お茶とコーヒーは大丈夫?―胎盤を越える「小さな分子」が胎児の形を変える
第99回医師国家試験 D問題 第60問
国試問題にチャレンジ
胎児奇形発生に関連するのはどれか。2つ選べ。
- a.緑茶
- b.コーヒー
- c.アルコール
- d.ワルファリン
- e.ペニシリン
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
胎児奇形を起こしうる物質を考えるときは、胎盤を通過するかと、どの時期に曝露したかの2点が重要です。アルコールは胎盤を容易に通過して特徴的顔貌・発育障害・中枢神経障害からなる胎児性アルコール症候群を起こし、安全量がないため妊娠中は禁酒が原則です。ワルファリンも胎盤を通過し、鼻の低形成や点状軟骨異形成を特徴とする胎児ワルファリン症候群を起こすため、妊娠中の抗凝固療法は胎盤を通過しないヘパリンが原則となります。一方、緑茶やコーヒーのカフェインは過剰摂取を控えるよう指導されるものの明らかな催奇形性はなく、ペニシリン系抗菌薬も妊娠中に比較的安全に使用できます。妊娠4〜7週末ごろの絶対過敏期を意識しつつ、代表的な催奇形因子を薬剤・感染症ごとに整理しておくことは、妊娠可能年齢の女性への処方や服薬相談に直結する知識です。
解答・解説
正解はc, dです
胎児に形態異常(奇形)を起こしうる物質を催奇形因子という。催奇形性を考えるうえでは、次の2点が重要である。 【胎盤を通過するか】母体に摂取された物質のうち、分子量が小さいものや脂溶性の高いものは胎盤を通過しやすく、胎児に直接作用する。 【いつ曝露したか】受精後2週(妊娠4週未満)までは影響を受けると流産に終わるか、完全に修復されるかのどちらかになりやすい(all or none の時期)。妊娠4週から7週末ごろまでは主要な器官が形成される絶対過敏期で、形態異常が最も起こりやすい。その後は形態異常のリスクは下がるが、中枢神経の発達障害や胎児発育不全、機能障害(胎児毒性)が問題となる。 選択肢のうち、アルコールは胎盤を容易に通過して胎児性アルコール症候群を起こし、ワルファリンは胎盤を通過して胎児ワルファリン症候群(ワルファリン胎芽病)を起こす。いずれも代表的な催奇形因子として必ず覚えておくべきものである。一方、緑茶やコーヒーに含まれるカフェイン、およびペニシリン系抗菌薬には明らかな催奇形性は示されていない。
選択肢考察
- ×a. 緑茶
緑茶にはカフェインが含まれるが、通常の摂取量でヒトに形態異常を起こすという明らかな証拠はない。ただしカフェインの過剰摂取は流産や低出生体重との関連が指摘されているため、妊娠中は1日あたりのカフェイン量を控えめにする(おおむね200〜300 mg以下、コーヒーで2〜3杯程度まで)よう指導されることが多い。催奇形因子とはいえない。
- ×b. コーヒー
緑茶と同様、主成分として問題となるのはカフェインであるが、催奇形性は明らかでない。多量摂取を避けるよう指導はされるものの、胎児奇形の原因としては扱われない。
- ○c. アルコール
エタノールは胎盤を容易に通過し、胎児の脳などの発生を障害する。妊娠中の飲酒により胎児性アルコール症候群(fetal alcohol syndrome:FAS)が起こる。主な特徴は、①特徴的な顔貌(短い眼瞼裂、人中の平坦化、薄い上口唇など)、②出生前後の発育障害、③小頭症や知的障害・行動障害などの中枢神経系の障害であり、心奇形などを伴うこともある。安全な飲酒量は確立していないため、妊娠を計画する時期から妊娠期間中を通して禁酒を指導する。
- ○d. ワルファリン
ビタミンK拮抗薬であるワルファリンは分子量が小さく胎盤を通過する。妊娠初期(特に妊娠6〜12週ごろ)の曝露で胎児ワルファリン症候群(ワルファリン胎芽病)を生じ、鼻の低形成(鞍鼻)や骨端の点状石灰化(点状軟骨異形成)などの骨・軟骨の形成異常が特徴である。妊娠中期以降の曝露でも、胎児の頭蓋内出血などによる中枢神経系の異常(小頭症、視神経萎縮など)、胎児発育不全、新生児の出血傾向を起こしうる。このため妊娠中の抗凝固療法には、胎盤を通過しないヘパリン(未分画ヘパリンや低分子ヘパリン)への切り替えが原則とされる(機械弁置換後など例外的にワルファリンの継続が検討される場合もある)。
- ×e. ペニシリン
ペニシリン系やセフェム系などのβラクタム系抗菌薬は、長年の使用経験から明らかな催奇形性は認められておらず、妊娠中にも比較的安全に使用できる抗菌薬とされる。妊娠中の梅毒や、分娩時のB群溶血性レンサ球菌(GBS)感染予防などにも用いられる。
主な催奇形性・胎児毒性をもつ薬物・物質(代表例)
・アルコール: 胎児性アルコール症候群 ・ワルファリン: 鼻の低形成、点状軟骨異形成、中枢神経系の異常 ・サリドマイド: アザラシ肢症(四肢の形成異常) ・バルプロ酸: 神経管閉鎖障害(二分脊椎など) ・フェニトイン: 胎児ヒダントイン症候群(顔貌異常、爪・指節の低形成など) ・カルバマゼピン: 神経管閉鎖障害など ・メトトレキサート: 頭蓋・顔面・四肢の形成異常 ・ビタミンA誘導体(エトレチナート、イソトレチノインなど): 頭蓋顔面・心臓・中枢神経の形成異常 ・リチウム: 心奇形(Ebstein奇形) ・ミソプロストール: Möbius症候群、四肢の欠損 ・ACE阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(中期以降): 羊水過少、腎障害、頭蓋骨低形成 ・テトラサイクリン系(中期以降): 歯の着色、骨発育への影響 ・アミノグリコシド系: 第8脳神経障害(難聴) 【感染症による催奇形】風疹(先天性風疹症候群: 白内障、難聴、心奇形)、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなども胎児の形態異常や障害を起こす。 【喫煙】ニコチン・一酸化炭素による胎盤循環の障害から、胎児発育不全、早産、常位胎盤早期剝離などのリスクを高める。口唇口蓋裂との関連も指摘されている。
POINT
・アルコールは胎盤を通過し、胎児性アルコール症候群(顔貌異常・発育障害・中枢神経障害)を起こす。妊娠中は禁酒。 ・ワルファリンは胎盤を通過し、胎児ワルファリン症候群(鼻の低形成、点状軟骨異形成)を起こす。妊娠中の抗凝固療法はヘパリンが原則。 ・カフェイン(緑茶・コーヒー)、ペニシリン系抗菌薬に明らかな催奇形性はない。 ・形態異常の起こりやすい絶対過敏期は妊娠4週〜7週末ごろ。
