StudyMed医師国家試験

尿は腎臓の「通知表」―濃さとナトリウムで読み解く急性腎不全の原因

第102回医師国家試験 G問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第37問

急性腎不全の原因の鑑別に有用でないのはどれか。

  1. a.尿蛋白
  2. b.尿浸透圧
  3. c.尿ナトリウム濃度
  4. d.尿カルシウム濃度
  5. e.尿中クレアチニン/血清クレアチニン比

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性腎不全の原因を見分けるときに、どの尿検査が役に立つかを問う問題だ。ポイントは「その検査値が、腎臓のどんな働きを映しているか」を考えること。まず、急性腎不全の原因はどう分類するんだったかな。
医学生医学生
腎前性、腎性、腎後性の3つです。腎臓内科の講義で最初に叩き込まれました。
ドクタードクター
その通り。今は急性腎障害、AKIと呼ぶことが多いけれど、この3分類が診療の出発点なのは変わらない。腎後性は尿路の閉塞だから、主に腹部超音波で水腎症を探す。尿検査が真価を発揮するのは、腎前性と腎性、とくに急性尿細管壊死の区別なんだ。
医学生医学生
腎前性は脱水や出血で腎臓への血流が減った状態ですよね。でも、どちらも尿が減ってクレアチニンが上がるので、見分けがつくのか不安です。
ドクタードクター
そこで考え方の軸を一つ持とう。「尿細管がちゃんと働いているかどうか」だ。腎前性では尿細管そのものは元気で、血流が減ったことに反応して、ナトリウムと水を必死に取り戻そうとする。その結果、どんな尿が出ると思う?
医学生医学生
水もナトリウムも再吸収されるので、濃くてナトリウムの少ない尿でしょうか。
ドクタードクター
正解。逆に急性尿細管壊死では尿細管上皮が壊れているから、濃縮も再吸収もできない。血漿に近い浸透圧で、ナトリウムを多く含んだ尿が出てくる。だから「濃さ」と「ナトリウム」を測る検査が鑑別に使えるわけだ。まず尿浸透圧はどうだろう。
医学生医学生
濃縮力そのものを見ているので有用ですね。腎前性では高くて、尿細管壊死では血漿の290くらいに近くなる、と。
ドクタードクター
そう。腎前性ではおおむね500 mOsm/kg・H2O以上、尿細管壊死では350以下程度が目安だ。尿比重も同じ考え方で、等張尿なら1.010前後に固定される。次に尿ナトリウム濃度は?
医学生医学生
腎前性ではレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が働いてナトリウムを再吸収するので低くなる、という理屈ですね。
ドクタードクター
その通り。腎前性で20 mEq/L未満、尿細管壊死で40 mEq/L超が目安だ。ただ尿の濃さで濃度は変わるから、実際にはナトリウム排泄分画、FENaを計算することが多い。腎前性で1%未満、尿細管壊死で2%超が目安だね。
医学生医学生
CBTの勉強でFENaの式を覚えました。尿Naと血清Crを掛けて、血清Naと尿Crの積で割るやつですね。
ドクタードクター
よく覚えている。そのFENaにも出てくる尿中クレアチニンと血清クレアチニンの比も鑑別に使う。クレアチニンは糸球体で濾過されたあと、ほとんど再吸収されない。すると、尿中で血清の何倍に濃くなっているかは何を表すと思う?
医学生医学生
水がどれだけ再吸収されたか、つまり濃縮力ですね。腎前性では比が高くなりそうです。
ドクタードクター
その通り。腎前性で40以上、尿細管壊死では20以下が目安だ。血液側ではBUN/クレアチニン比が腎前性で20を超えやすいことも合わせて覚えておこう。では尿蛋白はどうかな。腎前性と尿細管壊死の区別には直接は関係なさそうだけど。
医学生医学生
そう思って一瞬迷いました。でも、蛋白尿がはっきり出ていたら、糸球体腎炎みたいな腎性の原因を考えるきっかけになりますよね。
ドクタードクター
まさにそこ。腎前性や腎後性では蛋白尿はないか軽度にとどまる。血尿や赤血球円柱を伴う明らかな蛋白尿なら急速進行性糸球体腎炎などの糸球体疾患を、β2ミクログロブリンのような低分子蛋白が増える尿細管性蛋白尿なら尿細管や間質の障害を示唆する。腎性の中身を絞り込むのに欠かせない検査なんだ。
医学生医学生
残った尿カルシウム濃度は、腎前性でも尿細管壊死でも決まった動きをしないので、鑑別には使えないということですね。高カルシウム血症や尿路結石の原因検索で測るイメージです。
ドクタードクター
その理解でいい。尿カルシウムは副甲状腺機能亢進症、ビタミンD過剰、特発性高カルシウム尿症などの評価に使う検査で、急性腎不全の病型を分ける根拠にはならない。だから今回「有用でない」のは尿カルシウム濃度だ。
医学生医学生
各検査が「濃縮力」「ナトリウム再吸収」「腎実質の障害」のどれを見ているかで整理すると、迷わずに済みそうです。
ドクタードクター
いい整理だね。臨床での注意点もいくつか。まず利尿薬を使っている患者では、腎前性でも尿ナトリウムやFENaが高く出てしまう。その場合は尿素窒素排泄分画、FEUNを使い、35%未満なら腎前性を考える。もう一つ、腎前性を放置すると虚血が続いて尿細管壊死に移行することがある。
医学生医学生
救急外来の実習で、脱水の高齢者に補液をしたらクレアチニンがすぐ下がった症例を見ました。あれが腎前性の典型だったんですね。
ドクタードクター
そうだね。補液で速やかに改善すること自体が腎前性を裏づける所見になる。それから尿沈渣も大事で、腎前性では硝子円柱程度でほぼ正常、尿細管壊死では泥状褐色の顆粒円柱や尿細管上皮細胞が見える。数値と沈渣、そして超音波を組み合わせて、腎前性・腎性・腎後性を見極めていこう。

