明け方の咳で目が覚める―「吐けない」喘息を聴診で捉える
第103回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
37歳の女性。息切れを主訴に来院した。3か月前から舞踊教室に通っている。朝方,咳で目が覚め,息苦しさを感じるようになった。IgE RASTでハウスダスト3+。 所見としてみられるのはどれか。
- a.過呼吸
- b.ばち指
- c.呼気延長
- d.fine crackles
- e.coarse crackles
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
夜間から早朝に悪化する咳・呼吸困難に、ハウスダストなど吸入性アレルゲンへの感作が加われば、アトピー型の気管支喘息を考えます。喘息では気道平滑筋の収縮・粘膜浮腫・粘液分泌で気道が狭まり、呼気時にさらに圧迫されるため、呼気延長と連続性ラ音のwheezesが典型的な所見となります。fine cracklesは間質性肺炎、coarse cracklesは肺炎・気管支拡張症・肺水腫、ばち指は間質性肺炎や肺癌など、過呼吸は過換気症候群を想起させる所見で、喘息の特徴ではありません。重症発作ではwheezesが聴こえなくなるsilent chestやPaCO2の上昇が危険な徴候である点も重要です。肺音を病態と結びつけて理解しておくことは、聴診による呼吸器疾患の鑑別の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・37歳女性、息切れが主訴。 ・朝方(明け方)に咳で目が覚め、息苦しさを感じる:夜間から早朝にかけて悪化する呼吸器症状。 ・3か月前から舞踊教室に通っている:新たな環境(室内の床やマットのほこり等)への曝露や運動習慣の開始が症状出現の契機になった可能性がある。 ・IgE RAST(放射性アレルゲン吸着試験:特定のアレルゲンに対する血清特異的IgE抗体を測定する検査)でハウスダスト3+:ハウスダストに対する特異的IgE抗体が陽性(一般にクラス2以上を陽性とする)で、I型(即時型)アレルギーの素因がある。
診断への道筋
症状が夜間から早朝に増悪する咳・呼吸困難であり、吸入性アレルゲンに対する感作が証明されていることから、アトピー型の気管支喘息と考えるのが自然である。喘息症状が明け方に悪化しやすいのは、夜間に迷走神経(副交感神経)の緊張が高まり気管支が収縮しやすいこと、内因性ステロイドやアドレナリンの分泌が日内変動で低下すること、寝具中のダニへの曝露などが関係すると考えられている。 鑑別としては、咳喘息(喘鳴や呼吸困難を伴わず咳のみ)、慢性閉塞性肺疾患(COPD:中高年の喫煙者に多い)、心不全による夜間発作性呼吸困難(心臓喘息)などが挙がるが、若年女性でアレルギー素因が明らかな本例では気管支喘息が最も考えやすい。
設問の考え方
気管支喘息は、気道の慢性炎症を背景に気道が過敏になり、可逆性の気流制限(気道狭窄)を繰り返す疾患である。気道が狭くなると、特に胸腔内圧が上昇して気道がさらに狭まる呼気時に空気が出にくくなる。したがって身体所見として、呼気時間が延長し(呼気延長)、呼気時に連続性ラ音である wheezes(笛のような高調音)を聴取するのが典型である。
選択肢考察
- ×a. 過呼吸
過呼吸は、代謝の需要を超えて換気が過剰になる状態を指し、典型的には不安などを契機とする過換気症候群でみられる(呼吸性アルカローシスにより手指のしびれやテタニーを生じる)。喘息発作でも呼吸数は増加し、軽症〜中等症では PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)が低下することもあるが、これは気流制限に伴う二次的な変化であり、気管支喘息を特徴づける所見とはいえない。喘息で問われる所見としては呼気延長の方が適切である。
- ×b. ばち指
