泣くと青くなる赤ちゃん―低酸素発作を起こす心臓の「2つの条件」
第101回医師国家試験 F問題 第27問
国試問題にチャレンジ
低酸素発作を起こすのはどれか。
- a.心室中隔欠損症
- b.房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
- c.動脈管開存症
- d.Fallot四徴症
- e.総肺静脈還流異常症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
低酸素発作は、右室漏斗部の攣縮によって肺血流が急減し、心室中隔欠損を介した右左短絡が増えることで起こり、Fallot四徴症の代表的な合併症です。発作には「変動する右室流出路狭窄」と「静脈血が大動脈へ逃げる経路」の2条件が必要で、発作中は肺動脈狭窄の駆出性収縮期雑音が減弱・消失します。心室中隔欠損症・房室中隔欠損症・動脈管開存症は肺血流増加型の左右短絡疾患、総肺静脈還流異常症はチアノーゼ性でも肺血流増加型であり、いずれも発作の機序を持ちません。対応は膝胸位、酸素、モルヒネ、β遮断薬、輸液・アシドーシス補正、フェニレフリンで、強心薬は漏斗部狭窄を強めるため避けます。チアノーゼの有無だけでなく肺血流の増減と狭窄の性質から病態を考える姿勢は、先天性心疾患全体の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
低酸素発作とは
低酸素発作(無酸素発作、anoxic spell、hypercyanotic spell とも呼ばれる)は、もともとチアノーゼのある児で、肺へ流れる血液が急に減ってチアノーゼが急激に強まる発作である。多呼吸・過呼吸、不機嫌・啼泣が続き、重症では意識消失やけいれんに至り、放置すれば死亡することもある。
発作が起こる条件
発作が起こるには、次の二つがそろっている必要がある。 1. 右室から肺動脈への出口(右室流出路)に、状況によって狭さが変化する狭窄がある。特に右室漏斗部(肺動脈弁の手前の筋性部分)は筋肉でできているため、交感神経刺激などで収縮(攣縮)して一時的に強く狭くなる。 2. 心室中隔欠損などを通して、右室の静脈血が大動脈へ逃げられる経路(右左短絡)がある。 この条件下で、啼泣・哺乳・排便・起床直後などをきっかけに漏斗部狭窄が強まったり、体血管抵抗が下がったりすると、静脈血が肺へ行かずに大動脈へ流れる量が増える。その結果、低酸素血症とアシドーシスが進み、多呼吸によって静脈還流が増えてさらに右左短絡が増える、という悪循環が生じる。
考え方
この二条件を典型的に満たすのがFallot四徴症である。一方、左右短絡疾患(心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、動脈管開存症)は肺血流が増える疾患で、平常時にチアノーゼがない。総肺静脈還流異常症はチアノーゼ性疾患だが、肺血流はむしろ増えるか肺静脈側がうっ滞する病態であり、右室流出路狭窄が変動して肺血流が急減するという発作の機序を持たない。つまり「チアノーゼがあるか」だけでなく、「肺血流が減る型の疾患か、流出路狭窄が変動するか」で判断する。
選択肢考察
- ×a. 心室中隔欠損症
心室中隔に穴があり、圧の高い左室から右室へ血液が流れる左右短絡疾患である。肺血流は増える方向に働くため、平常時にチアノーゼはなく、低酸素発作は起こさない。欠損が大きいと多呼吸・哺乳不良・体重増加不良などの心不全症状を呈する。ただし肺高血圧が進行して肺血管抵抗が体血管抵抗を上回ると短絡が右左方向に逆転し、チアノーゼが出現する(Eisenmenger症候群)。これは慢性的に進む病態であり、流出路の攣縮による一過性の発作とは異なる。
- ×b. 房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
心内膜床(房室弁と心房・心室中隔の接合部をつくる組織)の発生異常により、心房中隔一次孔欠損、心室中隔流入部欠損、房室弁の形成異常(完全型では共通房室弁)が生じる疾患である。左右短絡と房室弁逆流により肺血流が増加し、完全型では乳児期早期から心不全や肺高血圧をきたしやすい。Down症候群に高率に合併する。肺血流増加型の非チアノーゼ性疾患であり、低酸素発作は起こさない。
- ×c. 動脈管開存症
