外したら激痛―コンタクトレンズの下で角膜を溶かすグラム陰性桿菌の正体
第102回医師国家試験 I問題 第69問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。右眼の痛みと充血とを主訴に来院した。4年前からソフトコンタクトレンズを常用している。3日前から右眼の異物感と充血とがあったが,そのままコンタクトレンズを装用していた。昨夜,コンタクトレンズをはずした後,眼痛が強くなった。病変部の擦過物塗抹検鏡検査でグラム陰性桿菌が検出された。右眼の細隙灯顕微鏡写真を別に示す。 起因菌として考えられるのはどれか。

- a.淋菌
- b.大腸菌
- c.レジオネラ菌
- d.緑膿菌
- e.クラミジア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
コンタクトレンズ装用者に急性の眼痛・毛様充血を伴う角膜中央部の潰瘍がみられたら、まず感染性角膜炎を考え、病変部の擦過物の塗抹・培養で原因を確かめます。グラム陰性桿菌が検出されれば、湿潤環境に生息しレンズケースなどを汚染しやすい緑膿菌が代表的な起因菌で、組織破壊酵素により輪状膿瘍や前房蓄膿、短期間での角膜穿孔をきたしうる点が重要です。淋菌はグラム陰性双球菌、クラミジアはグラム染色で見えない偏性細胞内寄生菌、大腸菌やレジオネラは角膜潰瘍の起因菌としては考えにくく、「菌の形態」と「角膜潰瘍を起こすか」の2段階で鑑別できます。ソフトコンタクトレンズ装用者ではアカントアメーバ角膜炎も忘れてはならず、異常を感じたらすぐに装用を中止して受診するよう指導することが、視力を守る臨床上の要点です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・23歳女性、4年前からソフトコンタクトレンズを常用 ・3日前から右眼の異物感と充血があったが、コンタクトレンズの装用を続けていた ・昨夜レンズを外した後に眼痛が増強 ・細隙灯顕微鏡写真:角膜中央部に白色の浸潤・潰瘍病変と、強い毛様充血(角膜輪部周囲の充血) ・病変部の擦過物の塗抹検鏡でグラム陰性桿菌を検出
診断へのプロセス
コンタクトレンズ装用者に急性の眼痛・充血・異物感が生じ、角膜中央部に潰瘍性病変を認めることから、感染性角膜炎(角膜潰瘍)と考える。角膜周辺部の潰瘍は免疫学的機序などによる非感染性のことが多いのに対し、中央部の潰瘍の多くは感染性である。症状があるにもかかわらずレンズを装用し続けたことで、レンズ下の角膜上皮障害と低酸素状態が続き、病原体が角膜実質へ侵入しやすい状態になっていたと考えられる。 感染性角膜炎の原因には細菌、真菌、単純ヘルペスウイルス、アカントアメーバなどがあり、細隙灯所見だけで原因を確定することは難しい(ヘルペス性の樹枝状角膜炎などを除く)。そのため病変部の擦過物の塗抹検鏡と培養が診断の要となる。本例では塗抹でグラム陰性桿菌が検出されており、コンタクトレンズ関連の細菌性角膜潰瘍でグラム陰性桿菌といえば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が代表である。
設問の考え方
選択肢の病原体を、①グラム染色での形態(グラム陰性桿菌か)、②角膜潰瘍の起因菌となるか、の2点で絞り込む。両方を満たし、かつコンタクトレンズ装用という背景に合うのは緑膿菌である。
選択肢考察
- ×a. 淋菌
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)はグラム陰性の双球菌であり、桿菌ではないため塗抹所見と合わない。淋菌は新生児の産道感染や成人の性行為感染による急性化膿性結膜炎(大量の膿性眼脂を伴う)を起こし、角膜潰瘍から穿孔に至ることもあるが、本例のようなコンタクトレンズ関連角膜炎の典型的な起因菌ではない。
- ×b. 大腸菌
