StudyMed医師国家試験

その治療、病態を悪化させていないか―急性心不全は「うっ血」と「低灌流」の2軸で読む

第100回医師国家試験 B問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第25問

急性心不全の症候と治療の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.低血圧 ―― 利尿薬
  2. b.呼吸困難 ―― 輸血
  3. c.肺うっ血 ―― 血液透析
  4. d.心室性期外収縮 ―― カテコラミン
  5. e.心原性ショック ―― IABP

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性心不全の症候と治療の組合せを問う問題だ。一見すると暗記問題に見えるけれど、カギは「その治療がその病態を本当に改善するのか、むしろ悪化させないか」を考えること。そのための土台として、急性心不全を2つの軸で整理するところから始めよう。
医学生医学生
2つの軸というと、うっ血と心拍出量の低下でしょうか。循環器内科の講義でForrester分類を習いました。
ドクタードクター
その通り。Forrester分類は肺動脈楔入圧18mmHgでうっ血の有無を、心係数2.2L/分/m²で低灌流の有無を分けて4群にする。うっ血だけならⅡ群で利尿薬や血管拡張薬、低灌流だけならⅢ群で輸液や強心薬、両方そろったⅣ群なら強心薬に加えて補助循環まで考える。ベッドサイドでは手足が温かいか冷たいか、体が湿っているか乾いているかで分けるNohria-Stevenson分類も同じ発想だ。
医学生医学生
そうすると、低血圧に利尿薬というのは低灌流の人からさらに水を抜くことになりますね。
ドクタードクター
いい読みだね。利尿薬は循環血液量を減らして心臓に戻る血液、つまり前負荷を下げる薬だ。血圧が保たれたうっ血の患者には有効だけれど、低血圧の患者に使うと心拍出量も血圧もさらに落ちて、臓器灌流が悪化してしまう。低血圧なら、脱水があれば輸液、収縮力低下が主体ならドブタミンなどの強心薬、高度ならノルアドレナリンのような血管収縮作用のある薬を考える。
医学生医学生
呼吸困難に輸血はどうでしょう。酸素を運ぶ赤血球を増やせば楽になる、と一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
その発想に引っかかる人は多いよ。でも急性心不全の呼吸困難の多くは、左心不全で肺うっ血・肺水腫が起き、肺に水がたまってガス交換が障害されることが原因だ。そこに輸血で容量を足せば、肺うっ血はむしろ悪化しかねない。治療は酸素投与、起座位、重症ならNPPVや人工呼吸、そして利尿薬や硝酸薬で前負荷を減らすことだ。高度の貧血が増悪因子になっている場合に輸血を考えることはあるけれど、そのときもゆっくり慎重に行う。
医学生医学生
肺うっ血に血液透析は、水を抜くという意味では理にかなっている気がします。
ドクタードクター
方向性は間違っていないね。ただ、肺うっ血の第一選択はあくまで利尿薬と血管拡張薬だ。透析や限外濾過による除水は、腎不全を合併している場合や利尿薬が効かない重症例に限って選ばれる二番手の治療。だから組合せとして「正しい」とは言いにくい。
医学生医学生
心室性期外収縮にカテコラミンは、逆に不整脈を増やしそうです。
ドクタードクター
その通り。カテコラミンはβ受容体を刺激して収縮力と心拍数を上げるけれど、心筋の自動能や興奮性も高め、酸素消費量も増やす。だから心室性期外収縮や心室頻拍を誘発・増悪させてしまう。心室性期外収縮にはまず虚血や低カリウム血症・低マグネシウム血症などの原因を是正し、単発で血行動態が安定していれば経過観察が多い。心室頻拍に移行するようならアミオダロンなどを使う。
医学生医学生
ということは、心原性ショックにIABPが正解ですね。でもIABPがどうやって心臓を助けるのか、仕組みがあいまいです。
ドクタードクター
大事なところだね。心原性ショックはポンプ機能が著しく落ちて、低血圧と乏尿・意識障害・四肢冷感などの末梢循環不全をきたした状態で、Forrester分類Ⅳ群の最重症型にあたる。強心薬などに反応しないとき、機械的補助循環の出番になる。IABPは胸部下行大動脈に置いたバルーンを心拍に同期させ、拡張期に膨らませて冠動脈血流を増やし、収縮期の直前にしぼませて左室の後負荷を減らす。心筋の酸素の需要と供給のバランスを同時に改善するわけだ。
医学生医学生
臨床実習のCCUで、拡張期に圧波形がぐっと持ち上がるモニターを見ました。あれがバルーンの膨張だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれがdiastolic augmentationだ。ただしIABPが補助できる心拍出量は限られていて、自己心拍がある程度保たれていることが前提になる。不十分ならVA-ECMO、いわゆるPCPSや、左室から直接血液をくみ上げるImpellaなどを検討する。それから、中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症や大動脈解離では禁忌になる点も覚えておこう。
医学生医学生
大動脈弁閉鎖不全があると、拡張期に膨らませたときに逆流が増えてしまうからですね。
ドクタードクター
その理解で正しい。もう一つ、近年の知見も知っておいてほしい。急性心筋梗塞に伴う心原性ショックにIABPを一律に使っても死亡率は改善しないことが大規模試験で示され、今はルーチン使用は推奨されていない。それでも、乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全や心室中隔穿孔といった機械的合併症を伴う例や、薬物治療抵抗性の例では今も選択肢の一つで、心原性ショックに対する代表的な補助循環であることに変わりはない。
医学生医学生
症候を見たら、それがうっ血なのか低灌流なのかを考えて、治療がその方向に合っているかを確かめる、という流れですね。
ドクタードクター
そう。急性心不全の現場では、良かれと思った治療が逆効果になることがある。血圧、うっ血、不整脈のそれぞれに対して、薬が何を増やし何を減らすのかを常に意識しておこう。

