床でも手でもなく「空気」を断つ―排菌結核患者の二次感染予防
第100回医師国家試験 B問題 第74問
国試問題にチャレンジ
排菌のある肺結核患者からの二次感染の予防で適切なのはどれか。
- a.病室の陰圧管理
- b.病室床のアルコール消毒
- c.患者のN95マスク常時着用
- d.患者排泄物のホルマリン消毒
- e.アルコール含有ゲルによる医療従事者の手指消毒
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
結核は飛沫核による空気感染で広がるため、排菌患者からの二次感染予防の中心は、陰圧個室と十分な換気によって汚染された空気を病室外へ出さないことです。N95マスクは医療従事者や面会者など感染を受ける側が着用し、患者自身はサージカルマスクで飛沫の発生を抑えます。床の消毒や排泄物の特別な消毒は結核の伝播防止には寄与せず、手指衛生は標準予防策として常に行うものの、結核に特有の対策ではありません。空気感染の代表は結核・麻疹・水痘の3つであり、空気・飛沫・接触という感染経路ごとに対策を対応づけて理解することが、院内感染対策の基本になります。
解答・解説
正解はaです
問われているテーマ
排菌している肺結核患者(喀痰の抗酸菌塗抹検査が陽性などで、周囲に菌を出している状態)から他者への感染をどう防ぐかという、感染経路に応じた対策の選択を問う問題である。
結核の感染経路
結核は空気感染(飛沫核感染)で広がる。患者が咳やくしゃみ、会話をすると結核菌を含む飛沫が放出され、その水分が蒸発すると直径5μm以下の軽い粒子(飛沫核)になる。飛沫核は長時間空中を漂い、気流に乗って離れた場所まで運ばれ、吸い込まれると肺胞まで到達して感染が成立する。 一方、床や壁、衣類などに付着した菌は、再び空中に舞い上がって肺胞に届くような飛沫核にはなりにくく、実際上の感染源とはならない。また、手指を介した接触感染や、便・尿を介した感染も、肺結核の伝播経路としては問題にならない。
考え方
したがって対策の中心は「空気を介した拡散を断つこと」であり、具体的には(1)空気の流れの管理(陰圧個室、十分な換気、HEPAフィルター)、(2)発生源での飛沫の抑制(患者のサージカルマスク着用、咳エチケット)、(3)吸入の防止(医療従事者・面会者のN95マスク着用)の3つである。選択肢のうち、空気の流れを管理して飛沫核を病室外へ出さない対策が最も適切である。環境消毒や排泄物消毒、手指消毒は、結核の二次感染予防に特有の対策ではない。
選択肢考察
- ○a. 病室の陰圧管理
病室内の気圧を廊下など周囲より低く保つと、空気は常に外から室内へ流れ込み、室内の空気が扉の隙間などから漏れ出さない。これにより結核菌を含む飛沫核が病室外へ拡散するのを防げる。室内の空気は屋外へ直接排気するか、HEPAフィルター(高性能微粒子フィルター)を通して排出し、1時間あたり12回以上の換気(空気交換)を行うことが推奨されている。空気感染対策の中核となる設備であり、正しい。
- ×b. 病室床のアルコール消毒
床に落ちた結核菌は、再び肺胞まで届く飛沫核として舞い上がることはほとんどなく、感染源とはならない。そのため床の消毒に感染予防上の意義は乏しく、通常の清掃で十分である。なお、アルコール自体は抗酸菌に対して有効な消毒薬であるが、問題はそれを床に使う必要がないという点にある。
- ×c. 患者のN95マスク常時着用
N95マスクは0.3μm程度の微粒子を95%以上捕集できる高性能のマスクで、吸い込む空気から飛沫核を除くためのもの、すなわち医療従事者や面会者など「感染を受ける側」が着用するものである。患者に着用させると呼吸が苦しくなり、長時間の着用は現実的でない。患者側は、咳などで出る飛沫をその場で捕らえるためにサージカルマスクを着用すればよい。
- ×d. 患者排泄物のホルマリン消毒
肺結核は便や尿を介して感染する疾患ではない。便器・尿器の取り扱いは標準予防策に準じればよく、特別な消毒は必要ない。ホルマリンは刺激性・発がん性があり、排泄物の消毒に用いるのは適切でない。
- ×e. アルコール含有ゲルによる医療従事者の手指消毒
アルコールによる手指消毒は、すべての患者に対して行う標準予防策の基本であり、結核患者のケアでも当然実施する。しかし結核は手指を介した接触感染では広がらないため、手指消毒は結核の二次感染を防ぐ対策とはならない。本問で問われている、排菌患者から周囲への感染予防として適切なものとはいえない。
感染経路別予防策
標準予防策(すべての患者に適用:手指衛生、個人防護具、咳エチケットなど)に加え、感染経路に応じて以下を追加する。 ・空気感染予防策:結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)。陰圧個室への収容、医療従事者はN95マスクを着用する。麻疹・水痘は抗体を有する職員が担当する。 ・飛沫感染予防策:インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマ、髄膜炎菌など。直径5μmより大きい飛沫が1〜2m程度の範囲に飛ぶため、個室または十分な距離をとり、サージカルマスクを着用する。 ・接触感染予防策:MRSA、多剤耐性菌、クロストリディオイデス・ディフィシル、ノロウイルス、疥癬など。手袋・ガウンを用い、器具を専用化する。芽胞を作るC. difficileやノロウイルスにはアルコールが効きにくく、流水と石けんによる手洗いが重要である。
排菌のある結核患者への対応
・喀痰塗抹陽性の肺結核は感染症法の2類感染症であり、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る。まん延防止のため、都道府県知事は結核病床をもつ医療機関への入院を勧告できる。 ・患者が病室外へ出る場合はサージカルマスクを着用させる。 ・接触者には保健所が接触者健診(インターフェロンγ遊離試験〈IGRA〉、胸部X線など)を行い、潜在性結核感染症と判断されればイソニアジドなどによる治療を行う。 ・退院の目安は、2週間以上の標準的化学療法の実施、咳などの臨床症状の改善、異なる日の喀痰検査(塗抹または培養)で3回連続陰性であることなどである。
POINT
・結核は空気感染(飛沫核感染)であり、対策の基本は陰圧個室と換気である。 ・N95マスクは医療従事者・面会者が着用し、患者はサージカルマスクを着用する。 ・床など環境の消毒、排泄物の特別な消毒、手指消毒は結核の伝播防止には寄与しない(手指衛生は標準予防策として常に行う)。 ・空気感染する代表疾患は結核、麻疹、水痘の3つ。
