体は動かなくても、まなざしは賢い―Werdnig-Hoffmann病を「障害部位」から解く
第102回医師国家試験 I問題 第15問
国試問題にチャレンジ
Werdnig-Hoffmann病について正しいのはどれか。
- a.知能は正常である。
- b.高CK血症を呈する。
- c.常染色体優性遺伝である。
- d.病初期から心不全を呈する。
- e.四肢遠位部の筋力低下から始まる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Werdnig-Hoffmann病は脊髄性筋萎縮症の最重症型(SMA I型)で、SMN1遺伝子(5q13)の異常による常染色体劣性遺伝疾患です。脊髄前角細胞などの下位運動ニューロンが選択的に障害されるため、知能は正常に保たれ、筋線維自体の壊死は主体でないのでCKは正常〜軽度上昇にとどまり、心筋も侵されません。筋力低下は体幹・近位筋優位で、フロッピーインファント、カエル肢位、腱反射消失、舌の線維束性収縮、奇異呼吸が特徴で、死因は主に呼吸不全や誤嚥性肺炎です。高CK血症や心筋症を伴う筋ジストロフィー、遠位筋優位の末梢神経障害とは、障害部位の違いから鑑別できます。現在はヌシネルセンやリスジプラム、遺伝子治療といった疾患修飾治療が使えるようになり、早期診断の重要性が増しています。
解答・解説
正解はaです
Werdnig-Hoffmann病は、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)のうち最も重症な乳児型(SMA I型)である。本問では、この疾患が「どこが障害される病気か」を押さえれば、各選択肢の正誤を判断できる。
病態の要点
・原因:第5染色体長腕(5q13)にあるSMN1遺伝子(survival motor neuron 1)の欠失・変異。常染色体劣性遺伝。 ・障害部位:脊髄前角細胞(および脳幹の運動神経核)=下位運動ニューロンが選択的に変性・脱落する。 ・結果:神経原性の筋萎縮・筋力低下。上位運動ニューロン、大脳(知能)、感覚神経、筋そのもの、心筋は原則として障害されない。
正解を導く考え方
病変が下位運動ニューロンに限られることから、①知能は保たれる、②筋線維自体の破壊はないのでCK(クレアチンキナーゼ)は著明には上昇しない、③心筋は侵されない、といった特徴が導かれる。また、筋力低下は体幹・四肢の近位筋から目立つ。遺伝形式は劣性である。これらを一つずつ選択肢と照合すると、正しいのは「知能は正常である」である。
選択肢考察
- ○a. 知能は正常である。
Werdnig-Hoffmann病で侵されるのは脊髄前角細胞などの下位運動ニューロンであり、大脳皮質は障害されない。そのため知的発達は正常で、全身の筋力低下が高度であるにもかかわらず、目の動きや表情で周囲とよく反応し、視線がしっかり合うことが特徴とされる。この点は、中枢神経障害を伴う疾患(例:福山型先天性筋ジストロフィーでは知的障害を伴う)との鑑別にも役立つ。
- ×b. 高CK血症を呈する。
CKは筋線維が壊れたときに血中に漏れ出る酵素であり、Duchenne型筋ジストロフィーなどの筋原性疾患で著明に上昇する。Werdnig-Hoffmann病は神経原性筋萎縮であり、筋線維そのものの壊死は主体ではないため、血清CKは正常か、上昇しても軽度にとどまる。高CK血症は本症の特徴ではない。
- ×c. 常染色体優性遺伝である。
Werdnig-Hoffmann病を含む5q関連SMAは常染色体劣性遺伝である。両親はともに保因者(SMN1遺伝子の片方に異常を持つが無症状)であることが多く、同胞の発症確率は1/4となる。患者の大部分(約95%)はSMN1遺伝子のエクソン7を含む両アレルのホモ接合性欠失を示す。
- ×d. 病初期から心不全を呈する。
本症は運動ニューロンの疾患であり、心筋は障害されないため、病初期から心不全を呈することはない。心筋障害(心筋症)による心不全が問題となるのは、Duchenne型・Becker型筋ジストロフィーなどジストロフィン異常症や筋強直性ジストロフィーのような筋疾患である。Werdnig-Hoffmann病の生命予後を左右するのは、呼吸筋の筋力低下による呼吸不全と、嚥下障害による誤嚥性肺炎である。
- ×e. 四肢遠位部の筋力低下から始まる。
SMAの筋力低下・筋萎縮は、体幹と四肢の近位筋から目立ち、下肢は上肢より強く障害される傾向がある。乳児は仰臥位で四肢を動かせず、下肢を外転・外旋させて床につけたカエル肢位(frog-leg posture)をとり、手指や足先はある程度動かせることが多い。遠位筋優位の筋力低下はCharcot-Marie-Tooth病などの末梢神経障害や遠位型ミオパチーでみられる特徴である。
脊髄性筋萎縮症(SMA)の病型分類(発症年齢と到達運動機能による)
・0型:胎児期発症。出生時から重度の筋力低下・呼吸不全。 ・I型(Werdnig-Hoffmann病):生後6か月までに発症。定頸・座位獲得が困難。治療がなければ多くは2歳までに呼吸不全で死亡。 ・II型(Dubowitz病):1歳6か月までに発症。座位は保てるが、支えなしの起立・歩行は獲得できない。 ・III型(Kugelberg-Welander病):1歳6か月以降に発症。歩行を獲得するが、その後徐々に困難となる。 ・IV型:成人期発症。軽症。 重症度には、SMN1とよく似たSMN2遺伝子のコピー数が関係し、コピー数が多いほど軽症となる傾向がある。
I型の主な症状
・フロッピーインファント(筋緊張低下児):抱き上げると体がぐにゃりとして、脇の下で支えると滑り落ちるような感じになる。 ・カエル肢位、深部腱反射の低下〜消失。 ・舌の線維束性収縮(舌の細かなピクつき):下位運動ニューロン障害の徴候。 ・肋間筋が弱く横隔膜は比較的保たれるため、奇異呼吸(吸気時に胸が陥凹し腹部が膨らむ)や釣鐘状の胸郭がみられる。 ・哺乳力低下・嚥下障害。 ・知能・感覚・外眼筋は保たれる。
検査
・遺伝子検査:SMN1遺伝子の欠失の確認が確定診断の中心。 ・針筋電図:神経原性変化(線維自発電位、高振幅・長持続の運動単位電位)。 ・筋生検:群萎縮(group atrophy)。 ・血清CK:正常〜軽度上昇。
治療(近年の進歩)
従来は呼吸管理・栄養管理などの対症療法のみであったが、現在は疾患修飾治療が可能となっている。SMN2遺伝子のスプライシングを修飾して機能的なSMNタンパクを増やすヌシネルセン(髄腔内投与のアンチセンス核酸)やリスジプラム(経口薬)、SMN1遺伝子を補う遺伝子治療薬オナセムノゲン アベパルボベクがある。早期治療ほど効果が高いため、新生児スクリーニングの導入が進められている。
POINT
・Werdnig-Hoffmann病=SMA I型。SMN1遺伝子(5q13)異常による常染色体劣性遺伝。 ・脊髄前角細胞(下位運動ニューロン)の変性 → 神経原性筋萎縮。 ・知能は正常、感覚障害なし、CKは正常〜軽度上昇、心筋障害なし。 ・近位筋優位の筋力低下、フロッピーインファント、カエル肢位、舌の線維束性収縮、腱反射消失。 ・死因は呼吸不全・誤嚥性肺炎。現在はヌシネルセン・リスジプラム・遺伝子治療が使える。