まとめ

急性腎不全(急性腎障害)は腎前性・腎性・腎後性に分けて原因を考え、腎後性は超音波で水腎症を確認し、腎前性と急性尿細管壊死の区別には尿検査が役立ちます。腎前性では尿細管が健常なため濃くナトリウムの少ない尿(尿浸透圧高値、尿Na低値、FENa 1%未満、尿中/血清クレアチニン比40以上)となり、尿細管壊死では等張でナトリウムの多い尿になります。尿蛋白や尿沈渣は糸球体腎炎や尿細管・間質障害など腎性の原因を示す手がかりとなる一方、尿カルシウム濃度は病型によって特徴的な変化を示さないため鑑別には用いません。利尿薬使用中はFENaが当てにならずFEUNを用いるなど、各指標が「濃縮力」「Na再吸収」「腎実質障害」のどれを反映するかを理解しておくことが、急性腎不全の迅速な原因診断と治療方針の決定につながります。

解答・解説

正解はdです

急性腎不全(現在は急性腎障害 AKI: acute kidney injury と呼ぶのが一般的)は、原因の部位によって腎前性・腎性・腎後性の3つに分けて考える。治療方針がまったく異なるため、この区別が診療の出発点となる。 腎後性は尿路の閉塞によるもので、主に腹部超音波検査で水腎症の有無をみて判断する。一方、腎前性(脱水・出血・心不全などで腎血流が減少した状態)と腎性(とくに急性尿細管壊死 ATN: acute tubular necrosis)の区別には、尿検査と血液検査の組み合わせが役立つ。 考え方の軸は「尿細管が正常に働いているかどうか」である。腎前性では尿細管そのものは健常で、腎血流の低下に反応してナトリウムと水を強く再吸収するため、濃く(高浸透圧)、ナトリウムの少ない尿が出る。これに対してATNでは尿細管上皮が障害され、再吸収も濃縮もできなくなるため、血漿に近い浸透圧で、ナトリウムを多く含む尿となる。したがって、尿の濃縮力(尿浸透圧、尿中/血清クレアチニン比)やナトリウム再吸収能(尿ナトリウム濃度、ナトリウム排泄分画 FENa)を反映する指標が鑑別に有用である。また、尿蛋白や尿沈渣は糸球体腎炎など腎実質疾患の存在を示す手がかりとなる。 これに対し、尿カルシウム濃度は腎前性と腎性のいずれでも特徴的な変化を示さず、原因鑑別の指標として用いられない。

選択肢考察

  1. ×a.  尿蛋白

    鑑別に有用である。腎前性や腎後性では尿蛋白はないか、あってもごく軽度にとどまる。明らかな蛋白尿(とくに血尿や赤血球円柱を伴う場合)は糸球体腎炎・急速進行性糸球体腎炎などの糸球体疾患を示唆し、腎性の原因を考える根拠となる。また、β2ミクログロブリンやα1ミクログロブリンなどの低分子量蛋白が尿中に増える尿細管性蛋白尿は、尿細管障害(ATNや急性間質性腎炎)を示す所見である。蛋白尿の有無と性状(糸球体性か尿細管性か)の評価は、腎性急性腎不全の原因を絞り込むうえで欠かせない。