ばち指は指先の軟部組織が肥大して爪の付け根の角度が失われる所見で、慢性的な低酸素血症や慢性化膿性肺疾患などに伴う。チアノーゼ性先天性心疾患、特発性肺線維症などの間質性肺炎、気管支拡張症、肺癌、感染性心内膜炎、肝硬変などでみられる。気管支喘息では通常みられず、喘息患者にばち指があれば他疾患の合併を疑う。
- ○c. 呼気延長
気管支喘息では、気道平滑筋の収縮、気道粘膜の浮腫、粘液分泌の増加によって気道が狭窄する。呼気時には胸腔内圧が上がって気道がさらに圧迫されるため、息を吐き出すのに時間がかかり、呼気が延長する。聴診では呼気延長とともに連続性ラ音(wheezes)を聴取するのが特徴である。呼気延長は同じ閉塞性障害をきたす慢性閉塞性肺疾患(COPD)でもみられる。
- ×d. fine crackles
fine crackles(捻髪音)は、吸気の終末に聴取される細かく高調な断続性ラ音で、「パチパチ」「チリチリ」と表現される。吸気時に虚脱していた末梢気道・肺胞が急に開放されて生じると考えられ、特発性肺線維症などの間質性肺炎、過敏性肺炎、石綿肺などで聴取される。気管支喘息でみられる肺音は連続性ラ音の wheezes であり、fine crackles ではない。
- ×e. coarse crackles
coarse crackles(水泡音)は、吸気の初期から中期を中心に聴取される低調で粗い断続性ラ音で、「ブツブツ」「ボコボコ」と表現される。気道内の分泌物や液体を空気が通過して生じ、肺炎、気管支拡張症、肺水腫(心不全)、びまん性汎細気管支炎などで聴取される。気管支喘息に特徴的な所見ではない。
気管支喘息の概要
気道の慢性炎症、気道過敏性の亢進、可逆性の気流制限を特徴とする疾患である。症状は発作性の呼吸困難、喘鳴、咳、胸苦しさで、夜間から早朝に悪化しやすい。アレルゲン(ダニ・ハウスダスト、ペットの毛など)、ウイルス感染、運動、冷気、喫煙、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、月経などが増悪因子となる。 ・検査:呼吸機能検査で1秒率の低下(閉塞性障害)と、気管支拡張薬吸入後の1秒量の改善(気道可逆性)、ピークフロー値の日内変動、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)の上昇、喀痰・末梢血の好酸球増加、血清IgE・特異的IgE抗体の上昇などを確認する。 ・治療:長期管理の中心は吸入ステロイド薬で、必要に応じて長時間作用性β2刺激薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性抗コリン薬、生物学的製剤などを追加する。発作時は短時間作用性β2刺激薬の吸入、全身性ステロイド、酸素投与などを行う。
肺音の分類
・連続性ラ音:wheezes(高調、主に細い気道の狭窄。喘息、COPD)、rhonchi(低調、太い気道の狭窄や分泌物)。 ・断続性ラ音:fine crackles(捻髪音、吸気終末。間質性肺炎)、coarse crackles(水泡音、吸気初期〜中期。肺炎、気管支拡張症、肺水腫)。 ・その他:胸膜摩擦音(胸膜炎)、stridor(上気道狭窄、主に吸気時)。
重症発作の注意点
重症の喘息発作では気流が極端に減少するため、wheezes がかえって聴こえにくくなる(silent chest)。喘鳴の消失を改善と誤認しないことが重要で、PaCO2 が正常化〜上昇してきた場合は呼吸筋疲労による換気不全を示唆する危険な徴候である。
POINT
・夜間〜早朝に悪化する咳・呼吸困難+吸入性アレルゲン(ハウスダスト)への感作 → 気管支喘息。 ・喘息の身体所見は、呼気延長と連続性ラ音(wheezes)。 ・fine crackles は間質性肺炎、coarse crackles は肺炎・気管支拡張症・肺水腫。 ・ばち指は喘息ではみられない(間質性肺炎、気管支拡張症、肺癌、チアノーゼ性心疾患など)。 ・過呼吸は過換気症候群の所見。
