折れた骨が「元の骨」に戻るまで―血腫から皮質骨まで、骨折治癒のタイムライン
第103回医師国家試験 E問題 第68問
国試問題にチャレンジ
骨折の治癒過程で最も遅くみられるのはどれか。
- a.血腫形成
- b.皮質骨形成
- c.毛細血管新生
- d.軟骨細胞出現
- e.骨芽細胞出現
- f.間葉系細胞出現
- g.コラーゲン新生
- h.マクロファージ浸潤
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
骨折の治癒は、炎症期・修復期・リモデリング期が重なり合いながら進みます。炎症期には血腫形成とマクロファージなどの炎症細胞浸潤が起こり、間葉系細胞が動員されます。修復期には毛細血管新生とコラーゲン産生による肉芽組織形成、軟骨細胞による軟性仮骨、骨芽細胞による線維骨(硬性仮骨)形成が進みます。最後のリモデリング期に破骨細胞と骨芽細胞が線維骨を層板骨へ置き換え、皮質骨や髄腔が再構築されるため、皮質骨形成が最も遅い出来事です。強固な圧迫固定では仮骨を介さない一次骨癒合となること、血流の乏しい部位や全身因子が癒合を遅らせることも併せて理解すると、骨折治療の臨床判断に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
骨折の治癒(骨癒合)の過程を時間の流れに沿って理解しているかを問う問題である。
骨折治癒の3つの時期
骨折の治癒は、互いに重なり合いながら進む次の3期に分けて理解する。 (1) 炎症期(受傷直後〜数日) 骨折部の骨髄・骨膜・周囲軟部組織の血管が破綻して血腫ができる。そこへ好中球に続いてマクロファージなどの炎症細胞が浸潤し、壊死組織を処理するとともに、成長因子やサイトカインを放出する。これに誘導されて骨膜や骨髄から未分化な間葉系細胞が集まってくる。 (2) 修復期(数日〜数か月) 毛細血管が新生して線維芽細胞とともに肉芽組織をつくり、コラーゲンが新たに産生される。間葉系細胞は、血流の乏しい骨折部の中央付近では軟骨細胞に分化して軟骨性の仮骨(軟性仮骨)をつくり、これが軟骨内骨化によって骨に置き換えられる。骨膜に近く血流のよい部位では、骨芽細胞が直接骨をつくる(膜性骨化)。こうしてできた骨は線維骨(woven bone:コラーゲン線維の配列が不規則な未熟な骨)で、骨折部を橋渡しする硬性仮骨となる。 (3) リモデリング期(再造形期:数か月〜数年) 破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が繰り返され、未熟な線維骨は層板骨に置き換わる。力学的負荷に応じて余分な仮骨は吸収され、髄腔が再開通し、本来の皮質骨と海綿骨の構造が再構築される。
考え方
選択肢を上の流れに当てはめると、おおよそ「血腫形成 → マクロファージ浸潤 → 間葉系細胞出現・毛細血管新生 → コラーゲン新生 → 軟骨細胞出現 → 骨芽細胞出現(骨形成)→ 皮質骨形成」の順になる。皮質骨の形成は、仮骨が成熟した層板骨に置き換えられ元の形に戻っていく最終段階(リモデリング期)の出来事であり、最も遅い。
選択肢考察
- ×a. 血腫形成
血腫は骨折と同時に、骨内外の血管が破綻することで数時間以内に形成される。治癒過程の出発点となる最も早い出来事であり、血腫中の血小板などから放出される成長因子が、その後の炎症細胞や間葉系細胞の動員を促す。
- ○b. 皮質骨形成
