晴れた春の日に悪化する鼻水―花粉症の病態を「好酸球」から読み解く
第102回医師国家試験 I問題 第62問
国試問題にチャレンジ
24歳の女性。くしゃみ,鼻汁および鼻閉を主訴に来院した。鼻汁は水様性である。症状は4年前から春に出現し,晴天時に悪化する。 正しいのはどれか。
- a.Ⅱ型アレルギーである。
- b.血清IgA値が高い。
- c.嗅覚障害はない。
- d.鼻汁中に好酸球がみられる。
- e.吸入抗原としてはハウスダストが最も多い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
毎年同じ季節にくしゃみ・水様性鼻汁・鼻閉の三主徴が繰り返し、晴天時に悪化する場合は、花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)を考えます。花粉症はIgEが関わるⅠ型アレルギーで、肥満細胞から放出されるヒスタミンやロイコトリエンが症状を起こし、遅発相では好酸球が鼻粘膜に集まるため、鼻汁中の好酸球増多が診断上の重要な所見になります(感染性鼻炎では好中球が中心)。鼻閉により呼吸性嗅覚障害をきたすことがあり、日本の花粉症の原因で最も多いのはスギ花粉、ハウスダスト・ダニは通年性アレルギー性鼻炎の主な抗原です。治療は抗原回避と薬物療法を基本に、初期療法や舌下免疫療法も選択肢となります。アレルギーの型と関わる抗体・細胞を病態から理解しておくことは、鼻炎の鑑別や他のアレルギー疾患の理解にも広く役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・24歳の女性で、主訴はくしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉である。この3つはアレルギー性鼻炎の三主徴にあたる。 ・症状は4年前から毎年春に繰り返し出ており、季節性がはっきりしている。 ・晴天の日に悪化する。晴れて風のある日は花粉が大量に飛ぶため、花粉が原因であることを示す重要な手がかりである(雨の日は飛散量が減り、症状も軽くなりやすい)。
診断へのプロセス
毎年同じ季節に三主徴が繰り返し出ること、天候で症状が変わることから、季節性アレルギー性鼻炎、すなわち花粉症と診断できる。日本で春(おおむね2〜4月)に飛ぶ代表的な花粉はスギで、続いてヒノキ(3〜5月)が飛ぶ。 鑑別としては急性鼻炎(かぜ症候群)が挙がるが、4年間同じ季節に繰り返している点や、発熱・咽頭痛などの全身症状がない点から否定的である。血管運動性鼻炎(非アレルギー性で、温度差などが誘因になる)も三主徴を示すが、季節性や天候との関係ははっきりしない。
設問の考え方
花粉症(アレルギー性鼻炎)の病態について問う問題である。確認すべき点は次のとおり。 (1) アレルギーの型はどれか(Ⅰ型、IgEが関わる即時型)。 (2) どの免疫グロブリンが増えるか。 (3) 鼻閉が嗅覚にどう影響するか。 (4) 鼻汁の細胞所見はどうか。 (5) 原因抗原の頻度はどうか。
選択肢考察
- ×a. Ⅱ型アレルギーである。
誤り。花粉症はⅠ型(即時型)アレルギーである。花粉抗原に感作されると、特異的IgE抗体が作られ、鼻粘膜の肥満細胞(マスト細胞)の表面にあるIgE受容体に結合する。再び花粉を吸い込むと、抗原がIgEどうしを橋渡しするように結合し(架橋)、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出される。ヒスタミンは知覚神経を刺激してくしゃみを起こし、分泌腺を刺激して水様性鼻汁を増やす。ロイコトリエンは血管を広げて透過性を高め、粘膜をむくませて鼻閉を起こす。Ⅱ型は細胞表面の抗原にIgGやIgMが結合して細胞を傷害する反応で、自己免疫性溶血性貧血や重症筋無力症などが代表例である。
- ×b. 血清IgA値が高い。
誤り。Ⅰ型アレルギーで増えるのはIgEである。花粉症では、原因抗原に対する特異的IgEが検出される(ただし血清総IgEは正常範囲にとどまることも多い)。IgAは粘膜での感染防御に働く分泌型抗体の中心で、アレルギー性鼻炎で血清値が上がる特徴はない。血清IgAが高くなるのはIgA腎症やIgA型の多発性骨髄腫などである。
- ×c. 嗅覚障害はない。
