中では、テオフィリン(気管支拡張薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、バンコマイシン(グリコペプチド系抗菌薬)が上記の条件を満たす。これらは代表的なTDM対象薬である。一方、ヘパリンは血中濃度ではなく凝固検査(APTT)で効果を評価する。副腎皮質ステロイドは臨床効果と投与量・投与期間で管理し、通常TDMは行わない。
選択肢考察
- ×a. ヘパリン
TDMの対象ではない。未分画ヘパリンは、アンチトロンビンと結合してトロンビンや活性化第X因子(Xa)の働きを阻害し、抗凝固作用を示す。効果の判定と投与量調節は、血中濃度の測定ではなく、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)で行う。一般に対照値の1.5〜2.5倍程度を目標とする。このように、薬の効果そのものを凝固検査で直接測れるため、TDMの対象とはならない。同様に、ワルファリンの効果はプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)で評価する。なお、低分子ヘパリンなどで抗Xa活性を測定することがあるが、これも凝固活性の指標である。
- ○b. テオフィリン
TDMを行う。テオフィリンは気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に用いられるキサンチン系の気管支拡張薬である。有効血中濃度域と中毒域が接近している(現在の喘息治療では5〜15μg/mL程度が目安とされ、20μg/mLを超えると中毒症状が出やすい)。主に肝臓の薬物代謝酵素CYP1A2で代謝される。そのため、喫煙(代謝が促進されて濃度が低下する)、発熱、肝障害、心不全、併用薬(マクロライド系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、シメチジンなどで濃度が上昇する)の影響を受けやすく、個人差も大きい。中毒症状は悪心・嘔吐、頻脈、不整脈、けいれんなどである。特に小児のけいれんには注意が必要である。
- ○c. シクロスポリン
TDMを行う。シクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、T細胞の活性化(IL-2産生)を抑える免疫抑制薬である。臓器移植後の拒絶反応の予防、ネフローゼ症候群、再生不良性貧血、ベーチェット病、乾癬などに用いられる。血中濃度が低いと拒絶反応や効果不十分を招き、高いと腎障害、高血圧、振戦、歯肉増殖、多毛などの副作用が出る。つまり治療域が狭い薬である。また、吸収のばらつきが大きく、CYP3A4で代謝されるため、グレープフルーツジュースや多くの併用薬(アゾール系抗真菌薬、マクロライド系抗菌薬、リファンピシンなど)の影響を受けやすい。このため、トラフ値(次回投与直前の最低血中濃度)や投与2時間後値(C2)を測定して投与量を調節する。同じカルシニューリン阻害薬のタクロリムスもTDMの対象である。
- ○d. バンコマイシン
TDMを行う。バンコマイシンはグリコペプチド系抗菌薬であり、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症などに用いられる。ほぼ腎臓から排泄されるため、腎機能によって血中濃度が大きく変わる。高濃度では腎障害(急性腎障害)や聴覚障害の危険がある。一方で濃度が不十分だと治療が失敗し、耐性化も招く。このため、血中濃度を測定して投与設計を行う。従来はトラフ値を指標としていたが、現在は腎障害を減らしつつ効果を確保するため、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)を指標とする投与設計が推奨されている(目標AUCは400〜600μg・h/mL程度)。同様にアミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン、アミカシンなど)やテイコプラニン、ボリコナゾールなどの抗真菌薬もTDMの対象である。
- ×e. 副腎皮質ステロイド
通常TDMは行わない。副腎皮質ステロイドは、臨床症状や検査所見(炎症反応、疾患活動性の指標など)で効果を評価し、投与量を調節する。副作用(感染症、糖尿病、骨粗鬆症、消化性潰瘍など)は、血中濃度よりも1日投与量と投与期間の長さに関連する。そのため、副作用対策は投与量・期間を最小限にし、予防薬を併用するなどして行う。日常診療で血中濃度を測定して投与量を決める薬ではない。
TDMの主な対象薬(まとめ)
・抗菌薬:バンコマイシン、テイコプラニン(グリコペプチド系)、ゲンタマイシン・アミカシン・トブラマイシン(アミノグリコシド系) ・抗真菌薬:ボリコナゾール ・強心配糖体:ジゴキシン(中毒で悪心・嘔吐、視覚異常、各種不整脈を生じる。低カリウム血症で中毒が起こりやすくなる) ・抗てんかん薬:フェニトイン(投与量と血中濃度が比例しない非線形の体内動態を示す)、カルバマゼピン、バルプロ酸、フェノバルビタールなど ・抗不整脈薬:リドカイン、ジソピラミド、メキシレチン、アミオダロンなど ・免疫抑制薬:シクロスポリン、タクロリムス、エベロリムスなど ・気管支拡張薬:テオフィリン ・躁病・双極性障害の治療薬:炭酸リチウム(中毒で振戦、意識障害、腎障害を生じる。NSAIDsや利尿薬の併用で血中濃度が上昇する) ・抗悪性腫瘍薬:メトトレキサート大量療法(ロイコボリン救援療法の期間を決めるために血中濃度を測定する)
採血のタイミング
・トラフ値:次回投与直前の最低濃度であり、多くの薬で基本となる指標である。 ・ピーク値:投与後の最高濃度であり、アミノグリコシド系などで効果の指標となる。 ・定常状態:同じ投与を続けると、半減期のおよそ4〜5倍の時間で血中濃度が一定になる。TDMは原則としてこの定常状態に達してから行う。
効果を別の指標で評価する薬(TDMの代わり)
・ヘパリン → APTT ・ワルファリン → PT-INR ・降圧薬 → 血圧 ・血糖降下薬 → 血糖値、HbA1c
POINT
・TDMの対象は、治療域が狭く中毒域と近い薬、体内動態の個人差が大きい薬である。 ・代表的な対象薬:抗菌薬(バンコマイシン、アミノグリコシド系)、ジゴキシン、抗てんかん薬、抗不整脈薬、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス)、テオフィリン、炭酸リチウム。 ・ヘパリンはAPTT、ワルファリンはPT-INRで効果を判定し、TDMは行わない。 ・副腎皮質ステロイドは通常TDMを行わない。 ・バンコマイシンは現在、AUCを指標とした投与設計が推奨されている。
