お腹で聴こえる「ザーッ」は高血圧のサイン―上腹部の連続性血管雑音と腎血管性高血圧
第99回医師国家試験 B問題 第21問
国試問題にチャレンジ
上腹部に連続性血管雑音を聴取したとき認められる可能性が高い症候はどれか。
- a.脱水
- b.ショック
- c.呼吸困難
- d.血圧上昇
- e.乏尿
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
上腹部(心窩部〜臍の左右外側)で収縮期から拡張期に及ぶ連続性の血管雑音を聴取した場合、拡張期にも圧較差が残る高度狭窄を意味し、まず腎動脈狭窄を考えます。腎灌流の低下を傍糸球体装置が感知してレニン分泌が亢進し、RAA系の活性化による血管収縮とナトリウム・水貯留から血圧が上昇する(腎血管性高血圧)ため、伴いやすい症候は血圧上昇です。脱水やショックはむしろ雑音を弱める方向で、片側狭窄では乏尿は通常起こらず、呼吸困難(フラッシュ肺水腫)は例外的です。原因は中高年の動脈硬化、若年女性の線維筋性異形成や高安動脈炎で、両側狭窄ではACE阻害薬・ARBが腎機能を急激に悪化させる点に注意が必要です。腹部聴診の一手間が二次性高血圧の発見につながることを意識しておくと、日常診療での見逃しを減らせます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
腹部の聴診で上腹部に「連続性」の血管雑音(bruit)が聴かれたとき、背景にどの病態があり、それに伴ってどの症候が出やすいかを問う問題である。
血管雑音とは
血管雑音は、動脈の狭窄部や拡張部、動静脈の短絡部で血流が乱流になって生じる音である。腹部では、腹部大動脈瘤、大動脈や腸間膜動脈の動脈硬化性狭窄、腎動脈狭窄などで聴取される。 収縮期にのみ聴かれる雑音は正常な人(特にやせた若年者)でも聴かれることがあり、それだけでは病的意義が低い。一方、収縮期から拡張期まで途切れずに続く雑音(収縮期・拡張期雑音、連続性雑音)は、拡張期にも狭窄部の前後に圧較差が残るほど高度な狭窄があることを意味し、病的意義が高い。
上腹部の連続性血管雑音から考える病態
上腹部(心窩部)から臍の左右外側にかけては腎動脈の起始部が投影される部位である。ここで収縮期・拡張期にわたる雑音を聴取したら、まず腎動脈狭窄を考える。腎動脈狭窄の原因には、中高年の動脈硬化、若年女性に多い線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia:FMD)、高安動脈炎(大動脈とその主要分枝を侵す大型血管炎)などがある。 腎動脈が狭窄すると、狭窄側の腎臓では灌流圧が下がり、輸入細動脈の傍糸球体装置がこれを「血圧が低い」と感知してレニンを大量に分泌する。その結果、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)が活性化し、アンジオテンシンIIによる血管収縮とアルドステロンによるナトリウム・水の貯留が起こって血圧が上昇する。これが腎血管性高血圧であり、二次性高血圧の代表的な原因の一つである。 したがって、上腹部の連続性血管雑音に伴って認められる可能性が最も高い症候は「血圧上昇」となる。脱水・ショック・乏尿のように循環血液量や血圧が下がる状態や、心肺疾患による呼吸困難は、この雑音と直接の因果関係をもたない。
選択肢考察
- ×a. 脱水
脱水では循環血液量が減り血流の勢いが弱まるため、むしろ血管雑音は聴かれにくくなる方向である。上腹部の連続性血管雑音をもたらす腎動脈狭窄と脱水とのあいだに直接の結びつきはない。なお、腎動脈狭窄の患者では高度の脱水や利尿薬の過量で腎血流がさらに落ち込み、腎機能が悪化しやすいという注意点はあるが、雑音から推測される症候としては不適当である。
- ×b. ショック
ショックは組織の灌流が保てないほど循環が破綻した状態で、多くは血圧低下を伴う。血圧が下がると狭窄部の前後の圧較差も小さくなり、乱流による雑音はかえって弱まるか消失する。腹部大動脈瘤の破裂ではショックを来しうるが、その場合に特徴的なのは激しい腹痛・背部痛と拍動性腫瘤であり、上腹部の連続性雑音から想定すべき症候ではない。
