StudyMed医師国家試験

成長ホルモンの「アクセル」と「ブレーキ」―負荷試験の薬に紛れたソマトスタチンを見抜く

第100回医師国家試験 B問題 第63問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第63問

成長ホルモン分泌を抑制するのはどれか。

  1. a.L-dopa
  2. b.インスリン
  3. c.アルギニン
  4. d.ソマトスタチン
  5. e.プロプラノロール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、成長ホルモン、つまりGHの分泌を抑える因子を選ぶ問題だ。選択肢を眺めると、実は多くが臨床検査の「ある場面」で使われるものばかり。GH分泌を促す側と抑える側に仕分けできるかが勝負だよ。まずGHの分泌はどう調節されていたか、覚えているかな。
医学生医学生
生理学で習いました。視床下部のGHRHが分泌を促して、ソマトスタチンが抑える、だったと思います。
ドクタードクター
その通り。視床下部からのGHRHとソマトスタチンの綱引きで決まり、さらに胃から出るグレリンも促進側に働く。そしてGHの作用で主に肝臓から作られるIGF-Iが、視床下部と下垂体に負のフィードバックをかける。これが基本の構図だ。
医学生医学生
それならソマトスタチンが答えでしょうか。でも、ほかの薬がどちらに働くのか自信がなくて……インスリンは血糖を下げるホルモンなので、GHとは逆向きに働きそうな気がします。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだね。インスリンを静注して低血糖を起こすと、体はそれをストレスとして感じ取り、血糖を上げるための拮抗ホルモンを一斉に出す。GH、ACTHとコルチゾール、グルカゴン、カテコールアミンだ。だからインスリン低血糖はGH分泌を強く刺激するんだ。
医学生医学生
あ、内分泌内科の実習でインスリン低血糖試験を見ました。GHとACTHを一度に評価できるって教わりました。
ドクタードクター
そう、それが代表的なGH分泌刺激試験だ。ただし低血糖そのものが危険なので、てんかんや虚血性心疾患のある人には行えない。GH分泌不全症の診断では、こうした刺激試験でGHがどこまで上がるか、つまり分泌予備能を調べる。刺激薬はほかにもいくつかあるよ。
医学生医学生
アルギニンも負荷試験で使うと聞いたことがあります。アミノ酸がどうしてGHを出すんですか。
ドクタードクター
アルギニンは視床下部からのソマトスタチン分泌を抑える、つまりブレーキを緩めることでGH分泌を促すと考えられている。蛋白質を食べたあとにGHが上がるのも同じ仕組みだ。次はL-dopaだね。
医学生医学生
L-dopaはパーキンソン病の薬ですよね。ドパミンは先端巨大症の治療にも使われると聞いたので、GHを抑える側かと思っていました。
ドクタードクター
鋭いところに気づいたね。健常な状態ではL-dopaは脳内でドパミンになり、GHRH分泌を促すことなどを介してGHを増やすので、刺激試験に使われる。一方、先端巨大症の腺腫ではドパミン作動薬で逆にGHが下がる奇異反応がみられることがあって、カベルゴリンなどが治療に併用される。生理的な作用としてはあくまで促進側、と区別しておこう。
医学生医学生
プロプラノロールはβ遮断薬ですよね。β遮断でGHが変わるというのはピンときません。
ドクタードクター
視床下部ではβ受容体の刺激がソマトスタチン分泌を促して、GHを抑える方向に働いている。そこをβ遮断薬で止めると、ソマトスタチンのブレーキが弱まってGH分泌が増強される。だからグルカゴンなどの刺激試験に併用して、GHの反応を高める目的で使われるんだ。
医学生医学生
なるほど。インスリン、アルギニン、L-dopa、プロプラノロールは全部「刺激側」で、ブレーキ役はソマトスタチンだけということですね。
ドクタードクター
その通り。ソマトスタチンは下垂体前葉のソマトスタチン受容体に作用してGH分泌を直接抑える、別名GH放出抑制ホルモンだ。GHだけでなくTSHも抑え、膵島や消化管でもインスリン、グルカゴン、ガストリンなど多くのホルモン分泌を抑える、全体的に抑制性のペプチドなんだ。
医学生医学生
その抑制作用を治療に使っているのが、先端巨大症のオクトレオチドですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ソマトスタチンそのものは作用時間が短いので、効果を長く保つように改良したアナログ製剤、オクトレオチドやランレオチドが使われる。先端巨大症の治療の第一選択は経蝶形骨洞手術による腺腫摘出で、残存・再発例や手術が難しい例に、ソマトスタチンアナログ、GH受容体拮抗薬のペグビソマント、ドパミン作動薬、放射線治療を組み合わせる。
医学生医学生
先端巨大症の診断では、逆にGHを抑える試験をするんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、75g経口ブドウ糖負荷試験だ。健常者では高血糖でGHが抑制されるけれど、先端巨大症では十分に下がらない。あわせて血中IGF-Iが年齢・性別の基準を超えて高いことを確認する。GH分泌不全症は「刺激しても上がらない」、先端巨大症は「抑えても下がらない」と対で覚えると、負荷試験の使い分けがすっきり整理できるよ。

