StudyMed医師国家試験

体は動かなくても、まなざしは賢い―Werdnig-Hoffmann病を「障害部位」から解く

第102回医師国家試験 I問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第15問

Werdnig-Hoffmann病について正しいのはどれか。

  1. a.知能は正常である。
  2. b.高CK血症を呈する。
  3. c.常染色体優性遺伝である。
  4. d.病初期から心不全を呈する。
  5. e.四肢遠位部の筋力低下から始まる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はWerdnig-Hoffmann病の特徴を問う問題だ。この病気は覚える項目が多く見えるけれど、「どこが障害される病気か」を押さえれば、選択肢はすべて理屈で判断できる。まず、どんな病気か説明できるかな。
医学生医学生
脊髄性筋萎縮症、SMAの一番重い乳児型、I型ですよね。
ドクタードクター
その通り。原因は第5染色体長腕にあるSMN1遺伝子の欠失や変異で、脊髄前角細胞、つまり下位運動ニューロンが選択的に変性・脱落していく。筋肉そのものではなく、筋肉を動かす神経が壊れる神経原性の筋萎縮なんだ。
医学生医学生
下位運動ニューロンだけが障害されるなら、大脳は無事ということですか。
ドクタードクター
まさにそこが正解のポイント。大脳皮質は侵されないから、知能は正常に保たれる。全身の筋力低下が非常に強いのに、目はしっかり合って、表情や視線で周囲によく反応する。これがこの病気の印象的な特徴なんだ。
医学生医学生
小児科の実習で、ほとんど体を動かせない赤ちゃんが目でお母さんを追っていたのを覚えています。あれがそうだったのかもしれません。
ドクタードクター
貴重な経験だね。知能が保たれることは、福山型先天性筋ジストロフィーのように知的障害を伴う疾患との鑑別にも役立つ。では、高CK血症はどうだろう。
医学生医学生
筋萎縮があるならCKは上がりそうですが…。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。CKは筋線維が壊れたときに血中に漏れ出す酵素だ。Duchenne型筋ジストロフィーのような筋原性疾患では著明に上がるけれど、本症は神経原性で筋線維そのものの壊死は主体ではない。だからCKは正常か、上がっても軽度にとどまる。
医学生医学生
筋原性か神経原性かでCKの動きが違う、と生化学と神経内科の講義をつなげて覚えておきます。遺伝形式はどうでしたっけ。
ドクタードクター
常染色体劣性遺伝だ。両親はたいてい無症状の保因者で、同胞が発症する確率は1/4。患者さんの大部分はSMN1遺伝子のエクソン7を含む両アレルの欠失をもっている。優性遺伝ではないね。
医学生医学生
心不全はどうですか。筋疾患の子どもは心筋症が問題になると聞いた気がします。
ドクタードクター
それはDuchenne型・Becker型筋ジストロフィーや筋強直性ジストロフィーのような筋疾患の話だね。Werdnig-Hoffmann病は運動ニューロンの病気だから心筋は侵されず、病初期から心不全になることはない。生命予後を左右するのは、呼吸筋の筋力低下による呼吸不全と、嚥下障害による誤嚥性肺炎だ。
医学生医学生
筋力低下は手足の先から始まるんでしょうか。
ドクタードクター
逆なんだ。SMAでは体幹と四肢の近位筋から目立ち、下肢のほうが上肢より強く障害されやすい。仰向けで下肢を外に開いて床につけたカエル肢位をとり、手指や足先はある程度動かせることが多い。遠位筋優位の筋力低下は、Charcot-Marie-Tooth病のような末梢神経障害や遠位型ミオパチーで見られる特徴だよ。
医学生医学生
障害部位が下位運動ニューロンだけ、と押さえれば、知能正常・CK軽度・心臓は無事・近位筋優位がすべてつながりますね。
ドクタードクター
その通り。身体所見も確認しておこう。抱き上げると体がぐにゃりとするフロッピーインファント、深部腱反射の低下〜消失、そして下位運動ニューロン障害の徴候として舌の線維束性収縮がある。肋間筋が弱く横隔膜は比較的保たれるので、吸気時に胸がへこみ腹が膨らむ奇異呼吸や釣鐘状の胸郭も見られる。
医学生医学生
OSCEの小児診察でフロッピーインファントの評価方法を練習しました。脇の下で支えると、すり抜けるような感じになるんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。病型も整理しておこう。I型は生後6か月までに発症し座位を獲得できない。II型のDubowitz病は座位は保てるが歩けない、III型のKugelberg-Welander病は歩行を獲得するが徐々に困難になる。重症度にはSMN1とよく似たSMN2遺伝子のコピー数が関係して、多いほど軽症になる傾向がある。
医学生医学生
治療は対症療法しかないと思っていました。
ドクタードクター
以前はそうだったけれど、今は大きく変わった。SMN2のスプライシングを修飾して機能的なSMNタンパクを増やすヌシネルセン(髄腔内投与)やリスジプラム(経口)、SMN1を補う遺伝子治療薬オナセムノゲン アベパルボベクが使える。早く治療するほど効果が高いので、新生児スクリーニングの導入も進められている。症状に早く気づくことが、子どもの将来を大きく左右する病気になったんだ。

