StudyMed医師国家試験

「誰の同意が必要か」を法律で読み解く―母体保護法とインフォームド・コンセントの基本

第104回医師国家試験 B問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第20問

妊娠,出産および育児について正しいのはどれか。

  1. a.帝王切開には夫の同意が必要である。
  2. b.妊娠30週の人工早産は母体保護法による。
  3. c.児の救命処置は保護者の同意が必要である。
  4. d.人工栄養の開始は保護者の同意が必要である。
  5. e.人工妊娠中絶は母体保護法による指定医師が実施する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠・出産・育児の場面での医療行為を、法律と同意の観点から整理する問題だ。着眼点は2つ。1つは母体保護法が何を、どの時期まで定めた法律なのか。もう1つは、医療行為の同意は誰が与えるもので、どんなときに例外があるのか。この2本立てで考えていこう。
医学生医学生
産婦人科の実習で帝王切開の同意書を見たとき、夫のサイン欄もありました。だから夫の同意も必要なのかと思っていました。
ドクタードクター
実際の診療では夫や家族にも説明して、署名をもらうことが多いね。でも、医療行為の同意の主体は判断能力のある本人だ。帝王切開は妊婦さん本人への手術だから、同意するのは本人。家族の同意は望ましいけれど、法的に必須ではないんだ。
医学生医学生
常位胎盤早期剝離のような緊急帝王切開で、夫が間に合わないときはどうなるんですか。
ドクタードクター
本人の同意で手術できるし、本人が意識障害などで同意できない状況なら、同意なしでも救命のために手術が行われうる。ここで混同しやすいのが、配偶者の同意が法律で求められる場面だ。それが母体保護法に基づく人工妊娠中絶と不妊手術なんだ。
医学生医学生
母体保護法は中絶の法律ですよね。妊娠30週の人工早産も、妊娠を人工的に終わらせるという意味で含まれるのでしょうか。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。母体保護法でいう人工妊娠中絶は、胎児が母体外で生命を保続できない時期、つまり現在の運用では妊娠22週未満に限られる。妊娠30週の胎児は母体外で生存できる時期にあるから、母体保護法の適用外だよ。
医学生医学生
では人工早産というのは何を指すのですか。
ドクタードクター
妊娠22週以降37週未満に、重症の妊娠高血圧症候群や胎児機能不全など母体や胎児の適応があって、分娩誘発や帝王切開で人為的に妊娠を終了し、生存可能な児を娩出させることだ。胎児の生命を絶つことが目的の中絶とは性質がまったく違い、一般の産科診療として行われる。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、22週未満が流産、22週から37週未満が早産と習いました。その区切りがそのまま法律の線引きにもなっているんですね。
ドクタードクター
その通り。では正解の記述を確認しよう。母体保護法では、人工妊娠中絶を行えるのは都道府県医師会が指定する医師、つまり母体保護法指定医師に限られる。医師免許があれば誰でもできるわけではないんだ。
医学生医学生
指定医師なら、本人が希望すればいつでも中絶できるのですか。
ドクタードクター
いや、要件がある。身体的または経済的理由で妊娠の継続や分娩が母体の健康を著しく害するおそれがある場合と、暴行や脅迫などによって妊娠した場合で、本人と配偶者の同意を得て、妊娠22週未満に行う。要件を満たさない中絶は刑法の堕胎罪の対象になる。なお、胎児の疾患や異常そのものは適応として規定されていない点も覚えておこう。
医学生医学生
配偶者が亡くなっていたり、意思表示できなかったりする場合はどうなりますか。
ドクタードクター
配偶者が知れないとき、意思を表示できないとき、妊娠後に配偶者が死亡したときは、本人の同意だけでよいとされている。次に、児の救命処置について考えよう。保護者の同意は必要かな。
医学生医学生
原則は保護者の同意だと思いますが、新生児仮死の蘇生で同意をとっている時間はなさそうです。
ドクタードクター
そうだね。生命に危険が迫っている緊急時には、同意を得る余裕がなくても救命処置を行える。さらに、保護者が信仰上の理由で輸血を拒否した場合でも、関連学会の合同委員会のガイドラインでは、15歳未満の児で輸血しなければ生命に危険が及ぶ状況なら、親権者の同意がなくても輸血する方針が示されている。
医学生医学生
小児科の講義で出てきた医療ネグレクトの話につながりますね。
ドクタードクター
よくつながったね。子どもに不可欠な医療を親が拒むことは医療ネグレクトとして児童虐待の一類型とみなされ、児童相談所の一時保護や家庭裁判所による親権停止などの手続きを経て治療を行う仕組みもある。こうした判断は医師個人ではなく、倫理委員会などと連携して組織として対応するのが望ましいよ。
医学生医学生
人工栄養の開始も同意がいらない、というのは少し意外でした。母乳育児を勧めるのが基本だと習ったので。
ドクタードクター
母乳が原則で、その利点を説明して支援するのは大切だ。でも母乳分泌が不十分なとき、母乳に移行する薬を飲んでいるとき、HTLV-1キャリアのように母子感染のリスクがあるときなどは人工栄養が必要になる。保護者には説明して理解を得るけれど、日常的な栄養管理の一部であって、手術のように法的に同意が必須の行為ではないんだ。
医学生医学生
整理すると、同意の主体は原則本人で緊急時は例外、配偶者の同意が法定されているのは中絶と不妊手術、そして中絶は22週未満に指定医師が行う、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。最後に周辺知識として、母体保護法は1948年制定の優生保護法から優生思想に基づく規定を削除して1996年に改正・改称されたもので、指定医師は実施件数などを翌月10日までに都道府県知事へ届け出る義務がある。中絶可能な時期も1990年までは24週未満だった。法律の成り立ちとあわせて覚えると忘れにくいよ。