まとめ

急性心不全は、うっ血の有無と末梢灌流の有無という2つの軸(Forrester分類、Nohria-Stevenson分類)で病態を整理すると、適切な治療を選びやすくなります。肺うっ血には利尿薬や血管拡張薬が基本で、透析・限外濾過は腎不全合併例や利尿薬抵抗例に限られます。一方、低血圧への利尿薬、肺うっ血による呼吸困難への輸血、心室性期外収縮へのカテコラミンは、いずれも病態を悪化させうる組合せです。薬物治療に抵抗する心原性ショックでは、拡張期の冠血流増加と収縮期の後負荷軽減をもたらすIABPなどの機械的補助循環が適応となり、効果が不十分ならVA-ECMOやImpellaも検討されます。ただし、急性心筋梗塞に伴う心原性ショックへのIABPのルーチン使用は現在推奨されていません。治療が病態の何を改善し、何を悪化させうるかを考える習慣は、救急・集中治療の現場で患者を守る基本になります。

解答・解説

正解はeです

急性心不全は、心臓のポンプ機能が急激に低下し、全身へ十分な血液を送れなくなる状態(低心拍出)と、心臓へ戻る血液が滞る状態(うっ血)が急速に進行する病態である。治療は「うっ血があるか」「末梢循環(組織灌流)が保たれているか」という2つの軸で病態を分けて考えると整理しやすい。

病態の分類と治療の考え方

血行動態の分類としてForrester分類が知られる。肺動脈楔入圧(PCWP、左心房圧の指標)18mmHgでうっ血の有無、心係数(CI、体表面積あたりの心拍出量)2.2L/分/m²で低灌流の有無を分け、4群に分類する。 ・I群(うっ血なし・灌流正常): 経過観察、原因疾患の治療。 ・II群(肺うっ血あり・灌流正常): 利尿薬、血管拡張薬で前負荷を減らす。 ・III群(うっ血なし・低灌流): 輸液で前負荷を補う、必要に応じて強心薬。 ・IV群(うっ血あり・低灌流): 強心薬(カテコラミンなど)、血管拡張薬・利尿薬の併用、薬物治療に反応しなければIABP(大動脈内バルーンパンピング)などの機械的補助循環。 身体所見から判断するNohria-Stevenson分類(warm/cold、dry/wet)も同様の考え方である。

本問の考え方

各症候に対して、その病態を改善する治療が組み合わされているかを判断する。低血圧に利尿薬を使えばさらに血圧が下がり、呼吸困難(多くは肺うっ血・肺水腫による)に輸血は無効どころか容量負荷で悪化させる。肺うっ血の第一選択は透析ではなく利尿薬や血管拡張薬であり、心室性期外収縮にカテコラミンを使えば不整脈を増悪させる。心原性ショックは薬物で維持できない重症の低灌流状態であり、IABPによる機械的補助循環の適応となる。

選択肢考察

  1. ×a.  低血圧 ―― 利尿薬

    誤り。利尿薬(フロセミドなどのループ利尿薬)は尿量を増やして循環血液量を減らし、心臓に戻る血液量(前負荷)を下げる薬である。うっ血や体液貯留(肺うっ血、浮腫)を伴い血圧が保たれている例に用いるものであり、低血圧の患者に投与すると前負荷の減少によって心拍出量と血圧がさらに低下し、臓器灌流が悪化する。急性心不全で低血圧を呈する場合は、脱水・低容量があれば輸液、心収縮力低下が主体ならドブタミンなどの強心薬、高度の低血圧ではノルアドレナリンなどの血管収縮作用をもつ薬を用いる。

  2. ×b.  呼吸困難 ―― 輸血

    誤り。急性心不全の呼吸困難の多くは、左心不全による肺うっ血・肺水腫で肺胞や間質に水分がたまり、ガス交換が障害されることで生じる。治療は酸素投与(重症では非侵襲的陽圧換気NPPVや気管挿管による人工呼吸)、起座位、利尿薬や血管拡張薬(硝酸薬など)による前負荷の軽減である。輸血は循環血液量を増やし肺うっ血をむしろ悪化させうるため、呼吸困難の治療にはならない。高度の貧血が心不全の増悪因子となっている場合に輸血を考慮することはあるが、その際も容量負荷に注意し、緩徐に行う必要がある。

