StudyMed医師国家試験

「操られている」は思考の病気?―させられ体験と思路の障害を切り分ける

第101回医師国家試験 B問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第40問

思考の障害でないのはどれか。

  1. a.させられ体験
  2. b.連合弛緩
  3. c.観念奔逸
  4. d.保続
  5. e.迂遠

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精神症状の分類を問う問題だ。5つの用語のうち「思考の障害ではないもの」を1つ選ぶ。カギは、その症状が「考えの進み方」の異常なのか、「自分が考えている・自分が行っているという感覚」の異常なのかを見分けることだよ。
医学生医学生
正直、全部思考の障害に見えます。させられ体験も、統合失調症の患者さんの考えがおかしくなっている状態ですよね。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でもまず、記述精神病理学で「思考の障害」がどう整理されているかを確認しよう。大きく分けると、思考形式の障害と思考内容の障害がある。思考形式の障害はさらに、考えの進み方・つながり方の異常である思路の障害と、考えるという体験の感じ方の異常である思考体験様式の障害に分けられる。思考内容の障害の代表が妄想だ。
医学生医学生
精神医学の講義で、妄想は「内容」、滅裂は「形式」と習った記憶があります。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。では、自分の行為や思考、感情が「自分のものであり、自分が行っている」という感覚はどこに入ると思う?
医学生医学生
……思考体験様式でしょうか。
ドクタードクター
惜しいけれど、それは自我意識と呼ばれる別の領域なんだ。Jaspersは自我意識を、能動性、単一性、同一性、外界との区別の4つの標識で説明した。させられ体験、つまり作為体験は、自分の行動や考えが外部の何者かに操られていると感じるもので、能動性の意識の障害にあたる。だからこれが「思考の障害でないもの」、つまり正解だ。
医学生医学生
なるほど、障害されているのは考えの中身や流れではなく、「自分がやっている」という感覚の側なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。Schneiderの一級症状の一つで、統合失調症に特徴的だ。ただ、思考吹入や思考奪取のように思考の領域に現れたものは「させられ思考」と呼ばれ、思考体験の異常として扱われることもある。とはいえ、させられ体験という概念自体は自我意識の障害と押さえておこう。では残りを見ていこう。連合弛緩はどうかな。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、統合失調症の患者さんの話が少しずつずれていって、何の話か追いにくかったことがあります。あれでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。観念同士のつながりが緩み、全体のまとまりを欠くけれど、ある程度は意味を追える段階が連合弛緩。さらに進んで論理的な結びつきが失われたのが滅裂思考、極端になると単語が無秩序に並ぶ「言葉のサラダ」になる。統合失調症に典型的な思路の障害だよ。
医学生医学生
観念奔逸は躁状態で、話がどんどん飛ぶものでしたよね。
ドクタードクター
その通り。考えが次々に湧いてテンポよく移り変わり、周囲の刺激や音の似た言葉に引きずられて脱線し、最終的な目標に届かない。ただ、個々のつながりはたどれる点で滅裂思考とは違う。うつ状態で思考のテンポが遅くなる思考制止と対になる概念だ。
医学生医学生
迂遠も話が回りくどくなるので、観念奔逸と混同しそうです。
ドクタードクター
区別のポイントはゴールにたどり着くかどうか。迂遠は細部にこだわって回り道をするけれど、最終的な目的は見失わず結論に到達する。観念奔逸は目標そのものから逸れていく。迂遠はてんかんに伴う粘着性の性格変化の代表的な表れとされ、認知症や知的障害でもみられる。
医学生医学生
保続は、神経内科で認知症の方の診察を見学したときに、曜日を聞かれた答えを年齢を聞かれても繰り返していたのを見ました。
ドクタードクター
いい観察だね。一度浮かんだ観念や返答が、別の質問に移っても繰り返され、切り替えられない状態が保続。脳血管障害や前頭側頭型認知症などの器質性脳疾患、とくに前頭葉障害との関連が深い。これも思路の障害だ。
医学生医学生
整理すると、連合弛緩・観念奔逸・迂遠・保続は思路の障害で、させられ体験だけが自我意識の障害、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、自我意識の他の障害も押さえておこう。能動性の障害には離人症も入る。単一性の障害は二重身、同一性の障害は解離性同一症、外界との区別の障害には自分の考えが周囲に伝わってしまう思考伝播がある。また思路の障害では、統合失調症で考えが突然途切れる思考途絶も重要だ。
医学生医学生
臨床では、症状の名前を正しく付けられると、疾患の見当もつけやすくなりそうです。
ドクタードクター
その通り。連合弛緩なら統合失調症、観念奔逸なら躁状態、迂遠ならてんかん、保続なら器質性疾患と、症状の分類はそのまま鑑別の手がかりになる。ただし一つの症状だけで診断を断定せず、経過や他の所見と合わせて判断することを忘れないでほしい。

まとめ

思考の障害は、考えの進み方の異常である思路の障害(連合弛緩・滅裂思考、観念奔逸、思考制止、迂遠、保続、思考途絶など)、強迫観念などの思考体験様式の障害、妄想に代表される思考内容の障害に整理されます。一方、させられ体験(作為体験)は「自分が行っている」という能動性の意識が損なわれる自我意識の障害であり、Schneiderの一級症状として統合失調症に特徴的です。思路の障害は、連合弛緩が統合失調症、観念奔逸が躁状態、迂遠がてんかん、保続が器質性脳疾患と代表疾患とセットで覚え、迂遠は目的に到達し観念奔逸は目的から逸れるという違いも押さえましょう。症状を正確に分類し命名できることは、精神科面接の記載や鑑別診断の出発点となります。

