数字が語る「透析のタイミング」―急性腎不全で腎代替療法を考える目安
第100回医師国家試験 G問題 第104問
国試問題にチャレンジ
急性腎不全で血液透析を考慮すべき検査値はどれか。
- a.赤血球 ―― 319万
- b.血清尿素窒素 ―― 58mg/dL
- c.血清クレアチニン ―― 12.2mg/dL
- d.血清カリウム ―― 5.5mEq/L
- e.動脈血HCO3- ―― 20mEq/L
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性腎不全(急性腎障害)での血液透析は、腎臓に代わって老廃物・電解質・酸塩基・体液量を調節し、生命を脅かす合併症を防ぐために行います。検査値の目安はBUNおおむね80mg/dL以上、血清クレアチニンおおむね7mg/dL以上、血清カリウムおおむね6mEq/L以上、HCO3-おおむね15mEq/L以下で、クレアチニン12.2mg/dLはこれを大きく上回るため透析を検討すべき値です。軽度の高カリウム血症や代謝性アシドーシスはまず内科的治療で対応し、貧血は透析では改善しないため開始基準に含まれません。緊急透析の適応はAIUEO(アシドーシス、中毒、尿毒症、電解質異常、体液過剰)で整理でき、実際には数値だけでなく経過・尿量・症状を総合して判断します。「異常値」と「透析が必要な異常値」を区別する視点は、腎不全診療の基本的な判断力につながります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
急性腎不全(現在は急性腎障害 acute kidney injury: AKI と呼ぶ)で、腎代替療法(血液透析など)の開始を検討すべき状態を検査値から見抜けるかを問う問題である。
考え方
急性腎不全で透析を始める目的は、腎臓が担えなくなった「老廃物の除去」「電解質の調節」「酸塩基平衡の維持」「体液量の調節」を一時的に肩代わりし、生命を脅かす合併症を防ぐことにある。したがって透析を考える指標は、次のような「放置すると危険な異常」である。 ・高度の高窒素血症(血清尿素窒素 BUN がおおむね 80mg/dL 以上、血清クレアチニン Cr がおおむね 7mg/dL 以上など) ・高カリウム血症(血清 K がおおむね 6mEq/L 以上、あるいは心電図変化を伴うもの) ・高度の代謝性アシドーシス(HCO3- がおおむね 15mEq/L 以下) ・利尿薬に反応しない体液過剰(肺水腫、心不全) ・尿毒症症状(意識障害、けいれん、心膜炎、出血傾向など) 各選択肢の数値をこれらの目安と照らし合わせると、目安を超えているのは血清クレアチニン 12.2mg/dL だけである。BUN 58mg/dL、K 5.5mEq/L、HCO3- 20mEq/L はいずれも異常値ではあるが、ただちに透析を必要とする水準には達していない。赤血球数の低下(貧血)は透析開始の判断基準に含まれない。 なお、ここで挙げた数値はあくまで目安であり、実臨床では単一の検査値だけで決めるのではなく、数値の上昇速度、尿量、症状、全身状態を総合して判断する。
選択肢考察
- ×a. 赤血球 ―― 319万
赤血球 319万/μL は軽度〜中等度の貧血を示すが、貧血は透析開始の判断基準に含まれない。血液透析は尿毒素や電解質・水分を除去する治療であり、赤血球を補う作用はないため、貧血を理由に透析を行っても改善しない。腎性貧血に対しては赤血球造血刺激因子製剤(ESA、エリスロポエチン製剤など)や、急性期で高度であれば輸血で対応する。
- ×b. 血清尿素窒素 ―― 58mg/dL
