降圧薬が効かない高血圧、お腹の雑音が教えるホルモンの乱れ―腎血管性高血圧と二次性アルドステロン症
第104回医師国家試験 A問題 第24問
国試問題にチャレンジ
62歳の女性。高血圧を主訴に来院した。10年前から高血圧を指摘され,様々な降圧薬を内服したが,正常血圧の維持が困難であった。意識は清明。身長154 cm,体重40 kg。体温36.4℃。脈拍76/分,整。血圧160/96 mmHg。心尖部にⅣ音を聴取する。肝・脾を触知しない。臍周囲に血管性雑音を認める。下肢に浮腫を認めない。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液所見:赤血球416万,Hb 12.2 g/dL,Ht 32%,白血球6,800,血小板28万。血液生化学所見:血糖96 mg/dL,総蛋白7.2 g/dL,アルブミン4.6 g/dL,尿素窒素20 mg/dL,クレアチニン1.0 mg/dL,尿酸6.0 mg/dL,総コレステロール272 mg/dL,トリグリセリド160 mg/dL,Na 140 mEq/L,K 3.4 mEq/L,Cl 106 mEq/L。腹部造影CT血管写真〈腹部CTA〉を別に示す。 異常値が予測されるのはどれか。2つ選べ。

- a.TSH
- b.コルチゾール
- c.アルドステロン
- d.エストラジオール
- e.血漿レニン活性〈PRA〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
治療抵抗性の高血圧に臍周囲の血管性雑音や軽度の低カリウム血症を伴う場合は、腎動脈狭窄による腎血管性高血圧を疑います。腎灌流の低下を傍糸球体細胞が感知してレニンを過剰に分泌し、アンジオテンシンIIを介してアルドステロンも増加するため、血漿レニン活性とアルドステロンがともに高値となる二次性アルドステロン症を呈します。レニンが抑制される原発性アルドステロン症とはレニン値で区別でき、コルチゾール、TSH、エストラジオールは本病態では異常を示しません。治療ではACE阻害薬・ARBが両側腎動脈狭窄や単腎の狭窄で原則禁忌となる点に注意が必要です。レニンとアルドステロンの組み合わせで二次性高血圧を整理する考え方は、高血圧診療の基本となります。
解答・解説
正解はc, eです
所見の整理
・10年来の高血圧で、複数の降圧薬を用いても血圧のコントロールがつかない(治療抵抗性高血圧)→ 二次性高血圧を疑う契機 ・臍周囲の血管性雑音 → 腹部大動脈や腎動脈の狭窄で生じる乱流を示唆し、腎血管性高血圧を強く疑わせる所見 ・尿蛋白(-)、クレアチニン1.0 mg/dL → 腎実質性高血圧を来すほどの腎障害は明らかでない ・総コレステロール272 mg/dL、トリグリセリド160 mg/dL → 脂質異常症があり、動脈硬化の危険因子を有する ・K 3.4 mEq/L(基準値はおおむね3.5~5.0 mEq/L)→ 軽度の低カリウム血症。ミネラルコルチコイド作用の過剰を考える手がかり ・心尖部のIV音 → 長期の高血圧(圧負荷)で左室が肥大し、硬くなった左室に心房収縮で血液が流入する際に生じる ・腹部CTA → 腎動脈の起始部近くに狭窄を認める(左腎動脈)。
診断
中高年、脂質異常症を伴う治療抵抗性高血圧、腹部の血管性雑音、CTAでの腎動脈狭窄から、動脈硬化性腎動脈狭窄による腎血管性高血圧と診断する。
設問の考え方
腎動脈が狭窄すると、その腎臓の傍糸球体装置(輸入細動脈壁の傍糸球体細胞)が灌流圧の低下を感知してレニンを過剰に分泌する。レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変え、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンIIが生じる。アンジオテンシンIIは強力に血管を収縮させるとともに、副腎皮質球状層からのアルドステロン分泌を促す。アルドステロンは遠位尿細管~集合管でNa再吸収とK排泄を促進するため、循環血液量の増加と低カリウム血症を来す。 つまり腎血管性高血圧は、レニン高値・アルドステロン高値を示す「二次性アルドステロン症」の代表であり、異常値を示すと予測されるのは血漿レニン活性(PRA)とアルドステロンである。本例の軽度低カリウム血症もこの機序で説明できる。
選択肢考察
- ×a. TSH