修復期にできる仮骨は線維骨(未熟な骨)であり、これが破骨細胞による吸収と骨芽細胞による形成を繰り返して層板骨に置き換わり、元の皮質骨の構造が再構築されるのはリモデリング期である。この過程は数か月から年単位で続き、選択肢の中で最も遅くみられる。
- ×c. 毛細血管新生
毛細血管の新生は、炎症期の終わりから修復期の初めにかけて血腫の中へ起こり、線維芽細胞などとともに肉芽組織を形成する。新生血管は仮骨形成に必要な酸素や細胞を運ぶ役割をもつ。比較的早期の出来事である。
- ×d. 軟骨細胞出現
修復期に、骨折部の中でも血流の乏しい部位では間葉系細胞が軟骨細胞に分化し、軟性仮骨をつくる。この軟骨はその後、軟骨内骨化によって骨に置き換えられるため、皮質骨の形成より前の段階である。
- ×e. 骨芽細胞出現
骨芽細胞は修復期に出現し、軟性仮骨を骨に置き換えたり、骨膜下で直接骨をつくったりして硬性仮骨(線維骨)を形成する。この段階の骨はまだ未熟であり、皮質骨として再構築されるのはさらに後のリモデリング期である。
- ×f. 間葉系細胞出現
炎症期に、血腫や炎症細胞が放出するサイトカイン・成長因子に誘導されて、骨膜や骨髄などから未分化な間葉系細胞が集まってくる。これらが後に軟骨細胞や骨芽細胞、線維芽細胞に分化するので、早期の出来事である。
- ×g. コラーゲン新生
修復期に線維芽細胞などがコラーゲンを産生し、肉芽組織や仮骨の基質をつくる。骨基質の主成分であるI型コラーゲンも骨芽細胞によって産生されるが、いずれも皮質骨の再構築より前の段階である。
- ×h. マクロファージ浸潤
マクロファージは受傷後早期の炎症期に骨折部へ浸潤し、血腫や壊死組織を貪食して処理するとともに、修復を促すサイトカインを分泌する。治癒過程の初期の出来事である。
一次骨癒合と二次骨癒合
・二次骨癒合(間接的骨癒合):本問で扱った、仮骨形成を経る一般的な治癒過程。ギプス固定や髄内釘など、骨折部にわずかな動きが残る固定で起こる。 ・一次骨癒合(直接的骨癒合):プレートによる圧迫固定などで骨片同士が密着し、強固に固定された場合に起こる。仮骨をほとんど形成せず、皮質骨内のハバース管系が骨折線を横切って直接つながることで癒合する。
骨癒合に影響する因子
・局所因子:骨折部の血流(大腿骨頸部・舟状骨・距骨などは血流が乏しく偽関節や骨壊死を起こしやすい)、固定性、骨片間の離開、軟部組織損傷の程度、感染(開放骨折)。 ・全身因子:年齢(小児は治癒が速い)、栄養状態、糖尿病、喫煙、ステロイドなどの薬剤。
骨癒合期間の目安(Gurltの癒合日数)
成人の骨癒合に要するおおよその期間として、中手骨2週、肋骨3週、鎖骨4週、前腕骨5週、上腕骨骨幹部6週、脛骨・上腕骨頸部7週、下腿両骨8週、大腿骨骨幹部8週、大腿骨頸部12週とされる。ただしこれは古典的な目安であり、実際には個々の条件で大きく異なる。
小児の骨折の特徴
小児は骨膜が厚く血流も豊富なため仮骨形成が盛んで治癒が速く、リモデリング能力も高いので、ある程度の変形は自家矯正される。ただし回旋変形は矯正されにくい。
POINT
・骨折治癒の3期:炎症期 → 修復期 → リモデリング期(再造形期) ・炎症期:血腫形成、マクロファージなど炎症細胞浸潤、間葉系細胞の動員 ・修復期:毛細血管新生、コラーゲン産生、軟骨細胞出現(軟性仮骨)、骨芽細胞による線維骨形成(硬性仮骨) ・リモデリング期:破骨細胞と骨芽細胞により線維骨が層板骨へ置換され、皮質骨・海綿骨・髄腔が再構築される → 最も遅い ・強固な圧迫固定では仮骨を介さない一次骨癒合となる