  3. ×c.  肺うっ血 ―― 血液透析

    誤り。肺うっ血に対する第一選択は、利尿薬による体液量の是正と、血管拡張薬による前負荷・後負荷の軽減である。血液透析や限外濾過(持続的血液濾過など)による除水は、腎不全を合併している場合や、利尿薬に反応しない(利尿薬抵抗性の)重症例に限って選択される二次的な治療であり、肺うっ血に対して最初に行う治療として組み合わせるのは適切でない。

  4. ×d.  心室性期外収縮 ―― カテコラミン

    誤り。カテコラミン(ドブタミン、ドパミン、アドレナリンなど)はβ受容体を刺激して心筋の収縮力と心拍数を高めるが、同時に心筋の自動能と興奮性を高めて心筋酸素消費量も増やすため、心室性期外収縮や心室頻拍などの心室性不整脈を誘発・増悪させる。心室性期外収縮に対してはまず原因(心筋虚血、低カリウム血症・低マグネシウム血症などの電解質異常、薬剤など)の是正を行い、血行動態が安定していて単発であれば経過観察とすることが多い。心室頻拍へ移行するなど治療が必要な場合はアミオダロンなどの抗不整脈薬を用いる。

  5. ○e.  心原性ショック ―― IABP

    正しい。心原性ショックは心ポンプ機能の著しい低下により、収縮期血圧の低下(おおむね90mmHg未満)と末梢循環不全(乏尿、意識障害、四肢冷感など)をきたした状態で、Forrester分類IV群の最重症型にあたる。強心薬などの薬物治療に抵抗する場合、機械的補助循環の適応となる。IABPは胸部下行大動脈内に留置したバルーンを心拍に同期させ、拡張期に膨らませて冠動脈血流を増やし(diastolic augmentation)、収縮期直前にしぼませて左室の後負荷を減らす(systolic unloading)。これにより心筋酸素需給バランスを改善し、心拍出量を補助する。IABPで不十分な場合はVA-ECMO(PCPS、経皮的心肺補助)や補助人工心臓(経皮的左室補助装置のImpellaなど)が検討される。

急性心不全の主な治療薬と作用

・利尿薬(ループ利尿薬): 体液量を減らし前負荷を軽減。うっ血・浮腫に用いる。 ・血管拡張薬(硝酸薬、カルペリチドなど): 前負荷・後負荷を軽減。血圧が保たれた肺うっ血に有効。低血圧では使いにくい。 ・強心薬(ドブタミン、ミルリノンなどのPDE III阻害薬): 心収縮力を増強。低灌流例に用いる。不整脈と心筋酸素消費量の増加に注意。 ・血管収縮薬(ノルアドレナリン): 高度の低血圧・ショックで血圧を維持する。

機械的補助循環

・IABP(大動脈内バルーンパンピング): 拡張期にバルーンを膨張させ冠血流を増加、収縮期直前に収縮させ後負荷を軽減。補助できる心拍出量は限られ(自己心拍出の1〜2割程度の増加)、自己心拍がある程度保たれていることが前提。禁忌は中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症、大動脈解離、大動脈瘤など。 ・VA-ECMO(PCPS): 静脈血を脱血し人工肺で酸素化して動脈へ送血する。心停止や高度のショックにも対応できる。 ・経皮的補助人工心臓(Impella): 左室から直接血液をくみ上げて大動脈へ送る。

近年の知見

急性心筋梗塞に伴う心原性ショックに対し、IABPを一律に使用しても死亡率は改善しないことが大規模臨床試験(IABP-SHOCK II)で示され、現在のガイドラインではルーチン使用は推奨されていない。ただし機械的合併症(乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全、心室中隔穿孔)を伴う例や、薬物治療抵抗性の症例では現在も選択肢の一つであり、心原性ショックに対する代表的な機械的補助循環であることに変わりはない。

Forrester分類

・PCWP 18mmHg、CI 2.2L/分/m²で4群に分ける。 ・I群: 正常。II群: 肺うっ血(利尿薬・血管拡張薬)。III群: 低灌流(輸液・強心薬)。IV群: 肺うっ血+低灌流(強心薬+利尿薬・血管拡張薬、補助循環)。

POINT

・急性心不全の治療は「うっ血」と「低灌流」の有無で考える(Forrester分類、Nohria-Stevenson分類)。 ・肺うっ血 → 利尿薬、血管拡張薬(透析・限外濾過は抵抗例や腎不全合併例)。 ・低血圧に利尿薬は禁物(さらに血圧が低下する)。 ・カテコラミンは心室性不整脈を誘発・増悪させる。 ・薬物抵抗性の心原性ショック → IABP、VA-ECMO(PCPS)、Impellaなどの機械的補助循環。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。