毛髪塊と高いSCC―閉経後の「デルモイド」に潜む扁平上皮癌
第101回医師国家試験 G問題 第41問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。子宮癌検診で骨盤内の腫瘤を指摘され来院した。内診では付属器に可動性良好な新生児頭大の腫瘤を触知する。腫瘍マーカーはCA19-9 650U/mL(基準37以下),CA125 45U/mL(基準35以下),SCC 8.6ng/mL(基準1.5以下)。経腟超音波検査では最大径12cmの囊胞性腫瘍で,一部に充実部分と毛髪塊とを認める。 最も考えられるのはどれか。
- a.未熟奇形腫
- b.卵黄囊腫瘍
- c.転移性卵巣腫瘍
- d.未分化胚細胞腫
- e.成熟囊胞性奇形腫の悪性転化
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
囊胞内の毛髪塊は皮膚付属器成分を反映し、成熟囊胞性奇形腫(皮様囊腫)を示す特徴的な所見です。これに閉経後の高齢、腫瘍径10cm以上、囊胞内の充実部分、SCC高値がそろう場合は悪性転化を強く疑い、その組織型は囊胞壁の扁平上皮に由来する扁平上皮癌が約8割を占めます。CA19-9は良性の奇形腫でも上昇しうるため、良悪性の判断には使いにくい点に注意が必要です。未熟奇形腫、卵黄囊腫瘍(AFP)、未分化胚細胞腫(LDH)は若年者に多く、転移性卵巣腫瘍は両側性・充実性が典型であり、年齢・画像・マーカーの組み合わせで鑑別します。「どの腫瘍か」と「悪性化しているか」を分けて考える姿勢は、卵巣腫瘍全般の診療で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・60歳(閉経後)の女性で、検診時に偶然見つかった骨盤内腫瘤である。 ・内診では付属器(卵巣・卵管)に新生児頭大の腫瘤を触れ、可動性は良好である。周囲への浸潤・癒着を強く示す所見はない。 ・経腟超音波では最大径12cmの囊胞性腫瘍で、内部に毛髪塊と一部の充実部分がある。 ・腫瘍マーカーは CA19-9 650U/mL と著明高値、CA125 45U/mL と軽度高値、SCC(扁平上皮癌関連抗原)8.6ng/mL と高値である。
診断へのプロセス
1. 囊胞内の毛髪塊は、皮膚付属器(毛包・皮脂腺)を含む外胚葉成分の存在を意味し、成熟囊胞性奇形腫(皮様囊腫、デルモイド囊腫)に特徴的な所見である。したがって背景にある腫瘍は成熟囊胞性奇形腫と考えられる。 2. 次に良性のままか悪性化しているかを考える。成熟囊胞性奇形腫の悪性転化は、①閉経後など高齢、②腫瘍径が大きい(10cm以上)、③囊胞内に充実部分がある、④SCC高値、がそろうと強く疑われる。本例はこれらをすべて満たす。 3. 悪性転化の組織型は扁平上皮癌が約8割と最も多い。奇形腫の囊胞壁を覆う扁平上皮(皮膚成分)から癌が発生するためであり、扁平上皮癌のマーカーである SCC の上昇はこれを反映する。 4. CA19-9 は良性の成熟囊胞性奇形腫でも高値を示すことが多く(囊胞内容液に由来する)、奇形腫の存在を支持する所見ではあるが、単独では良悪性の決め手にならない。CA125 の軽度上昇も非特異的である。
設問への考え方
毛髪塊から「成熟囊胞性奇形腫」を、高齢・大きな腫瘍径・充実部分・SCC高値から「悪性転化(扁平上皮癌)」を読み取る。その他の胚細胞腫瘍(未熟奇形腫、卵黄囊腫瘍、未分化胚細胞腫)は主に10〜20歳代に発生し、それぞれ AFP や LDH が上がる。転移性卵巣腫瘍は両側性で充実性のことが多い。いずれも本例の年齢・画像・マーカーの組み合わせと合わない。なお、悪性転化の確定は摘出標本の病理組織診断で行う。
選択肢考察
- ×a. 未熟奇形腫
未熟奇形腫は、未熟な胎児性組織(特に未熟な神経外胚葉成分)を含む悪性胚細胞腫瘍である。好発年齢は20歳以下の若年者で、60歳での発生はまれである。一般に充実性部分が主体の腫瘍で、AFP(α-フェトプロテイン)が上昇することがある。毛髪や脂肪を含むことはあっても、閉経後の大きな囊胞性腫瘍で SCC が高値という像は、未熟奇形腫より成熟囊胞性奇形腫の悪性転化に合う。「奇形腫」「充実部分」という言葉だけで選びやすいが、年齢とマーカーから否定する。