  2. ×b.  尿浸透圧

    鑑別に有用である。腎前性では尿細管の濃縮機能が保たれ、抗利尿ホルモン(ADH)の作用も加わって水が強く再吸収されるため、尿浸透圧は高値(おおむね500 mOsm/kg・H2O以上、400以上を目安とする資料もある)となる。ATNでは濃縮力が失われ、尿浸透圧は血漿浸透圧(約290 mOsm/kg・H2O)に近い値(350 mOsm/kg・H2O以下程度)にとどまる(等張尿)。尿浸透圧は腎の濃縮力を直接反映する指標である。

  3. ×c.  尿ナトリウム濃度

    鑑別に有用である。腎前性では有効循環血液量の低下に対してレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が働き、尿細管でナトリウムが積極的に再吸収されるため、尿ナトリウム濃度は低値(20 mEq/L未満)となる。ATNでは尿細管のナトリウム再吸収能が障害され、尿ナトリウム濃度は高値(40 mEq/L超)となる。尿量による濃縮・希釈の影響を除くため、実際にはナトリウム排泄分画(FENa)を併せて評価することが多い(腎前性で1%未満、ATNで2%超が目安)。ただし利尿薬使用中は腎前性でも尿ナトリウムが高くなる点に注意する。

  4. ○d.  尿カルシウム濃度

    鑑別に有用でない指標であり、これが正解である。尿カルシウム排泄は、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進症、ビタミンD過剰、尿路結石の原因検索(特発性高カルシウム尿症)などの評価に用いる検査である。腎前性と腎性(ATN)のあいだで尿カルシウム濃度に一定の差は生じず、急性腎不全の病型を区別する根拠とはならない。

  5. ×e.  尿中クレアチニン/血清クレアチニン比

    鑑別に有用である。クレアチニンは糸球体で濾過された後ほとんど再吸収されないため、尿中クレアチニンが血清の何倍に濃縮されているかは、尿細管でどれだけ水が再吸収されたか(濃縮力)を反映する。腎前性では水の再吸収が亢進しているため比は高値(40以上)となり、ATNでは濃縮できないため低値(20以下)となる。同様の考え方の指標に尿中/血漿尿素窒素比があり、血液側の指標としては BUN/血清クレアチニン比(腎前性で20以上)も用いられる。

急性腎不全(AKI)の分類

・腎前性: 腎血流量の低下による。脱水、出血、ショック、心不全、肝硬変、NSAIDs・ACE阻害薬などの薬剤など。腎自体に器質的障害はなく、原因を除けば速やかに回復しうる。ただし放置すると虚血によるATNへ移行する。 ・腎性: 腎実質の障害。急性尿細管壊死(虚血、造影剤・アミノグリコシドなどの腎毒性物質、横紋筋融解症)、急性間質性腎炎(薬剤アレルギーなど)、急速進行性糸球体腎炎、血管病変(血栓性微小血管症など)。 ・腎後性: 尿路の閉塞。前立腺肥大症、両側尿管結石、骨盤内腫瘍など。超音波検査で水腎症や膀胱の尿貯留を確認する。

腎前性と腎性(ATN)の鑑別指標の目安

・尿浸透圧: 腎前性 >500、ATN <350(mOsm/kg・H2O) ・尿比重: 腎前性 >1.020、ATN 約1.010(等張尿) ・尿ナトリウム濃度: 腎前性 <20、ATN >40(mEq/L) ・FENa: 腎前性 <1%、ATN >2% ・尿中/血清クレアチニン比: 腎前性 >40、ATN <20 ・BUN/血清クレアチニン比: 腎前性 >20、ATN 10〜20程度 ・尿沈渣: 腎前性は硝子円柱程度でほぼ正常、ATNでは泥状褐色の顆粒円柱や尿細管上皮細胞

FENa(ナトリウム排泄分画)の計算

FENa(%)=(尿Na×血清Cr)÷(血清Na×尿Cr)×100 糸球体で濾過されたナトリウムのうち何%が尿中へ出たかを示す値で、尿量の影響を受けにくい。利尿薬使用時は尿素窒素排泄分画(FEUN、腎前性で35%未満)が代わりに用いられる。

POINT

・急性腎不全は腎前性・腎性・腎後性に分けて原因を考える。 ・腎前性は尿細管機能が保たれるため「濃い尿・Naの少ない尿」、ATNは「等張尿・Naの多い尿」になる。 ・鑑別に使う指標: 尿浸透圧、尿比重、尿Na濃度、FENa、尿中/血清クレアチニン比、BUN/Cr比、尿蛋白、尿沈渣。 ・尿カルシウム濃度は急性腎不全の病型鑑別には用いない。 ・腎後性の鑑別には腹部超音波検査(水腎症の確認)が基本。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。