StudyMed医師国家試験

正常粘膜の下に潜む紡錘形細胞―bridging foldが導くGISTの診断

第103回医師国家試験 D問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第103回 D問題 第26問

40歳の男性。健康診断の上部消化管造影で異常を指摘され来院した。上部消化管内視鏡写真(A)と生検組織のH-E染色標本(B)とを別に示す。  診断はどれか。

第103回 D問題 第26問の問題画像
  1. a.胃ポリープ
  2. b.胃癌
  3. c.胃MALTリンパ腫
  4. d.GIST〈gastrointestinal stromal tumor〉
  5. e.迷入膵

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胃の隆起性病変を内視鏡像と生検組織から診断する問題だ。考える順番は2段階。まず「この隆起は粘膜の上皮そのものか、それとも粘膜の下から持ち上げられているのか」、次に「生検でどんな細胞が増えているか」。内視鏡像から見ていこう。
医学生医学生
表面がつるっとしていて、周りの粘膜と色調がほとんど変わらないように見えます。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。表面が周囲と同じ正常粘膜で覆われていて、立ち上がりがなだらか。さらに周囲のひだが腫瘤の上に橋を架けるように伸びている。これをbridging foldと呼ぶ。そして頂部には臍のようなくぼみ、delleがある。
医学生医学生
消化器内科の実習で「粘膜下腫瘍の三点セット」として教わった気がします。でも、頂部がくぼんでいると癌の潰瘍っぽくも見えてしまって……。
ドクタードクター
そこは迷いやすいポイントだ。delleは、腫瘍が大きくなって表面の粘膜が引き伸ばされ、虚血に陥ってびらんや潰瘍になったものと考えられている。GISTが出血して貧血や吐血で見つかるのはこのためだね。癌の潰瘍との違いは、周囲が正常粘膜で覆われていること。癌は上皮から発生するから病変表面に癌そのものが露出して不整になるし、ひだも先細りや中断、棍棒状の肥厚といった変化を示す。橋を架けるようなひだにはならないんだ。
医学生医学生
上皮性か非上皮性かを分けるのが最初のステップなんですね。そうすると胃ポリープも外れますか。
ドクタードクター
その通り。過形成性ポリープや胃底腺ポリープは粘膜上皮の過形成だから、表面は発赤調など周囲とは違う上皮で、bridging foldも出ない。組織も腺窩上皮や胃底腺が増えている像になる。では、粘膜下腫瘍だとして、胃でどんなものが挙がるかな。
医学生医学生
GIST、平滑筋腫、神経鞘腫、脂肪腫、迷入膵……あとカルチノイドやリンパ腫も粘膜下腫瘍様になると聞きました。
ドクタードクター
よく挙がったね。そこで生検組織を見る。H-E染色では細長い紡錘形の細胞が密に増殖していて、束状や柵状に並んでいる。紡錘形細胞が出てくる胃の粘膜下腫瘍はGIST、平滑筋腫、神経鞘腫の3つで、胃で最も多いのはGISTだ。
医学生医学生
だから答えはGISTなんですね。MALTリンパ腫も粘膜下腫瘍っぽくなることがあると思うんですが、組織で区別できますか。
ドクタードクター
できるよ。MALTリンパ腫はHelicobacter pylori感染と関連の深い低悪性度B細胞リンパ腫で、内視鏡像は褪色調の陥凹や多発びらん、敷石状粘膜など多彩だ。でも組織は小型〜中型のリンパ球様細胞がびまん性に増え、腺管上皮に入り込んで壊すlymphoepithelial lesionが特徴。紡錘形細胞ではないね。
医学生医学生
迷入膵はどうでしょう。病理の講義で、頂部にくぼみがあるって習いました。
ドクタードクター
そこが似ている点だね。迷入膵は前庭部の大弯側に多く、導管の開口部に相当する中心臍窩をもつことがある。ただ、本体は膵の腺房や導管で、紡錘形細胞が密に増えることはない。しかも粘膜下にあるので、普通の生検では表面の胃粘膜しか取れず診断がつかないことも多いんだ。
医学生医学生
紡錘形細胞という時点でGIST・平滑筋腫・神経鞘腫に絞れるとして、その3つはどう見分けるんですか。
ドクタードクター
免疫染色が決め手だ。GISTは消化管運動のペースメーカーであるCajal介在細胞やその前駆細胞に由来し、KIT(CD117)やDOG1が陽性、CD34も多くで陽性になる。平滑筋腫はdesminやα-SMA陽性でKIT陰性、神経鞘腫はS-100陽性でKIT陰性。CBTでもよく問われる組み合わせだね。
医学生医学生
GISTはKIT遺伝子の変異で起こるから、分子標的薬が効くんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。多くはKIT、一部はPDGFRAの機能獲得型変異で、チロシンキナーゼが常に活性化している。治療の原則は、腫瘍を破らない完全切除だ。リンパ節転移はまれなので系統的郭清は通常不要で、胃では腹腔鏡下を含む部分切除がよく選ばれる。腫瘍径・核分裂像数・発生部位・腫瘍破裂の有無でリスクを評価し、高リスクなら術後にイマチニブを通常3年間、切除不能や転移・再発例ではイマチニブが第一選択になる。
医学生医学生
実際の臨床では、内視鏡の生検で組織が取れないこともありますよね。
ドクタードクター
鋭いね。腫瘍は主に固有筋層から発生するから、通常の生検鉗子では届かないことが多い。だから超音波内視鏡で発生層(多くは第4層=固有筋層)や内部の性状を評価し、超音波内視鏡下穿刺吸引法で組織を採って免疫染色をする。CTで大きさや壁外発育、転移も確認する。検診で見つかる無症状の粘膜下腫瘍こそ、こうした精査につなげることが大切だよ。