- ×c. 呼吸困難
呼吸困難は主として心不全や肺疾患(気道・肺実質・肺血管の病変)で生じる症状である。上腹部の連続性血管雑音が示す腎動脈狭窄とは直接の関係がない。ただし、両側腎動脈狭窄では急激な血圧上昇とナトリウム貯留から突然の肺水腫(フラッシュ肺水腫)を起こすことがまれにあり、この場合には呼吸困難が出現しうる。しかしこれは例外的な合併症であり、本設問で「可能性が高い」症候とはいえない。
- ○d. 血圧上昇
上腹部の収縮期から拡張期に及ぶ連続性の血管雑音は、腎動脈狭窄を強く示唆する所見である。狭窄により腎灌流圧が低下すると、傍糸球体装置からのレニン分泌が亢進してRAA系が活性化し、アンジオテンシンIIによる血管収縮とアルドステロンによるナトリウム・水貯留が起こって血圧が上昇する(腎血管性高血圧)。アルドステロン過剰を反映して低カリウム血症を伴うこともある。よって血圧上昇が最も合致する症候である。
- ×e. 乏尿
乏尿は1日尿量が400 mL以下に減少した状態を指す。原因は、循環血液量減少や心拍出量低下による腎前性、糸球体・尿細管・間質の障害による腎性、尿路結石や腫瘍などの尿路閉塞による腎後性に分けられる。片側の腎動脈狭窄では対側の腎臓が機能を補うため、通常は尿量は保たれ乏尿には至らない。上腹部の連続性雑音から第一に想定すべき症候ではない。
腹部で血管雑音を聴く部位と想定する血管
・心窩部(正中):腹部大動脈、腹腔動脈・上腸間膜動脈 ・心窩部から臍の左右外側(上腹部の左右):腎動脈 ・臍の下方から下腹部の左右:総腸骨動脈 ・鼠径部:大腿動脈 腎動脈狭窄では、患者を座位や立位にして背部の肋骨脊柱角(costovertebral angle:CVA)に聴診器を当てると同様の雑音が聴かれることもある。
連続性雑音をきたす主な病態
連続性雑音は、心周期を通じて圧較差がある部位で生じる。心臓・大血管では動脈管開存症、冠動静脈瘻、バルサルバ洞動脈瘤破裂、大動脈縮窄症の側副血行路などが代表的である。頸部では小児に多い静脈コマ音(venous hum)がある。腹部では高度の動脈狭窄のほか、門脈圧亢進症で臍周囲から心窩部に聴かれる静脈雑音(クリュヴェイエ・バウムガルテン雑音)がある。成人の上腹部で拍動と同期した収縮期・拡張期雑音が聴かれた場合には、腎動脈狭窄が最も重要な鑑別となる。
腎血管性高血圧の概要
・原因:動脈硬化(中高年男性、腎動脈起始部の病変が多い)、線維筋性異形成(若年女性、腎動脈の中遠位部に数珠状の狭窄)、高安動脈炎(若年女性)。 ・疑うべき臨床像:30歳未満または55歳以上での高血圧の発症、急激に悪化した高血圧や治療抵抗性高血圧、腹部血管雑音、低カリウム血症、ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)開始後の急な腎機能悪化、左右の腎臓の大きさの差、原因不明の反復性肺水腫。 ・検査:血漿レニン活性の上昇、腎動脈ドプラ超音波、CT血管造影、MR血管造影、腎動脈造影(確定診断)、カプトプリル負荷レノグラムなど。 ・治療:線維筋性異形成では経皮的腎動脈形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)の効果が高い。動脈硬化性では降圧薬と動脈硬化危険因子の管理が中心で、適応を選んで血行再建を行う。両側腎動脈狭窄(または単腎の狭窄)ではACE阻害薬・ARBにより糸球体濾過圧が急低下し腎機能が悪化するため、原則として禁忌となる。
POINT
・上腹部(心窩部〜臍の左右外側)の収縮期・拡張期(連続性)血管雑音は腎動脈狭窄を示唆する。 ・腎動脈狭窄→腎灌流低下→レニン分泌亢進→RAA系活性化→血圧上昇(腎血管性高血圧)。 ・収縮期のみの腹部雑音は健常者でも聴かれうるが、拡張期成分を伴う雑音は高度狭窄を意味し病的意義が高い。 ・原因は動脈硬化(中高年)、線維筋性異形成(若年女性)、高安動脈炎(若年女性)。 ・両側腎動脈狭窄ではACE阻害薬・ARBで腎機能が急激に悪化する。
