免疫が落ちたとき目を覚ますウイルス―易感染性宿主の間質性肺炎はサイトメガロウイルスを思い出せ
第99回医師国家試験 E問題 第70問
国試問題にチャレンジ
易感染性宿主〈compromised host〉における間質性肺炎の原因として頻度が高いのはどれか。
- a.EBウイルス
- b.アデノウイルス
- c.サイトメガロウイルス
- d.単純ヘルペスウイルス
- e.ヒト免疫不全ウイルス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
易感染性宿主では、どの防御機構が障害されているかによって問題となる病原体が異なり、細胞性免疫不全ではヘルペスウイルス科ウイルスの再活性化やニューモシスチスが重要となる。その中で間質性肺炎の原因として最も頻度が高いのはサイトメガロウイルスで、特に造血幹細胞移植後に多く致死率も高い。診断にはアンチゲネミア法やPCR、核内封入体を持つ巨細胞(フクロウの目)の証明が用いられ、治療はガンシクロビルやホスカルネットである。EBウイルスは主にリンパ増殖性疾患、単純ヘルペスウイルスは粘膜皮膚病変や食道炎が問題となり、HIVは肺炎の直接原因ではなく免疫不全の原因である。両側びまん性すりガラス影を呈する免疫不全患者ではCMV肺炎とニューモシスチス肺炎をまず想起する、という考え方は移植医療や化学療法の現場で欠かせない。
解答・解説
正解はcです
易感染性宿主(compromised host)とは、基礎疾患や治療のために感染防御能が低下した人を指す。代表例は、造血幹細胞移植・臓器移植後の免疫抑制療法中の患者、抗癌化学療法中の患者、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を長期使用している患者、AIDS(後天性免疫不全症候群)患者などである。 どの病原体が問題になるかは、どの防御機構が障害されているかで異なる。好中球減少では細菌や真菌(アスペルギルスなど)が、液性免疫(抗体)不全では肺炎球菌などの莢膜を持つ細菌が、細胞性免疫(T細胞)不全ではウイルス、とくにヘルペスウイルス科のウイルスの再活性化や、ニューモシスチス、結核菌などが問題となる。 ヘルペスウイルス科のウイルスは初感染後に体内に潜伏し、細胞性免疫が低下すると再び増殖し始める(再活性化)。その中で肺胞壁や間質に炎症を起こして間質性肺炎(両側びまん性のすりガラス影を呈し、低酸素血症が目立つ)を生じる頻度が最も高いのがサイトメガロウイルス(CMV)である。易感染性宿主の間質性肺炎の鑑別では、CMV肺炎とニューモシスチス肺炎の2つをまず考えるのが基本であり、選択肢のウイルスの中ではCMVを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. EBウイルス
EB(Epstein-Barr)ウイルスはヘルペスウイルス科に属し、B細胞に潜伏感染する。初感染では伝染性単核球症を起こし、Burkittリンパ腫、上咽頭癌などの発癌にも関わる。細胞性免疫不全ではB細胞の増殖を抑えられなくなり、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)やAIDS関連リンパ腫などのリンパ腫が問題となる。HIV感染小児のリンパ球性間質性肺炎との関連も指摘されるが、易感染性宿主の間質性肺炎の原因としての頻度はCMVに比べて低い。
- ×b. アデノウイルス
アデノウイルスは健常人でかぜ症候群、咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、出血性膀胱炎、胃腸炎などを起こす。造血幹細胞移植後などでは重症の肺炎や出血性膀胱炎、播種性感染を起こすことがあるが、易感染性宿主の間質性肺炎の原因としての頻度はCMVより低い。
- ○c. サイトメガロウイルス
CMVはヘルペスウイルス科に属し、日本の成人の多くが既に感染して潜伏感染の状態にある。細胞性免疫が低下すると再活性化し(移植ドナーからの初感染もある)、間質性肺炎、網膜炎、消化管病変(食道炎・胃腸炎)、肝炎などを起こす。移植後の免疫抑制療法中の患者ではCMV肺炎が重要な合併症で、特に造血幹細胞移植後に多く、致死率も高い。AIDSではCMV網膜炎や消化管病変の頻度が高く、CMV感染症はAIDS指標疾患の一つである。診断にはCMV抗原血症検査(アンチゲネミア法:末梢血白血球中のpp65抗原陽性細胞を数える)やPCR法、気管支肺胞洗浄液や組織での核内封入体(フクロウの目様の巨細胞)の証明が用いられ、治療にはガンシクロビルやホスカルネットを用いる。
- ×d. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)は口唇ヘルペス、性器ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、角膜炎、脳炎などを起こす。免疫不全者では重症の粘膜皮膚病変、食道炎、まれに肺炎を起こすこともあり、1か月以上続く潰瘍や気管支炎・肺炎・食道炎はAIDS指標疾患に含まれる。しかし、易感染性宿主の間質性肺炎の原因として遭遇する頻度は低い。
- ×e. ヒト免疫不全ウイルス
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)はCD4陽性T細胞に感染してこれを減少させ、細胞性免疫不全を起こすことで易感染性宿主を生み出す原因となる。AIDS患者の間質性肺炎の原因として多いのはニューモシスチス肺炎(CD4数200/μL未満で起こりやすい)やCMV肺炎といった日和見感染症であり、HIV自体が肺炎の主な原因となるわけではない。
免疫不全の種類と問題となる主な病原体
・好中球減少(化学療法後など): 緑膿菌などのグラム陰性桿菌、黄色ブドウ球菌、アスペルギルス、カンジダ。 ・液性免疫不全(低γグロブリン血症、脾摘後など): 肺炎球菌、インフルエンザ菌などの莢膜を持つ細菌。 ・細胞性免疫不全(AIDS、移植後、ステロイド・免疫抑制薬など): CMV、水痘・帯状疱疹ウイルスなどのヘルペスウイルス科ウイルス、ニューモシスチス、結核菌・非結核性抗酸菌、クリプトコックス、トキソプラズマ、レジオネラ、リステリアなど。
易感染性宿主の両側びまん性すりガラス影
・ニューモシスチス肺炎: β-Dグルカン上昇、LDH上昇、ST合剤で治療・予防。 ・CMV肺炎: CMV抗原血症・PCR陽性、ガンシクロビルで治療。造血幹細胞移植後に多い。 ・非感染性の病態(薬剤性肺障害、肺水腫、腫瘍の浸潤、放射線肺臓炎など)も鑑別に挙がる。
ヒトヘルペスウイルスの整理
HHV-1: HSV-1、HHV-2: HSV-2、HHV-3: 水痘・帯状疱疹ウイルス、HHV-4: EBウイルス、HHV-5: CMV、HHV-6・7: 突発性発疹、HHV-8: Kaposi肉腫。いずれも潜伏感染し、細胞性免疫低下時に再活性化しうる。
POINT
・易感染性宿主(特に細胞性免疫不全)の間質性肺炎の原因として頻度が高いのはCMVとニューモシスチス。 ・CMVは潜伏感染ウイルスで、移植後(特に造血幹細胞移植後)の肺炎、AIDSでは網膜炎・消化管病変が代表的。 ・CMV感染の診断はアンチゲネミア法・PCR・核内封入体(フクロウの目)、治療はガンシクロビル。 ・HIVは免疫不全の原因であり、肺炎は日和見感染によって起こる。
