StudyMed医師国家試験

散瞳?縮瞳?エタノール?メタノール?―取り違えを誘う中毒物質と標的臓器の組合せ

第103回医師国家試験 E問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第103回 E問題 第5問

組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.ヒ素 ―― 心筋障害
  2. b.有機リン ―― 散瞳
  3. c.パラコート ―― 肺障害
  4. d.カドミウム ―― 腎障害
  5. e.エタノール ―― 視神経障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な中毒物質とその標的臓器や特徴的な症候の組合せを問う知識問題だ。中毒は「物質→作用機序→標的臓器→症候→治療」をひとまとまりで覚えると整理しやすい。そして、この手の問題は似た名前や正反対の症状をすり替えた選択肢が仕掛けられていることが多いから、そこにも注目しよう。
医学生医学生
衛生学の講義で公害病として習ったものも混じっていますね。まずはどれから考えればいいでしょうか。
ドクタードクター
覚えやすいところから行こう。除草剤のパラコートはどうかな。
医学生医学生
パラコートといえば肺線維症ですよね。でも、なぜ肺に障害が集中するのかはよくわかっていません。
ドクタードクター
いい疑問だね。パラコートは体内で酸化還元反応を繰り返して、スーパーオキシドなどの活性酸素を大量に生み出す。そして肺胞上皮細胞はポリアミンの取り込み系を介してパラコートを能動的に取り込んでしまうから、肺に選択的に蓄積するんだ。急性期には肺水腫や間質性肺炎、その後数日から数週で進行性の肺線維症となり、呼吸不全で亡くなることが多い。だから肺障害との組合せは正しい。
医学生医学生
呼吸不全なら酸素を投与したくなりますが……。
ドクタードクター
そこが臨床上の大事な注意点。高濃度酸素は活性酸素の産生を助長して肺障害を悪化させるから、低酸素血症が高度になるまで酸素投与は控えるのが原則なんだ。ほかに腎障害、肝障害、口腔や食道のびらんもみられる。次にカドミウムはどうだろう。
医学生医学生
イタイイタイ病の原因物質ですよね。骨がもろくなる病気なので、骨の障害のイメージが強いです。
ドクタードクター
骨軟化症ももちろん重要だけど、出発点は腎臓なんだ。カドミウムはメタロチオネインと結合して腎に蓄積し、特に近位尿細管を障害する。β2-ミクログロブリン尿のような低分子蛋白尿、糖尿、アミノ酸尿、リン酸尿といったFanconi症候群に似た所見が出る。尿細管からリンやカルシウムが失われ、ビタミンDの活性化も障害されて骨軟化症に至る、という流れだ。
医学生医学生
腎障害の結果として骨の病気が起こるんですね。だから腎障害との組合せも正しい、と。
ドクタードクター
その通り。では有機リンと散瞳の組合せは?
医学生医学生
有機リンはコリンエステラーゼ阻害薬なので、アセチルコリンが蓄積して……副交感神経優位だから、縮瞳ですね。散瞳は逆です。
ドクタードクター
正解。ムスカリン様作用として縮瞳、流涎、流涙、発汗、気道分泌亢進、徐脈、下痢などが出て、ニコチン様作用として筋線維束攣縮や呼吸筋麻痺も起こる。診断には血清コリンエステラーゼ低下が役立ち、治療はアトロピンとプラリドキシム、つまりPAMだ。散瞳をきたすのはアトロピンなどの抗コリン薬や覚醒剤のほうだね。
医学生医学生
救急科の実習で、意識障害の患者さんの瞳孔をまず確認するよう言われたのはそういう理由だったんですね。エタノールと視神経障害はどうでしょう。
ドクタードクター
これは名前のすり替え。視神経障害を起こす代表的なアルコールはメタノールなんだ。メタノールはアルコール脱水素酵素で代謝されてギ酸になり、これが網膜や視神経を傷害して失明に至ることがある。アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスも伴う。急性エタノール中毒の主体は中枢神経抑制で、酩酊から運動失調、意識障害、呼吸抑制へと進み、低血糖や低体温、嘔吐物の誤嚥も問題になる。
医学生医学生
メタノール中毒の治療にエタノールを使うこともある、とCBTの勉強で見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。ホメピゾールやエタノールでアルコール脱水素酵素を競合的に阻害してギ酸の産生を抑え、血液透析も考慮する。なお、慢性の大量飲酒者にビタミンB群欠乏を背景とした視神経症がみられることはあるけれど、エタノール自体の直接毒性による典型的な障害ではないよ。最後にヒ素と心筋障害だ。
医学生医学生
ヒ素は皮膚の色素沈着や角化症、それに多発神経炎のイメージです。心臓はあまり聞いたことがありません。
ドクタードクター
そのイメージで合っている。ヒ素はSH基をもつ酵素に結合して代謝を障害し、慢性中毒では黒皮症、手掌・足底の角化症、Bowen病などの皮膚病変、手袋・靴下型の多発神経炎、鼻中隔穿孔や肺癌が代表的だ。爪のMees線も有名だね。急性中毒や治療薬としての三酸化ヒ素でQT延長がみられることはあるけれど、代表的な標的臓器として心筋障害を挙げるのは適切ではない。
医学生医学生
整理すると、正しいのはパラコートと肺、カドミウムと腎ですね。縮瞳と散瞳、メタノールとエタノールの入れ替えに引っかからないようにします。
ドクタードクター
その通り。発展として周辺の重金属も押さえておこう。メチル水銀は水俣病で求心性視野狭窄や小脳失調、鉛はヘム合成阻害による貧血と好塩基性斑点、下垂手、歯肉の鉛縁が特徴だ。一酸化炭素では遅発性の神経障害に注意が必要になる。瞳孔なら縮瞳は有機リン、カーバメート、オピオイド、散瞳は抗コリン薬、覚醒剤、コカイン、三環系抗うつ薬とセットで覚えると、救急の現場で中毒を疑うときの手がかりになるよ。

