2か月前の転倒が今になって牙をむく―慢性硬膜下血腫は小さな孔で治す
第103回医師国家試験 H問題 第28問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。頭痛を主訴に来院した。2か月前に飲酒後転倒し前頭部を打撲した。2週前から頭痛があり,左手足の脱力が徐々に進行している。意識は清明。軽度の左不全片麻痺を認める。頭部単純CTを別に示す。 処置として適切なのはどれか。

- a.穿頭ドレナージ
- b.脳室ドレナージ
- c.脳槽ドレナージ
- d.膿瘍ドレナージ
- e.腰椎ドレナージ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢・飲酒・軽微な頭部外傷のあと、数週から数か月して頭痛や片麻痺、認知機能低下がゆっくり進行した場合は慢性硬膜下血腫を考えます。CTでは頭蓋骨内板に沿った三日月形の血腫を認め、吸収値は低・等・高・混合とさまざまで、等吸収では脳溝の消失や側脳室の圧排、正中偏位が見つけ出す手がかりになります。症候性の慢性硬膜下血腫は内容が液状なので、穿頭して血腫を排出・洗浄する穿頭ドレナージが標準治療であり、脳室・脳槽・腰椎ドレナージは抜く場所と目的が異なるうえ、頭蓋内占拠性病変があるときの腰椎からの髄液排出は脳ヘルニアの危険があります。高齢者では認知症様症状で発症することも多く、手術で改善しうる治療可能な認知症の代表として見逃さないことが重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・70歳の高齢男性、飲酒歴あり ・2か月前に飲酒後に転倒し前頭部を打撲(比較的軽微な頭部外傷) ・受傷後しばらく無症状で経過し、2週前から頭痛が出現 ・左上下肢の脱力が徐々に進行(亜急性に進む局所神経症状) ・意識は清明、軽度の左不全片麻痺 ・頭部単純CTで右大脳半球の表面を覆う硬膜下の血腫(頭蓋骨内板に沿った三日月形の病変で、正中構造が健側へ偏位)がみられる
診断へのプロセス
高齢・飲酒・軽微な頭部外傷という背景、受傷から数週〜数か月の無症状期を経て頭痛と片麻痺がゆっくり進行する経過は、慢性硬膜下血腫の典型である。高齢者は脳萎縮で脳表と硬膜の間が広く、架橋静脈が引き伸ばされているため軽い外力でも損傷しやすい。飲酒者は転倒しやすいうえ、肝障害による凝固能低下も加わる。左片麻痺は右大脳半球の圧迫によるもので、CTの右側の血腫と一致する。 急性硬膜下血腫や急性硬膜外血腫は受傷直後から数時間以内に症状が出るため経過が合わない。脳腫瘍や脳梗塞も片麻痺をきたすが、CTで脳表を覆う硬膜下の液体貯留がみられることから否定的である。
設問の考え方
慢性硬膜下血腫は被膜に包まれた液状の古い血液の貯留であり、症状(片麻痺・頭痛)を伴い圧迫所見がある場合は外科治療の適応となる。内容が液状であるため、頭蓋骨に小さな孔を開けて血腫を排出・洗浄する穿頭術(穿頭ドレナージ)で多くが治癒する。選択肢のドレナージは、それぞれ「どこの何を抜くのか」を整理して考えるとよい。
選択肢考察
- ○a. 穿頭ドレナージ
慢性硬膜下血腫の標準的な手術である。局所麻酔下に血腫の直上の頭蓋骨に直径1cm程度の孔(穿頭孔)を開け、硬膜と血腫外膜を切開して液状の血腫を吸引・排出し、生理食塩水などで血腫腔を洗浄したあと、必要に応じてドレーンを留置する。侵襲が小さく高齢者にも行いやすく、術後は片麻痺や頭痛が速やかに改善することが多い。本例は症状が進行しており、手術の適応がある。
- ×b. 脳室ドレナージ
脳室ドレナージは側脳室に管を留置して脳脊髄液を体外に排出する処置で、急性水頭症(くも膜下出血後や脳室内出血、後頭蓋窩病変による閉塞性水頭症など)で頭蓋内圧を下げる目的で行う。本例の病変は脳の外側の硬膜下腔にある血腫であり、脳室から髄液を抜いても血腫は除去できない。
