腎臓が悲鳴を上げる前に―「症候」から逆算する急性腎障害の原因
第101回医師国家試験 B問題 第81問
国試問題にチャレンジ
急性腎不全に伴う症候と原因の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.血圧低下 ―― 外傷性出血
- b.褐色尿 ―― 心不全
- c.腹痛 ―― アミノグリコシド系抗菌薬
- d.眼球結膜黄染 ―― レプトスピラ症〈Weil病〉
- e.下腿浮腫 ―― 熱中症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性腎障害(AKI)は、腎血流低下による腎前性、腎実質障害による腎性、尿路閉塞による腎後性に分けて原因を考えます。外傷性出血では循環血液量減少による血圧低下から腎前性AKIをきたし、遷延すると急性尿細管壊死へ移行します。Weil病(重症型レプトスピラ症)は黄疸・腎障害・出血傾向を三徴とし、眼球結膜黄染は典型的所見です。一方、褐色尿は横紋筋融解症や溶血に伴う所見で心不全とは結びつかず、アミノグリコシドは腎毒性と耳毒性が特徴で腹痛は伴わず、熱中症は細胞外液減少のため浮腫を生じません。原因疾患の病態生理から随伴症候を予測できるようになると、AKIの原因検索が格段に速く確実になります。
解答・解説
正解はa, dです
急性腎不全(現在は急性腎障害、acute kidney injury:AKIと呼ぶ)は、数時間〜数日の経過で腎機能が急激に低下し、血清クレアチニンの上昇や尿量減少をきたす病態である。原因は障害部位によって次の3つに分けて考える。 ・腎前性:腎血流の低下(出血、脱水、ショック、心不全など)。腎そのものは初期には障害されていない。 ・腎性:腎実質の障害(急性尿細管壊死、急性糸球体腎炎、急性間質性腎炎など)。腎毒性薬剤、ミオグロビン・ヘモグロビンなどの色素、感染症などが原因となる。 ・腎後性:尿路の閉塞(両側尿管閉塞、前立腺肥大症など)。 本問では、各原因疾患がAKIを起こす際に「どのような症候を伴うか」を問うている。原因疾患の病態生理を思い浮かべ、その疾患で本当にその症候が生じるかを一つずつ確かめればよい。外傷性出血では循環血液量減少から血圧低下が起こり腎前性AKIに至る。Weil病(重症型レプトスピラ症)は黄疸と腎障害を主徴とする疾患であり、眼球結膜の黄染は典型的な所見である。一方、褐色尿は心不全ではなく横紋筋融解症や溶血に伴う所見、下腿浮腫は細胞外液が失われる熱中症では通常みられない、など他の組合せは病態と合致しない。
選択肢考察
- ○a. 血圧低下 ―― 外傷性出血
外傷で出血が続くと循環血液量が減少し、血圧が低下して出血性ショックに至る。腎血流量と糸球体濾過量が減るため尿量が減少し、腎前性AKIとなる。この段階で循環を回復させれば腎機能は戻りうるが、虚血が長引くと尿細管上皮が障害され、腎性(虚血性急性尿細管壊死)へ移行する。血圧低下という症候と外傷性出血という原因の組合せは正しい。
- ×b. 褐色尿 ―― 心不全
心不全では心拍出量の低下により腎血流が減少して腎前性AKIをきたすことがある(心腎連関)が、尿が褐色になることはない。AKIに伴う褐色〜赤褐色尿は、横紋筋融解症によるミオグロビン尿や、異型輸血などの血管内溶血によるヘモグロビン尿でみられ、これらの色素は尿細管を障害して腎性AKIの原因となる。心不全でみられるのはむしろ浮腫、呼吸困難、頸静脈怒張などである。