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は甲状腺機能異常のスクリーニングに用いる。甲状腺機能亢進症では収縮期高血圧や頻脈を来しうるが、本例は脈拍76/分で甲状腺中毒症を示唆する所見はなく、腎動脈狭窄とTSHは無関係である。異常値は予測されない。
- ×b. コルチゾール
コルチゾール高値はCushing症候群で認め、高血圧や低カリウム血症の原因となる。しかし本例は身長154 cm・体重40 kgと痩せ型で、中心性肥満、満月様顔貌、高血糖などCushing症候群を示唆する所見がない。レニン-アンジオテンシン系の亢進はコルチゾール分泌に影響しないため、異常値は予測されない。
- ○c. アルドステロン
腎動脈狭窄で増加したレニンにより産生されたアンジオテンシンIIが、副腎皮質球状層を刺激してアルドステロン分泌を増やす(二次性アルドステロン症)。本例の軽度の低カリウム血症(K 3.4 mEq/L)は、アルドステロン過剰による腎からのK排泄亢進を反映していると考えられる。したがって高値が予測される。
- ×d. エストラジオール
エストラジオールは主に卵巣で産生されるエストロゲンで、62歳の閉経後女性では低値であるのが通常であり、それ自体は異常ではない。腎動脈狭窄やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系とは直接関係がなく、本例の高血圧の原因検索で異常値は予測されない。
- ○e. 血漿レニン活性〈PRA〉
腎動脈狭窄により狭窄側の腎灌流圧が低下すると、傍糸球体細胞がこれを感知してレニン分泌を増やすため、血漿レニン活性は高値となる。原発性アルドステロン症(アルドステロン高値・レニン低値)との鑑別点でもある。また、狭窄側の腎静脈血のレニン値が対側より高くなる(腎静脈レニン比の上昇)ことも、腎血管性高血圧の特徴である。
腎血管性高血圧
腎動脈の狭窄・閉塞によって腎灌流が低下し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が亢進して生じる二次性高血圧である。 ・原因:中高年では動脈硬化(腎動脈起始部の狭窄が多い)が最多。若年女性では線維筋性異形成(腎動脈の中~遠位部に「数珠状」の狭窄を示す)、若年~中年女性では高安動脈炎(大動脈炎症候群)も原因となる。 ・疑うきっかけ:治療抵抗性高血圧、急激な発症や急な増悪、腹部の血管性雑音、低カリウム血症、腎サイズの左右差(1.5 cm以上)、ACE阻害薬やARB開始後の急激な腎機能悪化、原因不明の反復する肺水腫(flash pulmonary edema)など ・検査:血漿レニン活性の上昇、アルドステロン上昇、腎動脈ドプラ超音波、CTA、MRA、腎動脈造影(確定診断)。腎静脈レニン比、カプトプリル負荷試験、カプトプリル負荷レノグラムなども用いられてきた。 ・治療:降圧薬による内科治療が基本(ACE阻害薬・ARBは有効だが、両側腎動脈狭窄や単腎の狭窄では急激な腎機能悪化を来しうるため原則禁忌)。線維筋性異形成では経皮的腎動脈形成術(PTRA)がよく効く。動脈硬化性狭窄に対するステント留置は、適応を慎重に判断する。
レニンとアルドステロンによる二次性高血圧の整理
・レニン高値・アルドステロン高値:腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧、利尿薬の使用 ・レニン低値・アルドステロン高値:原発性アルドステロン症 ・レニン低値・アルドステロン低値:Cushing症候群、Liddle症候群、甘草(グリチルリチン)による偽性アルドステロン症、11β-水酸化酵素欠損症・17α-水酸化酵素欠損症(DOCなどアルドステロン以外のミネラルコルチコイドが増加)
POINT
・腎血管性高血圧は、腎動脈狭窄 → 腎灌流低下 → レニン↑ → アンジオテンシンII↑ → アルドステロン↑ という二次性アルドステロン症である。 ・治療抵抗性高血圧、腹部の血管性雑音、低カリウム血症があれば腎血管性高血圧を疑う。 ・原発性アルドステロン症はレニン低値、腎血管性高血圧はレニン高値で区別する。 ・中高年の動脈硬化性狭窄は腎動脈起始部、若年女性の線維筋性異形成は中~遠位部に多い。 ・両側腎動脈狭窄にACE阻害薬・ARBは原則禁忌である。