まとめ

Werdnig-Hoffmann病は脊髄性筋萎縮症の最重症型(SMA I型)で、SMN1遺伝子(5q13)の異常による常染色体劣性遺伝疾患です。脊髄前角細胞などの下位運動ニューロンが選択的に障害されるため、知能は正常に保たれ、筋線維自体の壊死は主体でないのでCKは正常〜軽度上昇にとどまり、心筋も侵されません。筋力低下は体幹・近位筋優位で、フロッピーインファント、カエル肢位、腱反射消失、舌の線維束性収縮、奇異呼吸が特徴で、死因は主に呼吸不全や誤嚥性肺炎です。高CK血症や心筋症を伴う筋ジストロフィー、遠位筋優位の末梢神経障害とは、障害部位の違いから鑑別できます。現在はヌシネルセンやリスジプラム、遺伝子治療といった疾患修飾治療が使えるようになり、早期診断の重要性が増しています。

解答・解説

正解はaです

Werdnig-Hoffmann病は、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)のうち最も重症な乳児型(SMA I型)である。本問では、この疾患が「どこが障害される病気か」を押さえれば、各選択肢の正誤を判断できる。

病態の要点

・原因:第5染色体長腕(5q13)にあるSMN1遺伝子(survival motor neuron 1)の欠失・変異。常染色体劣性遺伝。 ・障害部位:脊髄前角細胞(および脳幹の運動神経核)=下位運動ニューロンが選択的に変性・脱落する。 ・結果:神経原性の筋萎縮・筋力低下。上位運動ニューロン、大脳(知能)、感覚神経、筋そのもの、心筋は原則として障害されない。

正解を導く考え方

病変が下位運動ニューロンに限られることから、①知能は保たれる、②筋線維自体の破壊はないのでCK(クレアチンキナーゼ)は著明には上昇しない、③心筋は侵されない、といった特徴が導かれる。また、筋力低下は体幹・四肢の近位筋から目立つ。遺伝形式は劣性である。これらを一つずつ選択肢と照合すると、正しいのは「知能は正常である」である。

選択肢考察

  1. ○a.  知能は正常である。

    Werdnig-Hoffmann病で侵されるのは脊髄前角細胞などの下位運動ニューロンであり、大脳皮質は障害されない。そのため知的発達は正常で、全身の筋力低下が高度であるにもかかわらず、目の動きや表情で周囲とよく反応し、視線がしっかり合うことが特徴とされる。この点は、中枢神経障害を伴う疾患(例:福山型先天性筋ジストロフィーでは知的障害を伴う)との鑑別にも役立つ。

  2. ×b.  高CK血症を呈する。

    CKは筋線維が壊れたときに血中に漏れ出る酵素であり、Duchenne型筋ジストロフィーなどの筋原性疾患で著明に上昇する。Werdnig-Hoffmann病は神経原性筋萎縮であり、筋線維そのものの壊死は主体ではないため、血清CKは正常か、上昇しても軽度にとどまる。高CK血症は本症の特徴ではない。