まとめ

妊娠・出産・育児に関わる医療行為では、母体保護法の規定とインフォームド・コンセントの原則を区別して理解することが大切です。人工妊娠中絶は、都道府県医師会が指定する母体保護法指定医師だけが、所定の適応のもと本人と配偶者の同意を得て妊娠22週未満に行うことができ、要件を欠けば刑法の堕胎罪の対象となります。妊娠22週以降の人工早産は母体保護法の対象ではなく一般の産科診療であり、帝王切開などの手術の同意主体は判断能力のある本人で、夫の同意は法的に必須ではありません。生命に危険が迫る緊急時には同意なしでも救命処置を行え、保護者による児の必要な治療の拒否は医療ネグレクトとして法的手続きの対象になりえます。「誰の同意が、どの法律に基づいて必要か」を整理しておくことは、国家試験だけでなく産科・小児科の臨床で法的・倫理的に適切な判断を下す基盤になります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

妊娠・出産・育児の場面における医療行為と、法律(母体保護法)およびインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)の関係を問う問題である。

考え方

1. 母体保護法の要点を押さえる。母体保護法は不妊手術と人工妊娠中絶について定めた法律であり、人工妊娠中絶は「胎児が母体外で生命を保続できない時期」、すなわち現在の運用では妊娠22週未満に限って、都道府県医師会が指定した医師(母体保護法指定医師)が行うことができる。これ以外の中絶は刑法の堕胎罪の対象となる。 2. 同意の原則と例外を押さえる。医療行為には、判断能力のある本人の同意が原則として必要である。家族(夫など)への説明と同意取得は望ましいが、成人本人の同意に代わるものではなく、法的に必須とされるものでもない。また、生命に危険が迫り同意を得る時間的余裕がない緊急時には、同意なしでも救命処置を行うことが許される。 3. 日常的な診療の一部として行われる行為(授乳方法の選択など)は、説明は行うものの、法的に同意が必須の行為ではない。 これらを踏まえると、法律上の規定として正しく述べられているのは、人工妊娠中絶を母体保護法指定医師が実施するという記述である。

選択肢考察

  1. ×a.  帝王切開には夫の同意が必要である。

    帝王切開は妊婦本人に対する手術であり、同意の主体は判断能力のある妊婦本人である。夫や家族にも十分に説明して理解を得ることは望ましく、実際の診療でも行われるが、法的に夫の同意が必須というわけではない。特に常位胎盤早期剝離や胎児機能不全などで母児に危険が迫っている緊急帝王切開では、夫が不在であっても本人の同意だけで、さらに本人が意識障害などで同意できない状況では同意なしでも手術が行われうる。なお、夫(配偶者)の同意が法律で求められるのは、母体保護法に基づく人工妊娠中絶や不妊手術であり、帝王切開とは区別して覚える。

  2. ×b.  妊娠30週の人工早産は母体保護法による。

    母体保護法が対象とする人工妊娠中絶は、胎児が母体外で生存できない時期、すなわち妊娠22週未満に限られる。妊娠30週では胎児はすでに母体外で生存可能な時期にあるため、母体保護法の適用外である。人工早産とは、妊娠22週以降37週未満に、妊娠高血圧症候群の重症化や胎児機能不全など母体または胎児の適応があって、分娩誘発や帝王切開により人為的に妊娠を終了させ、生存可能な児を娩出させることを指し、胎児の生命を絶つことを目的とする人工妊娠中絶とは性質が異なる。これは一般の産科診療として行われる医療行為である。

