StudyMed医師国家試験

流量にも「適正範囲」がある―酸素投与器具の上限と下限を読み解く

第115回医師国家試験 C問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第4問

 酸素投与器具と流量の組合せで適切なのはどれか。

  1. a.鼻カニューラ ―― 1 L/分
  2. b.鼻カニューラ ―― 7 L/分
  3. c.フェイスマスク ―― 1 L/分
  4. d.フェイスマスク ―― 3 L/分
  5. e.リザーバー付マスク ―― 4 L/分

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、酸素投与器具ごとに決まっている「適正な流量の範囲」を問う問題だ。ポイントは、器具には上限だけでなく下限もあるということ。この2つの軸で選択肢を見ていこう。
医学生医学生
酸素は多ければ多いほどよい、というイメージがあって、器具ごとに範囲があるとはあまり意識していませんでした。
ドクタードクター
そう思う人は多いね。まず上限から考えよう。鼻カニューラは鼻腔に短い管を入れて酸素を流す器具だ。流量を上げすぎると何が起こるかな。
医学生医学生
乾燥した酸素が鼻に直接当たるので、鼻が痛くなったり乾いたりしそうです。
ドクタードクター
その通り。鼻粘膜の乾燥や疼痛、鼻出血の原因になる。さらに大事なのは、患者は吸気のたびに周囲の室内空気も一緒に吸い込むということ。だから一定以上流しても、吸入酸素濃度、つまりFIO2はほとんど上がらない。通常の鼻カニューラの上限はおよそ6 L/分で、FIO2は40〜44%程度で頭打ちになる。
医学生医学生
ということは、鼻カニューラで7 L/分は上限を超えているので不適切ですね。もっと高い濃度が必要ならマスクに切り替える、と。
ドクタードクター
そう。では下限の話に移ろう。フェイスマスクは口と鼻を覆う器具だ。流量が少ないと困ることがあるんだけど、何だと思う?
医学生医学生
少ない分には安全な気がしてしまいます……。COPDの患者さんでは酸素を絞ると呼吸器内科の実習で教わったので、なおさらです。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。マスクの中には死腔、つまりガス交換に関わらない空間ができる。流量が少ないと吐いた息がマスク内に残って、次の吸気で再び吸い込んでしまう。これが再呼吸で、二酸化炭素がたまってPaCO2が上がるおそれがある。しかも酸素の量自体も足りないから、患者は息苦しさを感じやすい。
医学生医学生
なるほど、マスクには呼気を洗い流すだけの流量が必要なんですね。だからフェイスマスクで1 L/分や3 L/分は少なすぎる、と。
ドクタードクター
その通り。フェイスマスクはおおむね5〜8 L/分で使う。3 L/分くらいの酸素で足りる状況なら、鼻カニューラを選べばいい。COPDで少量から慎重に始めたいときも、鼻カニューラの低流量が向いているんだ。
医学生医学生
リザーバー付マスクの4 L/分も、同じ理屈で少なすぎるということでしょうか。
ドクタードクター
よく気づいたね。リザーバー付マスクは袋に酸素をため、一方向弁で呼気の再呼吸と室内空気の混入を抑えて、FIO2 60%以上の高濃度酸素を投与する器具だ。袋を酸素で満たし続けるには6〜10 L/分が必要で、4 L/分では袋がしぼんで本来の役割を果たせず、再呼吸の危険も出てくる。
医学生医学生
そうすると、範囲内に収まっているのは鼻カニューラ1 L/分だけですね。FIO2は24%くらいでしたか。
ドクタードクター
正解。鼻カニューラは1 L/分増えるごとにFIO2が約4%ずつ上がるのが目安だから、1 L/分でおよそ24%になる。鼻を塞がないので、会話や食事をしながら使えるのも利点だね。
医学生医学生
鼻カニューラ1〜6、フェイスマスク5〜8、リザーバー付マスク6〜10と、数字をセットで覚えておきます。
ドクタードクター
いいね。発展知識として、低流量システムと高流量システムの区別も押さえておこう。ここまでの3つはすべて低流量システムで、器具から出る酸素が患者の吸気流量より少なく、不足分を室内空気で補う方式だ。だから呼吸が速くなったり1回換気量が増えたりすると、実際のFIO2は下がる。示したFIO2はあくまで目安なんだ。
医学生医学生
では、FIO2をきっちり管理したいときはどうするんですか。
ドクタードクター
ベンチュリーマスクや高流量鼻カニューラ(HFNC)のような高流量システムを使う。吸気流量を上回るガスを供給するので、呼吸パターンに左右されにくい。なお、HFNCは加温加湿した酸素を専用装置で大流量に流す別の方式で、通常の鼻カニューラとは区別しておこう。臨床では、流量を上げても酸素化が改善しないときに、漫然と流量を増やすのではなく器具の変更を考えることが大切だよ。

