喉頭がん32倍の衝撃―グラフの形が語る「煙の通り道」
第102回医師国家試験 H問題 第17問
国試問題にチャレンジ
ある生活習慣による臓器別の発がん相対危険度を別に示す。 この生活習慣はどれか。

- a.香辛料多量摂取
- b.高脂肪食摂取
- c.食塩多量摂取
- d.喫煙
- e.飲酒
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喫煙による臓器別の発がん相対危険度は、煙が直接通過する喉頭で約32倍と突出し、肺(約4.5倍)、口腔・咽頭、食道がこれに続きます。さらに発がん物質が血流で全身に運ばれ尿中に排泄されるため、膀胱や膵臓など煙に直接触れない臓器のリスクも上がり、がん全体のリスクも上昇するのが特徴です。食塩なら胃、高脂肪食なら大腸・乳房・前立腺、飲酒なら口腔・咽頭・食道・肝臓と、生活習慣ごとにリスクが高まる臓器の組み合わせを押さえておけば、グラフの形から要因を見抜けます。喫煙と飲酒が重なると頭頸部・食道のがんのリスクは相乗的に高まるため、禁煙・節酒の指導はがん予防の基本として臨床でも重要です。
解答・解説
正解はdです
ある生活習慣をもつ人が、もたない人に比べて各臓器のがんに何倍かかりやすいか(相対危険度)を示した棒グラフから、その生活習慣を推定する問題である。
相対危険度とは
相対危険度(relative risk:RR)は、要因に曝露された群の罹患率(または死亡率)を、曝露されていない群の罹患率で割った値である。1ならば要因と疾患の関連はなく、1より大きいほどその要因で疾患が起こりやすいことを示す。
グラフの読み取り
・喉頭:32.5と、他の臓器と桁違いに高い(グラフの軸を途中で省略して表示している)。 ・肺:約4.5と2番目に高い。 ・口腔・咽頭:約3、食道:約2.3と、上気道・上部消化管でも明らかな上昇がある。 ・膀胱、膵臓、肝臓、胃:おおむね1.5〜1.6程度の上昇。 ・結腸、直腸、胆管・胆嚢、腎臓:1.1〜1.3程度の軽い上昇。前立腺はほぼ1で関連がない。 ・全部位(がん全体)でも約1.6と上昇している。
考え方
特徴は、1) 喉頭がんと肺がんで突出して高いこと、2) 口腔・咽頭、食道といった煙が直接触れる部位でも高いこと、3) 膀胱・膵臓など煙が直接触れない臓器でも上昇していること(吸収された発がん物質が血流で全身に運ばれ、尿中に排泄されるため)、4) がん全体のリスクも上がること、である。吸い込んだ煙が通過する気道で最も強く影響が出て、さらに全身の多臓器に及ぶというパターンは喫煙に特徴的である。喉頭がんの相対危険度が約32倍という数値は、喫煙とがんの関係を示す代表的なデータとして押さえておきたい。
選択肢考察
- ×a. 香辛料多量摂取
誤り。香辛料(唐辛子など)の多量摂取は、口腔や食道の粘膜への化学的刺激を通じて口腔がんや食道がんとの関連が指摘されることがあるが、確立した危険因子とはいえず、一部の成分には抗腫瘍作用の報告もある。少なくとも、吸入経路で曝露される喉頭や肺のがんのリスクが30倍以上・4倍以上に上がるという本グラフのパターンは説明できない。
- ×b. 高脂肪食摂取
誤り。高脂肪食(特に動物性脂肪・赤肉や加工肉の多い食事)は、大腸(結腸・直腸)がん、乳がん、前立腺がんなどとの関連が指摘されている。その影響が出るなら結腸・直腸や前立腺で高い値になるはずであるが、本グラフでは結腸・直腸は約1.3、前立腺はほぼ1にとどまり、喉頭と肺が突出しているため合致しない。
- ×c. 食塩多量摂取
誤り。食塩や塩蔵食品(漬物、塩干物など)の多量摂取は胃がんの危険因子である。高濃度の塩分が胃粘膜を傷害し、ヘリコバクター・ピロリ感染による慢性胃炎を悪化させることなどが関与すると考えられている。食塩が原因ならば胃のリスクが最も目立つはずであるが、本グラフでは胃は約1.5にすぎず、喉頭・肺が突出するパターンとは合わない。
- ○d. 喫煙
正しい。たばこの煙にはベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、たばこ特異的ニトロソアミン、芳香族アミンなど、多数の発がん物質が含まれる。煙が直接通過する喉頭(約32倍)と肺(約4.5倍)で相対危険度が最も高く、口腔・咽頭、食道でも明らかに上昇する。さらに、発がん物質は血流に乗って全身に運ばれ、尿に排泄されるため、膀胱、膵臓、腎臓などでもリスクが上がり、がん全体の相対危険度も上昇する。気道で突出し、かつ多臓器に及ぶという本グラフのパターンは喫煙に一致する。
- ×e. 飲酒
誤り。飲酒は口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝がん、大腸がん、乳がんの危険因子である。アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドが発がん性をもち、特にアセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が弱い人(飲酒で顔が赤くなる体質)では食道がんのリスクが大きく上がる。しかし飲酒ではアルコールが直接触れる口腔・咽頭・食道や、代謝の場である肝臓のリスク上昇が中心となり、肺がんとの明確な関連はない。喉頭がんが30倍を超え、肺がんが4倍を超えるという本グラフのパターンは、飲酒単独では説明できない。なお喫煙と飲酒が重なると、口腔・咽頭、喉頭、食道のがんのリスクは相乗的に高まる。
喫煙と関連するがん
喫煙との因果関係が確実とされるがんは、肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱、子宮頸部など多岐にわたる。受動喫煙も肺がんのリスクを高めることが確実とされる。 肺がんの組織型では、扁平上皮がんと小細胞がんが特に喫煙との関連が強い(腺がんも喫煙で増加するが、非喫煙者にも多い)。
主な生活習慣と関連するがん
喫煙:喉頭、肺、口腔・咽頭、食道、膀胱、膵臓など多臓器 飲酒:口腔・咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸、乳房 食塩・塩蔵食品:胃 高脂肪食・赤肉・加工肉:大腸、(乳房、前立腺との関連も指摘) 肥満:大腸、乳房(閉経後)、子宮体部、腎臓、食道腺がん、肝臓など 熱い飲食物:食道 感染症:ヘリコバクター・ピロリ(胃)、B型・C型肝炎ウイルス(肝臓)、ヒトパピローマウイルス(子宮頸部、中咽頭)、EBウイルス(上咽頭)、HTLV-1(成人T細胞白血病)
喉頭がん
男性が女性より圧倒的に多い(罹患率はおおむね10倍前後)。組織型はほとんどが扁平上皮がんで、発生部位は声門(声帯)が最も多く約6割、次いで声門上が約3割強で、声門下はまれである。声門がんは早期から嗄声(声がれ)が出るため早期発見されやすく、頭頸部がんの中では治療成績が良好である。喫煙が最大の危険因子であり、飲酒も加わると相乗的にリスクが上がる。
POINT
・喫煙による相対危険度は喉頭がんで約32倍と突出し、肺がん(約4.5倍)がこれに続く。 ・喫煙は口腔・咽頭、食道のほか、膀胱、膵臓など煙に直接触れない臓器のがんのリスクも高める。 ・生活習慣とがんの組み合わせ:食塩→胃がん、高脂肪食→大腸がん・乳がん、飲酒→口腔・咽頭・食道・肝臓がん。 ・喫煙と飲酒は口腔・咽頭、喉頭、食道のがんで相乗的にリスクを上げる。