まとめ

中毒物質は「作用機序→標的臓器→特徴的症候→治療」をひとまとまりで整理することが大切です。パラコートは活性酸素の産生と肺への選択的蓄積により致死的な肺線維症をきたし、高濃度酸素は障害を悪化させるため酸素投与は原則控えます。カドミウムは近位尿細管を障害してβ2-ミクログロブリン尿などを生じ、骨軟化症を伴うイタイイタイ病の原因となります。有機リンはコリンエステラーゼ阻害により縮瞳をきたし(治療はアトロピンとPAM)、視神経障害を起こすのはエタノールではなくメタノール(ギ酸)、ヒ素の代表的障害は皮膚・末梢神経・呼吸器です。似た名前や正反対の症候を取り違えないことが、試験だけでなく救急での中毒診療にも直結します。

解答・解説

正解はc, dです

本問は、代表的な中毒物質とその主な標的臓器・特徴的症候の対応を問う知識問題である。中毒の学習では「物質 → 作用機序 → 標的臓器 → 特徴的症候 → 治療(拮抗薬など)」をひとまとまりで覚えると整理しやすい。 各物質の要点は次のとおりである。 ・ヒ素:皮膚(色素沈着、角化症、Bowen病)、末梢神経(多発神経炎)、呼吸器(鼻中隔穿孔、肺癌)が代表的な標的である。 ・有機リン:コリンエステラーゼ阻害によりアセチルコリンが蓄積し、ムスカリン様作用として縮瞳が出る。 ・パラコート:除草剤。活性酸素を産生して肺に選択的に蓄積し、致死的な肺線維症をきたす。 ・カドミウム:近位尿細管障害を主とする腎障害と骨軟化症。イタイイタイ病の原因である。 ・エタノール:中枢神経抑制が主体。視神経障害を起こす代表的なアルコールはメタノールである。 したがって正しい組合せは「パラコート―肺障害」と「カドミウム―腎障害」である。似た名前の物質(エタノールとメタノール)や、正反対の症状(散瞳と縮瞳)を入れ替えた選択肢に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  ヒ素 ―― 心筋障害

    誤りである。ヒ素(代表的な化合物は亜ヒ酸=三酸化ヒ素)は、SH基をもつ酵素に結合して細胞の代謝を障害する。慢性中毒で特徴的なのは、皮膚症状(ヒ素黒皮症と呼ばれる色素沈着、手掌・足底の角化症、Bowen病や皮膚癌)、神経症状(手袋・靴下型の感覚優位の多発神経炎)、呼吸器症状(鼻中隔穿孔、肺癌)である。爪に白い横線(Mees線)がみられることもある。急性中毒では激しい嘔吐・下痢(コレラ様)や循環不全が主体となる。急性中毒や治療薬としての三酸化ヒ素でQT延長などの不整脈がみられることはあるが、ヒ素の代表的な標的臓器として心筋障害を挙げるのは適切ではない。

  2. ×b.  有機リン ―― 散瞳

    誤りである。有機リン(パラチオン、ダイアジノン、DDVPなど)は殺虫剤・農薬として使われ、アセチルコリンエステラーゼを不可逆的に阻害してアセチルコリンを蓄積させる。その結果、ムスカリン様作用(縮瞳、流涎、流涙、発汗、気道分泌亢進、気管支収縮、徐脈、下痢・嘔吐など)とニコチン様作用(筋線維束攣縮、筋力低下、呼吸筋麻痺など)、中枢神経症状(意識障害、痙攣)が現れる。瞳孔は著明な縮瞳を示すのが特徴であり、散瞳ではない。血清コリンエステラーゼ値の低下が診断に有用で、治療にはアトロピン(ムスカリン受容体遮断)とプラリドキシム(PAM、酵素の再賦活)を用いる。

