溶接の光は「見ているだけ」でも危ない―夜にやってくる電気性眼炎
第103回医師国家試験 E問題 第42問
国試問題にチャレンジ
51歳の男性。目の異物感,まぶしさ及び流涙を主訴に来院した。日中は工場でアーク溶接作業を監督していた。遮光眼鏡は着用していなかった。両眼球結膜に充血を認める。 最も考えられるのはどれか。
- a.翼状片
- b.眼精疲労
- c.電気性眼炎
- d.角膜鉄片異物
- e.アレルギー性結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
遮光保護具をつけずにアーク溶接の光を浴びた後、両眼に異物感・羞明・流涙・結膜充血が出現した場合は、紫外線による角膜上皮障害である電気性眼炎を考えます。曝露から6〜12時間ほどの潜伏期を経て夜間に発症することが多く、フルオレセイン染色で角膜全体に点状表層角膜症を認めます。角膜上皮は再生が速く通常1〜2日で治癒しますが、点眼麻酔薬の反復使用は上皮修復を遅らせるため治療には用いません。片眼で異物飛入の病歴があれば角膜異物、かゆみ主体ならアレルギー性結膜炎、慢性の紫外線曝露なら翼状片と、片眼か両眼か・急性か慢性か・誘因は何かで鑑別できます。職業歴を丁寧に聴くことが診断の決め手となり、作業者以外も含めた予防の重要性を理解することにもつながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・主訴:目の異物感、まぶしさ(羞明)、流涙。いずれも角膜上皮が障害されたときに典型的な症状である(角膜には知覚神経が密に分布しているため、上皮の障害で強い異物感や痛みが出る)。 ・職業歴:日中、工場でアーク溶接作業を監督しており、遮光眼鏡を着用していなかった。 ・所見:両眼の球結膜充血。
診断への考え方
アーク溶接の光には強い紫外線が含まれる。遮光眼鏡なしで溶接光を浴びると、紫外線が角膜上皮を傷害して点状表層角膜症(角膜表面に点状の上皮欠損が多発する状態)を生じる。これが電気性眼炎(紫外線角膜炎)である。症状は曝露直後ではなく、数時間(おおむね6~12時間)の潜伏期を経て現れるのが特徴で、日中に曝露し、夕方から夜間にかけて激しい眼痛・異物感・羞明・流涙で受診するのが典型的な経過である。紫外線は両眼に同様に当たるため、両眼性であることも特徴である。 本例は、溶接光への無防備な曝露という病歴、角膜上皮障害を示す症状、両眼性の充血がそろっており、電気性眼炎が最も考えられる。 診断の確認には、フルオレセイン染色を行い細隙灯顕微鏡で観察すると、角膜全体に点状の染色(点状表層角膜症)が認められる。
選択肢考察
- ×a. 翼状片
翼状片は、結膜の線維血管組織が三角形(翼状)に角膜へ侵入していく良性の増殖性疾患で、多くは鼻側に生じる。長年の紫外線曝露や加齢が危険因子であり、数年単位でゆっくり進行する。充血や軽い異物感を伴うことはあるが、急性に両眼の強い羞明・流涙をきたす病態ではなく、本例の急性の経過に合わない。進行して瞳孔領に近づくと乱視や視力低下をきたし、手術(切除)の適応となる。
- ×b. 眼精疲労
眼精疲労は、VDT(Visual Display Terminal:パソコンなどの表示装置)作業や屈折異常の未矯正、ドライアイなどを背景に、目の疲れ・痛み・かすみに加えて頭痛や肩こりなどの全身症状を伴う状態である。溶接光への曝露という誘因や、急性の異物感・羞明・流涙・充血という角膜上皮障害の症状を説明しにくい。
- ○c. 電気性眼炎
遮光眼鏡なしでアーク溶接の光を浴びたことにより、紫外線が両眼の角膜上皮を傷害したと考えられる。異物感、羞明、流涙、結膜充血という症状はいずれも点状表層角膜症によるものとして説明でき、両眼性であることも曝露状況と合致する。角膜上皮は再生が速いため、通常は1~2日で後遺症なく治癒する。
- ×d. 角膜鉄片異物
角膜鉄片異物は、グラインダー作業やハンマーで金属をたたく作業などで飛散した鉄片が角膜に刺入して起こる。異物感や流涙、充血を生じるが、通常は片眼であり、作業中に「何かが目に入った」というエピソードを伴う。本例は監督として溶接光を見ていただけで異物飛入の病歴がなく、両眼に症状があることからも考えにくい。放置すると鉄片周囲に錆(さび)の輪(rust ring)を形成するため、異物と錆の除去が必要となる。
- ×e. アレルギー性結膜炎
アレルギー性結膜炎は、花粉やハウスダストなどに対するⅠ型アレルギー反応による結膜の炎症で、最も特徴的な症状は眼のかゆみである。充血、流涙、異物感を伴うこともあるが、本例ではかゆみの記載がなく、季節性やアレルギー歴を示す情報もない。溶接光への曝露という明確な誘因がある本例では考えにくい。
紫外線による眼障害
紫外線はそのほとんどが角膜で吸収されるため、急性障害は角膜上皮に現れる。 ・電気性眼炎:アーク溶接の光、殺菌灯(紫外線ランプ)などへの曝露で起こる。 ・雪眼炎(雪目):雪山やスキー場で雪面からの強い反射紫外線を浴びて起こる。病態は電気性眼炎と同じ紫外線角膜炎である。
電気性眼炎の臨床像
・潜伏期:曝露後おおむね6~12時間(そのため夜間に発症・受診することが多い) ・症状:激しい眼痛、異物感、羞明、流涙、眼瞼けいれん、結膜充血。通常は両眼性 ・所見:フルオレセイン染色で角膜全体に点状表層角膜症 ・治療:眼帯や冷却による安静、角膜上皮の保護・修復を促す点眼(ヒアルロン酸など)、二次感染予防の抗菌薬点眼や眼軟膏。点眼麻酔薬は検査時には用いるが、繰り返し使用すると角膜上皮の修復を遅らせるため治療薬としては用いない ・予後:角膜上皮は再生が速く、通常1~2日で後遺症なく治る ・予防:溶接作業時の遮光保護具(遮光面・遮光眼鏡)の着用。作業者だけでなく周囲で監督・見学する人にも必要である
慢性的な紫外線曝露と関連する眼疾患
翼状片、瞼裂斑、白内障(皮質白内障)などがある。
鑑別のポイント
・片眼で異物飛入のエピソードあり → 角膜異物 ・かゆみが主体 → アレルギー性結膜炎 ・眼脂が多い、周囲に流行 → 感染性結膜炎 ・VDT作業、頭痛・肩こりを伴う → 眼精疲労
POINT
・遮光保護具なしの溶接光曝露後に、両眼の異物感・羞明・流涙・充血が出現したら電気性眼炎を考える。 ・原因は紫外線による角膜上皮障害(点状表層角膜症)で、フルオレセイン染色で確認する。 ・曝露から数時間の潜伏期を経て発症し、夜間に受診することが多い。 ・雪眼炎も同じ病態である。 ・角膜上皮の再生により1~2日で治癒し、予後は良好である。
