目を動かすと奥が痛む―眼球運動痛が指し示す視神経炎
第102回医師国家試験 E問題 第40問
国試問題にチャレンジ
眼球運動痛を伴うのはどれか。
- a.翼状片
- b.視神経炎
- c.水晶体脱臼
- d.裂孔原性網膜剝離
- e.原発開放隅角緑内障
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
眼球運動痛とは眼を動かしたときに眼の奥に生じる痛みで、視神経炎、特に球後視神経炎の特徴的な症状です。外眼筋の起始部である総腱輪に視神経鞘が癒着しているため、眼球運動で炎症のある視神経鞘が牽引されて痛みが生じます。視神経炎では急激な片眼の視力低下、中心暗点、色覚異常、RAPD陽性、限界フリッカ値低下を伴い、多発性硬化症や視神経脊髄炎スペクトラム障害などの背景疾患の検索も欠かせません。一方、翼状片・網膜剝離・開放隅角緑内障は原則として無痛で、水晶体脱臼や急性閉塞隅角緑内障発作の激痛は眼圧上昇によるものです。眼痛を「表面の痛み」「眼圧による痛み」「眼球運動痛」「無痛性」に分けて整理することは、救急外来や一般外来で眼の訴えを正しく振り分ける力につながります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
「眼球運動痛」とは、眼を上下左右に動かしたときに眼の奥(球後部)に生じる痛みである。単なる眼痛(眼表面の刺激痛や眼圧上昇による痛み)とは区別して覚える必要がある。
なぜ視神経の炎症で眼球運動痛が出るのか
眼窩の最深部(眼窩尖端)では、4つの直筋が総腱輪(Zinn小帯)という共通の腱輪から起始しており、その中を視神経が通る。視神経を包む鞘(硬膜)は総腱輪と癒着しているため、眼球を動かして外眼筋が収縮すると、その牽引が視神経鞘に伝わる。視神経やその鞘に炎症があると、この牽引で痛みが誘発される。したがって眼球運動痛は、視神経炎、特に眼球の後方で起こる球後視神経炎の特徴的な症状である。
考え方
選択肢のうち視神経そのものに炎症を起こす疾患を選べばよい。他の選択肢は、角結膜表面の病変、水晶体・網膜の構造異常、あるいは緩徐な眼圧上昇による視神経障害であり、原則として眼球運動に伴う痛みは生じない。
選択肢考察
- ×a. 翼状片
翼状片は、鼻側の球結膜から線維血管性の組織が三角形(翼状)に角膜へ侵入する変性疾患である。紫外線曝露との関連が強く、屋外作業者や高齢者に多い。充血や異物感を訴えることはあるが、通常は痛みを伴わない。進行して瞳孔領に近づくと角膜乱視や視力低下をきたし、切除術の適応となる。眼球運動痛はきたさない。
- ○b. 視神経炎
視神経炎では、総腱輪と癒着した視神経鞘が外眼筋の収縮で牽引されるため、眼球運動時に球後部の痛みが生じる。特発性視神経炎では、眼球運動痛が視力低下に先行または同時に出現することが多い。そのほか、数日の経過で進行する急激な片眼性視力低下、中心暗点、色覚異常(特に赤色が褪せて見える)、患眼の相対的瞳孔求心路障害(RAPD)がみられる。眼底は球後視神経炎では正常、視神経乳頭炎では乳頭の発赤・腫脹を示す。
- ×c. 水晶体脱臼
水晶体脱臼は、外傷やMarfan症候群・ホモシスチン尿症などによってZinn小帯(毛様小帯)が断裂・脆弱化し、水晶体が本来の位置から外れた状態である。屈折の急変による視力低下や単眼複視をきたす。水晶体が前房に脱臼して瞳孔ブロックを起こすと急激な眼圧上昇による激しい眼痛が生じうるが、これは眼圧上昇による痛みであり、眼球運動に伴う痛みではない。
- ×d. 裂孔原性網膜剝離
裂孔原性網膜剝離は、網膜に生じた裂孔から液化硝子体が網膜下に入り込み、感覚網膜が網膜色素上皮から剝がれる疾患である。網膜には痛覚がないため痛みは生じない。前駆症状として飛蚊症や光視症があり、剝離が広がると剝離部位に対応した視野欠損、黄斑に及ぶと急激な視力低下をきたす。眼球運動痛は伴わない。
- ×e. 原発開放隅角緑内障
原発開放隅角緑内障は、隅角は開いているものの房水流出路の抵抗が増して眼圧が緩徐に上昇する、あるいは眼圧が正常範囲でも視神経が障害される(正常眼圧緑内障)慢性疾患である。眼圧の急上昇はなく、自覚症状に乏しいまま視野欠損が進行する。眼痛・頭痛・悪心嘔吐・充血などを急激にきたすのは、隅角が急に閉じる原発閉塞隅角緑内障の急性発作であり、本疾患とは区別する。
視神経炎の概要
原因: 特発性(最多)、多発性硬化症、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD、抗アクアポリン4抗体陽性)、抗MOG抗体関連疾患、感染症、副鼻腔炎の波及など 症状: 急激な視力低下、中心暗点、眼球運動痛、色覚異常、RAPD陽性 検査: 限界フリッカ値の低下、視覚誘発電位(VEP)の潜時延長、MRIでの視神経の造影効果、自己抗体検査 治療: ステロイドパルス療法。抗アクアポリン4抗体陽性例は重症化・再発しやすく、血漿交換や再発予防の免疫療法を要する。
眼痛の性状による整理
眼球運動痛: 視神経炎(特に球後視神経炎)、眼窩蜂巣炎、眼窩炎症、強膜炎など 急激な眼圧上昇による激痛: 急性閉塞隅角緑内障発作、瞳孔ブロックを伴う水晶体脱臼、血管新生緑内障など 表面の疼痛・異物感: 角膜炎、角膜びらん、角膜異物、紫外線角膜炎 毛様充血と眼痛: 虹彩毛様体炎(ぶどう膜炎) 痛みを伴わない代表: 網膜剝離、原発開放隅角緑内障、白内障、網膜中心動脈閉塞症、翼状片
POINT
・眼球運動痛 → 視神経炎(特に球後視神経炎)を想起する ・機序: 視神経鞘が外眼筋起始部の総腱輪と癒着しており、眼球運動で牽引される ・視神経炎の所見: 急激な視力低下、中心暗点、色覚異常、RAPD陽性、限界フリッカ値低下 ・緑内障で眼痛をきたすのは主に急性閉塞隅角緑内障発作で、開放隅角緑内障は無症状で進行する ・網膜剝離は無痛性(飛蚊症・光視症・視野欠損)