大腸菌はグラム陰性桿菌であり形態は合致するが、角膜潰瘍の起因菌となることはまれである。眼科領域では、尿路感染症などに由来する菌血症から内因性眼内炎を起こすことがある程度で、コンタクトレンズ関連角膜炎の起因菌としては考えにくい。
- ×c. レジオネラ菌
レジオネラ属菌はグラム陰性桿菌だが、循環式浴槽や冷却塔などの汚染水のエアロゾル吸入による肺炎(レジオネラ肺炎)やポンティアック熱の原因菌であり、角膜潰瘍の起因菌とはならない。また通常のグラム染色では染まりにくい。
- ○d. 緑膿菌
緑膿菌はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、水回りなどの湿潤環境に広く生息し、コンタクトレンズケースや不適切に管理された保存液を汚染しやすい。コンタクトレンズ装用による角膜上皮の微小な障害部位から侵入し、プロテアーゼなどの組織破壊酵素を産生して角膜実質を急速に融解させる。臨床的には、強い眼痛・毛様充血、粘稠な膿性眼脂、角膜中央部の潰瘍とその周囲のすりガラス状混濁、輪状膿瘍、前房蓄膿などを呈し、数日で角膜穿孔に至ることもある。コンタクトレンズ装用者の細菌性角膜潰瘍の代表的な起因菌であり、塗抹でグラム陰性桿菌が検出された本例に最もよく合致する。
- ×e. クラミジア
クラミジア(Chlamydia trachomatis)は偏性細胞内寄生性の細菌で、通常のグラム染色では観察できず、塗抹でグラム陰性桿菌として検出されることはない。眼科領域ではトラコーマ(血清型A〜C)や、性器からの自己感染による封入体結膜炎、新生児結膜炎(血清型D〜K)の原因となり、濾胞性結膜炎や角膜パンヌスを呈するが、本例のような急激な角膜潰瘍は起こさない。
感染性角膜炎(角膜潰瘍)の原因と特徴
・細菌性:緑膿菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、モラクセラ属などが多い。緑膿菌は急激に進行して輪状膿瘍や角膜穿孔をきたしやすい。肺炎球菌は角膜外傷後に匐行性角膜潰瘍を起こしやすい。 ・真菌性:植物などによる外傷後やステロイド点眼の長期使用者に多い。フザリウムなどの糸状菌では、羽毛状の辺縁を持つ病巣や、主病巣から離れた小さな浸潤巣(衛星病巣)がみられる。経過は比較的緩徐である。 ・ヘルペス性:単純ヘルペスウイルスによる樹枝状角膜炎・地図状角膜炎。角膜知覚が低下する。ステロイド点眼で悪化する。 ・アカントアメーバ性:ソフトコンタクトレンズ装用者で、レンズを水道水で洗うなど不適切なケアが危険因子となる。所見の割に激しい眼痛、放射状角膜神経炎、輪状浸潤が特徴で、診断が遅れやすく難治である。
コンタクトレンズと角膜感染症
コンタクトレンズ装用は角膜上皮の微小な傷や低酸素状態を招き、さらにレンズやレンズケースの汚染が加わることで感染性角膜炎の最大の危険因子となる。レンズを装用したまま就寝する連続装用、レンズケースや保存液の管理不良、症状出現後の装用継続などで危険性が高まる。異物感・充血・眼痛が出た時点で装用を中止し受診することが重要である。
診断と治療
病変部の擦過物の塗抹検鏡(グラム染色、真菌やアカントアメーバの検索)と培養・薬剤感受性検査を行う。細菌性角膜炎では、ニューキノロン系やアミノグリコシド系などの抗菌薬の頻回点眼が治療の中心で、重症例では全身投与を併用する。原因が確定するまでは、グラム陽性菌・陰性菌の両方をカバーする抗菌薬を組み合わせることが多い。
POINT
・コンタクトレンズ装用者の角膜潰瘍+グラム陰性桿菌 → 緑膿菌 ・緑膿菌性角膜潰瘍は急速に進行し、輪状膿瘍・前房蓄膿・角膜穿孔をきたし得る ・角膜中央部の潰瘍は感染性が多く、周辺部の潰瘍は非感染性が多い ・ソフトコンタクトレンズ装用者ではアカントアメーバ角膜炎(所見の割に激しい眼痛、放射状角膜神経炎)も重要 ・淋菌はグラム陰性双球菌、クラミジアはグラム染色で観察できない偏性細胞内寄生菌