まとめ

酸素投与器具にはそれぞれ適正な流量の範囲があり、目安は鼻カニューラ1〜6 L/分、フェイスマスク5〜8 L/分、リザーバー付マスク6〜10 L/分です。鼻カニューラは上限を超えると鼻粘膜の乾燥や疼痛を招くうえ、室内空気を同時に吸うためFIO2はほとんど上がりません。一方、マスク型の器具は流量が少ないとマスク内に呼気がたまって二酸化炭素を再呼吸し、PaCO2が上昇しうるため下限が設けられています。これらはいずれも低流量システムで呼吸パターンにより実際のFIO2が変わるため、FIO2を厳密に管理したい場合はベンチュリーマスクなどの高流量システムを用います。器具ごとの上限・下限の理由を理解しておくことは、病棟や救急で酸素療法を安全に選択・調整するための基本となります。

解答・解説

正解はaです

酸素投与器具には、それぞれ「適正に機能する流量の範囲」が決まっている。本問はその範囲を覚えているかを問う知識問題である。 考え方の軸は二つある。 1つ目は上限である。鼻カニューラのように鼻腔へ直接酸素を流す器具では、流量を上げすぎると鼻粘膜の乾燥・刺激・疼痛が強くなる。さらに、患者は1回の吸気で器具からの酸素だけでなく周囲の室内空気も吸い込むため、一定以上流しても吸入酸素濃度(FIO2:吸入気に占める酸素の割合)はそれ以上ほとんど上がらない。 2つ目は下限である。フェイスマスクやリザーバー付マスクのように口と鼻を覆う器具では、マスク内に死腔(ガス交換に関与しない空間)ができる。流量が少ないと、吐いた息(呼気)がマスク内に残り、次の吸気で再び吸い込んでしまう(再呼吸)。その結果、呼気中の二酸化炭素が蓄積し、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇するおそれがある。このため、マスク型の器具には最低流量が設定されている。 目安として、鼻カニューラは低流量(おおむね1〜6 L/分)、フェイスマスクは5〜8 L/分、リザーバー付マスクは6〜10 L/分で用いる。これに照らすと、範囲内に収まっている組合せは鼻カニューラ1 L/分だけである。

選択肢考察

  1. ○a.  鼻カニューラ ―― 1 L/分

    鼻カニューラは鼻腔に入れた短い管から酸素を流す低流量の器具で、おおむね1〜6 L/分(0.5 L/分程度の微量から用いることもある)で使う。1 L/分はこの範囲内であり、FIO2はおよそ24%程度になる。軽度の低酸素血症や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで高二酸化炭素血症を起こしやすく少量から慎重に酸素を始めたい患者に適している。鼻腔を塞がないため、会話や食事をしながら使える点も利点である。

