尿は腎臓の「通知表」―濃さとナトリウムで読み解く急性腎不全の原因
第102回医師国家試験 G問題 第37問
国試問題にチャレンジ
急性腎不全の原因の鑑別に有用でないのはどれか。
- a.尿蛋白
- b.尿浸透圧
- c.尿ナトリウム濃度
- d.尿カルシウム濃度
- e.尿中クレアチニン/血清クレアチニン比
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性腎不全(急性腎障害)は腎前性・腎性・腎後性に分けて原因を考え、腎後性は超音波で水腎症を確認し、腎前性と急性尿細管壊死の区別には尿検査が役立ちます。腎前性では尿細管が健常なため濃くナトリウムの少ない尿(尿浸透圧高値、尿Na低値、FENa 1%未満、尿中/血清クレアチニン比40以上)となり、尿細管壊死では等張でナトリウムの多い尿になります。尿蛋白や尿沈渣は糸球体腎炎や尿細管・間質障害など腎性の原因を示す手がかりとなる一方、尿カルシウム濃度は病型によって特徴的な変化を示さないため鑑別には用いません。利尿薬使用中はFENaが当てにならずFEUNを用いるなど、各指標が「濃縮力」「Na再吸収」「腎実質障害」のどれを反映するかを理解しておくことが、急性腎不全の迅速な原因診断と治療方針の決定につながります。
解答・解説
正解はdです
急性腎不全(現在は急性腎障害 AKI: acute kidney injury と呼ぶのが一般的)は、原因の部位によって腎前性・腎性・腎後性の3つに分けて考える。治療方針がまったく異なるため、この区別が診療の出発点となる。 腎後性は尿路の閉塞によるもので、主に腹部超音波検査で水腎症の有無をみて判断する。一方、腎前性(脱水・出血・心不全などで腎血流が減少した状態)と腎性(とくに急性尿細管壊死 ATN: acute tubular necrosis)の区別には、尿検査と血液検査の組み合わせが役立つ。 考え方の軸は「尿細管が正常に働いているかどうか」である。腎前性では尿細管そのものは健常で、腎血流の低下に反応してナトリウムと水を強く再吸収するため、濃く(高浸透圧)、ナトリウムの少ない尿が出る。これに対してATNでは尿細管上皮が障害され、再吸収も濃縮もできなくなるため、血漿に近い浸透圧で、ナトリウムを多く含む尿となる。したがって、尿の濃縮力(尿浸透圧、尿中/血清クレアチニン比)やナトリウム再吸収能(尿ナトリウム濃度、ナトリウム排泄分画 FENa)を反映する指標が鑑別に有用である。また、尿蛋白や尿沈渣は糸球体腎炎など腎実質疾患の存在を示す手がかりとなる。 これに対し、尿カルシウム濃度は腎前性と腎性のいずれでも特徴的な変化を示さず、原因鑑別の指標として用いられない。
選択肢考察
- ×a. 尿蛋白
鑑別に有用である。腎前性や腎後性では尿蛋白はないか、あってもごく軽度にとどまる。明らかな蛋白尿(とくに血尿や赤血球円柱を伴う場合)は糸球体腎炎・急速進行性糸球体腎炎などの糸球体疾患を示唆し、腎性の原因を考える根拠となる。また、β2ミクログロブリンやα1ミクログロブリンなどの低分子量蛋白が尿中に増える尿細管性蛋白尿は、尿細管障害(ATNや急性間質性腎炎)を示す所見である。蛋白尿の有無と性状(糸球体性か尿細管性か)の評価は、腎性急性腎不全の原因を絞り込むうえで欠かせない。
- ×b. 尿浸透圧
鑑別に有用である。腎前性では尿細管の濃縮機能が保たれ、抗利尿ホルモン(ADH)の作用も加わって水が強く再吸収されるため、尿浸透圧は高値(おおむね500 mOsm/kg・H2O以上、400以上を目安とする資料もある)となる。ATNでは濃縮力が失われ、尿浸透圧は血漿浸透圧(約290 mOsm/kg・H2O)に近い値(350 mOsm/kg・H2O以下程度)にとどまる(等張尿)。尿浸透圧は腎の濃縮力を直接反映する指標である。
