緑色の嘔吐と無数のニボー―「どこで詰まったか」を読み解く先天性小腸閉鎖症
第102回医師国家試験 D問題 第32問
国試問題にチャレンジ
生後24時間の新生児。著明な腹部膨満と胆汁性嘔吐とのためNICUに入院した。胎便の排泄はまだない。腹部エックス線単純写真立位像で腹部全体に多数の液面形成〈niveau〉を認める。 最も考えられるのはどれか。
- a.先天性食道閉鎖症
- b.肥厚性幽門狭窄症
- c.先天性十二指腸閉鎖症
- d.先天性小腸閉鎖症
- e.鎖肛
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
新生児の嘔吐では、まず胆汁性か非胆汁性かでVater乳頭より上か下かを判断し、次に腹部膨満の範囲とエックス線のガス像で閉塞の高さを推定します。胆汁性嘔吐に腹部全体の膨満、多数の液面形成(multiple bubble sign)、胎便排泄の欠如がそろえば、Vater乳頭より肛門側でかつ低位の閉塞を示し、選択肢の中では先天性小腸閉鎖症が最も考えられます。十二指腸閉鎖症はdouble bubble signで上腹部に限局した膨満、食道閉鎖症と肥厚性幽門狭窄症は非胆汁性嘔吐、鎖肛は出生時の会陰部視診で診断されるのが原則という点で区別できます。小腸閉鎖症は胎生期の腸管虚血が主因と考えられ、注腸造影でのmicrocolonはHirschsprung病や胎便性イレウスとの鑑別にも役立ちます。新生児の胆汁性嘔吐は中腸軸捻転を含む外科的緊急疾患のサインであり、閉塞部位を論理的に絞り込む力は小児救急の現場で直接役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・生後24時間の新生児 → 出生直後から症状が出ており、先天的な消化管の通過障害を考える。 ・胆汁性嘔吐(緑色の吐物)→ 胆汁は十二指腸のVater乳頭から分泌されるため、閉塞部位はVater乳頭より肛門側にある。 ・著明な腹部膨満 → 上腹部に限らず腹部全体が張っており、ある程度長い腸管が拡張していることを示す(閉塞部位が肛門側寄り)。 ・胎便の排泄がまだない → 正常新生児の多くは生後24時間以内に胎便を出すため、下部の通過障害を疑わせる所見である。 ・腹部立位エックス線で腹部全体に多数の液面形成(niveau)→ 拡張した多くの腸管ループ内でガスと液体が上下に分かれて並ぶ像(multiple bubble sign)であり、腸閉塞を示す。
診断へのプロセス
新生児の嘔吐では、まず「胆汁性か非胆汁性か」で閉塞部位をVater乳頭の上か下かに分け、次に「腹部膨満の程度とエックス線上のガス像」で閉塞部位の高さを推定する。 ・Vater乳頭より口側の閉塞(食道閉鎖、肥厚性幽門狭窄など)→ 非胆汁性嘔吐 ・十二指腸閉鎖 → 胃と十二指腸球部の2つのガス(double bubble sign)のみで、それより肛門側にガスがなく、腹部膨満は上腹部に限局する。 ・空腸・回腸の閉鎖 → 閉塞部までの小腸ループが拡張し、液面形成が多数みられる(閉塞部位が肛門側ほど数が増える)。 本例は胆汁性嘔吐、腹部全体の膨満、多数の液面形成、胎便排泄なしがそろっており、小腸閉鎖症が最も考えられる。
設問の考え方
同様の所見は、無神経節腸管が長いHirschsprung病や胎便性イレウス、腸回転異常症に伴う中腸軸捻転などでも生じうるため、この情報だけで確定はできない。しかし選択肢の中では、胆汁性嘔吐と多数の液面形成を最もよく説明するのは先天性小腸閉鎖症である。
選択肢考察
- ×a. 先天性食道閉鎖症
食道が途中で途切れているため、飲んだ乳や唾液が胃に届かず、出生直後から泡沫状の唾液の流出や哺乳時のむせ・チアノーゼを来す。吐物は胆汁を含まない。胃管を入れると盲端で反転する像(coil up sign)が特徴である。下部食道と気管の間に瘻孔がある最も多い病型(Gross C型)では、気管から胃に空気が入り胃泡がみられるが、腸閉塞のような腹部全体の多数の液面形成は来さない。
- ×b. 肥厚性幽門狭窄症
幽門筋の肥厚により胃の出口が狭くなる疾患で、生後2〜3週頃から発症することが多く、生後24時間での発症は典型的でない。閉塞部位がVater乳頭より口側のため、嘔吐は非胆汁性で噴水状である。胃液の喪失により低クロール性代謝性アルカローシスを来す。エックス線では拡張した胃のみが目立ち、腹部全体の多数の液面形成はみられない。
- ×c. 先天性十二指腸閉鎖症
