育たない・染まらない微生物たち―検査法の「相性」で見抜く誤りの組合せ
第102回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
組合せで誤っているのはどれか。
- a.マイコプラズマ ―― 寒天培地
- b.結核菌 ―― 小川培地
- c.肺炎球菌 ―― Gram染色
- d.非定型〈非結核性〉抗酸菌 ―― Ziehl-Neelsen染色
- e.真菌 ―― Grocott染色
対話形式の解説
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ドクターまとめ
病原微生物の検出には、その構造や栄養要求性に合った染色法・培地を選ぶ必要があります。マイコプラズマは細胞壁をもたずコレステロールを要求するため、一般的な寒天培地では発育せず、血清を加えたPPLO培地が必要で、臨床診断は抗原迅速検査や核酸増幅検査、抗体検査が中心です。抗酸菌はミコール酸に富む細胞壁のためZiehl-Neelsen染色で赤く染まり、結核菌は小川培地やMGITで培養します。肺炎球菌はGram陽性のランセット型双球菌、真菌やニューモシスチスはGrocott染色で黒く染まります。特殊な検査が必要な病原体は、疑いを検査室に明確に伝えなければ見逃されうるため、「なぜその方法なのか」を理解しておくことが適切な検査オーダーにつながります。
解答・解説
正解はaです
病原微生物ごとに、検出や同定に適した培地や染色法の組合せを問う問題である。 感染症の検査は大きく「塗抹検査(染色して顕微鏡で観察する)」と「培養検査(培地で増やして同定する)」に分かれる。多くの一般細菌は血液寒天培地などの通常の培地で発育し、Gram染色で形態と染色性(陽性か陰性か)を観察できる。これに対し、細胞壁の構造や栄養要求性が特殊な微生物は、通常の方法では染まらない、あるいは育たないため、専用の染色法や培地が必要になる。 本問では、(1) 細胞壁をもたず特殊な栄養を要求するマイコプラズマ、(2) 細胞壁に脂質(ミコール酸)が多く発育の遅い抗酸菌、(3) 典型的なGram陽性菌である肺炎球菌、(4) 真菌、という性質の違いを思い出せば判断できる。マイコプラズマは血清(コレステロール)などを加えた専用のPPLO培地でなければ発育しないため、一般的な寒天培地との組合せは誤りである。
選択肢考察
- ○a. マイコプラズマ ―― 寒天培地
誤った組合せであり、これが正解である。マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniaeなど)は細胞壁をもたない最小クラスの細菌で、自らコレステロールなどを合成できないため、血清(ウマ血清など)や酵母エキスを加えたPPLO(pleuropneumonia-like organism)培地という専用培地を用いて培養する。血液寒天培地などの通常の寒天培地では発育しない。さらに発育が非常に遅く、1週間以上たってから直径1mm未満の小さな集落(顕微鏡で見ると中心部が培地に食い込んだ「目玉焼き状」「桑実状」)をつくる程度であるため、培養は早期診断には向かない。臨床では血清抗体検査、咽頭ぬぐい液の抗原迅速検査、LAMP法やPCRなどの核酸増幅検査で診断することが多い。なお細胞壁がないためGram染色でも染まらない。
- ×b. 結核菌 ―― 小川培地
正しい組合せである。小川培地は鶏卵を主成分とする固形培地で、日本で長く結核菌を含む抗酸菌の分離培養に使われてきた。結核菌は分裂に十数時間以上かかるため、小川培地では集落が見えるまでに4〜8週間を要する。この欠点を補うため、現在は液体培地法(MGIT:Mycobacterium Growth Indicator Tube)が普及しており、結核菌ならおおむね2〜3週間程度で陽性を検出できる。ただし液体培地では集落の形態を観察できないため、初回培養では液体培地と固形培地(小川培地)を併用することが推奨されている。
- ×c. 肺炎球菌 ―― Gram染色