まとめ

GHの分泌は視床下部のGHRH(促進)とソマトスタチン(抑制)のバランスで決まり、グレリンが促進、IGF-Iが負のフィードバックとして働きます。インスリン低血糖、アルギニン、L-dopaはいずれもGH分泌を促進し、GH分泌不全症の診断に用いる分泌刺激試験の刺激薬であり、β遮断薬のプロプラノロールもソマトスタチンの作用を弱めてGH反応を増強するため刺激試験に併用されます。GH分泌を直接抑制するのはソマトスタチンで、その長時間作用型アナログであるオクトレオチドやランレオチドは先端巨大症の薬物治療に用いられます。先端巨大症の診断では、ブドウ糖負荷でGHが十分に抑制されないことと高IGF-I血症を確認します。GH分泌の促進因子と抑制因子を整理しておくことは、負荷試験の意味を理解し、GH分泌不全症と先端巨大症の診断・治療を論理的に考える基盤になります。

解答・解説

正解はdです

本問は、成長ホルモン(GH)の分泌を調節する因子のうち、抑制的に働くものを選ぶ問題である。

GH分泌の基本的な調節

GHは下垂体前葉の成長ホルモン産生細胞から分泌される。その分泌は視床下部から出る2つのホルモンの綱引きで決まる。 ・促進: 成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、胃から分泌されるグレリン ・抑制: ソマトスタチン(GH放出抑制ホルモン) さらに、GHの作用で肝臓などから産生されるインスリン様成長因子-I(IGF-I)が視床下部・下垂体に負のフィードバックをかける。

臨床での使われ方との対応

GH分泌不全症を診断するときは、GH分泌を刺激する負荷試験(分泌刺激試験)を行い、GHがどこまで上昇するか(分泌予備能)を調べる。インスリン低血糖、アルギニン、L-dopa、クロニジン、グルカゴン、GHRP-2(グレリン受容体作動薬)などが刺激物質として用いられ、プロプラノロールはGH分泌を増強させる目的でグルカゴンなどと組み合わせて使われる。選択肢のうちa、b、c、eはいずれもこの「刺激側」に属する。 逆に、GHを抑える側の代表がソマトスタチンであり、その作用を長時間持続させたアナログ製剤(オクトレオチド、ランレオチドなど)は、GH過剰症である先端巨大症・下垂体性巨人症の薬物治療に用いられる。

