大腸菌は「1匹」も許されない―水道水の水質基準を数値の意味から読み解く
第114回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
水道法に基づく水道水の水質基準について誤っているのはどれか。
- a.濁度は2度以下
- b.味は異常でないこと
- c.pH値は5.8以上8.6以下
- d.大腸菌が10コロニー/mL以下
- e.一般細菌が100コロニー/mL以下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
水道水の水質基準は水道法に基づき「水質基準に関する省令」で51項目が定められ、健康に影響する項目と生活利用上の支障に関わる項目に大別されます。微生物項目では、一般細菌は水の清浄度や浄水処理・消毒の効果を示す指標として1mL中100集落以下という上限が設けられている一方、大腸菌はふん便汚染の特異的な指標であるため許容量はなく「検出されないこと」が基準です。濁度2度以下、色度5度以下、pH5.8以上8.6以下、味・臭気は異常でないことなども頻出であり、2004年に指標が「大腸菌群」から「大腸菌」へ変更された点、残留塩素は施行規則で下限値として定められている点も押さえておきましょう。各項目が何を見るための指標かを理解することは、暗記の助けになるだけでなく、水系感染症対策や災害時の衛生管理といった実際の公衆衛生活動にも直結します。
解答・解説
正解はdです
テーマ
水道法第4条は、水道により供給される水が満たすべき要件を定めており、その具体的な数値は厚生労働省令である「水質基準に関する省令」で定められている。現在、水質基準は51項目あり、健康に影響を及ぼすおそれのある項目(病原微生物、重金属、消毒副生成物など)と、生活利用上の支障を生じるおそれのある項目(味、臭気、色度、濁度、pHなど)に分けられている。
正解を導く考え方
微生物に関する基準は「一般細菌」と「大腸菌」の2項目である。一般細菌は水中に普通に存在しうる細菌の総量を示す指標で、「1mLの検水で形成される集落数が100以下」という上限値が設定されている。一方、大腸菌はヒトや動物の腸管内にのみ常在するため、水中に存在すればふん便(し尿)による汚染を直接示し、同時に病原微生物が混入している可能性を意味する。そのため大腸菌には許容量がなく、「検出されないこと」が基準である。したがって「大腸菌が10コロニー/mL以下」は誤りである。 本問のような問題では、一般細菌(数値の上限あり)と大腸菌(不検出)の違いを確実に区別しておくことが重要である。
選択肢考察
- ×a. 濁度は2度以下
正しい記述である。濁度は水の濁りの程度を表す指標で、基準は2度以下である。濁りは土壌粒子や配水管内の錆などの混入を反映し、浄水処理の不調や配水施設の異常・事故を早期に察知する目安となる。また、濁りの粒子に微生物が付着すると消毒効果が落ちるため、衛生上も重要である。
- ×b. 味は異常でないこと
正しい記述である。味は、臭気(異常でないこと)とともに、数値ではなく「異常でないこと」と定められた官能的な項目である。異常な味は、塩類の混入や管材の溶出、汚染などのサインとなりうる。
- ×c. pH値は5.8以上8.6以下
正しい記述である。pHの基準は5.8以上8.6以下で、中性付近に保つよう定められている。酸性に傾くと水道管の腐食や鉛・銅などの金属の溶出が起こりやすくなり、アルカリ性に傾くと塩素消毒の効果が低下するなどの問題が生じるため、主に水道施設の保全と浄水処理の観点から設定されている。
- ○d. 大腸菌が10コロニー/mL以下
誤っている(正解)。大腸菌の基準は「検出されないこと」であり、許容されるコロニー数は設定されていない。大腸菌は温血動物の腸管内にのみ生息するため、水道水から検出されれば、ふん便汚染を受けていること、すなわち赤痢菌や病原性ウイルスなどの病原体が混入している可能性を意味する。なお、かつての基準では「大腸菌群」が指標とされていたが、大腸菌群には土壌など自然環境由来の細菌も含まれ、ふん便汚染の指標としての特異性が低いため、2004年の改正で「大腸菌」に変更された。
- ×e. 一般細菌が100コロニー/mL以下
正しい記述である。一般細菌の基準は、1mLの検水で形成される集落(コロニー)数が100以下である。一般細菌は大部分が病原性をもたないが、その数が多いことは浄水処理や消毒が不十分であることや、水が汚染を受けていることを示すため、水の清浄度の指標として用いられる。
水道法と水質基準
・水道法は、清浄で豊富・低廉な水の供給を図り、公衆衛生の向上と生活環境の改善に寄与することを目的とする法律である。 ・水質基準は「水質基準に関する省令」で51項目が定められ、水道事業者には定期的な検査が義務づけられている。基準値は、生涯にわたって毎日飲用しても健康に影響が生じない水準を基本に設定されている。
主な水質基準項目
・一般細菌:1mLの検水で形成される集落数が100以下 ・大腸菌:検出されないこと ・硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素:10mg/L以下(乳児のメトヘモグロビン血症の予防の観点) ・鉛およびその化合物:0.01mg/L以下 ・ヒ素およびその化合物:0.01mg/L以下 ・総トリハロメタン:0.1mg/L以下(塩素消毒の副生成物) ・有機物(全有機炭素〈TOC〉の量):3mg/L以下 ・色度:5度以下 ・濁度:2度以下 ・pH値:5.8以上8.6以下 ・味:異常でないこと ・臭気:異常でないこと
残留塩素
残留塩素は水質基準項目ではなく、水道法施行規則で衛生上必要な措置として定められている。給水栓における水が、遊離残留塩素を0.1mg/L以上(結合残留塩素の場合は0.4mg/L以上)保持するように塩素消毒をすることとされており、病原微生物に汚染されるおそれがある場合などには、遊離残留塩素0.2mg/L以上(結合残留塩素1.5mg/L以上)とする。
指標菌の考え方
・一般細菌:水の全般的な清浄度、浄水処理・消毒の効果の指標。 ・大腸菌:ふん便汚染の特異的な指標。検出されれば病原体混入の可能性を示す。 ・大腸菌群:大腸菌を含む、乳糖を分解してガスを産生する細菌群。自然環境由来の菌も含むため、水道水の基準項目からは外れた(2004年の改正)。
POINT
・水道水の水質基準は水道法に基づき51項目が定められている。 ・一般細菌:1mL中100集落以下。大腸菌:検出されないこと(数値の許容量はない)。 ・濁度2度以下、色度5度以下、pH 5.8〜8.6、味・臭気は異常でないこと。 ・大腸菌はふん便汚染の指標であり、2004年に「大腸菌群」から「大腸菌」へ変更された。 ・残留塩素は施行規則で規定:給水栓で遊離残留塩素0.1mg/L以上(結合残留塩素0.4mg/L以上)。
