肺炎球菌だけが仲間外れ―「どの免疫が何を守るか」で解く日和見感染症
第117回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
Tリンパ球機能低下による日和見感染症でないのはどれか。
- a.粟粒結核
- b.食道カンジダ症
- c.肺炎球菌性肺炎
- d.ニューモシスチス肺炎
- e.サイトメガロウイルス感染症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日和見感染症は、どの免疫機構が低下したかによって起こりやすい病原体が決まります。Tリンパ球が担う細胞性免疫は、結核菌などの細胞内寄生菌、サイトメガロウイルスなどのヘルペスウイルス科、ニューモシスチス、粘膜のカンジダ症などを防いでおり、HIV感染症や免疫抑制療法でこれらが問題になります。一方、肺炎球菌は健常者の市中肺炎の最多起炎菌で日和見病原体ではなく、莢膜をもつため抗体と補体によるオプソニン化と脾臓での除去が防御の中心であり、液性免疫不全・補体欠損・脾摘後で重症化しやすいのが特徴です。カンジダでも粘膜病変はT細胞不全、侵襲性病変は好中球減少と区別すること、HIVではCD4数に応じて日和見感染症が変化することも合わせて理解しましょう。免疫不全の型と病原体を対応づけておくことは、免疫抑制患者の感染症を予測し、予防や早期診断につなげるうえで欠かせない知識です。
解答・解説
正解はcです
テーマ
免疫不全の種類と、それによって起こりやすくなる感染症(日和見感染症)の対応関係を問う問題である。日和見感染症とは、健常者では通常問題にならない弱毒の病原体や、普段は体内に潜伏している病原体が、宿主の免疫低下に乗じて発症させる感染症をいう。
免疫の担い手と防御する病原体
・細胞性免疫(Tリンパ球、とくにCD4陽性ヘルパーT細胞と、それに活性化されるマクロファージ、CD8陽性細胞傷害性T細胞):細胞の中に入り込んで増える病原体(細胞内寄生菌)や、ウイルス、真菌、原虫に対する防御を担う。結核菌などの抗酸菌、ヘルペスウイルス科(サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス)、カンジダ(粘膜カンジダ症)、ニューモシスチス、クリプトコッカス、トキソプラズマなどが代表である。 ・液性免疫(Bリンパ球が作る抗体)と補体:細胞外で増える細菌、とくに莢膜をもつ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌b型、髄膜炎菌)に対する防御を担う。抗体と補体が菌の表面に結合して目印をつけ(オプソニン化)、好中球やマクロファージ(とくに脾臓)が貪食・除去する。 ・好中球:一般細菌や、侵襲性のカンジダ症、アスペルギルス症への防御を担う。
解き方
Tリンパ球機能低下の典型はHIV感染症(AIDS)、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬(臓器移植後など)の使用である。選択肢のうち、結核、カンジダ、ニューモシスチス、サイトメガロウイルスはいずれも細胞性免疫の低下で問題となる病原体である。肺炎球菌は健常者にも起こる市中肺炎の最多の起炎菌であり、免疫不全の観点では、液性免疫低下(低ガンマグロブリン血症など)、補体欠損、脾摘後・無脾症で重症化しやすい莢膜細菌である。したがって、Tリンパ球機能低下による日和見感染症ではないのは肺炎球菌性肺炎である。
選択肢考察
- ×a. 粟粒結核
Tリンパ球機能低下による日和見感染症である。結核菌はマクロファージの中で生き延びる細胞内寄生菌であり、その排除には、CD4陽性T細胞がインターフェロンγを産生してマクロファージを活性化させることや、TNF-α(腫瘍壊死因子α)による肉芽腫の形成・維持が欠かせない。細胞性免疫が低下すると、潜在性結核感染が再燃し、結核菌が血行性に全身へ散布されて多数の小さな病巣をつくる粟粒結核を起こしやすい。HIV感染者、ステロイドや免疫抑制薬の使用者、TNF-α阻害薬などの生物学的製剤の使用者は高リスクである。
- ×b. 食道カンジダ症
Tリンパ球機能低下による日和見感染症である。カンジダは口腔や消化管の常在真菌であり、口腔・食道などの粘膜での増殖はT細胞(とくにTh17細胞などのCD4陽性T細胞)によって抑えられている。細胞性免疫が低下すると、口腔カンジダ症や食道カンジダ症を発症する。食道カンジダ症はAIDS指標疾患の一つである。なお、カンジダ血症などの侵襲性カンジダ症は、主に好中球減少や中心静脈カテーテル留置が危険因子となる点で区別して覚える。
- ○c. 肺炎球菌性肺炎
