StudyMed医師国家試験

減ったのはどのベッド?―一般病床の削減から読み解く日本の医療政策

第102回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第102回 B問題 第6問

 10年前に比べて減少しているのはどれか。

  1. a.精神科病院数
  2. b.歯科診療所数
  3. c.一般診療所数
  4. d.病院の一般病床数
  5. e.病院の療養病床数

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療施設調査をもとに、わが国の医療資源がどう推移してきたかを問う問題だ。細かい数字を覚えていなくても、当時の医療政策の流れを理解していれば解ける。この問題が出題されたのは2008年ごろなので、「10年前」はおおむね1990年代後半からの変化を指している点に注意しよう。まず、病院や病床は増えている印象と減っている印象、どちらがあるかな。
医学生医学生
高齢化で医療の需要は増えているので、全部増えていそうな気がします。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実は病院数は1990年ごろの約1万施設をピークに減り続けているんだ。わが国は人口当たりの病床数が国際的に多く、平均在院日数も長いことが課題とされてきた。そこで病床を適正化する政策がとられてきたんだよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、医療計画で基準病床数を決めると習いました。あれが病床を抑える仕組みでしょうか。
ドクタードクター
その通り。1985年の第1次医療法改正で導入された医療計画で、都道府県ごとに基準病床数を定め、病床の過剰な増加を抑えている。そのうえで、急性期を担う一般病床は在院日数の短縮や、長期入院患者を療養病床や介護施設へ移す機能分化によって減ってきた。これが正解の病院の一般病床数だ。
医学生医学生
一般病床と療養病床って、もともと分かれていたんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。2001年施行の第4次医療法改正で、それまでの「その他の病床」が一般病床と療養病床に区分された。このとき多くの病院が長期療養向けのベッドを療養病床として届け出たので、統計上も一般病床が減ったんだ。
医学生医学生
じゃあ、その分だけ療養病床は増えたということですね。
ドクタードクター
そう。出題当時は高齢化に伴う長期療養の需要と一般病床からの転換で、療養病床は増加していた。ただ、区分自体が2001年に新設されたものだから、厳密には10年前との単純比較が難しい指標でもある。その後は社会的入院を減らす政策で削減が進み、介護療養病床は2024年3月末で廃止され、介護医療院などへ転換した。今では療養病床も減少しているよ。
医学生医学生
時代によって答えが変わる問題なんですね。診療所はどうでしょう。地元でもクリニックの開業をよく見かけます。
ドクタードクター
その実感どおり、一般診療所は増加していて、出題当時で10万施設に近づき、今は10万を超えている。ただし内訳が大事で、ベッドを持たない無床診療所が増える一方、19床以下のベッドを持つ有床診療所は減り続けている。合計としては増加だね。
医学生医学生
病院は20床以上、診療所は19床以下、というのはCBTでも出た定義ですね。歯科診療所も増えていましたか。
ドクタードクター
歯科診療所は歯科医師数の増加に伴って出題当時まで一貫して増え、コンビニより多いと言われるほどだった。2010年代後半をピークに、近年は横ばいからわずかな減少に転じている。いずれにせよ出題時点では減っていなかった。
医学生医学生
精神科病院はどうですか。入院中心から地域生活中心へ、という流れがあるので減っていそうに思えました。
ドクタードクター
鋭い着眼点だけど、ここは区別が必要だ。長期的に減っているのは精神病床数で、精神科病院の数は出題当時1,000施設余りで横ばいからわずかに増加していた。近年はわずかに減少傾向にある。一方、メンタルクリニックのような精神科を標榜する診療所は増えている。
医学生医学生
病床数と施設数を混同しないことが大事なんですね。まとめると、病院とベッドは減る方向、無床診療所は増える方向、と。
ドクタードクター
その理解で十分だ。発展として、2014年の医療介護総合確保推進法で制度化された地域医療構想も押さえておこう。2025年の医療需要を見据えて、病床を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の機能ごとに再編する取り組みだ。
医学生医学生
臨床実習で回った病院でも、地域包括ケア病棟に移る患者さんがいました。あれも機能分化の一環ですか。
ドクタードクター
そうだね。急性期の治療が終わったら、回復期や在宅、介護施設へとつないでいく流れの一部だ。統計の増減を問う問題は年次によって正解が変わりうるから、数字の丸暗記より、その背景にある政策の方向性で理解しておくと応用が利くよ。

まとめ

わが国の病院数は1990年ごろをピークに減少しており、病床も医療計画による基準病床数の設定や平均在院日数の短縮、機能分化の推進によって削減の方向にあります。とくに急性期を担う一般病床は、2001年の第4次医療法改正で療養病床と区分されたことも影響し、減少が続いてきました。一方、一般診療所は無床診療所の開業により増加しており(有床診療所は減少)、歯科診療所も長く増加したのち近年は横ばいです。療養病床は出題当時は増加していましたが、その後は社会的入院の解消を目指す政策で減少に転じ、介護療養病床は2024年3月末で廃止されました。統計の増減は年次で変わるため、地域医療構想などの政策の流れと結びつけて理解することが、公衆衛生の出題にも実際の地域医療の理解にも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

テーマ

厚生労働省の医療施設調査(医療施設の数や病床数を毎年把握する統計)に基づき、わが国の医療資源がどのように推移してきたかを問う問題である。本問は第102回(2008年実施)の出題であり、「10年前」とはおおむね1990年代後半から2000年代半ばにかけての変化を指す。

