数分間沈む心拍―CTGを「基線から順に」読めば遷延一過性徐脈が見えてくる
第103回医師国家試験 B問題 第49問
国試問題にチャレンジ
33歳の初産婦。妊娠41週1日。子宮収縮の増強を主訴に入院した。胎児心拍数陣痛図を別に示す。 正しいのはどれか。2つ選べ。

- a.心拍数基線は正常範囲内である。
- b.心拍数基線細変動は消失している。
- c.一過性頻脈を認める。
- d.早発一過性徐脈を認める。
- e.遷延一過性徐脈を認める。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
CTGは心拍数基線、基線細変動、一過性頻脈、一過性徐脈の順に判読し、一過性の徐脈部分は基線の判定から除外します。本例では基線が約150bpmで正常範囲(110〜160bpm)内にあり、強い子宮収縮を契機に15bpm以上の低下が2分以上続く遷延一過性徐脈を2回認めます。記録の一部だけで細変動消失と判断しないこと、徐脈回復直後のオーバーシュートを一過性頻脈と混同しないことが判読上の注意点です。一過性徐脈は下がり方、子宮収縮との時間関係、持続時間の3点で早発・遅発・変動・遷延を見分け、遷延一過性徐脈では最下点80bpm未満を高度とします。臍帯圧迫や過強陣痛、胎盤早期剝離などが原因となりうるため、体位変換や子宮収縮薬の中止などの保存的処置を行い、繰り返す場合は急速遂娩を検討するという流れを理解しておくことが、分娩管理の基本につながります。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
妊娠41週1日の初産婦で、陣痛(子宮収縮)が強まって入院した場面である。予定日超過(過期妊娠の手前)であり、胎盤機能の低下や羊水減少による臍帯圧迫が起こりやすく、胎児の状態を胎児心拍数陣痛図(CTG:cardiotocogram、上段が胎児心拍数、下段が子宮収縮)で評価することが重要になる。本問は臨床問題の形式をとっているが、実質的にはCTGを正しく判読できるかを問うている。
判読の手順
CTGは、(1) 心拍数基線、(2) 基線細変動、(3) 一過性頻脈の有無、(4) 一過性徐脈の有無と種類、の順に評価するのが基本である。 (1) 心拍数基線:一過性変動の部分を除いた、おおむね10分間の平均的な心拍数を5の倍数で表す。本図では記録開始時と2回の徐脈から回復した後の心拍数がいずれも150bpm前後であり、心拍数基線は約150bpmと判定する。徐脈の部分は一過性の変化であり、基線とはみなさない。 (2) 基線細変動:記録の冒頭部分は振幅がやや小さく見えるが、徐脈の最中や回復後の後半部分では明らかな細かい揺れが認められ、細変動は保たれている。冒頭の一部だけを見て「消失」と判断しないことが大切である。 (3) 一過性頻脈:基線から15bpm以上上昇し15秒以上続く明らかな一過性頻脈は、この記録では確認できない。2回目の徐脈から回復した直後に心拍数が一時的に基線を上回っているが、これは徐脈からの回復に伴う反跳(overshoot)と解釈する。 (4) 一過性徐脈:強い子宮収縮に一致して心拍数が基線から15bpm以上低下し、その状態が2分以上(数分間)続いた後に元の基線へ戻る徐脈が2回みられる。最下点はおおむね80bpm前後からそれを下回る程度まで達しており、遷延一過性徐脈に該当する。最下点が80bpm未満に達するものは高度遷延一過性徐脈に分類される。
設問の考え方
以上から、心拍数基線は正常範囲内(110〜160bpm)であり、2回の遷延一過性徐脈を認める、という2点が正しい記述となる。一過性徐脈の種類は、心拍数の下がり方(急か緩やかか)、子宮収縮との時間関係、持続時間の3点で見分ける。持続が2分以上あれば、他の型ではなく遷延一過性徐脈と判断する。
選択肢考察
- ○a. 心拍数基線は正常範囲内である。
徐脈の前後で心拍数は150bpm前後に戻っており、心拍数基線は約150bpmと判定できる。日本の基準では正常脈(normocardia)は110〜160bpmであり、正常範囲内に入る。徐脈部分は一過性の変化なので基線の判定から除外する点がポイントである。なお、110bpm未満を徐脈(bradycardia)、160bpmを超えるものを頻脈(tachycardia)という。
- ×b. 心拍数基線細変動は消失している。
