受精卵の細胞質は誰のもの?―ミトコンドリアDNAが語る母系遺伝
第102回医師国家試験 C問題 第3問
国試問題にチャレンジ
母親のみに由来するのはどれか。
- a.X染色体
- b.Y染色体
- c.リボソームRNA
- d.ミトコンドリアDNA
- e.メッセンジャーRNA
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
受精では核の染色体が父母から半数ずつもち寄られますが、受精卵の細胞質はほぼすべて卵子に由来し、精子のミトコンドリアは受精後に排除されるため、ミトコンドリアDNAは母親のみから伝わります(母系遺伝)。X染色体は男性では母親由来でも女性では父母双方に由来し、Y染色体は父親のみ、rRNAやmRNAの大部分は核の遺伝子から転写されるため両親に由来します。ミトコンドリアDNA変異による疾患(MELAS、MERRF、Leber遺伝性視神経症など)は母親から男女すべての子に伝わりえますが、ヘテロプラスミーと閾値効果により家系内でも症状に大きな差が出ます。遺伝情報の由来を核と細胞質に分けて整理することは、家系図の読み解きや遺伝性疾患の理解の土台となります。
解答・解説
正解はdです
受精では、卵子(母親由来)と精子(父親由来)がそれぞれ23本の染色体をもち寄り、46本の染色体からなる受精卵となる。したがって核の中にある遺伝情報(常染色体と性染色体)は、原則として父母の双方から受け継がれる。性染色体については、母親は必ずX染色体を渡し、父親はXかYのどちらかを渡すことで子の性別が決まる。 一方、細胞質にある小器官ミトコンドリアは、核とは別に独自の環状DNA(ミトコンドリアDNA:mtDNA)をもつ。受精卵の細胞質はほぼすべて卵子に由来し、精子のミトコンドリアはわずかに卵内に入っても受精後まもなく選択的に分解・排除される。そのため、ミトコンドリアDNAは母親のみから子へ伝わる。これを母系遺伝(細胞質遺伝)という。 本問は、各選択肢の遺伝情報が核ゲノムに由来するのか、ミトコンドリアゲノムに由来するのか、また性染色体がどちらの親から来るのかを整理できれば解ける。
選択肢考察
- ×a. X染色体
男性(46,XY)のX染色体は1本で、必ず母親から受け継ぐ。しかし女性(46,XX)の2本のX染色体は、1本が母親、もう1本が父親に由来する。したがって、X染色体は一般に母親のみに由来するとはいえない。この性質のため、X連鎖劣性遺伝病(血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど)は保因者の母親から息子へ伝わり、父親から息子へは伝わらない。
- ×b. Y染色体
Y染色体は男性のみがもち、必ず父親から息子へ受け継がれる。母親はY染色体をもたないため、Y染色体が母親に由来することはない。Y染色体は父系をたどる指標として、ミトコンドリアDNA(母系の指標)と対比して用いられる。
- ×c. リボソームRNA
リボソームRNA(rRNA)はタンパク質合成の場であるリボソームを構成するRNAである。細胞質のリボソームのrRNAは主に核の常染色体上の遺伝子(13・14・15・21・22番の端部動原体型染色体の短腕などにある)から転写されるため、父母双方に由来する。なお、ミトコンドリア内のリボソームのrRNAはミトコンドリアDNAにコードされており母系遺伝するが、rRNA全体としては母親のみに由来するわけではない。
- ○d. ミトコンドリアDNA
受精卵のミトコンドリアは卵子の細胞質に由来し、精子の中片部にあるミトコンドリアは受精後に分解・排除される。このため、ミトコンドリアDNAは原則として母親のみから受け継がれる(母系遺伝)。ミトコンドリアDNAの変異による疾患は、母親から男女すべての子に伝わりうるが、父親からは伝わらない。
- ×e. メッセンジャーRNA
メッセンジャーRNA(mRNA)は遺伝子のDNA配列が転写されてできる、タンパク質の設計図となるRNAである。大部分は核内の常染色体・性染色体上の遺伝子から転写されるので、その遺伝情報は父母双方に由来する。ミトコンドリアDNAから転写されるmRNAも一部(13種類のタンパク質をコード)存在するが、mRNA全体が母親のみに由来するわけではない。
ミトコンドリアDNAの特徴
・約16.6kb(16,569塩基対)の環状二本鎖DNAで、1つの細胞に数百〜数千コピー存在する。 ・呼吸鎖(電子伝達系)を構成するタンパク質13種類、rRNA 2種類、tRNA 22種類の計37遺伝子をコードする。ミトコンドリアで働くタンパク質の大部分は核DNAにコードされている。 ・核DNAに比べて変異率が高い。 ・1つの細胞内に正常なmtDNAと変異mtDNAが混在する状態をヘテロプラスミーといい、変異の割合が一定の閾値を超えると症状が現れる(閾値効果)。組織や個人によって変異の割合が異なるため、同じ家系内でも症状の程度に大きな差が出る。
ミトコンドリア病の主な例
・MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群):tRNA遺伝子の点変異(A3243Gなど)が多い。 ・MERRF(赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん):tRNA遺伝子の点変異(A8344Gなど)。 ・Leber遺伝性視神経症:若年男性に多い両眼の急性〜亜急性視力低下。 ・慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)・Kearns-Sayre症候群:mtDNAの大きな欠失によることが多く、多くは孤発例である。 筋生検でみられる赤色ぼろ線維(ragged-red fiber)や、血中・髄液中の乳酸・ピルビン酸の上昇が診断の手がかりとなる。なお、ミトコンドリア病には核DNAの変異によるもの(常染色体遺伝形式をとる)もある。
父母に由来する遺伝情報のまとめ
・常染色体:父母双方 ・X染色体:男性は母親のみ、女性は父母双方 ・Y染色体:父親のみ ・ミトコンドリアDNA:母親のみ
POINT
・ミトコンドリアDNAは卵子の細胞質を通じて母親のみから伝わる(母系遺伝)。 ・ミトコンドリアDNA変異による疾患は母親から男女すべての子に伝わりうるが、父親からは伝わらない。 ・Y染色体は父親のみに由来し、男性のX染色体は母親のみに由来する(女性のX染色体は両親由来)。 ・代表的なミトコンドリア病:MELAS、MERRF、Leber遺伝性視神経症、Kearns-Sayre症候群。