- ×c. 脳槽ドレナージ
脳槽ドレナージは主にくも膜下出血に対する脳動脈瘤の開頭クリッピング術の際に脳槽へ管を留置し、くも膜下腔の血液を含む髄液を排出して脳血管攣縮を予防する目的で行う。くも膜下腔は硬膜下腔とは別の区画であり、慢性硬膜下血腫の治療にはならない。
- ×d. 膿瘍ドレナージ
膿瘍ドレナージは脳膿瘍や硬膜下膿瘍など膿の貯留に対して行う処置である。本例は発熱や感染を示唆する所見がなく、外傷後の経過とCT所見から血腫と考えられるため該当しない。
- ×e. 腰椎ドレナージ
腰椎ドレナージは腰椎くも膜下腔にカテーテルを入れて髄液を持続的に排出する処置で、髄液漏の治療やくも膜下出血後の血液の排出などに用いられる。硬膜下血腫は除去できないうえ、本例のようにテント上の占拠性病変で正中偏位がある状態で腰部から髄液を抜くと、頭蓋内と脊柱管の圧較差が大きくなり脳ヘルニアを誘発する危険がある。頭蓋内圧亢進を伴う占拠性病変では腰椎穿刺と同様に避けるべきである。
慢性硬膜下血腫の概要
・病態:頭部外傷を契機に硬膜下腔に少量の出血や髄液の貯留が生じ、そこに被膜(外膜・内膜)が形成される。外膜の脆弱な新生血管からの出血の繰り返しと、線溶系の亢進による凝固障害によって血腫が徐々に増大すると考えられている。 ・好発:高齢男性、アルコール多飲者、抗凝固薬・抗血小板薬の服用者、脳萎縮のある人、透析患者、髄液シャント術後など。 ・経過:受傷後おおむね3週〜3か月ほどで発症する。受傷自体が軽微で本人が覚えていないことも少なくない。
症状
・頭蓋内圧亢進症状:頭痛、嘔吐など。比較的若い患者で目立つ。 ・局所神経症状:片麻痺、失語、けいれんなど。 ・精神症状:認知機能低下、意欲低下、尿失禁、歩行障害など。高齢者では脳萎縮で頭蓋内に余裕があるため頭痛が目立たず、認知症様症状や歩行障害で発症することが多い。手術で改善しうる「治療可能な認知症(treatable dementia)」の代表として重要である。
CT所見
・頭蓋骨内板と脳表の間に三日月形の血腫を認める。硬膜外血腫のような両凸レンズ形ではない。硬膜下腔には縫合線による境界がないため、縫合線を越えて広がりうる。 ・血腫の吸収値は時期や再出血によってさまざまで、脳実質より低い低吸収、脳実質と同程度の等吸収、高い高吸収、それらが混じる混合型(液面形成を示す鏡面形成型を含む)に分けられる。等吸収の場合は見落としやすく、脳溝の消失や正中偏位、側脳室の圧排に注意する。 ・内部に隔壁があり多房性となることもある。両側性は約10〜20%にみられる。
治療
・無症状で小さい血腫は経過観察で自然吸収されることもある。 ・症状や圧迫所見がある場合は穿頭血腫洗浄・ドレナージ術が原則である。開頭術は、隔壁で多房化した例や再発を繰り返す例、器質化した例など特殊な場合に限られる。 ・再発率はおおむね10%前後とされる。再発予防や軽症例に対して五苓散などの薬物療法や、再発例に中硬膜動脈塞栓術が行われることがある。
各種ドレナージの整理
・穿頭ドレナージ:慢性硬膜下血腫 ・脳室ドレナージ:急性水頭症、脳室内出血 ・脳槽ドレナージ:くも膜下出血術後の血液排出(脳血管攣縮予防) ・腰椎ドレナージ:髄液漏、くも膜下出血後など(頭蓋内占拠性病変では脳ヘルニアの危険) ・膿瘍ドレナージ:脳膿瘍など
POINT
・高齢・飲酒・軽微な頭部外傷のあと、数週〜数か月して頭痛・片麻痺・認知機能低下が徐々に進行したら慢性硬膜下血腫 ・CTでは頭蓋骨内板に沿った三日月形の血腫で、吸収値は低・等・高・混合とさまざま ・症候性の慢性硬膜下血腫の治療は穿頭ドレナージ(穿頭血腫洗浄術)が原則 ・治療可能な認知症(treatable dementia)の代表 ・頭蓋内占拠性病変があるときの腰椎からの髄液排出は脳ヘルニアの危険があり避ける