- ×c. 尿ナトリウム濃度
鑑別に有用である。腎前性では有効循環血液量の低下に対してレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が働き、尿細管でナトリウムが積極的に再吸収されるため、尿ナトリウム濃度は低値(20 mEq/L未満)となる。ATNでは尿細管のナトリウム再吸収能が障害され、尿ナトリウム濃度は高値(40 mEq/L超)となる。尿量による濃縮・希釈の影響を除くため、実際にはナトリウム排泄分画(FENa)を併せて評価することが多い(腎前性で1%未満、ATNで2%超が目安)。ただし利尿薬使用中は腎前性でも尿ナトリウムが高くなる点に注意する。
- ○d. 尿カルシウム濃度
鑑別に有用でない指標であり、これが正解である。尿カルシウム排泄は、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進症、ビタミンD過剰、尿路結石の原因検索(特発性高カルシウム尿症)などの評価に用いる検査である。腎前性と腎性(ATN)のあいだで尿カルシウム濃度に一定の差は生じず、急性腎不全の病型を区別する根拠とはならない。
- ×e. 尿中クレアチニン/血清クレアチニン比
鑑別に有用である。クレアチニンは糸球体で濾過された後ほとんど再吸収されないため、尿中クレアチニンが血清の何倍に濃縮されているかは、尿細管でどれだけ水が再吸収されたか(濃縮力)を反映する。腎前性では水の再吸収が亢進しているため比は高値(40以上)となり、ATNでは濃縮できないため低値(20以下)となる。同様の考え方の指標に尿中/血漿尿素窒素比があり、血液側の指標としては BUN/血清クレアチニン比(腎前性で20以上)も用いられる。
急性腎不全(AKI)の分類
・腎前性: 腎血流量の低下による。脱水、出血、ショック、心不全、肝硬変、NSAIDs・ACE阻害薬などの薬剤など。腎自体に器質的障害はなく、原因を除けば速やかに回復しうる。ただし放置すると虚血によるATNへ移行する。 ・腎性: 腎実質の障害。急性尿細管壊死(虚血、造影剤・アミノグリコシドなどの腎毒性物質、横紋筋融解症)、急性間質性腎炎(薬剤アレルギーなど)、急速進行性糸球体腎炎、血管病変(血栓性微小血管症など)。 ・腎後性: 尿路の閉塞。前立腺肥大症、両側尿管結石、骨盤内腫瘍など。超音波検査で水腎症や膀胱の尿貯留を確認する。
腎前性と腎性(ATN)の鑑別指標の目安
・尿浸透圧: 腎前性 >500、ATN <350(mOsm/kg・H2O) ・尿比重: 腎前性 >1.020、ATN 約1.010(等張尿) ・尿ナトリウム濃度: 腎前性 <20、ATN >40(mEq/L) ・FENa: 腎前性 <1%、ATN >2% ・尿中/血清クレアチニン比: 腎前性 >40、ATN <20 ・BUN/血清クレアチニン比: 腎前性 >20、ATN 10〜20程度 ・尿沈渣: 腎前性は硝子円柱程度でほぼ正常、ATNでは泥状褐色の顆粒円柱や尿細管上皮細胞
FENa(ナトリウム排泄分画)の計算
FENa(%)=(尿Na×血清Cr)÷(血清Na×尿Cr)×100 糸球体で濾過されたナトリウムのうち何%が尿中へ出たかを示す値で、尿量の影響を受けにくい。利尿薬使用時は尿素窒素排泄分画(FEUN、腎前性で35%未満)が代わりに用いられる。
POINT
・急性腎不全は腎前性・腎性・腎後性に分けて原因を考える。 ・腎前性は尿細管機能が保たれるため「濃い尿・Naの少ない尿」、ATNは「等張尿・Naの多い尿」になる。 ・鑑別に使う指標: 尿浸透圧、尿比重、尿Na濃度、FENa、尿中/血清クレアチニン比、BUN/Cr比、尿蛋白、尿沈渣。 ・尿カルシウム濃度は急性腎不全の病型鑑別には用いない。 ・腎後性の鑑別には腹部超音波検査(水腎症の確認)が基本。