BUN の基準値はおよそ 8〜20mg/dL であり、58mg/dL は明らかに高値である。しかし急性腎不全で透析を考慮する目安はおおむね 80mg/dL 以上(あるいは急速な上昇や尿毒症症状を伴う場合)であり、この数値のみでは透析適応とはいえない。また BUN は蛋白摂取量、消化管出血、脱水、異化亢進(発熱・ステロイド投与など)でも上昇するため、腎機能以外の要因も考慮して解釈する必要がある。
- ○c. 血清クレアチニン ―― 12.2mg/dL
血清クレアチニンの基準値は成人でおよそ 0.6〜1.1mg/dL 程度である。急性腎不全で透析を考慮する目安はおおむね 7mg/dL 以上(文献によっては 5〜7mg/dL 程度)とされ、12.2mg/dL はこれを大きく上回る。クレアチニンは筋肉で産生され、ほぼ腎臓からのみ排泄されるため、この値は糸球体濾過量が高度に低下していることを示し、尿毒素の蓄積や電解質異常が急速に進むおそれが高い。したがって速やかに血液透析の開始を検討すべき値である。ただし実際の導入は、症状や全身状態を併せて判断する。
- ×d. 血清カリウム ―― 5.5mEq/L
血清 K の基準値はおよそ 3.5〜5.0mEq/L であり、5.5mEq/L は軽度の高カリウム血症である。透析の目安はおおむね 6mEq/L 以上、あるいは心電図変化(テント状T波、QRS幅の拡大など)や不整脈を伴う場合である。5.5mEq/L 程度であれば、カリウム摂取制限、カリウムを上昇させる薬剤の中止、陽イオン交換樹脂、ループ利尿薬などの内科的治療でまず対応し、推移を観察する。
- ×e. 動脈血HCO3- ―― 20mEq/L
動脈血 HCO3- の基準値はおよそ 22〜26mEq/L であり、20mEq/L は軽度の代謝性アシドーシスを示す。透析を考慮するのはおおむね 15mEq/L 以下の高度な代謝性アシドーシス、あるいは炭酸水素ナトリウム(重曹)投与で補正できないアシドーシスである。20mEq/L 程度であれば、重曹投与などで対応するのが一般的である。
急性腎不全(AKI)における緊急透析の主な適応
覚え方として「AIUEO」が用いられることがある。 ・A(Acidosis):内科的治療で補正できない高度の代謝性アシドーシス ・E(Electrolytes):高カリウム血症(おおむね 6mEq/L 以上や心電図変化あり)などの重篤な電解質異常 ・I(Intoxication):透析で除去できる薬物・毒物による中毒(リチウム、エチレングリコール、メタノール、サリチル酸など) ・O(Overload):利尿薬に反応しない体液過剰(肺水腫・うっ血性心不全) ・U(Uremia):尿毒症症状(意識障害、けいれん、尿毒症性心膜炎、出血傾向など)
検査値の目安(急性腎不全での透析考慮)
・BUN:おおむね 80mg/dL 以上 ・血清 Cr:おおむね 7mg/dL 以上(5〜7mg/dL を目安とする記載もある) ・血清 K:おおむね 6mEq/L 以上 ・HCO3-:おおむね 15mEq/L 以下 ・乏尿・無尿の持続 これらはいずれも目安であり、現在の国際的な診療ガイドライン(KDIGO など)では、特定の数値のみで開始時期を決めず、臨床経過や生命を脅かす合併症の有無を総合して判断することが強調されている。
貧血と透析
慢性腎臓病では腎臓でのエリスロポエチン産生が低下し、腎性貧血をきたす。透析はこれを是正しないため、治療には ESA や鉄剤を用いる。貧血は透析導入の判断基準には含まれない。
POINT
・急性腎不全で透析を考える目安:BUN 80mg/dL 以上、Cr 7mg/dL 以上、K 6mEq/L 以上、HCO3- 15mEq/L 以下。 ・緊急透析の適応は AIUEO(アシドーシス、電解質異常、中毒、体液過剰、尿毒症)で整理する。 ・貧血は透析では改善せず、透析開始の基準に含まれない。 ・数値は目安であり、実際には症状・経過・全身状態を総合して判断する。