記録開始直後は揺れがやや小さく見えるものの、記録の中盤から後半にかけては明瞭な細かい変動が認められ、細変動は保たれている。細変動の消失(肉眼で振幅を認めない状態)は胎児の低酸素・アシドーシスを強く示唆する重大な所見であり、本図はこれに当たらない。記録の一部分だけで判断すると誤りやすい。
- ×c. 一過性頻脈を認める。
一過性頻脈は、妊娠32週以降では心拍数が基線から15bpm以上急に上昇し、開始から頂点まで30秒未満、上昇が15秒以上2分未満続くものをいう。本図ではこの条件を満たす上昇はみられない。2回目の遷延一過性徐脈からの回復直後に基線を上回る部分があるが、徐脈の後に生じる反跳性の上昇(overshoot)であり、胎児の健常性を示す一過性頻脈とは区別する。
- ×d. 早発一過性徐脈を認める。
早発一過性徐脈は、子宮収縮に伴って心拍数が緩やかに(開始から最下点まで30秒以上かけて)低下し、最下点が子宮収縮の頂点とほぼ一致して、収縮の終了とともに基線に戻る徐脈である。子宮収縮曲線と鏡像のような形をとり、低下の幅は通常小さい。児頭圧迫による迷走神経反射が原因とされ、臨床的意義は乏しい。本図の徐脈は収縮が終わった後も数分間持続しており、その形状や持続時間から早発一過性徐脈には当たらない。
- ○e. 遷延一過性徐脈を認める。
遷延一過性徐脈は、心拍数が基線から15bpm以上低下し、低下の開始から基線に戻るまでが2分以上10分未満のものをいう(10分以上続く場合は基線そのものの変化とみなす)。本図では強い子宮収縮を契機として心拍数が大きく低下し、数分間続いた後に基線へ回復する徐脈が2回みられ、この定義に合致する。最下点が80bpm未満であれば高度遷延一過性徐脈と分類される。臍帯圧迫、過強陣痛、仰臥位低血圧症候群などが原因となり、体位変換、子宮収縮薬の中止、酸素投与などの対応と、繰り返す場合には急速遂娩の検討が必要となる。
胎児心拍数陣痛図(CTG)の主な用語と定義
・心拍数基線:10分間の平均心拍数(一過性変動部分を除く)。正常脈110〜160bpm、徐脈110bpm未満、頻脈160bpm超。かつては正常範囲を120〜160bpmとしていたが、現在は110〜160bpmである。 ・基線細変動:1分間に2サイクル以上の心拍数の揺れの振幅で評価する。消失(肉眼で認めない)、減少(5bpm以下)、中等度(6〜25bpm、正常)、増加(26bpm以上)に分類する。サイヌソイダルパターン(規則的な正弦波様の変動)は胎児貧血などを示唆する。 ・一過性頻脈:15bpm以上・15秒以上2分未満の急な上昇(32週未満では10bpm以上・10秒以上)。胎児が元気であることを示す所見である。
一過性徐脈の4型
・早発一過性徐脈:緩やかに低下し、最下点が収縮の頂点と一致する。児頭圧迫による迷走神経反射で、通常は問題にならない。 ・遅発一過性徐脈:緩やかに低下し、最下点が収縮の頂点より遅れる。子宮胎盤循環不全による胎児低酸素を示唆する。 ・変動一過性徐脈:急速に(30秒未満で)15bpm以上低下し、15秒以上2分未満で回復する。子宮収縮との関係は一定しない。主に臍帯圧迫による。 ・遷延一過性徐脈:15bpm以上の低下が2分以上10分未満続く。臍帯圧迫、過強陣痛、母体低血圧、胎盤早期剝離などが原因となる。 最下点や低下幅によって軽度と高度に分けられ、遷延一過性徐脈では最下点80bpm未満を高度とする。
評価と対応
日本では基線、細変動、一過性徐脈の種類と程度を組み合わせて胎児心拍数波形をレベル1〜5に分類し、レベルに応じて経過観察、監視の強化、保存的処置(体位変換、酸素投与、子宮収縮薬の減量・中止、輸液)、急速遂娩の準備・実行を選択する。細変動が保たれていることは胎児の中枢神経系が低酸素に陥っていないことを示す重要な安心材料である。
POINT
・CTGは「基線 → 細変動 → 一過性頻脈 → 一過性徐脈」の順に読む。 ・心拍数基線の正常範囲は110〜160bpm。一過性の徐脈部分は基線の判定に含めない。 ・遷延一過性徐脈:15bpm以上の低下が2分以上10分未満持続。最下点80bpm未満で高度。 ・早発・遅発は「緩やかな低下」、変動・遷延は「急な低下」が典型。最下点と収縮頂点の時間関係、持続時間で区別する。 ・徐脈回復直後の一時的な上昇はovershootであり、一過性頻脈と区別する。 ・記録の一部分だけで細変動の消失と判断しない。