選択肢考察

  1. ×a.  L-dopa

    L-dopaは脳内でドパミンに変換され、視床下部でのGHRH分泌を促すことなどを介してGH分泌を促進する。このためGH分泌刺激試験の刺激薬として用いられる。なお、健常者ではドパミン作動薬はGHを増やすが、先端巨大症の腫瘍では逆にGHを低下させる(奇異反応)ことがあり、ブロモクリプチンやカベルゴリンが先端巨大症の治療に併用されることがある。健常な生理作用としては促進である。

  2. ×b.  インスリン

    インスリンを静注して低血糖を起こすと、生体はそれをストレスとして感知し、血糖を上げる作用をもつ拮抗ホルモン(GH、ACTH・コルチゾール、グルカゴン、カテコールアミン)の分泌を高める。インスリン低血糖試験はGHとACTHの分泌予備能を同時に評価できる代表的な刺激試験である。つまりインスリン(による低血糖)はGH分泌を促進する。ただし、てんかんや虚血性心疾患のある患者では低血糖が危険なため禁忌である。

  3. ×c.  アルギニン

    アミノ酸であるアルギニンは、視床下部からのソマトスタチン分泌を抑えることでGH分泌を促進すると考えられている。アルギニン負荷試験はGH分泌刺激試験の一つとして広く用いられている。蛋白質摂取後にGHが上昇するのも同様の機序による。

  4. ○d.  ソマトスタチン

    ソマトスタチンは視床下部から分泌され、下垂体前葉のソマトスタチン受容体に作用してGHの分泌を直接抑制する(別名GH放出抑制ホルモン)。GHのほかTSHの分泌も抑え、膵島や消化管ではインスリン・グルカゴン・ガストリンなど多くのホルモン分泌を抑制する、全般的に抑制性のペプチドである。作用時間を延長したソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチドなど)は、先端巨大症のGH過剰を抑える治療薬として使われる。

  5. ×e.  プロプラノロール

    プロプラノロールはβ遮断薬である。視床下部ではβアドレナリン受容体刺激がソマトスタチン分泌を促してGHを抑える方向に働くため、β遮断によってソマトスタチンの作用が弱まり、GH分泌が増強される。このためグルカゴンなどの刺激試験に併用して、GH反応を高める目的で用いられる。GH分泌を抑制するのではなく促進する。

GH分泌を促進する因子

・ホルモン: GHRH、グレリン、エストロゲン ・代謝状態: 低血糖、アミノ酸(アルギニンなど)、絶食 ・神経伝達物質・薬物: ドパミン(L-dopa)、α2刺激(クロニジン)、β遮断(プロプラノロール)、グルカゴン ・生理的状態: 深い睡眠(徐波睡眠)、運動、ストレス

GH分泌を抑制する因子

・ソマトスタチン ・IGF-I(負のフィードバック)、GH自体 ・高血糖(ブドウ糖負荷)、遊離脂肪酸の上昇 ・肥満、甲状腺機能低下症、糖質コルチコイド過剰

検査への応用

・GH分泌不全症の診断: 分泌刺激試験で頂値が低いことを確認する(刺激試験は通常2種類以上行う)。 ・先端巨大症の診断: 75g経口ブドウ糖負荷試験でGHが正常に抑制されない(底値が一定値以下に下がらない)ことを確認する。また血中IGF-Iが年齢・性別基準値を超えて高値となる。

先端巨大症の治療

第一選択は経蝶形骨洞手術による下垂体腺腫摘出。残存・再発例や手術困難例に、ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド、パシレオチド)、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)、ドパミン作動薬(カベルゴリン)、放射線治療を用いる。

POINT

・GH分泌抑制の代表はソマトスタチン。ソマトスタチンアナログは先端巨大症の治療薬。 ・GH分泌刺激試験の刺激物質: インスリン(低血糖)、アルギニン、L-dopa、クロニジン、グルカゴン、GHRP-2。プロプラノロールは刺激増強目的で併用。 ・ブドウ糖負荷でGHは抑制される(先端巨大症では抑制されない)。 ・IGF-IはGH作用の指標であり、GH分泌に負のフィードバックをかける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。