誤り。アレルギー性鼻炎では鼻粘膜、特に下鼻甲介が腫れて鼻閉が起こる。そのため、においの分子が鼻腔の上方にある嗅裂(嗅上皮のある部分)まで届きにくくなり、嗅覚が低下することがある。このように、においが嗅粘膜まで届かないことによる嗅覚障害を呼吸性嗅覚障害という。炎症が嗅粘膜そのものに及ぶと、嗅粘膜性の障害が加わることもある。多くは鼻閉が改善すれば嗅覚も回復する。
- ○d. 鼻汁中に好酸球がみられる。
正しい。Ⅰ型アレルギーでは、抗原に触れた直後の即時相(くしゃみ・鼻汁が中心)に続いて、数時間後に遅発相(鼻閉が中心)が起こる。遅発相では、肥満細胞やTh2細胞(2型ヘルパーT細胞)から出るIL-5などのサイトカインや、ケモカインの働きで、好酸球が鼻粘膜に集まってくる。そのため鼻汁の塗抹標本(ハンセル染色など)で好酸球が増えているのが確認できる。鼻汁好酸球検査は、アレルギー性鼻炎と、感染性鼻炎や血管運動性鼻炎などの非アレルギー性鼻炎を見分けるのに役立つ。感染性鼻炎では好中球が中心になる。なお、好酸球増多性鼻炎のように、アレルギーではないのに鼻汁好酸球が陽性になる病型もあるため、確定には特異的IgEの証明や誘発試験を組み合わせる。
- ×e. 吸入抗原としてはハウスダストが最も多い。
誤り。本例は春に症状が出る花粉症であり、日本で花粉症の原因として最も多い吸入抗原はスギ花粉である。ほかにヒノキ(春)、カモガヤなどのイネ科(初夏)、ブタクサやヨモギなどのキク科(秋)の花粉も原因となる。ハウスダスト(主な成分はヤケヒョウヒダニなどのダニ)は季節に関係なく症状を起こす通年性アレルギー性鼻炎の主な原因であり、春に限って悪化する本例の抗原とは考えにくい。
アレルギー性鼻炎の分類
・通年性:ハウスダスト・ダニが主な抗原である。ほかにペットのふけ、真菌(カビ)、ゴキブリなど。 ・季節性(花粉症):スギ(2〜4月)、ヒノキ(3〜5月)、イネ科(カモガヤなど、5〜7月)、キク科(ブタクサ・ヨモギ、8〜10月)。北海道ではスギが少なく、シラカンバ(4〜6月)が重要である。
症状
くしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉が三主徴である。花粉症では眼のかゆみ・流涙などのアレルギー性結膜炎を伴うことが多い。スギ花粉症の一部では、咽頭のかゆみや皮膚症状を伴う。シラカンバ花粉症では、リンゴやモモなどバラ科の果物を食べたときに口の中がかゆくなる口腔アレルギー症候群を合併しやすい。
鼻腔所見
下鼻甲介の粘膜は蒼白でむくみ、水様性の鼻汁がみられる。花粉が多く飛ぶ時期には、粘膜が赤くなることもある。
検査
・鼻汁好酸球検査 ・皮膚テスト:皮内テスト、スクラッチテスト、プリックテスト ・血清特異的IgE抗体の測定:RAST(放射性アレルゲン吸着試験)など ・鼻誘発テスト:抗原ディスクを鼻粘膜に置いて症状が出るかを見る アレルギー性鼻炎の確定診断は、鼻汁好酸球検査と、皮膚テストまたは血清特異的IgE抗体のうち2つ以上が陽性であることを基本とする。
治療
・抗原の除去・回避:マスクや眼鏡の着用、帰宅時に衣服についた花粉を払う、など ・薬物療法:第2世代抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、鼻噴霧用ステロイド薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬など。花粉症では、飛散開始の前から始める初期療法が勧められる。 ・アレルゲン免疫療法:スギとダニには舌下免疫療法の薬がある。唯一、自然経過そのものを変えられる根本的な治療法とされる。 ・手術療法:鼻閉が強いときの下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術や粘膜下下鼻甲介切除術、鼻汁が多いときの後鼻神経切断術など。 ・重症・最重症の季節性アレルギー性鼻炎(スギ花粉症)で既存治療が効かない例には、抗IgE抗体(オマリズマブ)が使える。
POINT
・花粉症=季節性アレルギー性鼻炎で、IgEが関わるⅠ型アレルギーである。 ・三主徴はくしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉である。晴天・強風の日に悪化し、雨の日に軽くなる。 ・鼻汁中の好酸球増多は、アレルギー性鼻炎を示す重要な所見である(感染性鼻炎では好中球が中心)。 ・鼻閉により呼吸性嗅覚障害をきたすことがある。 ・日本の花粉症の原因で最も多いのはスギ花粉である。ハウスダスト・ダニは通年性アレルギー性鼻炎の主な抗原である。