- ×b. 卵黄囊腫瘍
卵黄囊腫瘍は小児〜若年女性に好発する悪性胚細胞腫瘍で、増殖が速い。出血や壊死を伴う充実性腫瘍が典型で、AFP が著明に上昇するのが特徴である。本例は60歳で、囊胞性腫瘍の中に毛髪塊を含み、AFP 上昇の記載もなく、SCC が上がっている。これらは卵黄囊腫瘍の典型像と合わない。
- ×c. 転移性卵巣腫瘍
転移性卵巣腫瘍は胃癌・大腸癌・乳癌などから卵巣へ転移したもので、胃の印環細胞癌の転移(Krukenberg腫瘍)が代表である。両側性の充実性腫瘍として見つかることが多い。消化器癌の転移なら CA19-9 が上がることもある。しかし本例は片側の囊胞性腫瘍で、毛髪塊という奇形腫に特有の所見がある。原発巣を示唆する記載もなく、否定的である。
- ×d. 未分化胚細胞腫
未分化胚細胞腫(ディスジャーミノーマ)は、10〜20歳代に多い悪性胚細胞腫瘍である。男性の精上皮腫(セミノーマ)に相当する。表面平滑な充実性腫瘍が典型で、LDH(乳酸脱水素酵素)や ALP の上昇がみられる。放射線・化学療法への感受性が高い。本例のような高齢で、毛髪塊を含む囊胞性腫瘍という像とは合わない。
- ○e. 成熟囊胞性奇形腫の悪性転化
囊胞内の毛髪塊は、成熟囊胞性奇形腫を示す特徴的な所見である。さらに次の点が悪性転化を強く示唆する。①60歳という高齢(悪性転化は閉経後に多い)、②最大径12cmと大きい、③囊胞内に充実部分がある、④SCC 8.6ng/mL と高値。悪性転化の組織型は扁平上皮癌が大半で、SCC 上昇はこれを反映する。CA19-9 の高値は成熟囊胞性奇形腫そのものでもよくみられ、奇形腫の存在を裏づける所見である。確定診断は摘出後の病理組織検査で行うが、本問の選択肢の中では最も考えられる。
卵巣腫瘍の分類(由来による大別)
・上皮性腫瘍:漿液性、粘液性、類内膜、明細胞など。卵巣腫瘍の中で最も多く、中高年に多い。 ・性索間質性腫瘍:顆粒膜細胞腫(エストロゲン産生)、莢膜細胞腫、線維腫(Meigs症候群)、Sertoli-Leydig細胞腫(アンドロゲン産生)など。 ・胚細胞腫瘍:成熟囊胞性奇形腫、未熟奇形腫、未分化胚細胞腫、卵黄囊腫瘍、絨毛癌など。成熟囊胞性奇形腫以外の多くは若年者に発生する悪性腫瘍である。
成熟囊胞性奇形腫(皮様囊腫)
・胚細胞腫瘍で最も多く、良性卵巣腫瘍の中でも頻度が高い。生殖年齢の女性に多い。 ・三胚葉成分を含むが、皮膚とその付属器(毛髪・皮脂)が主体である。歯や骨を含むこともある。 ・画像所見:超音波で毛髪塊(hair ball)や高輝度の結節(Rokitansky結節)がみられる。CT では脂肪濃度や石灰化、MRI では脂肪抑制で信号が低下する脂肪成分が診断に役立つ。 ・合併症:茎捻転(比較的重く可動性が高いため起こりやすい)、破裂による化学性腹膜炎、抗NMDA受容体脳炎(奇形腫に含まれる神経組織が抗原となる)、自己免疫性溶血性貧血など。 ・CA19-9 は良性でもしばしば上昇する。
悪性転化
・頻度は成熟囊胞性奇形腫の約1〜2%とまれである。 ・好発年齢は閉経後(50歳以降)で、若年例での悪性転化の頻度は低い。 ・組織型は扁平上皮癌が約80%を占める。ほかに腺癌、カルチノイド、肉腫などがある。 ・悪性転化を疑う所見:高齢、腫瘍径10cm以上、囊胞内の充実部分(造影で増強される壁在結節)、SCC 高値。 ・治療:手術(子宮全摘出術+両側付属器摘出術+大網切除術などの進行期決定手術)が基本である。進行例では化学療法を追加するが、予後は不良である。
主な胚細胞腫瘍と腫瘍マーカー
・未分化胚細胞腫:LDH、ALP ・卵黄囊腫瘍:AFP ・絨毛癌:hCG ・未熟奇形腫:AFP が上がることがある ・成熟囊胞性奇形腫:CA19-9(良性でも上昇)、悪性転化では SCC
POINT
・囊胞内の毛髪塊は成熟囊胞性奇形腫を示す。 ・成熟囊胞性奇形腫で「高齢(閉経後)・腫瘍径10cm以上・充実部分・SCC高値」がそろったら悪性転化を考える。 ・悪性転化の組織型は扁平上皮癌が最多(約80%)のため、SCC が上昇する。 ・CA19-9 は良性の成熟囊胞性奇形腫でも上昇しうる。 ・悪性胚細胞腫瘍は若年者に多い。マーカーは、未分化胚細胞腫が LDH、卵黄囊腫瘍が AFP、絨毛癌が hCG。