閉鎖部位は多くがVater乳頭より肛門側にあるため胆汁性嘔吐を来しうるが、エックス線では拡張した胃と十二指腸球部の2つのガス像(double bubble sign)を示し、それより肛門側の腸管にはガスが見られない。そのため腹部膨満は上腹部に限局し、腹部全体に多数の液面形成がみられる本例とは合わない。Down症候群に合併しやすく、胎児期に羊水過多を来すことも特徴である。
- ○d. 先天性小腸閉鎖症
空腸や回腸が閉鎖しているため、閉鎖部より口側の小腸が多数拡張し、立位エックス線で腹部全体に多数の液面形成(multiple bubble sign)を示す。閉塞がVater乳頭より肛門側なので嘔吐は胆汁性となり、腸管拡張によって腹部全体が膨満する。腸内容が肛門まで届かないため正常な胎便の排泄がみられない(灰白色の粘液様便が少量出ることはある)。本例の所見をすべて説明できる。
- ×e. 鎖肛
鎖肛(直腸肛門奇形)も下部の通過障害であり、放置すれば腹部膨満、胎便排泄なし、胆汁性嘔吐、多数の液面形成を来しうる。しかし正常な位置に肛門がないことは、出生直後の会陰部の視診でほぼ確実に気づかれるため、生後24時間の時点で肛門の異常に触れられていない本例で最も考えるべき疾患ではない。また、瘻孔(会陰部や尿路・腟への交通)を伴う病型が多く、瘻孔を通じて胎便やガスが排出されることも多い。病型診断に用いる倒立位撮影は、ガスが直腸盲端まで届く生後12時間以降に行う。
新生児の嘔吐と閉塞部位の考え方
・非胆汁性嘔吐: Vater乳頭より口側の閉塞(食道閉鎖、肥厚性幽門狭窄症、胃軸捻転など) ・胆汁性嘔吐: Vater乳頭より肛門側の閉塞(十二指腸閉鎖・狭窄の大部分、腸回転異常症、小腸閉鎖、胎便性イレウス、Hirschsprung病、鎖肛など)。新生児の胆汁性嘔吐は外科的緊急疾患のサインであり、特に中腸軸捻転(腸回転異常症に伴う)は腸管壊死を来しうるため、見逃してはならない。
腹部単純エックス線の特徴的なガス像
・食道閉鎖症: coil up sign(胃管が上部食道盲端で反転)。瘻孔のない型では腹部にガスがない(gasless abdomen)。 ・肥厚性幽門狭窄症: 拡張した胃泡(single bubble)。腹部超音波で幽門筋の肥厚(筋層厚4mm以上、幽門管長15〜18mm以上が目安)を確認する。 ・十二指腸閉鎖症: double bubble sign。 ・小腸閉鎖症: triple bubble sign(上部空腸閉鎖)〜 multiple bubble sign(下部空腸・回腸閉鎖)。 ・Hirschsprung病・鎖肛: 腸管全体の拡張、多数の液面形成(低位の閉塞)。
先天性小腸閉鎖症の概要
・原因: 胎生期の腸間膜血管の閉塞などによる腸管の虚血・壊死が主因と考えられており(十二指腸閉鎖が発生初期の再疎通障害によると考えられるのと対照的)、複数か所に閉鎖を伴うこともある。 ・部位: 空腸と回腸で頻度はほぼ同程度である。 ・症状: 胆汁性嘔吐、腹部膨満、胎便排泄の欠如。高位(空腸上部)の閉鎖ほど嘔吐が早く、腹部膨満は軽い。低位(回腸)の閉鎖ほど腹部膨満が著明で、嘔吐はやや遅れて出現する。胎児期には羊水過多を来すことがある(高位閉鎖ほど多い)。 ・検査: 注腸造影では、使われていない細い結腸(microcolon)がみられることが多く、Hirschsprung病や胎便性イレウスとの鑑別にも役立つ。 ・治療: 手術(閉鎖部の切除と腸管吻合)。
鑑別として重要な疾患
・Hirschsprung病: 腸管壁内神経節細胞の先天的欠如により、その部分が蠕動せず機能的閉塞を来す。胎便排泄遅延、腹部膨満、胆汁性嘔吐を来す。直腸肛門内圧検査で直腸肛門反射の欠如、直腸粘膜生検でアセチルコリンエステラーゼ陽性神経線維の増生や神経節細胞の欠如を確認する。 ・胎便性イレウス: 粘稠な胎便が回腸末端に詰まって閉塞する。欧米では嚢胞性線維症に合併することが多い。
POINT
・新生児の胆汁性嘔吐 → Vater乳頭より肛門側の閉塞。外科的緊急疾患を考える。 ・double bubble sign → 十二指腸閉鎖症、multiple bubble sign → 小腸閉鎖症(下部の閉塞)。 ・食道閉鎖症と肥厚性幽門狭窄症は非胆汁性嘔吐。肥厚性幽門狭窄症は生後2〜3週に発症する。 ・鎖肛は出生時の会陰部の視診で診断されるのが原則。 ・腹部全体の膨満と多数の液面形成は、閉塞部位が肛門側寄りであることを示す。