考え方

細かい数字を暗記していなくても、当時の医療政策の流れを理解していれば解ける。 ・病院数は1990年ごろをピークに減少が続いている。 ・急性期医療を担う一般病床は、平均在院日数の短縮や、長期入院患者を療養病床や介護施設へ移す政策により、削減の方向にあった。 ・一方、高齢化に伴い長期療養の需要が増え、療養病床は(出題当時まで)増加していた。 ・診療所は、特に無床診療所(入院用のベッドを持たない診療所)の開業が続き、一般診療所・歯科診療所ともに増加していた。 したがって、出題当時に減少していたものとして選ぶべきは病院の一般病床数である。

注意

本問は出題当時の統計に基づく設問であり、その後の推移によって各選択肢の増減は変わっている(後述)。現在の国試対策としては、個々の増減よりも「病院・病床は減少、無床診療所は増加」という大きな流れと、その背景にある政策を理解しておけば十分である。

選択肢考察

  1. ×a.  精神科病院数

    出題当時、精神科病院(精神病床のみを有する病院)の数はおおむね1,000施設余りで推移しており、10年前と比べて減少してはいなかった(横ばいからわずかに増加)。ただし、わが国では入院医療中心から地域生活中心へという精神保健医療福祉の改革が進められており、精神病床数自体は長期的に減少している。近年は精神科病院数もわずかに減少傾向にある。なお、精神科を標榜する診療所(メンタルクリニック)は増加している。

  2. ×b.  歯科診療所数

    歯科診療所数は出題当時まで一貫して増加しており、6万施設台後半に達していた。歯科医師数の増加に伴い開業が増えたことが背景にあり、コンビニエンスストアの店舗数を上回ると言われるほどであった。その後は2010年代後半をピークに横ばいからわずかな減少に転じている。いずれにしても、出題時点で10年前より減少していたわけではない。

  3. ×c.  一般診療所数

    一般診療所数は増加を続けており、出題当時は約10万施設に近づいていた(現在は10万施設を超えている)。内訳をみると、無床診療所が増える一方、有床診療所(19床以下の入院用ベッドを持つ診療所)は減少し続けている。問題文の「一般診療所数」は両者の合計であり、全体としては増加している。

  4. ○d.  病院の一般病床数

    病院の一般病床数は減少しており、これが正解である。背景には、①医療費の抑制と医療の効率化を目的とした病床数の適正化(医療計画による基準病床数の設定)、②平均在院日数の短縮、③長期入院が必要な患者を一般病床から療養病床や介護施設へ移す機能分化の推進がある。2001年施行の第4次医療法改正で、それまでの「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」に区分され、多くの病院が長期療養向けの病床を療養病床として届け出たことも、統計上の一般病床の減少につながった。一般病床はその後も減少傾向が続いている。

  5. ×e.  病院の療養病床数

    出題当時、病院の療養病床数は増加していた。高齢化に伴う長期療養の需要増加と、一般病床からの転換が理由である。ただし、療養病床の前身である療養型病床群は1992年の第2次医療法改正で創設され、「療養病床」という区分は2001年の第4次医療法改正で設けられ、届出期限が2003年であった。したがって、厳密には10年前との単純比較が難しい指標である。その後、療養病床は医療の必要性の低い入院(いわゆる社会的入院)を減らす政策により削減が進められ、介護療養病床は2024年3月末で廃止されて介護医療院などへ転換した。現在では療養病床数は減少している。

医療法上の病床区分

・一般病床:精神病床、感染症病床、結核病床、療養病床以外の病床。主に急性期医療を担う。 ・療養病床:主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させる病床。医療保険適用の医療療養病床と、介護保険適用の介護療養病床があった(後者は2024年3月末で廃止)。 ・精神病床、感染症病床、結核病床:それぞれの疾患の患者を入院させる病床。

医療施設の定義

・病院:20床以上の入院施設を有するもの。 ・診療所:入院施設がないか、19床以下のもの(有床診療所と無床診療所)。

長期的な傾向(大まかな流れ)

・病院数:1990年ごろ(約1万施設)をピークに減少が続き、現在は約8,000施設程度。 ・病床数:全体として減少。一般病床・療養病床・精神病床いずれも減少傾向。 ・一般診療所数:増加(無床診療所は増加、有床診療所は減少)。 ・歯科診療所数:長く増加したのち、近年は横ばい〜微減。

関連する政策

・医療計画(1985年の第1次医療法改正で導入):都道府県ごとに基準病床数を定め、病床の過剰な増加を抑える。 ・地域医療構想(2014年の医療介護総合確保推進法で制度化):2025年の医療需要を見据え、病床を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の機能ごとに再編する。 ・わが国の人口当たり病床数は国際的に多く、平均在院日数も長いことが課題とされてきた。

POINT

・病院数・病床数は長期的に減少傾向である。 ・一般病床は在院日数短縮や機能分化の推進により減少している。 ・一般診療所は増加しているが、内訳では有床診療所が減少し無床診療所が増加している。 ・療養病床は出題当時は増加していたが、その後は削減政策により減少に転じている。 ・統計の増減を問う問題は年次によって正解が変わりうるため、背景にある政策の流れで理解する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。