血友病はなぜAPTTだけが延びるのか―止血の「二段階」で読み解く凝固検査
第100回医師国家試験 B問題 第39問
国試問題にチャレンジ
血友病の診断に有用な検査はどれか。
- a.PIVKA-Ⅱ
- b.出血時間
- c.血小板凝集能
- d.プロトロンビン時間
- e.活性化部分トロンボプラスチン時間
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
止血は、血小板とvon Willebrand因子による一次止血と、凝固因子によるフィブリン形成の二次止血に分けて考えます。血友病は内因系に属する第Ⅷ因子(A)または第Ⅸ因子(B)の先天的欠乏で、二次止血のみが障害されるため、内因系と共通系を反映するAPTTが延長し、プロトロンビン時間・出血時間・血小板凝集能は正常となります。APTTで疑ったあとは第Ⅷ・Ⅸ因子活性の測定で確定し、インヒビターの有無はクロスミキシング試験で確認します。PIVKA-ⅡはビタミンK欠乏やワルファリン使用、肝細胞癌で上昇する指標で、血友病とは関係しません。各検査が止血のどの段階を見ているかを押さえておくことは、出血傾向をもつ患者の鑑別を進めるうえでの基本となります。
解答・解説
正解はeです
血友病の病態と、止血検査が「止血のどの段階」を反映しているかを対応させて考える問題である。 止血は大きく二段階に分けられる。一次止血は、血管の傷に血小板が粘着・凝集して血小板血栓(一次血栓)を作る段階で、血小板の数と機能、von Willebrand 因子(VWF)が関与する。二次止血は、凝固因子が次々に活性化されてフィブリンが形成され、血小板血栓を補強する段階である。 血友病は、凝固第Ⅷ因子(血友病 A)または第Ⅸ因子(血友病 B)の先天的な欠乏・機能低下による疾患で、X 連鎖劣性遺伝形式をとり、患者のほとんどは男性である。第Ⅷ・Ⅸ因子はいずれも凝固カスケードの内因系に属するため、障害されるのは二次止血だけであり、一次止血は保たれる。そのため関節内出血や筋肉内出血といった深部出血を繰り返すのが特徴で、点状出血などの皮膚・粘膜出血は目立たない。 止血検査との対応は次のとおりである。 ・内因系(第Ⅻ・Ⅺ・Ⅸ・Ⅷ因子)+共通系(第Ⅹ・Ⅴ・Ⅱ因子、フィブリノゲン)を反映:活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) ・外因系(第Ⅶ因子)+共通系を反映:プロトロンビン時間(PT) ・一次止血を反映:出血時間、血小板数、血小板凝集能 よって血友病では APTT のみが延長し、PT・出血時間・血小板数・血小板凝集能は正常となる。APTT はスクリーニング検査として診断の糸口となり、その後、第Ⅷ・Ⅸ因子活性の測定で確定診断と病型・重症度の判定を行う。
選択肢考察
- ×a. PIVKA-Ⅱ
誤り。PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence or antagonist-Ⅱ)は、ビタミン K が不足したとき、またはワルファリンなどのビタミン K 拮抗薬を使用しているときに血中に現れる異常プロトロンビンである。第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子は肝で合成される際、ビタミン K を補酵素としてグルタミン酸残基が γ-カルボキシグルタミン酸(Gla)へ変換されて初めてカルシウムと結合でき、凝固活性をもつ。ビタミン K が不足するとこの変換が行われず、活性のない前駆体が血中に出てくる。PIVKA-Ⅱはビタミン K 欠乏症(新生児メレナなど)の診断や、肝細胞癌の腫瘍マーカーとして用いられる。血友病ではビタミン K 依存性の変換過程に異常はなく、PIVKA-Ⅱは上昇しないため診断には役立たない。
- ×b. 出血時間
誤り。出血時間は皮膚に小さな切創をつけて止血するまでの時間を測る検査で、血小板数・血小板機能・VWF・血管壁の状態、すなわち一次止血を反映する。血小板減少症、血小板無力症、von Willebrand 病、アスピリン内服などで延長する。血友病では一次止血は正常なため出血時間は延長しない。
