StudyMed医師国家試験

「私はキリストの生まれ変わりだ」―その一言はどの精神機能の異常か

第100回医師国家試験 E問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第15問

「私はキリストの生まれ変わりだ」という発言から疑われる症状はどれか。

  1. a.幻覚
  2. b.妄想
  3. c.強迫
  4. d.不安
  5. e.認知症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、患者さんの発言ひとつから精神症状を分類する問題だ。ポイントは「その発言がどの精神機能の障害を表しているか」を考えること。知覚なのか、思考なのか、感情なのか、知能なのか。この整理ができれば迷わず解けるよ。
医学生医学生
宗教的な内容なので、神の声が聞こえているとか、幻覚の可能性も考えてしまいました。
ドクタードクター
そう連想する人は多いね。でも発言をよく見てほしい。「声が聞こえる」「何かが見える」とは言っていない。語っているのは「自分は特別な存在だ」という考え、つまり思考の内容なんだ。幻覚は実際には存在しない対象を知覚する「対象なき知覚」で、知覚の障害に分類される。
医学生医学生
精神医学の講義で、幻覚と錯覚の違いを習いました。錯覚は実在するものを見誤ることでしたよね。
ドクタードクター
その通り。壁のしみが人の顔に見えるのが錯覚、誰もいないのに悪口が聞こえるのが幻聴だ。どちらも知覚の問題で、今回の発言とは種類が違う。では思考内容の障害で、根拠のない誤った考えを強く確信して訂正できないものは何だろう。
医学生医学生
妄想ですね。周りがいくら否定しても本人は信じ込んでいる状態です。
ドクタードクター
正解。妄想は、内容が現実にそぐわない、本人が強く確信している、説得や反証でも訂正できない、という3つの特徴をもつ。加えて、本人の属する文化や宗教で共有されている信念は妄想とは呼ばない点も大事だ。今回のように自分を偉大な存在とみなす内容は誇大妄想で、その中でも血統妄想や宗教妄想にあたる。
医学生医学生
強迫も「考えが頭から離れない」という意味では思考の異常ですよね。妄想とはどう違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。強迫は思考体験様式の障害で、本人が「ばかばかしい」とわかっているのに、ある考えが繰り返し浮かんだり、手洗いのような行為をやめられなかったりする。つまり不合理さを自覚している。一方、妄想は本人が内容を事実として確信していて、不合理だとは思っていない。この「自覚の有無」が見分けるカギだよ。
医学生医学生
不安や認知症はどうでしょう。不安は感情の問題で、認知症は記憶などの認知機能の低下だから、この発言とは結びつかない気がします。
ドクタードクター
その理解で合っている。不安は対象のはっきりしない漠然とした恐れで、動悸や発汗などの自律神経症状を伴いやすい感情の障害だ。認知症は、いったん正常に発達した認知機能が後天的に持続して低下し、生活に支障をきたした状態像で、そもそも単一の症状名ではない。認知症でも物盗られ妄想が出ることはあるけれど、この発言そのものから疑うのは妄想だね。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、躁状態の患者さんが「自分は世界を救う使命がある」と話していました。あれも誇大妄想ですか。
ドクタードクター
そう考えてよいだろうね。誇大妄想は躁状態や統合失調症でみられ、かつては神経梅毒による進行麻痺の症状としても有名だった。逆に、うつ病では自分を過小評価する微小妄想が出る。罪業妄想、貧困妄想、心気妄想の3つはうつ病の三大妄想と呼ばれるよ。
医学生医学生
気分が上がれば誇大的、下がれば微小的になる、と覚えるとわかりやすいですね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ、成り立ちによる分類も押さえておこう。気分や状況から心理的に了解できるものを二次妄想、了解できない形で突然生じるものを一次妄想という。妄想気分、妄想知覚、妄想着想といった一次妄想は統合失調症に特徴的とされる。
医学生医学生
CBTの勉強では症状名を丸暗記していましたが、「どの機能の障害か」で整理すると一気につながりますね。
ドクタードクター
それが大事なんだ。診察では、患者さんの言葉をそのまま記録するだけでなく、知覚、思考過程、思考内容、思考体験様式、感情、知能のどこに異常があるかを考えながら聞く。ただ、一言だけで決めつけず、文化的背景や確信の程度、訂正可能性まで確かめる姿勢を忘れないでほしい。

まとめ

「私はキリストの生まれ変わりだ」という発言は、知覚体験ではなく自分についての考え(思考内容)を述べたもので、根拠がないのに確信し訂正できない「妄想」にあたり、内容からは誇大妄想(血統妄想・宗教妄想)に分類されます。幻覚は対象なき知覚という知覚の障害、強迫は不合理さを自覚しながらやめられない思考体験様式の障害、不安は感情の障害、認知症は後天的な認知機能低下の状態像であり、いずれも本発言とは障害される機能が異なります。誇大妄想は躁状態や統合失調症でみられ、うつ病では罪業・貧困・心気の微小妄想が特徴的です。また、本人の文化や宗教で共有される信念は妄想としない点にも注意が必要です。精神症状を「どの精神機能の障害か」で整理する視点は、精神科診察での症状評価と診断の基本となります。

解答・解説

正解はbです

患者の発言内容から、精神症状を正しく分類できるかを問う一般問題である。

発言の読み取り

「私はキリストの生まれ変わりだ」という発言は、何かが見える・聞こえるといった知覚の体験を語っているのではなく、「自分は特別な存在である」という考え(思考内容)を述べている。現実には根拠がないにもかかわらず、本人がそれを事実として確信していると考えられる。