  3. ○c.  パラコート ―― 肺障害

    正しい。パラコートは除草剤で、体内で酸化還元反応を繰り返して活性酸素(スーパーオキシドなど)を大量に生じ、細胞を傷害する。肺胞上皮細胞にはポリアミン取り込み系を介してパラコートが能動的に取り込まれ蓄積するため、肺が最も重要な標的臓器となる。急性期には肺水腫や間質性肺炎を、その後数日~数週で進行性の肺線維症を生じ、呼吸不全で死亡することが多い。高濃度酸素の投与は活性酸素の産生を助長し肺障害を悪化させるため、低酸素血症が高度になるまで酸素投与は控えるのが原則である。肺以外に、腎障害(急性尿細管壊死による乏尿・蛋白尿・血尿)、肝障害(黄疸)、消化管粘膜のびらんもみられる。

  4. ○d.  カドミウム ―― 腎障害

    正しい。カドミウムは体内でメタロチオネインと結合して腎に蓄積し、特に近位尿細管を障害する。そのため、低分子蛋白尿(β2-ミクログロブリン尿)、糖尿、アミノ酸尿、リン酸尿などのFanconi症候群様の所見が現れる。尿細管障害によるリン・カルシウムの喪失やビタミンD活性化の障害から骨軟化症を生じ、多発骨折と激しい疼痛を特徴とするイタイイタイ病(富山県神通川流域)の原因となった。このほか、吸入曝露による肺気腫・肺障害、歯の黄色環(カドミウム環)も知られている。

  5. ×e.  エタノール ―― 視神経障害

    誤りである。急性エタノール中毒の主体は中枢神経抑制で、血中濃度の上昇に伴い酩酊、運動失調、構音障害、意識障害、呼吸抑制へと進む。低血糖や低体温、嘔吐物の誤嚥も問題になる。視神経障害を起こす代表的なアルコールはメタノールであり、体内でアルコール脱水素酵素により代謝されて生じるギ酸が網膜・視神経を傷害し、失明に至ることがある(アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスも伴う)。名称の似たエタノールとメタノールを取り違えないことが要点である。なお、慢性のアルコール多飲者に栄養障害(ビタミンB群欠乏)を背景とした視神経症がみられることはあるが、エタノールの直接の毒性による典型的な障害とはいえない。

主な中毒物質と標的臓器・症候の整理

・ヒ素:皮膚(黒皮症、角化症、Bowen病)、多発神経炎、鼻中隔穿孔、肺癌、Mees線。急性ではコレラ様の下痢。治療はジメルカプロール(BAL)などのキレート剤。 ・水銀:有機水銀(メチル水銀)は水俣病(求心性視野狭窄、小脳失調、感覚障害など)。無機水銀は腎障害。 ・カドミウム:近位尿細管障害(β2-ミクログロブリン尿)、骨軟化症(イタイイタイ病)、肺気腫。 ・鉛:貧血(ヘム合成阻害、好塩基性斑点)、腹痛(鉛疝痛)、末梢神経障害(橈骨神経麻痺による下垂手)、歯肉の鉛縁。 ・有機リン:縮瞳、流涎、徐脈、筋線維束攣縮、血清コリンエステラーゼ低下。治療はアトロピン、PAM。 ・パラコート:肺線維症、腎・肝障害、口腔・食道のびらん。酸素投与は原則控える。 ・メタノール:視神経障害(失明)、代謝性アシドーシス。治療はホメピゾール(またはエタノール)でアルコール脱水素酵素を競合阻害し、血液透析も考慮する。 ・エタノール:中枢神経抑制、呼吸抑制、低血糖、低体温。 ・一酸化炭素:組織低酸素、遅発性の神経障害(間欠型CO中毒)。治療は高濃度酸素・高気圧酸素療法。

瞳孔所見で覚える中毒

・縮瞳:有機リン、カーバメート、オピオイド(モルヒネなど) ・散瞳:アトロピンなどの抗コリン薬、覚醒剤、コカイン、三環系抗うつ薬

POINT

・パラコートは活性酸素により肺に選択的に蓄積・障害し、肺線維症をきたす(酸素投与は原則控える)。 ・カドミウムは近位尿細管障害(β2-ミクログロブリン尿)と骨軟化症を起こし、イタイイタイ病の原因となる。 ・有機リン中毒は縮瞳(散瞳ではない)。治療はアトロピンとPAM。 ・視神経障害はメタノール(ギ酸)によるもので、エタノールではない。 ・ヒ素の代表的障害は皮膚・末梢神経・呼吸器(鼻中隔穿孔、肺癌)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。