- ×c. 血小板凝集能
誤り。血小板凝集能はADP、コラーゲン、エピネフリン、リストセチンなどの刺激を加えて血小板の凝集の程度を調べる検査で、一次止血に関わる血小板機能を評価する。血小板無力症(GPⅡb/Ⅲa の異常)ではリストセチン以外の刺激で、Bernard-Soulier 症候群(GPⅠb の異常)や von Willebrand 病ではリストセチンで凝集が低下する。血友病では血小板機能は正常であり、本検査は診断に役立たない。
- ×d. プロトロンビン時間
誤り。プロトロンビン時間(PT)は組織因子とカルシウムを加えて凝固時間を測定する検査で、外因系(第Ⅶ因子)と共通系(第Ⅹ・Ⅴ・Ⅱ因子、フィブリノゲン)を反映する。ビタミン K 欠乏、ワルファリン内服、肝障害、DIC などで延長する。第Ⅷ・Ⅸ因子は PT の測定系に関与しないため、血友病では PT は正常である。
- ○e. 活性化部分トロンボプラスチン時間
正しい。活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は、接触因子を活性化する試薬とリン脂質、カルシウムを加えて凝固時間を測る検査で、内因系(第Ⅻ・Ⅺ・Ⅸ・Ⅷ因子)と共通系を反映する。第Ⅷ因子または第Ⅸ因子が欠乏する血友病では APTT が延長し、PT は正常という特徴的な組合せとなる。この結果から血友病を疑い、第Ⅷ・Ⅸ因子活性を測定して確定診断する。APTT 延長が凝固因子の欠乏によるのか、インヒビター(凝固因子に対する抗体)によるのかは、患者血漿と正常血漿を混ぜて APTT を測るクロスミキシング試験で区別する。
血友病の概要
・血友病 A:第Ⅷ因子の欠乏。血友病 B:第Ⅸ因子の欠乏。頻度は A が B の約 5 倍である。 ・遺伝形式:X 連鎖劣性遺伝。患者はほぼ男性で、母親が保因者であることが多いが、約 3 分の 1 は家族歴のない新規変異による。 ・症状:関節内出血(膝・肘・足関節に多い)、筋肉内出血(腸腰筋出血など)、頭蓋内出血。関節内出血を繰り返すと血友病性関節症となり関節拘縮をきたす。新生児期・乳児期には、はいはい・歩行開始とともに皮下血腫や関節出血で気付かれることが多い。 ・重症度(因子活性):1% 未満が重症、1〜5% が中等症、5% を超え 40% 未満が軽症。 ・治療:欠乏因子の補充(出血時補充、定期補充)。近年は半減期延長型製剤や、第Ⅷ因子の機能を代替する二重特異性抗体(エミシズマブ、皮下注射)も用いられる。補充療法により第Ⅷ・Ⅸ因子に対するインヒビターが生じた場合は、バイパス止血製剤などで対応する。関節内出血を増悪させるおそれがあるため、筋肉注射やアスピリンなどの抗血小板薬は避ける。
止血検査の組合せによる鑑別
・APTT 延長、PT 正常:血友病 A・B、von Willebrand 病(第Ⅷ因子低下を伴う場合)、後天性血友病、ループスアンチコアグラント、ヘパリン使用 ・PT 延長、APTT 正常:第Ⅶ因子欠乏、ワルファリン導入初期・ビタミン K 欠乏の初期(第Ⅶ因子の半減期が最も短いため) ・PT・APTT ともに延長:ビタミン K 欠乏の進行、肝障害、DIC、共通系因子の欠乏 ・出血時間延長(凝固時間は正常):血小板減少症、血小板機能異常症 ・出血時間と APTT がともに延長:von Willebrand 病(VWF は一次止血に関わり、第Ⅷ因子の安定化にも働くため)
POINT
・血友病は内因系因子(Ⅷ:A、Ⅸ:B)の欠乏 → APTT 延長、PT 正常。 ・一次止血は正常 → 出血時間・血小板数・血小板凝集能は正常。 ・確定診断は第Ⅷ・Ⅸ因子活性の測定。インヒビターの有無はクロスミキシング試験で確認する。 ・X 連鎖劣性遺伝で男性に発症し、関節内出血・筋肉内出血などの深部出血が特徴。 ・PIVKA-Ⅱはビタミン K 欠乏・ワルファリン使用や肝細胞癌で上昇し、血友病とは無関係。