解答・解説

正解はaです

精神症状を正しく分類できるかを問う問題である。「思考の障害でないもの」を1つ選ぶ。 記述精神病理学では、思考の障害を大きく次のように整理する。 1. 思考形式の障害 (1) 思考過程(思路)の障害:考えの進み方・つながり方の異常。連合弛緩、滅裂思考、観念奔逸、思考制止、迂遠、保続、思考途絶など。 (2) 思考体験様式の障害:考えるという体験そのものの感じ方の異常。強迫観念、支配観念など。 2. 思考内容の障害:妄想(被害妄想、誇大妄想、微小妄想など)。 一方、「自分の行為・思考・感情が自分のものであり、自分が行っている」という感覚(能動性の意識)は自我意識と呼ばれ、その障害は思考障害とは別の項目に分類される。させられ体験(作為体験)はこの自我意識の障害の代表である。 したがって、選択肢のうち連合弛緩・観念奔逸・保続・迂遠はいずれも思路の障害であり、思考の障害に該当しないのはさせられ体験である。

選択肢考察

  1. ○a.  させられ体験

    させられ体験(作為体験)とは、自分の行動・考え・感情が、自分ではなく外部の何者かによって操られ、させられていると体験するもので、自我意識のうち能動性の意識の障害に分類される。Schneiderの一級症状の一つであり、統合失調症に特徴的である。思考の領域に現れたもの(思考吹入:他人の考えを吹き込まれる、思考奪取:考えを抜き取られる、思考干渉など)は「させられ思考(作為思考)」と呼ばれ、思考体験の異常として扱われることもあるが、させられ体験という概念自体は思考ではなく自我意識の障害である。よって本問で「思考の障害でない」ものに該当する。

  2. ×b.  連合弛緩

    連合弛緩は思路の障害である。観念と観念のつながりが緩み、話の全体としてのまとまりを欠くため聞き手には理解しにくいが、ある程度は意味を追える段階を指す。これがさらに進んで、観念同士の論理的な結びつきが失われ、文脈がまったく理解できなくなった状態が滅裂思考であり、極端になると単語が無秩序に並ぶ「言葉のサラダ」となる。統合失調症に典型的にみられる。思考の障害に該当する。

  3. ×c.  観念奔逸

    観念奔逸は思路の障害である。考えが次から次へと湧き出して速いテンポで移り変わり、周囲の音や目に入ったものなど外界の刺激や、音の似た言葉(音連合)に引きずられて話題が逸れていくため、最終的な目標に到達しない。個々の観念のつながりはある程度たどれる点で滅裂思考とは異なる。躁状態(双極症の躁病エピソード)に特徴的である。思考の障害に該当する。なお、うつ状態でみられる思考のテンポの遅延は思考制止と呼ばれ、観念奔逸と対になる概念である。

  4. ×d.  保続

    保続は思路の障害である。いったん浮かんだ観念や一度した返答が、別の質問に移っても繰り返し現れ、新しい話題へ切り替えられない状態を指す。例えば「今日は何曜日ですか」の答えを、次に年齢を問われても繰り返すといった形で現れる。脳血管障害、前頭側頭型認知症などの器質性脳疾患でみられ、特に前頭葉障害との関連が深い。思考の障害に該当する。

  5. ×e.  迂遠

    迂遠(迂遠思考)は思路の障害である。話の最終的な目的は見失っていないが、細部や副次的な事柄にこだわって一つひとつを詳しく述べるため、話が回りくどくなり、なかなか結論に行き着かない。目標にはいずれ到達する点で、目標自体から逸れていく観念奔逸とは区別される。てんかんに伴う性格変化(粘着性)の代表的な表れとされ、認知症や知的障害でもみられる。思考の障害に該当する。

思考の障害の分類

・思路(思考過程)の障害 連合弛緩・滅裂思考:統合失調症 観念奔逸:躁状態 思考制止(思考抑制):うつ状態 迂遠:てんかん、認知症 保続:器質性脳疾患(前頭葉障害、認知症など) 思考途絶:思考の流れが突然止まる。統合失調症 ・思考体験様式の障害 強迫観念:不合理と自覚しながら頭から離れない考え(強迫症) 支配観念(優格観念):強い感情を伴い、その人の思考を長く支配する考え ・思考内容の障害 妄想:訂正不能な誤った確信。一次妄想(妄想気分、妄想知覚、妄想着想)と、気分や状況から了解可能な二次妄想に分けられる

自我意識の障害

Jaspersは自我意識を、能動性(自分が行っている)、単一性(自分は一人である)、同一性(過去と現在の自分は同じである)、外界との区別(自分と他者・外界は別である)の4つの標識で説明した。 ・能動性の障害:させられ体験(作為体験)、離人症 ・単一性の障害:二重身(ドッペルゲンガー) ・同一性の障害:解離性同一症(いわゆる多重人格) ・外界との区別の障害:思考伝播(自分の考えが周囲に伝わってしまう)など

Schneiderの一級症状

考想化声、対話性の幻聴、自分の行為を批評する幻聴、身体への被影響体験、思考奪取・思考吹入などの思考への干渉、思考伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域におけるさせられ体験。器質疾患がなくこれらが明らかにあれば統合失調症を強く示唆するとされた。

POINT

・させられ体験(作為体験)は自我意識(能動性)の障害であり、思考の障害ではない。統合失調症に特徴的(Schneiderの一級症状) ・思路の障害と代表疾患:連合弛緩・滅裂思考=統合失調症、観念奔逸=躁状態、思考制止=うつ状態、迂遠=てんかん、保続=器質性脳疾患 ・迂遠は目的に到達する、観念奔逸は目的から逸れていく、と区別する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。