  2. ×b.  鼻カニューラ ―― 7 L/分

    通常の鼻カニューラの上限はおよそ6 L/分である。それを超える流量では乾燥した酸素が鼻粘膜を強く刺激して乾燥・疼痛・鼻出血の原因になる。また、吸気時には室内空気も一緒に吸い込むため、FIO2は上限付近(およそ40〜44%)で頭打ちとなり、流量を増やしても効果は期待どおりには上がらない。より高い濃度が必要なら、フェイスマスクやリザーバー付マスクへ切り替える。なお、加温加湿した酸素を大流量で流す高流量鼻カニューラ(HFNC:high-flow nasal cannula)は専用の装置を使う別の方式であり、通常の鼻カニューラとは区別する。

  3. ×c.  フェイスマスク ―― 1 L/分

    フェイスマスク(シンプルマスク)は5〜8 L/分で使用する。1 L/分ではマスク内にたまった呼気を洗い流せないため二酸化炭素を再呼吸し、PaCO2が上がるおそれがある。また、マスクの中の酸素量がそもそも足りず、患者は十分に吸えないことによる息苦しさも感じやすい。このような低流量が必要な場合は鼻カニューラを選ぶ。

  4. ×d.  フェイスマスク ―― 3 L/分

    3 L/分でも、フェイスマスクの最低流量(5 L/分)に達していない。マスク内の呼気が十分に洗い出されないため、二酸化炭素の再呼吸が起こりうる。3 L/分程度の酸素が必要な状況では、鼻カニューラが適切な選択である。

  5. ×e.  リザーバー付マスク ―― 4 L/分

    リザーバー付マスクは、マスクに付いた袋(リザーバーバッグ)に酸素をため、一方向弁によって呼気の再呼吸と室内空気の混入を抑えることで、FIO2 60%以上の高濃度酸素を投与できる器具である。リザーバーバッグを酸素で満たし続け、マスク内の二酸化炭素の蓄積を防ぐには、6〜10 L/分の流量が必要である。4 L/分ではバッグがしぼんでしまい、高濃度の酸素を投与するという本来の役割を果たせないうえ、再呼吸の危険も生じる。

主な酸素投与器具と流量・FIO2の目安

鼻カニューラ:1〜6 L/分、FIO2 約24〜44%(1 L/分増えるごとに約4%ずつ上がるのが目安) フェイスマスク(シンプルマスク):5〜8 L/分、FIO2 約40〜60% リザーバー付マスク:6〜10 L/分、FIO2 約60〜90%

低流量システムと高流量システム

鼻カニューラ・フェイスマスク・リザーバー付マスクは「低流量システム」に分類される。低流量とは、器具から出る酸素の流量が患者の吸気流量より少なく、不足分を室内空気で補う方式という意味である。そのため、呼吸が速くなったり1回換気量が増えたりすると、取り込む室内空気の割合が増え、実際のFIO2は下がる。表に示したFIO2はあくまで目安である。 一方、ベンチュリーマスクやネブライザー付き酸素吸入器、高流量鼻カニューラ(HFNC)は「高流量システム」に分類される。患者の吸気流量を上回るガスを供給するため、呼吸パターンにかかわらずFIO2を一定に保ちやすい。FIO2を厳密に管理したいCOPD患者などで用いられる。

マスク型器具の注意点

規定より低い流量で使うと、マスク内に呼気がたまって二酸化炭素を再呼吸し、PaCO2が上昇しうる。反対に、どの器具でも規定の上限を超えて流量を増やしても、FIO2は期待するほど上がらない。

鼻カニューラの注意点

口呼吸や鼻閉があると、十分な効果が得られないことがある。流量が多いと鼻粘膜が乾燥するため、高めの流量では加湿を検討する。

POINT

・鼻カニューラは1〜6 L/分の低流量で用いる(6 L/分を超えると粘膜刺激が強くなるうえ、FIO2もほとんど上がらない) ・フェイスマスクは5〜8 L/分、リザーバー付マスクは6〜10 L/分で用いる ・マスク型の器具を低流量で使うと、呼気の再呼吸によりPaCO2が上がる(下限があることに注意) ・FIO2の目安:鼻カニューラ24〜44%、フェイスマスク40〜60%、リザーバー付マスク60%以上

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。