  3. ×c.  児の救命処置は保護者の同意が必要である。

    生命に危険が迫っている緊急時には、保護者の同意を得る時間的余裕がなくても救命処置を行うことができる。新生児仮死に対する蘇生などはその典型である。また、保護者が信仰上の理由などで児への輸血を拒否した場合についても、関連学会の合同委員会による宗教的輸血拒否に関するガイドライン(2008年)では、15歳未満の児で、輸血をしなければ生命に危険が及ぶ状況では、親権者の同意が得られなくても輸血を行う方針が示されている。子どもの生命・健康に不可欠な医療を親が拒むことは医療ネグレクト(児童虐待の一類型)とみなされ、児童相談所による一時保護や、家庭裁判所による親権停止などの法的手続きを経て治療を行う仕組みも整備されている。

  4. ×d.  人工栄養の開始は保護者の同意が必要である。

    新生児・乳児の栄養は母乳を原則とし、その利点を保護者に説明して母乳育児を支援するのが基本である。しかし、母乳分泌が不十分な場合、母親が母乳移行する薬剤を服用している場合、母子感染のリスクがある場合(HTLV-1〈ヒトT細胞白血病ウイルス1型〉キャリアなど)などでは人工栄養(育児用ミルク)が必要となる。その際は保護者に説明して理解を得るが、人工栄養の開始は日常的な栄養管理の一部であり、手術などのように法的に同意が必須とされる医療行為ではない。また、児に必要な栄養を与えないことを保護者が選択することは、医療ネグレクトとして問題となりうる。

  5. ○e.  人工妊娠中絶は母体保護法による指定医師が実施する。

    母体保護法第14条により、人工妊娠中絶を行うことができるのは、都道府県の医師会が指定する医師(母体保護法指定医師)に限られる。医師免許があれば誰でも行えるわけではない。指定医師は、①妊娠の継続や分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合、②暴行もしくは脅迫によって、または抵抗・拒絶できない間に姦淫されて妊娠した場合に、本人および配偶者の同意を得て中絶を行うことができる。実施できる時期は妊娠22週未満である。これらの要件を満たさずに行われた中絶は、刑法の堕胎罪(業務上堕胎罪など)で処罰の対象となる。

母体保護法の概要

・1948年制定の優生保護法が、優生思想に基づく規定を削除して1996年に改正・改称されたものである。 ・不妊手術と人工妊娠中絶について定めている。 ・人工妊娠中絶の定義: 胎児が母体外において生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児およびその付属物を母体外に排出すること。この時期は現在、厚生労働省の通知により妊娠22週未満とされている(1990年までは24週未満とされていた)。 ・実施者: 都道府県医師会が指定する医師(母体保護法指定医師)。 ・適応: 身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるもの、暴行・脅迫などによる妊娠。胎児の疾患や異常そのものは適応として規定されていない。 ・同意: 本人および配偶者の同意が必要である。ただし、配偶者が知れないとき、意思を表示できないとき、妊娠後に配偶者が死亡したときは本人の同意だけでよい。 ・届出: 指定医師は、実施した不妊手術・人工妊娠中絶の件数などを、翌月10日までに理由を記して都道府県知事に届け出る。

妊娠週数と用語の整理

・妊娠22週未満の妊娠終了: 流産(自然流産・人工流産=人工妊娠中絶) ・妊娠22週以降37週未満の分娩: 早産(人為的に行うものが人工早産) ・妊娠37週以降42週未満: 正期産、42週以降: 過期産

小児・未成年者の医療と同意

・一般に15歳以上で医療について判断能力があれば、本人の意思が尊重される。 ・15歳未満や判断能力を欠く場合は親権者が代わって同意するが、親権者が児の生命に不可欠な治療を拒否する場合は医療ネグレクトとして扱われ、児童相談所への通告・一時保護、家庭裁判所による親権停止(2011年の民法改正で新設)などの手続きを経て治療を行う。 ・このような判断は医師個人で行わず、施設の倫理委員会などと連携して組織として対応することが望ましい。

POINT

・人工妊娠中絶は母体保護法指定医師(都道府県医師会が指定)のみが実施でき、時期は妊娠22週未満。 ・人工妊娠中絶には本人および配偶者の同意が必要(配偶者の同意が法定されているのは中絶・不妊手術)。 ・妊娠22週以降の妊娠終了(人工早産)は母体保護法の対象ではない。 ・帝王切開を含む手術の同意主体は本人であり、緊急時には同意なしでも救命処置を行える。 ・保護者による児の必要な治療の拒否は医療ネグレクト(児童虐待)となりうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。