症状の分類の考え方

精神症状は、どの精神機能の障害かで整理すると判別しやすい。 ・知覚の障害:幻覚、錯覚 ・思考内容の障害:妄想、支配観念 ・思考体験様式の障害:強迫観念、させられ体験 ・感情の障害:不安、抑うつ、躁状態 ・知能の障害:知的障害(発達期の障害)、認知症(後天的な低下) 本問の発言は思考内容の異常であり、根拠のない誤った内容を確信して訂正できない「妄想」にあたる。内容から分類すると、自分を実際以上に偉大な存在とみなす誇大妄想のうち、宗教的な色彩をもつ血統妄想・宗教妄想に相当する。

選択肢考察

  1. ×a.  幻覚

    幻覚は知覚の障害であり、「対象なき知覚」、すなわち実際には存在しない対象を、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの感覚で知覚する体験である。例えば「誰もいないのに悪口を言う声が聞こえる」(幻聴)、「部屋に小さな虫がたくさんいる」(幻視)といった訴えが該当する。実在する対象を誤って知覚する錯覚(例:壁のしみが人の顔に見える)とは区別される。本問の発言は知覚体験ではなく自分についての考えを述べたものなので、幻覚ではない。

  2. ○b.  妄想

    妄想は思考内容の障害であり、現実には根拠のない誤った考えを強く確信し、周囲がどれだけ反証を示しても訂正できない状態をいう。その人の文化的・宗教的背景から説明できない点も特徴である。「私はキリストの生まれ変わりだ」という発言は、自分を偉大で特別な存在と確信する誇大妄想の一種(血統妄想・宗教妄想)と考えられる。誇大妄想は躁状態(双極性障害)や統合失調症でみられ、かつては神経梅毒による進行麻痺の症状としても知られた。

  3. ×c.  強迫

    強迫は思考体験様式の障害であり、本人が「ばかばかしい」「不合理だ」とわかっていながら、ある考え(強迫観念)が繰り返し浮かんだり、ある行為(強迫行為)を繰り返さずにはいられなかったりする状態である。例えば「手が汚れているのではないか」という考えが頭から離れず何十分も手を洗い続けるなどが典型で、強迫症(強迫性障害)でみられる。本人がその考えの不合理さを自覚している(病識がある)点で、不合理さを自覚せず確信している妄想とは異なる。

  4. ×d.  不安

    不安は感情の障害であり、はっきりとした対象がないまま、将来に何か悪いことが起こるのではないかという漠然とした恐れや心配を感じる状態である。動悸、発汗、ふるえ、息苦しさなどの自律神経症状や、落ち着きのなさといった行動面の変化を伴うことが多い。対象がはっきりしている場合は恐怖とよばれる。不安は健常者でも生じるが、程度や持続が過剰になると不安症(パニック症、全般不安症など)となる。本問の発言は感情ではなく思考内容を表しているので該当しない。

  5. ×e.  認知症

    認知症は症状名というより状態像・症候群であり、いったん正常に発達した認知機能(記憶、見当識、判断力、言語、遂行機能など)が、脳の後天的な障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした状態をいう。発達期から知能が低い知的障害とは区別される。認知症の行動・心理症状(BPSD)として「物を盗られた」という物盗られ妄想などが出現することはあるが、本問の発言そのものから疑われる症状は認知機能の低下ではなく妄想である。

妄想の定義と特徴

妄想は、(1) 内容が現実にそぐわず誤っている、(2) 本人が強く確信している、(3) 説得や反証によっても訂正できない、という特徴をもつ思考内容の異常である。本人の属する文化や宗教で共有される信念は妄想とはしない。

妄想の内容による分類

・被害的なもの(被害妄想):被害妄想、関係妄想(周囲の出来事を自分に関係づける)、注察妄想(見張られている)、追跡妄想、被毒妄想、嫉妬妄想、物盗られ妄想など。統合失調症、妄想性障害、認知症などでみられる。 ・誇大的なもの(誇大妄想):血統妄想(高貴な家柄・偉人の子孫や生まれ変わりだと確信)、宗教妄想(神や救世主である、神の啓示を受けたなど)、発明妄想、恋愛妄想など。躁状態、統合失調症でみられる。 ・微小的なもの(微小妄想):罪業妄想(取り返しのつかない罪を犯した)、貧困妄想(財産がなくなった)、心気妄想(重い病気にかかっている)。うつ病でみられ、この3つはうつ病の三大妄想とよばれる。

妄想の成り立ちによる分類

・一次妄想(真正妄想):心理的に了解できない形で突然生じる妄想。妄想気分、妄想知覚、妄想着想があり、統合失調症に特徴的とされる。 ・二次妄想:気分や状況などから心理的に了解可能な妄想。うつ病の微小妄想、躁病の誇大妄想などが含まれる。

主な精神症状と障害される機能

・知覚:幻覚、錯覚 ・思考過程(思路):思考途絶、連合弛緩、観念奔逸、思考制止 ・思考内容:妄想、支配観念 ・思考体験様式:強迫観念、させられ体験(作為体験) ・感情:不安、抑うつ、爽快気分、感情鈍麻 ・知能:知的障害、認知症

POINT

・妄想は思考内容の障害で、根拠のない誤った考えを確信し訂正できない状態。 ・「キリストの生まれ変わり」など自分を特別視する内容は誇大妄想(血統妄想・宗教妄想)で、躁状態や統合失調症でみられる。 ・幻覚は知覚の障害(対象なき知覚)で、錯覚(対象のある知覚の誤り)と区別する。 ・強迫は不合理さを自覚しながらやめられない点で妄想と異なる。 ・うつ病の三大妄想は罪業妄想・貧困妄想・心気妄想(いずれも微小妄想)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。