ぐったりした乳児の下痢と嘔吐―まず止めるべきは「下痢」ではなく「脱水の進行」
第101回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
8か月の乳児。嘔吐と下痢とを主訴に来院した。昨日の昼ころから白色水様の下痢が続いている。今朝からは嘔吐をするようになり,哺乳力低下が認められる。泣き声が弱々しくぐったりしており,大泉門が陥凹している。舌と口腔粘膜とが乾燥している。 まず行うのはどれか。
- a.輸液
- b.止痢薬投与
- c.制吐薬投与
- d.抗菌薬投与
- e.中心静脈栄養
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳児に嘔吐と白色水様便がみられた場合はロタウイルス胃腸炎を考え、大泉門の陥凹、口腔粘膜の乾燥、活気や哺乳力の低下があれば中等度以上の脱水と判断します。軽症で経口摂取が可能なら経口補水療法が第一選択ですが、嘔吐が強く全身状態が悪い場合は、末梢静脈路を確保して等張液から輸液を開始し、排尿を確認してからカリウムを含む維持輸液へ移行します。感染性腸炎に止痢薬は病原体の排出を妨げるため原則使用せず、ウイルス性胃腸炎に抗菌薬は無効で、制吐薬も脱水そのものは改善しません。中心静脈栄養は長期の栄養管理のための侵襲的手技であり、急性の脱水には不要です。乳児は脱水が急速に進みやすいため、「原因治療より先に水と電解質を補う」という支持療法の原則を身につけることが、小児救急の第一歩となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・8か月の乳児 ・前日昼から白色水様便が持続し、今朝から嘔吐が加わった ・哺乳力低下、泣き声が弱々しくぐったりしている ・大泉門の陥凹、舌・口腔粘膜の乾燥
原因の推定
乳幼児に急性の嘔吐と水様下痢がみられ、便が白色(米のとぎ汁様〜クリーム色)であることから、ロタウイルスによる急性胃腸炎(いわゆる乳児嘔吐下痢症・白色便性下痢症)が最も考えられる。ロタウイルス胃腸炎は主に冬から春にかけて流行し、6か月〜2歳ごろの乳幼児に多く、嘔吐が目立ち脱水をきたしやすいのが特徴である。
脱水の評価
大泉門の陥凹と口腔粘膜の乾燥は、細胞外液の減少を示す典型的な身体所見である。さらに、ぐったりして泣き声が弱い(活気・意識レベルの低下)、哺乳力が低下しているといった全身状態の悪化は、脱水が少なくとも中等度に達していることを示唆する。嘔吐があるため経口での水分補給は期待しにくく、下痢による喪失も今後続くと考えられる。
まず行うこと
急性胃腸炎の治療の中心は、原因微生物を攻撃することではなく、失われた水分と電解質を補って循環を保つこと(支持療法)である。本例のように嘔吐があり全身状態が不良な乳児では、経口補水療法(ORT)ではなく、末梢静脈路を確保しての輸液を最優先で行う。
選択肢考察
- ○a. 輸液
脱水は乳児の急性胃腸炎で生命予後に直結する最大の問題であり、その是正が最優先となる。本例は嘔吐と哺乳力低下のため経口補水が困難で、活気の低下もみられるため、経静脈的な輸液の適応である。末梢静脈から、まず細胞外液に近い組成の輸液(生理食塩液や乳酸リンゲル液などの等張液、あるいはカリウムを含まない開始液)を用いて循環血液量を回復させ、排尿を確認したうえで電解質を調整した維持輸液へ移行するのが一般的な流れである。血清電解質(Na、K)や血糖、酸塩基平衡も併せて評価する。
- ×b. 止痢薬投与
ロペラミドなどの腸管運動を抑える止痢薬は、病原体や毒素の腸管外への排出を妨げ、病状を遷延・悪化させるおそれがあるため、感染性腸炎には原則として使用しない。特に乳幼児では、ロペラミドは6か月未満の乳児には禁忌、2歳未満には原則禁忌とされており、腸閉塞や中枢神経抑制などの副作用の危険もある。脱水の是正にもつながらない。
- ×c. 制吐薬投与
制吐薬は嘔吐を和らげ経口摂取を助ける補助的な役割にとどまり、すでに生じている脱水を改善することはできない。また下痢による水分喪失も止められない。乳児では錐体外路症状などの副作用にも注意が必要であり、「まず」行う処置ではない。
- ×d. 抗菌薬投与
臨床像からロタウイルスなどのウイルス性胃腸炎が考えられ、抗菌薬は無効である。不必要な抗菌薬は腸内細菌叢を乱して下痢を悪化させたり、耐性菌を生む原因にもなる。細菌性腸炎であっても多くは自然軽快し、抗菌薬は重症例や特定の病原体(赤痢菌など)に限って検討されるものであり、いずれにしても脱水の是正に先立つものではない。
- ×e. 中心静脈栄養
中心静脈栄養は、長期間にわたって経口・経腸栄養が不可能な場合に高カロリー輸液を行う方法で、カテーテル関連血流感染や血栓などの合併症を伴う侵襲的な手技である。急性胃腸炎による脱水は数日の経過で改善が見込め、末梢静脈からの輸液で十分対応できる。現時点で必要なのは栄養補給ではなく、循環血液量の回復である。
小児の脱水の重症度評価(目安)
・軽症(体重減少5%未満程度):口渇、軽度の粘膜乾燥、全身状態は保たれている。 ・中等症(5〜10%程度):活気の低下、大泉門・眼窩の陥凹、口腔粘膜の乾燥、尿量減少、皮膚ツルゴールの低下、毛細血管再充満時間(CRT)の延長。 ・重症(10%以上):意識障害、末梢冷感、頻脈・脈拍微弱、血圧低下、無尿など、ショックに近い状態。 乳児は体重に占める水分の割合が大きく、体重当たりの必要水分量も多い。また腎の濃縮力が未熟なため、短時間で脱水が進行しやすい。
小児急性胃腸炎の脱水治療
・軽症〜中等症で経口摂取が可能なら、経口補水液(ORS)による経口補水療法(ORT)が第一選択である。少量ずつ頻回に与えるのがこつである。 ・嘔吐が強い、意識・活気の低下がある、ORTが無効、重症脱水やショックの場合は経静脈輸液を行う。初期輸液には等張液を用い、循環が回復して排尿が確認できてからカリウムを含む輸液に切り替える。 ・脱水の改善後は早期に授乳・食事を再開する(長期の絶食は推奨されない)。
ロタウイルス胃腸炎
・冬〜春に流行し、乳幼児に好発する。感染力が強く、便中に大量のウイルスが排泄される。 ・発熱、嘔吐に続いて白色〜黄白色の水様便がみられる。 ・合併症として脱水、けいれん、脳症などがある。 ・迅速抗原検査で診断できる。特異的な抗ウイルス薬はなく、治療は脱水の補正が中心である。 ・経口生ワクチンがあり、日本では2020年10月から定期接種となっている。
POINT
・乳児の急性胃腸炎で大泉門陥凹・粘膜乾燥・活気低下があれば、中等度以上の脱水と判断する。 ・嘔吐があり経口補水が困難な脱水では、まず末梢静脈からの輸液を行う。 ・感染性腸炎に止痢薬は使用しない(病原体の排出を妨げる)。 ・ウイルス性胃腸炎に抗菌薬は無効である。 ・白色水様便+嘔吐の乳児はロタウイルス胃腸炎を考える。