Tリンパ球機能低下による日和見感染症ではない。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は健常者にも起こる市中肺炎の最も多い原因菌であり、日和見病原体ではない。厚い多糖体の莢膜をもち、そのままでは好中球やマクロファージに貪食されにくい。防御には、莢膜に対する抗体(Bリンパ球が産生)と補体によるオプソニン化、および脾臓での除去が重要である。そのため肺炎球菌感染症が重症化しやすいのは、液性免疫不全(低ガンマグロブリン血症、多発性骨髄腫など)、補体欠損、脾摘後・無脾症の患者であり、T細胞機能低下が主な要因ではない(ただしHIV感染者でも罹患リスクは上昇するため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨される)。
- ×d. ニューモシスチス肺炎
Tリンパ球機能低下による日和見感染症の代表である。Pneumocystis jiroveciiは真菌に分類される病原体で、多くの人が幼少期に感染しているが、健常者では発症しない。CD4陽性T細胞が減少(目安としてCD4数200/μL未満)すると、乾性咳嗽、発熱、労作時呼吸困難、低酸素血症を伴う間質性肺炎を起こし、胸部CTでは両側のすりガラス影が特徴的である。HIV感染症で頻度の高いAIDS指標疾患であり、ステロイドや免疫抑制薬の長期使用者にも起こる。治療と予防にはST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)が第一選択である。
- ×e. サイトメガロウイルス感染症
Tリンパ球機能低下による日和見感染症である。サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属し、初感染後は生涯体内に潜伏する。潜伏・再活性化を抑えているのはCD8陽性細胞傷害性T細胞などの細胞性免疫である。細胞性免疫が低下すると再活性化し、網膜炎、肺炎、腸炎(消化管潰瘍)、肝炎などを起こす。AIDS(とくにCD4数50/μL未満)、臓器移植や造血幹細胞移植後の患者で重要な合併症である。
免疫不全の型と起こりやすい感染症の整理
1. 細胞性免疫(T細胞)不全 原因:HIV感染症、副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬など)、臓器移植後、悪性リンパ腫、先天性ではDiGeorge症候群など。 病原体:結核菌・非結核性抗酸菌、リステリア、レジオネラ、サルモネラなどの細胞内寄生菌/サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、EBウイルスなどのウイルス/ニューモシスチス、クリプトコッカス、粘膜カンジダ症などの真菌/トキソプラズマなどの原虫。 2. 液性免疫(B細胞・抗体)不全 原因:X連鎖無ガンマグロブリン血症、分類不能型免疫不全症、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、リツキシマブ(抗CD20抗体)投与など。 病原体:肺炎球菌、インフルエンザ菌などの莢膜をもつ細菌による呼吸器感染症の反復。 3. 補体欠損 早期成分(C3など)の欠損では莢膜細菌感染、後期成分(C5〜C9)の欠損ではナイセリア属(髄膜炎菌・淋菌)感染を繰り返しやすい。 4. 好中球減少・機能異常 原因:抗がん薬による化学療法、造血器腫瘍、慢性肉芽腫症など。 病原体:緑膿菌などのグラム陰性桿菌、黄色ブドウ球菌などの一般細菌、侵襲性カンジダ症、アスペルギルス症。 5. 脾摘後・無脾症 莢膜細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌)による急激で重篤な敗血症(脾摘後重症感染症、OPSI)。ほかにカプノサイトファーガ(イヌ・ネコの咬傷)、マラリア、バベシアも重症化しやすい。予防として肺炎球菌、インフルエンザ菌b型、髄膜炎菌のワクチン接種が推奨される。
HIV感染症とCD4数の目安
CD4数が低下するほど、より弱毒の病原体による日和見感染症が現れる。おおむね、200/μL前後で結核や口腔・食道カンジダ症、200/μL未満でニューモシスチス肺炎、100/μL未満でトキソプラズマ脳症やクリプトコッカス髄膜炎、50/μL未満でサイトメガロウイルス感染症や播種性非結核性抗酸菌症が問題となる(結核はCD4数が比較的保たれた段階でも起こりうる)。
POINT
・Tリンパ球(細胞性免疫)低下で起こる感染症:結核などの細胞内寄生菌、ヘルペスウイルス科(CMVなど)、ニューモシスチス、粘膜カンジダ症、クリプトコッカス、トキソプラズマ。 ・肺炎球菌は健常者にも起こる市中肺炎の最多起炎菌で、日和見病原体ではない。 ・肺炎球菌などの莢膜細菌が重症化しやすいのは、液性免疫不全・補体欠損・脾摘後。 ・侵襲性カンジダ症・アスペルギルス症は好中球減少で起こりやすい(粘膜カンジダ症はT細胞不全)。 ・ニューモシスチス肺炎はCD4<200/μLが目安で、ST合剤で治療・予防する。