  3. ×c.  常染色体優性遺伝である。

    Werdnig-Hoffmann病を含む5q関連SMAは常染色体劣性遺伝である。両親はともに保因者(SMN1遺伝子の片方に異常を持つが無症状)であることが多く、同胞の発症確率は1/4となる。患者の大部分(約95%)はSMN1遺伝子のエクソン7を含む両アレルのホモ接合性欠失を示す。

  4. ×d.  病初期から心不全を呈する。

    本症は運動ニューロンの疾患であり、心筋は障害されないため、病初期から心不全を呈することはない。心筋障害(心筋症)による心不全が問題となるのは、Duchenne型・Becker型筋ジストロフィーなどジストロフィン異常症や筋強直性ジストロフィーのような筋疾患である。Werdnig-Hoffmann病の生命予後を左右するのは、呼吸筋の筋力低下による呼吸不全と、嚥下障害による誤嚥性肺炎である。

  5. ×e.  四肢遠位部の筋力低下から始まる。

    SMAの筋力低下・筋萎縮は、体幹と四肢の近位筋から目立ち、下肢は上肢より強く障害される傾向がある。乳児は仰臥位で四肢を動かせず、下肢を外転・外旋させて床につけたカエル肢位(frog-leg posture)をとり、手指や足先はある程度動かせることが多い。遠位筋優位の筋力低下はCharcot-Marie-Tooth病などの末梢神経障害や遠位型ミオパチーでみられる特徴である。

脊髄性筋萎縮症(SMA)の病型分類(発症年齢と到達運動機能による)

・0型:胎児期発症。出生時から重度の筋力低下・呼吸不全。 ・I型(Werdnig-Hoffmann病):生後6か月までに発症。定頸・座位獲得が困難。治療がなければ多くは2歳までに呼吸不全で死亡。 ・II型(Dubowitz病):1歳6か月までに発症。座位は保てるが、支えなしの起立・歩行は獲得できない。 ・III型(Kugelberg-Welander病):1歳6か月以降に発症。歩行を獲得するが、その後徐々に困難となる。 ・IV型:成人期発症。軽症。 重症度には、SMN1とよく似たSMN2遺伝子のコピー数が関係し、コピー数が多いほど軽症となる傾向がある。

I型の主な症状

・フロッピーインファント(筋緊張低下児):抱き上げると体がぐにゃりとして、脇の下で支えると滑り落ちるような感じになる。 ・カエル肢位、深部腱反射の低下〜消失。 ・舌の線維束性収縮(舌の細かなピクつき):下位運動ニューロン障害の徴候。 ・肋間筋が弱く横隔膜は比較的保たれるため、奇異呼吸(吸気時に胸が陥凹し腹部が膨らむ)や釣鐘状の胸郭がみられる。 ・哺乳力低下・嚥下障害。 ・知能・感覚・外眼筋は保たれる。

検査

・遺伝子検査:SMN1遺伝子の欠失の確認が確定診断の中心。 ・針筋電図:神経原性変化(線維自発電位、高振幅・長持続の運動単位電位)。 ・筋生検:群萎縮(group atrophy)。 ・血清CK:正常〜軽度上昇。

治療(近年の進歩)

従来は呼吸管理・栄養管理などの対症療法のみであったが、現在は疾患修飾治療が可能となっている。SMN2遺伝子のスプライシングを修飾して機能的なSMNタンパクを増やすヌシネルセン(髄腔内投与のアンチセンス核酸)やリスジプラム(経口薬)、SMN1遺伝子を補う遺伝子治療薬オナセムノゲン アベパルボベクがある。早期治療ほど効果が高いため、新生児スクリーニングの導入が進められている。

POINT

・Werdnig-Hoffmann病=SMA I型。SMN1遺伝子(5q13)異常による常染色体劣性遺伝。 ・脊髄前角細胞(下位運動ニューロン)の変性 → 神経原性筋萎縮。 ・知能は正常、感覚障害なし、CKは正常〜軽度上昇、心筋障害なし。 ・近位筋優位の筋力低下、フロッピーインファント、カエル肢位、舌の線維束性収縮、腱反射消失。 ・死因は呼吸不全・誤嚥性肺炎。現在はヌシネルセン・リスジプラム・遺伝子治療が使える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。