正しい組合せである。Gram染色では、厚いペプチドグリカン層をもつGram陽性菌が青紫色に、外膜をもちペプチドグリカン層の薄いGram陰性菌が赤〜ピンク色に染まる。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はGram陽性の双球菌で、ランセット(槍の穂先)状の菌が2個ずつ並び、周囲に莢膜による透明帯(halo)が見えることがある。良質な喀痰(好中球が多く扁平上皮細胞が少ない検体)のGram染色で、好中球とともにこの菌を多数認め、貪食像もあれば起炎菌として強く推定でき、迅速に抗菌薬を選ぶ手がかりになる。
- ×d. 非定型〈非結核性〉抗酸菌 ―― Ziehl-Neelsen染色
正しい組合せである。抗酸菌は細胞壁にミコール酸という脂質を豊富に含み、Gram染色では染まりにくい。Ziehl-Neelsen染色では、石炭酸フクシンを加温して浸透させた後、塩酸アルコールで脱色しても色が抜けない(抗酸性)ため、抗酸菌は青い背景の中に赤く染まって見える。非結核性抗酸菌(Mycobacterium avium complexなど)も同様に染まるが、染色所見だけでは結核菌と区別できないため、培養による同定や核酸増幅検査(PCRなど)で鑑別する。塗抹陽性で結核菌の核酸増幅検査が陰性であれば、非結核性抗酸菌の可能性が高い。なお蛍光染色法(オーラミンO染色など)はZiehl-Neelsen染色より感度が高く、スクリーニングに用いられる。
- ×e. 真菌 ―― Grocott染色
正しい組合せである。Grocott染色(Grocottメテナミン銀染色、GMS染色)は、真菌の細胞壁の多糖類を酸化して銀を沈着させる方法で、組織中のアスペルギルス、カンジダ、クリプトコックス、ニューモシスチス(Pneumocystis jirovecii)などを黒褐色に明瞭に染め出す。真菌を染める特殊染色としては、このほかにPAS(periodic acid-Schiff)染色も用いられ、クリプトコックスの莢膜の観察には墨汁法(India ink)が使われる。
特殊な検査法を必要とする主な微生物
・マイコプラズマ:PPLO培地(血清・酵母エキス添加)。細胞壁がなくGram染色で染まらない。診断は抗体検査、抗原迅速検査、核酸増幅検査が中心。 ・抗酸菌(結核菌・非結核性抗酸菌):Ziehl-Neelsen染色、蛍光染色(オーラミン)。培養は小川培地(固形)とMGIT(液体)。 ・レジオネラ:BCYE(buffered charcoal yeast extract)培地。Gram染色で染まりにくく、Giménez(ヒメネス)染色が用いられる。尿中抗原検査も有用。 ・カンピロバクター:Skirrow培地などの選択培地を用い、微好気条件で培養する。 ・百日咳菌:Bordet-Gengou培地。 ・ジフテリア菌:Löffler培地(血清培地)、荷電粒子を染めるNeisser染色。 ・真菌:Sabouraud(サブロー)寒天培地で培養。染色はGrocott染色、PAS染色。クリプトコックスは墨汁法。 ・ニューモシスチス:培養できない。Grocott染色やDiff-Quik染色、PCRで検出する。
Gram染色の原理
クリスタルバイオレットで染色し、ヨウ素液で色素を固定した後、アルコールで脱色する。Gram陽性菌は厚いペプチドグリカン層に色素が保持されて青紫色のまま残り、Gram陰性菌は脱色されて後染色のサフラニン(またはフクシン)で赤く染まる。
臨床上の注意
特殊培地や長期培養、特殊染色が必要な微生物は、検査室が通常の手順で処理すると検出できないことがある。疑っている病原体を検査依頼時に明記して伝えることが重要である。
POINT
・マイコプラズマは細胞壁がなく、通常の寒天培地では発育しない。培養にはPPLO培地を用いるが、時間がかかるため診断は抗体・抗原・核酸増幅検査が中心。 ・結核菌の培養は小川培地(4〜8週)とMGIT液体培地(より迅速)。 ・抗酸菌(結核菌・非結核性抗酸菌とも)はZiehl-Neelsen染色で赤く染まるが、染色では両者を区別できない。 ・肺炎球菌はGram陽性双球菌(ランセット型)。 ・真菌やニューモシスチスはGrocott染色(メテナミン銀染色)で黒く染まる。