- ×c. 腹痛 ―― アミノグリコシド系抗菌薬
アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン、アミカシンなど)は近位尿細管に蓄積して急性尿細管壊死を起こし、腎性AKIの原因となる。尿量が保たれる非乏尿性の経過をとることが多く、第8脳神経障害(難聴・めまい)を伴うことがある。しかし腹痛を特徴的に伴うものではなく、組合せとして誤りである。予防には血中濃度(トラフ値)のモニタリングが重要である。
- ○d. 眼球結膜黄染 ―― レプトスピラ症〈Weil病〉
レプトスピラ症は、ネズミなどの保菌動物の尿で汚染された水や土壌から、皮膚の傷や粘膜を通じてレプトスピラが感染する人獣共通感染症である。重症型のWeil病では、発熱、筋肉痛(特に腓腹筋痛)、眼球結膜充血に続いて、黄疸・腎障害・出血傾向を呈する。腎では尿細管間質性腎炎を中心とした障害が起こりAKIとなり、肝障害による黄疸で眼球結膜が黄染する。したがって正しい組合せである。
- ×e. 下腿浮腫 ―― 熱中症
熱中症では大量の発汗により水分とナトリウムが失われ、循環血漿量と細胞外液量が減少する。これにより腎前性AKIを生じ、重症例(熱射病)では横紋筋融解症によるミオグロビン尿やDIC(播種性血管内凝固)も加わって腎性AKIを起こしうる。細胞外液が減っているため、下腿浮腫はみられない。熱中症でみられるのは皮膚・口腔粘膜の乾燥、頻脈、血圧低下など脱水の所見である。
AKIの原因と主な特徴
・腎前性:出血、脱水(嘔吐・下痢・熱中症)、ショック、心不全、NSAIDs・ACE阻害薬などによる腎血行動態の変化。尿中Na排泄率(FENa)は1%未満、尿浸透圧は高値(500 mOsm/kg H2O以上)、BUN/Cr比は20以上となりやすい。 ・腎性:急性尿細管壊死(虚血、アミノグリコシド系抗菌薬、造影剤、シスプラチン、ミオグロビン・ヘモグロビンなど)、急速進行性糸球体腎炎、急性間質性腎炎(薬剤アレルギー、感染症)など。FENaは2%以上となることが多く、尿沈渣で顆粒円柱(泥褐色円柱)などを認める。 ・腎後性:両側尿管閉塞(結石、腫瘍、後腹膜線維症)、前立腺肥大症など。超音波で水腎症を確認する。
AKIに伴う症候と原因の対応
・血圧低下、頻脈:出血、脱水、ショック(腎前性) ・褐色〜赤褐色尿:横紋筋融解症(ミオグロビン尿:挫滅症候群、熱射病、薬剤など)、血管内溶血(ヘモグロビン尿:異型輸血など) ・黄疸:Weil病、肝腎症候群、重症感染症 ・浮腫、呼吸困難:心不全、ネフローゼ症候群、体液過剰 ・難聴・めまい:アミノグリコシド系抗菌薬(腎毒性と耳毒性) ・血小板減少と溶血性貧血:溶血性尿毒症症候群(HUS)
レプトスピラ症(Weil病)
感染症法の4類感染症。潜伏期はおおむね3〜14日。第1期(敗血症期)に発熱、悪寒、筋肉痛(腓腹筋痛)、眼球結膜充血がみられ、重症例では第2期に黄疸、腎障害、出血傾向の三徴を呈する。治療はペニシリン系やテトラサイクリン系(ドキシサイクリン)の抗菌薬である。
POINT
・AKIは腎前性・腎性・腎後性に分けて考える。 ・外傷性出血→血圧低下→腎前性AKI(遷延すれば急性尿細管壊死へ)。 ・Weil病:黄疸(眼球結膜黄染)+腎障害+出血傾向、腓腹筋痛、眼球結膜充血。 ・褐色尿は横紋筋融解症・溶血でみられ、心不全の症候ではない。 ・熱中症は細胞外液減少であり浮腫は生じない。アミノグリコシドは腎毒性と耳毒性が特徴で、腹痛とは関係しない。