まとめ

胃の隆起性病変では、まず上皮性病変か粘膜下腫瘍かを見分けることが出発点です。正常粘膜に覆われたなだらかな隆起にbridging foldを伴えば粘膜下腫瘍を考え、頂部のdelleは増大に伴う潰瘍形成を示し、出血の原因にもなります。生検で紡錘形細胞の密な増殖があればGIST・平滑筋腫・神経鞘腫が候補となり、胃で最多のGISTはKIT(CD117)・DOG1陽性で、desmin陽性の平滑筋腫やS-100陽性の神経鞘腫と区別します。治療は腫瘍を破らない完全切除が原則で、リンパ節郭清は通常不要、高リスク例や切除不能・再発例ではイマチニブが用いられます。内視鏡形態と組織像を段階的に組み合わせる考え方は、消化管腫瘍全般の鑑別の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・40歳男性。健康診断の上部消化管造影で異常を指摘されたのみで、自覚症状ははっきりしない。 ・上部消化管内視鏡(A):胃内腔に向かってなだらかに盛り上がる表面平滑な隆起性病変で、表面は周囲と同じ正常な胃粘膜に覆われている。周囲の粘膜ひだが腫瘤の上に橋を架けるように伸びる所見(bridging fold)を伴い、頂部には臍のようなくぼみ(delle)がみられる。 ・生検組織(B、H-E染色):細長い紡錘形の細胞が密に増殖しており、束状・柵状の配列を示す。

診断へのプロセス

1. 胃の隆起性病変では、まず上皮性病変(ポリープ、腺腫、癌)か、上皮の下から粘膜を持ち上げている非上皮性病変(粘膜下腫瘍)かを見分ける。 2. 表面が正常粘膜で覆われ、なだらかな立ち上がりとbridging foldを伴う形態は、粘膜より深い層(主に固有筋層や粘膜下層)から発生した粘膜下腫瘍の典型像である。これにより胃ポリープや胃癌のような上皮性病変は考えにくくなる。頂部のdelleは、腫瘍の増大に伴って表面の粘膜が虚血に陥り、びらん・潰瘍化したものと解釈され、出血の原因にもなる。 3. 胃の粘膜下腫瘍の代表はGIST(消化管間質腫瘍)、平滑筋腫、神経鞘腫、脂肪腫、迷入膵、カルチノイド(神経内分泌腫瘍)、悪性リンパ腫などである。このうち生検で紡錘形細胞の増殖がみられるのはGIST、平滑筋腫、神経鞘腫で、胃ではGISTが最も頻度が高い。 4. 以上から、本例はGISTと診断するのが最も妥当である。確定には免疫組織化学染色でKIT(CD117)やDOG1の陽性を確認し、平滑筋腫(desmin・α-SMA陽性、KIT陰性)や神経鞘腫(S-100陽性、KIT陰性)と区別する。

設問の考え方

内視鏡の「正常粘膜に覆われた隆起+bridging fold+delle」で粘膜下腫瘍と判断し、生検の「紡錘形細胞の密な増殖」からGISTを選ぶ、という二段階で考える。

選択肢考察

  1. ×a.  胃ポリープ

    胃ポリープ(過形成性ポリープ、胃底腺ポリープなど)は粘膜上皮由来の隆起であり、表面は発赤調や周囲とは異なる性状の上皮に覆われ、粘膜下腫瘍のようななだらかな立ち上がりやbridging foldは示さない。大きさも多くは2 cm未満である。組織像も腺窩上皮や胃底腺の過形成であり、紡錘形細胞の増殖とは異なる。

  2. ×b.  胃癌

    胃癌は粘膜上皮から発生する悪性腫瘍で、病変表面に癌が露出するため、表面は不整で正常粘膜には覆われない。進行癌で周囲のひだが変化する場合も、ひだの先細り・中断・棍棒状の肥厚・融合といった所見であり、腫瘤に架かるbridging foldとは異なる。組織像も異型腺管や印環細胞などの上皮性腫瘍細胞であり、紡錘形細胞の増殖ではない。

