折れた脛骨を守りながら学校へ―「免荷」で選ぶ通学手段
第100回医師国家試験 I問題 第25問
国試問題にチャレンジ
17歳の男子。サッカーのプレー中,相手と激突し,直後から痛みで足をつけなくなり来院した。右下腿部に腫脹と皮下出血とがあり,エックス線単純写真で脛骨に骨折線を認めるが転位はない。保存的治療を選択した。 骨癒合までの適切な通学方法はどれか。2つ選べ。
- a.自転車
- b.歩行器
- c.車椅子
- d.松葉杖
- e.下肢装具
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
転位のない脛骨骨折はギプス固定などの保存的治療が基本で、骨癒合までは患肢を免荷または部分荷重とし、転倒の危険がある移動手段は避けます。上肢と健側下肢が健常な若年者の通学には、患肢を浮かせて自力で移動できる松葉杖と、膝蓋腱で荷重を受けて骨折部への負荷を減らすPTB装具などの下肢装具が適しています。自転車は患肢への負荷と転倒リスクから不適切で、歩行器は主に高齢者向けで階段や交通機関に対応しにくく、車椅子は自力歩行できる若年者には介助や筋力低下の点で第一選択になりません。あわせて、脛骨骨折ではコンパートメント症候群や遠位部の癒合遅延・偽関節に注意が必要です。患者に残された機能を生かして安全に自立した生活を送らせるという視点は、骨折治療の生活指導やリハビリテーションの基本となります。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・17歳男子、サッカー中の接触(直達外力)による受傷。 ・受傷直後から痛みで右足を接地できない、右下腿の腫脹・皮下出血。 ・エックス線単純写真で脛骨に骨折線あり、転位なし。 以上から、右脛骨の転位のない骨折(非転位骨折)と診断できる。転位がないため手術ではなく、ギプス固定などによる保存的治療が選ばれている。
設問の考え方
保存的治療では、骨癒合が得られるまで骨折部に過大な負荷をかけないこと(患肢の免荷または部分荷重)が原則となる。脛骨は下腿で体重を支える主要な骨であり、早い段階で全荷重をかけたり、転倒・再受傷の危険がある移動手段を使ったりすると、転位の発生や癒合遅延・偽関節を招く。一方でこの患者は17歳と若く、上肢と左下肢は健常である。したがって、健常な部分を使って患肢を守りながら自力で移動できる手段が、通学方法として適切である。具体的には、上肢で体重を支えて患肢を浮かせる松葉杖歩行と、骨折部にかかる荷重を減らしつつ歩行を可能にする下肢装具(膝蓋腱荷重型装具などの免荷装具)がこれにあたる。通学では段差・階段や公共交通機関の利用も想定されるため、その点での実用性も考慮して判断する。
選択肢考察
- ×a. 自転車
自転車はペダルを踏む動作で患肢に力が加わり、停車時には足を地面につく必要がある。さらにバランスを崩して転倒すれば骨折部の転位や再骨折を起こしうる。固定具を着けた状態での運転は安全面でも問題があり、骨癒合までの通学手段として不適切である。
- ×b. 歩行器
歩行器は下肢の支持性やバランスが低下した高齢者などが、両下肢に体重をかけながら歩く際の補助具として主に用いられる。本例では患肢にまだ荷重できないため、歩行器を使った通常の歩行は困難である。また、歩行器は大きくかさばり、階段や段差、電車・バスの乗降に対応しにくいため、上肢・健側下肢が健常な若年者の通学手段としては適さない。
- ×c. 車椅子
車椅子を使えば患肢への荷重は確実に避けられるが、本例は上肢と健側下肢の機能が保たれており、松葉杖で自力歩行が可能である。車椅子は段差・階段や公共交通機関で介助を要することが多く、長期間使うと健側下肢や体幹の筋力低下も招く。移動そのものは可能だが、第一に勧める通学方法とはいえない。
- ○d. 松葉杖
松葉杖を使えば、両上肢と健側(左)下肢で体重を支え、患肢を接地させない免荷歩行、あるいは骨癒合の進行に合わせた部分荷重歩行が可能になる。17歳と若く上肢・健側下肢が健常な本例では、階段の昇降も含めて自力で移動でき、通学手段として実用的である。荷重量は仮骨形成などの経過を見ながら段階的に増やしていく。
- ○e. 下肢装具
脛骨骨折の保存的治療では、ギプス固定の後に下腿の装具へ切り替えて歩行させる方法がとられる。代表的なのは膝蓋腱荷重型(PTB:patellar tendon bearing)装具で、体重を膝蓋腱部で受けて骨折部にかかる荷重を減らすとともに、周囲の軟部組織を圧迫して骨折部を安定させる。これにより早期から歩行が可能となり、松葉杖との併用または装具単独での通学ができる。適度な荷重と関節運動は骨癒合を促し、関節拘縮や筋萎縮の予防にも役立つ。
脛骨骨幹部骨折の概要
・脛骨は前内側面が皮膚のすぐ下にあるため、開放骨折になりやすい。また下腿は筋膜で囲まれた区画(コンパートメント)に分かれており、受傷後の腫脹によって区画内圧が上がるコンパートメント症候群を起こしやすい。強い疼痛(特に足趾の他動的伸展で増強する痛み)、感覚障害などがあれば、筋膜切開を急ぐ必要がある。 ・骨膜以外の軟部組織による被覆が少なく血流に乏しい部分があるため、特に遠位1/3では癒合遅延や偽関節が起こりやすい。
治療方針
・転位のない、または整復位が安定した閉鎖骨折:ギプス固定などの保存的治療。その後、機能的装具(PTB装具など)に移行し、荷重歩行を進める。 ・転位が大きい、不安定、開放骨折など:髄内釘固定、プレート固定、創外固定などの手術療法。
骨癒合を妨げないための日常生活の注意
・骨癒合までは免荷または部分荷重とし、荷重量はエックス線所見(仮骨形成)を確認しながら段階的に増やす。 ・転倒の危険がある移動手段(自転車など)やスポーツ活動は、骨癒合が得られるまで控える。 ・ギプス固定中は下肢の挙上で腫脹を軽減し、足趾の色・しびれ・痛みの増強など循環障害やコンパートメント症候群の徴候に注意する。
移動補助具の使い分け
・松葉杖:上肢と健側下肢が健常で、片側下肢を免荷・部分荷重したい場合に適する。 ・歩行器:両下肢に荷重できるがバランスや筋力が不十分な場合(高齢者など)に用いられることが多い。 ・車椅子:両下肢とも荷重できない場合や、松葉杖を使うだけの上肢機能・体力がない場合に用いる。
POINT
・転位のない脛骨骨折は保存的治療(ギプス→PTB装具などの機能的装具)が基本。 ・骨癒合までは患肢の免荷・部分荷重を守り、転倒のリスクがある移動手段は避ける。 ・上肢と健側下肢が健常な若年者の通学手段は、松葉杖による免荷歩行や免荷装具(PTB装具)による歩行が適切。 ・脛骨骨折後はコンパートメント症候群に注意する。