出生後に閉じるはずの動脈管が開いたままとなり、大動脈から肺動脈へ血液が流れる左右短絡疾患である。連続性雑音、脈圧の増大(拡張期血圧の低下による)が特徴で、短絡量が多いと心不全をきたす。肺血流は増加するため低酸素発作は起こさない。なお、肺動脈閉鎖などの動脈管依存性肺循環の疾患では動脈管の閉鎖によって急激な低酸素に陥るが、これは動脈管開存症そのものの症状ではない。
- ○d. Fallot四徴症
心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大の4つを特徴とするチアノーゼ性先天性心疾患であり、低酸素発作を起こす代表的疾患である。右室流出路狭窄の主体は右室漏斗部の筋性狭窄であり、啼泣・哺乳・排便などで交感神経が緊張すると漏斗部が攣縮して肺血流が急減し、静脈血が心室中隔欠損から大動脈へ流れ込む(右左短絡の増加)。このとき肺動脈狭窄を通る血流が減るため、それまで聴こえていた駆出性収縮期雑音が小さくなる、あるいは消失するのが特徴的である。乳児期(おおむね生後数か月〜2歳頃)に多く、早朝の起床時や啼泣時に起こりやすい。治療は膝胸位(膝を胸に引き寄せる姿勢で体血管抵抗を上げる)、酸素投与、鎮静(モルヒネ)、β遮断薬(プロプラノロール)、輸液、アシドーシスの補正、必要に応じて昇圧薬(フェニレフリン)である。幼児期以降の児が歩行後にしゃがみ込む蹲踞(そんきょ)も、体血管抵抗を上げて右左短絡を減らす代償行動である。
- ×e. 総肺静脈還流異常症
すべての肺静脈が左房につながらず、垂直静脈を介した無名静脈・上大静脈、冠静脈洞、あるいは門脈・下大静脈など右心系に還流する疾患である。動脈血と静脈血が右房で混ざり、心房間交通(卵円孔・心房中隔欠損)を通って左心系へ流れるため、チアノーゼを呈する。しかし肺血流は増加しており、肺静脈の還流路に狭窄がある型(特に下心臓型)では肺うっ血・肺水腫により新生児期から重度のチアノーゼと呼吸不全をきたす。これは肺静脈側の閉塞による持続的な低酸素であり、右室流出路の攣縮によって肺血流が一過性に減る低酸素発作とは機序が異なる。狭窄型は緊急手術の適応となる。
チアノーゼ性先天性心疾患の分類(肺血流による)
・肺血流減少型:Fallot四徴症、肺動脈閉鎖、三尖弁閉鎖(肺動脈狭窄を伴う型)、肺動脈狭窄を伴う両大血管右室起始など。胸部エックス線写真で肺血管陰影が減少する。右室流出路狭窄のある疾患では低酸素発作を起こしうる。 ・肺血流増加型:完全大血管転位、総肺静脈還流異常症(非狭窄型)、総動脈幹症など。チアノーゼに加えて心不全をきたしやすい。
左右短絡疾患(非チアノーゼ性)
心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、房室中隔欠損症、動脈管開存症。肺血流が増え、心不全や肺高血圧が問題になる。長期に肺高血圧が続くと右左短絡に逆転してチアノーゼが現れる(Eisenmenger症候群)。
Fallot四徴症の要点
・胸部エックス線写真:木靴型心陰影(右室肥大による心尖部挙上と、肺動脈低形成による左第2弓の陥凹)、肺血管陰影の減少。約25%で右側大動脈弓を伴う。 ・心電図:右軸偏位、右室肥大。 ・聴診:胸骨左縁の駆出性収縮期雑音(肺動脈狭窄による)、単一II音。 ・長期のチアノーゼにより多血症、ばち指、脳膿瘍・脳血栓などを合併しうる。 ・治療:根治手術(心室中隔欠損閉鎖と右室流出路形成)。肺動脈が細い例などでは、先に体肺動脈短絡術(Blalock-Taussig短絡術)で肺血流を確保する。
低酸素発作の対応の整理
・膝胸位(乳児では両膝を胸に抱え込ませる):体血管抵抗を上げて右左短絡を減らす。 ・酸素投与、鎮静(モルヒネ):過呼吸と交感神経緊張を抑える。 ・β遮断薬(プロプラノロール):漏斗部の攣縮を抑える。発作予防の内服にも用いられる。 ・炭酸水素ナトリウム:アシドーシスを補正する。 ・フェニレフリン(α刺激薬):体血管抵抗を上げる。 ・カテコラミンなど陽性変力作用のある薬は漏斗部狭窄を強めるため避ける。 ・発作を繰り返す例は、短絡術や根治手術を早める。
POINT
・低酸素発作はFallot四徴症の代表的合併症で、右室漏斗部の攣縮による肺血流の急減と右左短絡の増加が原因。 ・誘因は啼泣・哺乳・排便・起床時など。発作中は肺動脈狭窄の雑音が減弱・消失する。 ・対応は膝胸位、酸素、モルヒネ、β遮断薬、輸液・アシドーシス補正、フェニレフリン。強心薬は避ける。 ・心室中隔欠損症・房室中隔欠損症・動脈管開存症は左右短絡(肺血流増加)で低酸素発作は起こさない。 ・総肺静脈還流異常症はチアノーゼ性だが肺血流増加型(狭窄型は肺うっ血)で、発作の機序を持たない。