  3. ×c.  胃MALTリンパ腫

    MALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫)は低悪性度のB細胞リンパ腫で、Helicobacter pylori感染と関連が深い。内視鏡像は早期胃癌(0-IIc型)に似た褪色調の陥凹、びらん・多発潰瘍、敷石状粘膜、粘膜下腫瘍様の隆起など多彩である。組織では小型〜中型のリンパ球様腫瘍細胞がびまん性に増殖し、腺管上皮に浸潤して破壊するlymphoepithelial lesion(リンパ上皮性病変)が特徴であり、紡錘形細胞の増殖ではない。

  4. ○d.  GIST〈gastrointestinal stromal tumor〉

    GISTは消化管の筋層に存在するCajal介在細胞(消化管運動のペースメーカー細胞)またはその前駆細胞に由来する間葉系腫瘍で、胃に最も多く発生する。筋層から発生して内腔側に発育するため、正常粘膜に覆われbridging foldを伴う粘膜下腫瘍の形をとり、大きくなると頂部にdelleや潰瘍を形成する。組織学的には紡錘形細胞(一部は類上皮様細胞)が束状・柵状に密に増殖し、本例の内視鏡像・生検像のいずれにも合致する。免疫染色でKIT(CD117)やDOG1が陽性となり、CD34も多くで陽性を示す。

  5. ×e.  迷入膵

    迷入膵(異所性膵)は、本来の膵臓と連続しない場所に膵組織が存在する先天的な異常で、胃では前庭部の大弯側に多い。粘膜下腫瘍の形をとり、頂部に導管の開口部に相当する陥凹(中心臍窩)を伴うことがある点は本例に似る。しかし病変の本体は膵の腺房・導管(時にランゲルハンス島)であり、組織で紡錘形細胞の密な増殖がみられることはない。また粘膜下にあるため、通常の生検では表面の胃粘膜しか採取されず診断がつかないことも多い。

GISTの概要

・定義:主に消化管に発生する紡錘形ないし類上皮様の細胞からなる間葉系腫瘍で、免疫組織化学的にKIT(CD117)またはDOG1が陽性のもの。 ・発生部位:胃(約60〜70%)>小腸>大腸・食道の順。中高年に多い。 ・病因:多くはKIT遺伝子の機能獲得型変異、一部はPDGFRA遺伝子変異による。受容体型チロシンキナーゼが常に活性化し、細胞増殖が止まらなくなる。 ・症状:小さいうちは無症状で、検診や他疾患の検査で偶然見つかることが多い。大きくなると消化管出血(吐血・下血・貧血)、腹部腫瘤、腹痛などを生じる。 ・診断:内視鏡で粘膜下腫瘍を確認し、超音波内視鏡(EUS)で発生層(主に第4層=固有筋層)や内部性状を評価する。組織採取には超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)が有用で、免疫染色でKIT・DOG1陽性を確認する。CTで大きさ、壁外発育、転移の有無を評価する。 ・悪性度評価:腫瘍径、核分裂像数、発生部位(胃より小腸の方が悪性度が高い)、腫瘍破裂の有無でリスク分類を行う。 ・治療:原則は外科的切除で、腫瘍を破らないように完全切除する。リンパ節転移はまれなため、系統的リンパ節郭清は通常不要で、胃では部分切除(腹腔鏡下手術を含む)が選ばれることが多い。再発リスクの高い症例では術後にイマチニブ(KITなどを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬)による補助療法(通常3年間)を行い、切除不能・転移・再発例ではイマチニブが第一選択である。イマチニブ耐性例ではスニチニブ、レゴラフェニブなどが用いられる。

粘膜下腫瘍の内視鏡所見

・なだらかな立ち上がりで、表面は周囲と同様の正常粘膜。 ・bridging fold:周囲のひだが腫瘤の上に架かるように伸びる。 ・delle:頂部のくぼみ・潰瘍。GISTなどの増大に伴う潰瘍形成のほか、迷入膵の導管開口部としてもみられる。 ・脂肪腫はクッションサイン(鉗子で押すと凹む)が陽性で黄色調を呈する。

POINT

・正常粘膜に覆われた隆起+bridging fold → 粘膜下腫瘍。 ・胃の粘膜下腫瘍で紡錘形細胞の増殖 → まずGISTを考える。 ・GISTはCajal介在細胞由来で、KIT(CD117)・DOG1陽性。平滑筋腫(desmin陽性)、神経鞘腫(S-100陽性)と鑑別する。 ・治療は完全切除(リンパ節郭清は通常不要)。高リスク例の術後補助療法、切除不能・再発例にはイマチニブ。 ・MALTリンパ腫はlymphoepithelial lesion、迷入膵は膵組織の存在で区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。