日本の人口動態を「数字の桁」でつかむ―妊産婦死亡率・出生率・死因の読み解き方
第102回医師国家試験 B問題 第9問
国試問題にチャレンジ
最近10年間の我が国の人口動態について正しいのはどれか。
- a.妊産婦死亡率は出産10万対10以下である。
- b.総再生産率は1.00を超えている。
- c.合計特殊出生率は1.5と1.7との間で推移している。
- d.20~39歳の死因の第1位は悪性新生物である。
- e.全死因の年齢調整死亡率は上昇している。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
人口動態統計の問題では、主要指標のおおよその水準と増減の方向をつかむことが重要です。わが国の妊産婦死亡率は出産(出生+妊娠満12週以後の死産)10万対で10を下回り、世界でも最低水準にあります。合計特殊出生率は人口置換水準の約2.07を大きく下回る1.3〜1.4前後で推移し(2005年に1.26)、その後も過去最低を更新しているため、女児のみを数える総再生産率は1.00に遠く及びません。20〜39歳の死因第1位は悪性新生物ではなく自殺であり、高齢化で粗死亡率が上昇する一方、年齢構成の影響を除いた年齢調整死亡率は低下しています。これらの指標の意味と違いを理解しておくことは、少子高齢化や自殺対策、母子保健といった公衆衛生上の課題を正しく読み解く基礎になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
人口動態統計(出生・死亡・婚姻・離婚・死産の届出をもとに厚生労働省が毎年まとめる統計)の主要な指標の水準と推移を問う問題である。本問は第102回(2008年実施)の出題であり、「最近10年間」とはおおむね1990年代後半から2006年ごろまでを指す。
考え方
各指標のおおよその水準を知っていれば判断できる。 ・妊産婦死亡率:出題当時は出産10万対で5前後であり、10以下で推移していた。 ・合計特殊出生率:1.3〜1.4前後で推移し、2005年には過去最低の1.26を記録した。人口を維持できる水準(人口置換水準、約2.07)を大きく下回っている。 ・総再生産率:合計特殊出生率のうち女児だけを数えたものなので、およそ合計特殊出生率の半分弱(0.6台)である。 ・20〜39歳の死因第1位:自殺。 ・年齢調整死亡率:医療や生活環境の改善で低下が続いている(高齢化の影響を受ける粗死亡率とは区別する)。 したがって、正しいのは妊産婦死亡率に関する記述である。
選択肢考察
- ○a. 妊産婦死亡率は出産10万対10以下である。
正しい。わが国の妊産婦死亡率は、1950年ごろには出産10万対で約170と高かったが、周産期医療の進歩により大きく低下し、出題当時の10年間は10を下回っていた(2005年は5.7、2006年は4.8)。現在も出産10万対で3〜4前後と、世界でも最も低い水準にある。なお、妊産婦死亡率の分母は「出産」(出生数+妊娠満12週以後の死産数)であり、出生数ではないことに注意する。国際比較では分母を出生10万とすることが多い。
- ×b. 総再生産率は1.00を超えている。
誤り。総再生産率とは、一人の女性が再生産年齢(15〜49歳)の間に産む女児の平均数であり、「合計特殊出生率×出生児に占める女児の割合(約0.49)」でおおよそ求められる。出題当時の合計特殊出生率は1.3前後であったから、総再生産率は0.6台(2005年は0.61)にとどまり、1.00を大きく下回っていた。総再生産率が1.00を下回るということは、母親の世代を女児の数で置き換えられないことを意味する。
- ×c. 合計特殊出生率は1.5と1.7との間で推移している。
誤り。合計特殊出生率(TFR: total fertility rate)は、15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が一生の間に産む子どもの平均数に相当する。わが国では1989年に1.57まで低下し(いわゆる「1.57ショック」)、その後も低下を続け、出題当時の10年間は1.3〜1.4前後で推移し、2005年に過去最低の1.26となった。その後いったん1.4台まで持ち直したが再び低下し、2023年には1.20と過去最低を更新している。1.5〜1.7の範囲にはない。
- ×d. 20~39歳の死因の第1位は悪性新生物である。
誤り。20〜39歳の各年齢階級では、死因の第1位は自殺である。若年成人では悪性新生物や心疾患などの病気で亡くなる人が少ないため、自殺や不慮の事故といった外因死が上位を占める。悪性新生物が第1位となるのは、おおむね40歳代以降の中高年である。若年層の自殺が多いことは、わが国の自殺対策上の大きな課題となっている。
- ×e. 全死因の年齢調整死亡率は上昇している。
誤り。全死因の年齢調整死亡率は、男女とも長期的に低下している(出題当時は昭和60年モデル人口を基準として人口千対で男性約6、女性約3)。一方、人口の高齢化により死亡数と粗死亡率(死亡数÷人口)は上昇している。年齢調整死亡率は、年齢構成の違いによる影響を取り除いて比較するための指標であり、高齢化の影響を除くと死亡の水準は改善していることを示す。粗死亡率と年齢調整死亡率の動きの違いを区別することが重要である。
主な人口動態指標の定義
・合計特殊出生率:15〜49歳の女性の年齢別出生率の合計。一人の女性が一生に産む子どもの平均数に相当する。人口置換水準は約2.07。 ・総再生産率:合計特殊出生率のうち女児のみを対象としたもの。 ・純再生産率:総再生産率に、生まれた女児が母親の年齢まで生存する確率(死亡の影響)を加味したもの。1.00を上回れば将来人口は増加、下回れば減少する。 ・妊産婦死亡率:妊産婦死亡数÷出産数(出生数+妊娠満12週以後の死産数)×10万。妊産婦死亡とは、妊娠中または妊娠終了後満42日未満の女性の死亡で、妊娠またはその管理に関連したもの(偶発的な原因によるものを除く)。 ・年齢調整死亡率:基準となる人口(モデル人口)の年齢構成に合わせて計算した死亡率。年齢構成の異なる集団や年次の間で死亡水準を比較するために用いる。基準人口は長く昭和60年モデル人口が使われてきたが、2020年からは平成27年モデル人口に変更された。
年齢階級別の死因第1位(出題当時の傾向)
・0歳:先天奇形、変形及び染色体異常。 ・1〜19歳:不慮の事故(不慮の事故の内訳は、0歳では窒息が多く、1歳以降は交通事故が多い)。 ・20〜39歳:自殺。 ・40〜89歳:悪性新生物。 ・90歳以上:心疾患。 なお、これは比較的新しい変化であるが、2010年代以降は交通事故死の減少などにより、10歳代後半、さらに近年は10歳代前半でも自殺が死因の第1位となっている。また90歳以上では、近年は老衰が第1位である。 ・全年齢では悪性新生物が1981年以降第1位であり、近年は第2位が心疾患、第3位が老衰である。
母子保健指標の水準
わが国の妊産婦死亡率、乳児死亡率(出生千対で2前後)、新生児死亡率、周産期死亡率はいずれも世界で最も低い水準にある。
POINT
・妊産婦死亡率は出産10万対で10を下回る低い水準であり、分母は「出産」(出生+妊娠12週以後の死産)である。 ・合計特殊出生率は人口置換水準(約2.07)を大きく下回り、2005年に1.26、2023年に1.20と過去最低を更新している。 ・総再生産率・純再生産率は1.00を下回っている。 ・死因第1位は、出題当時で0歳が先天奇形等、1〜19歳が不慮の事故、20〜39歳が自殺、40〜89歳が悪性新生物である(近年は10歳代でも自殺が第1位)。 ・粗死亡率は高齢化で上昇しているが、年齢調整死亡率は低下している。
